ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
バアルの放ったジェネシス級双剣『レギオン』による極大の一閃が、王都近郊の森を真っ赤に染め上げたのも束の間。
あれほどいたAランクの魔物『ワータイガー』の群れは、一瞬にしてただの灰へと変わり果てていた。
倒された魔物たちは、俺たちの持つ自動回収・自動解体スキルによって、一瞬のラグもなく綺麗に素材、魔石、そして上質な肉へと分別され、各自のアイテムボックスへと吸い込まれていく。
「……ふぅ。初陣としては、あまりに呆気なさすぎたな」
バアルは消音機能の付いた漆黒のブーツで、僅かに残った灰を踏み締めながら、手の平のジェネシス級籠手『ネフェスタス』をまじまじと見つめた。
その眼光には、自らの内から湧き出る無限の魔力と、衣服から伝わる絶対的な防御性能への驚き、指示されたレベル310の全能感、そして強者としての旺盛な探求心がギラギラと輝いている。
「さすがはバアルだ。俺たちの新しい家族として、これ以上ない戦力だよ」
ヨシテルが歩み寄りながら声をかけると、アルシェラたちも「本当に凄まじい威力ね」「頼もしいわ」と、口々にバアルの初陣を称賛した。
カエルムたちフェンリル親子も、バアルの実力を認めたように、静かにその巨体を揺らして彼の後ろに佇んでいる。
「さて、予定通りワータイガーの群れも瞬殺したことだし、今日はこのままここで夜営にしよう。王都に戻るには少し早いし、何よりバアルの正式な歓迎会をまだやっていないからな」
「賛成ばい、旦那様! アタシ、もうお腹がペコペコたい!」
カグヤが九つの尻尾を嬉しそうにパタパタと揺らし、俺の腕に身を寄せる。
「ウチも大賛成や。バアルの強さも見られたことやし、今夜はとことん飲んで騒がんと気が済まへんわ」
イシュタルが陽気な笑みを浮かべ、バルトも「がはは! バアル、今夜は俺の酒にどこまで付き合えるか勝負だぜ!」と、親友のアレスの肩を組みながら豪快に笑った。
俺は頷き、森の少し開けた一角へと移動すると、アイテムボックスから『空間拡張・構造再定義:ミスティック・パレス・グランド』――通称『パレス』を取り出した。
外見は、ごくありふれた、どこにでもある普通サイズの布製テント。
それを地面に設営し、テントに付属している棒に、有効半径を五百メートルまで拡大した不可侵の聖域結界ランタン『ドムス・インウィオラビリス』を吊るす。
「よし、これで夜営の準備は完了だ。バアル、中に入ってくれ」
「……ヨシテル。天丼を食べた時にも思ったが、この『テント』とやらは、一体どのような構造になっているのだ? 我が魔界の転移門や、空間固定の結界とも明らかに異なる術式を感じるのだが」
バアルが、探求心に満ちた鋭い神眼の瞳で布製のテントを凝視していた。
彼からすれば、この世界の常識を遥かに逸脱した俺の『アイテム作成』や『魔法創造』の成果が、気になって仕方ががないのだろう。
「まぁ、百聞は一見に如かずだ。広間には入ったが奥に入れば更に分かるよ」
俺が苦笑しながらテントの布をめくり、先頭を切って中に入る。
アルシェラ、カグヤ、バルト、イシュタル、アレス、そしてフェンリル親子が慣れた様子でそれに続いた。
バアルは不審そうに眉をひそめながらも、最後にその足を踏み入れた。
テントの入り口を潜った瞬間、バアルの思考は完全に停止した。
そこにあったのは、外見の布製テントからは想像もつかない、広大な神殿が丸ごと一つ収まるほどの、大空間だった。
床には最高級の絨毯が敷き詰められ、洗練された最新式の高級キッチン、各自のプライベートが完全に守られた個室への扉、そして奥には湯気を立てる豪華な大浴場とトイレが見える。
入り口のすぐ側には、扉の付いていない広々としたカエルムたちの専用部屋があり、そこにはふかふかのクッションが敷き詰められていた。
「な……ッ!? 空間拡張の規模が、概念のレベルで固定されている……。外見はただの布きれ一枚の筈だ。それなのに、内部の構造が完全に再定義されているだと……!?」
バアルは和装の袖を震わせ、驚愕のあまり周囲の壁や天井を見上げた。
「がはは! 驚くのは無理ねえぜ、バアル! 俺も最初は目ん玉が飛び出るかと思ったからな! ここは普通の高級宿なんかより、遥かに上質で最高に居心地が良いんだ!」
バルトがバアルの背中をバシバシと叩き、リビングのソファーへと腰を下ろす。
「そうね。初めて見た時は私も言葉を失ったわ。でも、これがヨシテルの普通なのよ」
アルシェラがくすくすと笑いながら、打掛を脱いでハンガーに掛けた。
バアルは、自身の肩に乗っている闇の精霊アビスが、すでに楽しそうにリフィやルーメンたちの元へと飛んでいき、精霊同士でじゃれ合っているのを見て、ようやくフッと息を漏らした。
「……ヨシテル。お前という男は、やはり世界の理そのものを手玉に取っているな。魔王であるこの俺が、ここまで翻弄されるとはな」
「これでも地球では、大学に通いながらバイトしてた普通の人間だったんだけどな。……さて、それじゃあ歓迎会を始めよう。バアル、今夜は俺の世界の『居酒屋コース』でもてなしてやるよ」
「イザカヤ……コース? また、あの天丼のような、魂を震わせる料理が出てくるのか?」
バアルの目が、期待に満ちて輝く。
「ああ、期待していいぞ。イシュタル、バルト、ちょっと手伝ってくれ」
「お、待ってました! ウチ、冷たいビールの準備するわ!」
「おう! 俺はテーブルのセッティングだな!」
俺はキッチンのカウンターへと向かいパントリーの中に手を入れ、俺の記憶にある日本の美味しい料理の食材が、最高鮮度の状態で自動生成される。
まずは歓迎会の定番、ビールによく合うおつまみからだ。
最高級の塩を振った茹でたての『枝豆』、香ばしい醤油の香りが漂う『タコの唐揚げ』、そして、外はサクサク、中はジューシーに揚げた『若鶏のジューシー唐揚げ』。
さらに、このアトランティア大陸の魚介とは一線を画す、パントリーから呼び出した新鮮なマグロやサーモンを捌き『お刺身の盛り合わせ』を美しく皿に盛り付けていく。
「さぁ、どんどん運ぶぞ!」
リビングの特大テーブルに、次々と日本の居酒屋メニューが並べられていく。
そのどれもが、この世界の住人には見たこともない色合いと、脳髄を刺激する素晴らしい香りを放っていた。
「わぁ……! 今日も旦那様の料理はバリ美味しそうたい! 早く食べたいけんね!」
カグヤが目を輝かせ、お預けを食らった子犬のようにそわそわし始める。
「バアル、お前のために、まずはこれを飲んでもらいたい」
俺はアエテルナ・パントリーから、キンキンに冷えたジョッキに注がれた麦酒――日本の生ビールを取り出し、バアルの前に置いた。
泡の比率まで完璧に固定された、黄金色の液体だ。全員の前にジョッキが行き渡る。
「よし、【ヴィンクルム】の新たな家族、バアルに。……乾杯!」
「「「「乾杯!!!」」」」
ガチャン、と重厚なガラスの音が響き、全員が一斉に喉を鳴らした。
バアルは、怪訝そうにジョッキを口に運び、一気に流し込んだ。
その瞬間、彼の端正な顔が劇的に見開かれた。
「――っ!? な、何だこの喉越しは……! 冷気の魔術で冷やしただけではない、この圧倒的な爽快感と、微細な泡の刺激……! 我が魔界の最高級の魔酒ですら、この一杯の前には濁水に等しいぞ!」
「がはは! そうだろう! これを飲んだら、もう普通の酒には戻れねえんだよ!」
バルトが豪快に喉を鳴らし、プハァと息を吐き出す。
「さぁ、バアル。この『唐揚げ』ってやつも食べてみて。ヨシテルの自信作よ」
アルシェラに勧められ、バアルは揚げたての唐揚げを口に運んだ。
カリッ、と小気味良い音がパレスのリビングに響く。肉汁が口の中に溢れ出した瞬間、バアルは絶句した。
「……美味い。肉の旨味が、衣の中に完全に閉じられている。この香ばしい味付けは……醤油、というやつか? 先ほどの天丼のタレとも異なる、何という深みだ」
バアルは、魔王としての冷酷な威厳を完全に忘れ去ったかのように、次から次へと箸を動かし始めた。
枝豆を剥き、タコの唐揚げをコリコリと咀嚼し、お刺身の美味さに目を見開いている。
「あはは! バアル、めっちゃ気に入ってくれたみたいやん! 嬉しいわぁ、ウチも酒が進むわ!」
イシュタルが楽しそうに酒を煽り、アレスも「ヨシテルの料理は、世界を平和にする力があるね」と、穏やかに微笑みながらお刺身をつまんでいた。
フェンリル親子も、リビングで用意された特大の肉料理を満足そうに平らげ、アウラがテラにじゃれつくようにして、パレスの広々とした部屋で遊び回っている。
宴が中盤に差し掛かった頃、俺はリビングの隅に設置した魔道具に魔力を注いだ。
『Jukebox-Origin(ジュークボックス-オリジン)』。
装置から、静かで心地よいジャズの旋律が流れ出し、パレスの神殿のような大空間を艶やかに満たしていく。
バアルは箸を止め、その不思議な音色に耳を傾けた。
「……風のささやきのような、しかし洗練された音の構築。ヨシテル、これもお前の世界の『娯楽』なのか?」
「ああ。地球の、俺のいた世界の音楽さ。ジャズ、っていうんだ。お酒を飲む時には、最高のBGMになるだろ?」
「ジャズ……。素晴らしいな。戦いしか知らなかった俺の魂が、この空間と、この料理、そして音楽によって、信じられないほど深く癒やされていくのを感じる」
バアルは静かにグラスを傾け、俺たちを一人ずつ見つめた。そこには、ただの「召喚された魔王」ではなく、同じ時間を共有する「家族」としての確かな絆の光が灯り始めていた。
「ヨシテル。俺をこの世界に呼んでくれたこと、改めて感謝する。俺の知略と、このネフェスタス、そしてレギオンの力……お前たちのために、俺たちの『家族』のために振るうことを、ここに誓おう」
「ああ、期待してるよ、バアル。俺たちと一緒に、この世界の真実を解き明かしに行こう。まずは、あの数百年誰も進めなかったという、Sランクダンジョンからだな」
俺が不敵に笑うと、アルシェラたちも一斉にグラスを掲げた。
「ええ。どんな困難が待っていようと、この【ヴィンクルム】の前に敵はいないわ」
「のです! リフィたちも、バアルを応援するのです!」
精霊たちもリビングを飛び回りながら楽しそうに声を上げ、歓迎会はさらに賑やかに進んで行く。
ふと、カグヤが少し首を傾げながら、バアルに問いかけた。
「ねぇ、バアル。バアルの元いた世界には、家族とかは居らんやったと?」
その問いに、バアルは手にしたグラスを見つめ、少し寂しげな、しかし穏やかな目を向けた。
「……家族、か。俺には、かつて妻がいた。だが……ずいぶんと昔に、病で亡くしてな。それ以来、俺はただ魔王として、孤独に深淵の城に座し続けていたのだ」
リビングに、少しだけしんみりとした空気が流れる。
カグヤが「そうやったとね……無礼なことば聞いてしもて、すまんたい」と耳を伏せると、バアルは「気にするな。今では良い思い出だ」と首を振った。
すると、その様子を見ていたバルトが、酒をぐいっと飲み干して深く頷いた。
「バアルも、同じような境遇だったんだな。……実はよ、俺にも昔、妻がいたんだ。龍人族の誇り高い女でな。だが、昔の大きな戦の最中、病に倒れて先に逝っちまった」
バルトが静かにそう語ると、隣にいたアレスも、いつもと変わらぬ穏やかな、しかしどこか遠い目をして口を開いた。
「あ、それなら僕も同じだよ。僕の妻も、僕たちがまだ若くて、この世界に召喚される前よりもずっと前に、重い病気でね。僕の腕の中で、静かに息を引き取ったんだ」
「「「……え!?」」」
その瞬間、アルシェラ、カグヤ、イシュタルの女性陣の叫び声がリビングに響き渡った。
「ちょっと待って! バルトはともかく、アレス、あなた結婚してたの!?」
アルシェラが目を見開き、信じられないといった様子でアレスを指差す。
「バ、バルトもアレスも……既婚者やったん!? ウチ、今まで一緒に旅してきて、そんな話一言も聞いたことあらへんで!」
イシュタルが立ち上がり、驚愕のあまり叫んだ。
「バリ驚いたたい……! 二人とも、そんな大事なことば何で今まで隠しとったと!?」
カグヤも九つの尻尾をピンと直立させて驚いている。
バルトは頭を掻きながら「いや、がはは! 聞かれなかったから言う機会がなかっただけだぜ!」と笑い、アレスも「そうだね、わざわざ昔の傷を掘り返すようなことでもないし。
でも、僕たちの心の中に、今でもちゃんとあの子たちがいるよ」と、優しく微笑んだ。
バアルはその様子を見て、フッと口元を緩めた。
「なるほど……。過去の喪失を抱えながらも、こうして新たな『家族』として寄り添い合っているのか。ますます、この【ヴィンクルム】が気に入ったぞ」
静かに一同のやり取りを聞いていた俺は、手にした器をトンとテーブルに置き、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……だったらさ、その3人の妻たち、今からここに呼ぼうか?」
「「「「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」
今度はリビングにいる全員――バアル、バルト、アレスを含めた全員の絶叫が炸裂した。
「ヨ、ヨシテル……!? 今、何て言った……!?」
アレスのいつもの穏やかな表情が完全に吹き飛び、バルトの顎が外れそうなほど開いている。
バアルさえもが、酒を吹き出しそうになって目を剥いていた。
「だから、バアル、バルト、アレス。お前たちの奥さん3人を、俺の魔法創造とアルティメットスキルで、当時の魂の記憶と肉体を完全に再構成して、この場に『蘇生召喚』してやるって言ったんだよ」
俺は淡々と、しかし絶対的な確信を持って告げた。
ギフト『全知全能』を持つ俺にとって、すでにこの世にいない魂の所在を多元宇宙の輪廻から特定し、その存在を概念ごと引き戻すなど、造作もないことだった。
「お前たちが今でも大切に想っている家族なら、俺たちの新しい家族だろ。だったら、全員で一緒に旅をした方が楽しいに決まっている。……クオーレ、3人の魂のアクセス経路の確保と、肉体創造の術式構築は?」
《了解、マスター。ギフト『全知全能』により、バアル、バルトロス、アレスの記憶から対象の魂の識別波形を完全抽出。多元宇宙の霊子記録層より3名の魂を特定しました。これよりアルティメットスキル『魔術』による『超高密度肉体創造』および『究極蘇生召喚術式:エテルナ・アニマ・リヴァイヴァル』を展開します。……いつでも発動可能です》
「よし、準備はいい。……お前たち、その3人の名はなんと言うんだ? 名が魂を呼ぶ。お前たちの口から、その愛しい人の名を呼んでやってくれ」
俺の言葉に、リビングの空気は一瞬にして、張り詰めた静寂へと変わった。
アレスが、バルトが、バアルが、信じられないものを見る目で俺を注視し、それから互いに顔を見合わせた。彼らの胸の中に、何年、何十年、あるいは何百年と蓋をしてきた「逢いたい」という切なる願いが、激流となって溢れ出す。
「……本当に、そんなことが……」
アレスの声が微かに震える。
「俺が嘘を言ったことがあるか? さあ、呼べ。新しい家族を迎え入れるぞ」
俺の力強い言葉に背中を押されるように、まずバルトが、ごくりと喉を鳴らして一歩前に出た。
その豪快な男の目には、大粒の涙が溜まり始めていた。
「……俺の妻の名は、エレナだ。龍人族の、誰よりも気が強くて、勝気な女だった……!」
続いてアレスが、胸元をぎゅっと握り締め、祈るように呟いた。
「僕の妻は、シン。白狼族の、物静かで、夜の月みたいに綺麗な子だったよ……」
最後にバアルが、魔王としての威厳の奥にある、一人の男としての深い情愛を込めて、その名を口にした。
「我が最愛の妻の名は、リルフィナ。魔族でありながら、誰よりも花を愛する清らかな女だった……」
「エレナ、シン、リルフィナ……。確かに受け取った。クオーレ、術式起動!」
《了解、マスター。究極蘇生召喚術式、最大出力で展開。世界の因果律を一時的に固定し、肉体と魂を完全同期。これより3名の存在をアトランティアに再構築します――!》
瞬間、パレスの広大なリビングの中央が、昼間の召喚をも遥かに凌駕する黄金と純白の光の奔流によって満たされた。
まばゆい光の柱が三本、床から天井へと突き抜け、激しい魔力の風が絨毯を揺らす。
アルシェラたちは息を呑んでその光景を見つめ、バルトとアレス、バアルはただただ、自らの視線をその光の最奥へと固定していた。
光の粒子が急速に収束し、肉体が編み上げられ、七色の光が輝き霊魂が完全に定着していく。
そして、光が霧散したその場所には――。
「……う、ん……。ここは、どこかしら……? 私、確か……」
浅葱文様の美しい装束を纏い、不敗の神盾を傍らに現出させた、勝ち気な瞳を持つ龍人族の美女。
エレナ。
「……バルト? え、嘘……バルトなの……!?」
「エ、エレナァァァァァッ!!」
バルトは咆哮を上げ、大粒の涙を流しながらエレナへと駆け寄り、その巨躯で彼女を壊れ物のように優しく抱きしめた。
「……アレス? 暖かい……。私、もう一度あなたに触れているの……?」
緋衣草(サルビア)文様の美しい装束に身を包み、暗器手甲を両腕に輝かせた、月のように静美な白狼族の美女。
シン。
「シン……! ああ、本当にシンだ……! 会いたかった……ずっと、ずっと……!」
アレスはいつもの余裕に満ちた笑みを完全に失い、子供のようにシンの胸に顔を埋めて咽び泣いた。
シンはそんなアレスの髪を、愛おしそうに何度も何度も撫でている。
「……バアル? まさか、夢を見ているのですか。私は、あなたの元へ還ってこられたのですか……?」
花金鳳花(ラナンキュラス)文様の優雅な和装を纏い、爪に神秘的な宝石を散りばめた籠手をはめた魔族の美女。
リルフィナ。
「リルフィナ……! 夢ではない、現実だ! 俺が、この俺が今お前を抱きしめている!」
魔王バアルは、その絶対的な威厳をかなぐり捨て、リルフィナをきつく、愛おしそうに抱きしめ、その肩を激しく震わせた。
リビングは、数百年、数千年の時を超えて果たされた奇跡の再会と、男たちの涙、そしてそれを祝福する仲間たちの温かい拍手に包まれた。
アルシェラもイシュタルも、カグヤも涙を流して彼らの再会を喜んでいる。
俺は手をかざし、彼女たちにそれぞれの付き合いとなる精霊を瞬時に召喚した。
エレナには土の精霊ロカ、シンには風の精霊アエラ、リルフィナにはヨシテルの補佐をしていた水の精霊アクアを、今後はリルフィナに同行するように命じる。
「アクア、リルフィナについてくれるか?」
「わかりました、補佐します」
「バルト、アレス、バアル。そしてエレナ、シン、リル。改めて、俺たちのパーティー【ヴィンクルム】へようこそ。これで俺たちは、総勢十人の最強の家族になった」
俺の言葉に、涙を拭ったバルトとアレス、そしてバアルが真っ直ぐな、そして生涯変わらぬ信頼を秘めた瞳を向けてきた。
エレナたち3人も、俺がこの奇跡を起こした者であることを理解し、深々と頭を下げた。
「のです! リフィたちも、新しい家族を大歓迎するのです!」
ロカとアエラが合流した精霊たちもリビングを飛び回りながら楽しそうに声を上げ、再会の光に満ちた夜営の宴は、どこまでも温かく続いていくのだった。