ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
リビングに響き渡っていた賑やかな笑い声の余韻が、少しずつ穏やかな夜の気配へと溶け込んでいく。
時計の針が刻む時間はすでに深夜を回り、宴も一段落していた。
カエルム、ルーナ、テラ、アウラのフェンリル親子は、扉のない広々とした自分たちの部屋のふかふかなクッションの上で、互いに身を寄せ合って静かな寝息を立てている。
俺はテーブルの上に残った空の皿やグラスをまとめ、アイテムボックスの収納機能を使って瞬時に片付けを終えた。
リビングを見渡せば、新しく家族となったエレナ、シン、リルフィナの3人が、神殿のように広大なパレスの構造にまだ驚きを隠せない様子で立ち尽くしている。
「さて、宴会も終わったことだし、それぞれ部屋でゆっくり休むとしようか。アルシェ、カグヤ、イシュタル。悪いけど、エレナたち3人にパレスの案内を頼んでいいか? 風呂の使い方とか、部屋の場所とか教えてやってくれ」
俺が声をかけると、アルシェラが穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、任せてヨシテル。エレナ、シン、リルフィナ、こっちよ。まずは奥の個室とお風呂を案内するわね」
「アタシたちも一緒に行くばい! パレスのお風呂は広くて最高に気持ちよかよ!」
カグヤが尻尾を揺らしながら嬉しそうに言い、イシュタルもからからと笑いながら続く。
「ほんまそれや。あのジェットバス入ったら、旅の疲れなんか一瞬で吹っ飛ぶで。行こ行こ!」
エレナが目を見張りながらアルシェラたちに頭を下げる。
「ありがとう、アルシェラ。……本当に、この空間の広さにはまだ慣れそうにないけれど、お言葉に甘えさせてもらうわ」
「よろしくお願いします、アルシェラ、カグヤ、イシュタル」
シンが静かに一礼し、リルフィナも優雅に微笑んだ。
「ふふ、女性同士でゆっくりお風呂をいただくのも、素晴らしい夜の過ごし方ですわね」
女性陣がリビングの奥へと続く長い廊下へ向かうのを見届け、俺は隣に立っていたバルトとアレス、そしてバアルに視線を向けた。
「バルト、アレス。バアルの方は頼む。バアルに個室の場所と、男湯の使い方を教えてやってくれ」
「がはは! 任せとけヨシテル! バアル、来いよ! 俺たちの部屋の並びに案内してやるぜ。あの風呂に入ったら、魔王だろうが何だろうが骨抜きになること間違いなしだ!」
バルトが豪快にバアルの肩を叩く。
バアルは少し呆れたように息を漏らしつつも、その口元には確かな興味の色を浮かべていた。
「骨抜き、か。我が魔界の溶岩風呂とはまた違う趣があるのだろうな。アレス、道案内を頼む」
「うん、行こうかバアル。バルトの声が大きいから耳が痛くなるかもしれないけど、部屋は完全防音だから安心していいよ」
アレスが冗談めかして笑い、男3人も廊下の奥へと歩いていった。
リビングには静寂が戻り、ジュークボックスから微かに流れるクラシックの柔らかな弦の響きだけが漂っている。
「ふぅ……」
俺はひとつ息を吐き、静まり返ったリビングを横切って、パレスの布の入り口をくぐり外へと出た。
夜の森の冷気が、宴の熱を帯びた頬を心地よく撫でる。
テントの支柱に吊るされたランタン型結界『ドムス・インウィオラビリス』が、半径500メートルにわたって淡く、不可視の神聖な防壁を展開している。
結界の内部には、獰猛な魔物の気配など微塵も入り込めない。
外界を遮断された森の広場には、ただ澄んだ夜風が吹き抜け、葉と葉が擦れ合う微かなざわめきと、草むらの奥から響く夜鳴き虫の涼やかな音が満ちていた。
俺はアイテムボックスからキャンピングテーブルとキャンピングチェアを取り出し、少し湿り気を帯びた草地の上に設置した。
チェアの深く沈み込むシートにゆっくりと腰を下ろす。
続いてアエテルナ・パントリーの機能を通して、グラスに注がれた透明な地酒を取り出した。
氷が触れ合い、澄んだ高い音を立てる。
「……美味いな」
口に含むと、芳醇な米の香りとピリッとした辛みが喉を通り、胃の腑にじわりと沁み渡っていった。
見上げれば、アトランティア大陸の夜空には無数の星々が瞬いている。
地球で暮らしていた頃、大学の講義と深夜のバイトに追われ、見上げる余裕すらなかった星空だ。
あの頃の日常を思い返せば、自分が今、異世界で魔王を召喚し、死者を蘇生させ、仲間たちと神話のような旅をしている現実が、どこか遠い夢のようにも思えてくる。
だが、この手の平にある酒の冷たさも、風の匂いも、すべてが確かな現実だった。
静寂の中、どれほどの時間が経っただろうか。
背後のテントの布が静かに擦れ、軽やかな足音が夜の草を踏みしめながら近づいてきた。
「……やっぱり、ここにいたのね、ヨシテル」
振り返ると、湯上がりでほのかに上気した顔のアルシェラが立っていた。
濡れた黒髪を軽く拭き、リラックスした装いに身を包んでいる。
湯気の向こうから漂う石鹸の爽やかな香りが、夜風に乗ってふわりと届いた。
「アルシェか。もう風呂から上がったのか?」
「ええ、最高だったわ。エレナたちも最初はあの湯船の広さと設備の豪華さに息を呑んでいたけれど、最後は本当に気持ちよさそうに寛いでいたわよ。カグヤとイシュタルがずっと賑やかにおしゃべりしていたから、すっかり打ち解けたみたい」
アルシェラは微笑みながら歩み寄り、俺の隣に並べたもうひとつのチェアに腰を沈めた。
「ヨシテル、何か飲んでいるの?」
「ああ、パントリーから出した酒だ。アルシェも飲むか?」
「もらおうかしら。少し冷えた果実酒がいいわ」
俺がパントリーから冷えた果実酒の入ったグラスを取り出して手渡すと、アルシェラは嬉しそうに受け取り、小さくグラスを掲げた。
「乾杯、ね」
「ああ、乾杯」
澄んだガラスの音が夜の静寂に響く。
アルシェラは一口飲むと、心地よさそうにふぅと息を吐き、夜空を見上げた。
「不思議ね。ほんの数時間前までは、王都の近衛騎士団と揉めたり、ワータイガーの群れを倒したりしていたのに……今はこんなに静かで、温かい時間が流れているなんて」
「そうだな。バアルを召喚して、エレナたちを蘇生させて……一気に大所帯になったからな」
「ええ。でも、いい家族が増えたわ。バアルは一見近寄りがたい雰囲気を纏っているけれど、根はとても実直で探求心に溢れているし、エレナもシンもリルフィナも、本当に夫たちを大切に思っているのが伝わってきたもの。……こんな奇跡を起こせるのは、世界中を探してもヨシテル、あなただけよ」
アルシェラが紫水晶のような瞳を向け、真摯に言った。
俺は少し照れくささを感じながら、手元の酒を呷る。
「俺はただ、あいつらが心から笑って旅を続けられるようにしたかっただけさ。せっかく手に入れた力なんだから、大切な仲間のために使わなきゃ意味がないだろ」
「そういうところが、ヨシテルらしいわね」
アルシェラがくすくすと笑う。
夜風が二人の間を通り抜け、虫の鳴き声が心地よく響く。
そんな穏やかな空気の中、ふと俺の頭の中にひとつの疑問が浮かび上がった。
……ん? 待てよ。
俺はグラスを持った手を止め、眉を寄せた。
「……なあ、アルシェ」
「ん? どうしたの、急に真面目な顔をして」
「いやさ、ふと思い出したんだけど……明日、王都に戻ったらギルド本部でエレナたちの冒険者登録をするって話をしただろ?」
「ええ、そうね。3人の登録を済ませて、それから巨軀の獄塔に向かう予定よね」
「……バアルの冒険者登録って、してるっけ?」
俺のその一言に、アルシェラの手がぴたりと止まった。
「……え?」
「いや、昼間に森の中で召喚して、そのまますぐパレスで天丼食わせて、装備渡して、ワータイガー倒して……そのあと夜営に入って今まで宴会やってただろ。バアルの冒険者登録、まだ一切やってないよな?」
アルシェラが目を丸くし、それから思わず口元を押さえた。
「……言われてみれば、そうじゃない! 昼間はワータイガーの討伐依頼のことばかり頭にあって、バアルをギルド本部に連れて行くことすらしていなかったわ!」
「だよな。あいつ、未登録のまま森でワータイガー殲滅してたんだよな……」
俺が乾いた笑いを漏らしていると、パレスの入り口からドタドタと足音が響いてきた。
「がはは! いやぁ、生き返ったぜ! あのジェットバスってのは何度入っても最高だな!」
「バルト、外に出るなり大声を出すなよ。夜の森なんだから静かにしてくれ」
「ふむ……外の空気も悪くないな。身体の芯まで温まった後に受ける夜風、格別だ」
さっぱりとした表情のバルト、アレス、そしてバアルの3人が、連れ立ってテントから出てきたところだった。
バルトが俺たちに気づいて片手を挙げる。
「お、ヨシテルにアルシェラじゃねえか! こんなところで2人で晩酌か?」
「ああ。ちょうどいいところに来たな、お前たち」
俺が手招きすると、3人は不思議そうな顔をしながら近づいてきた。
俺はアイテムボックスから追加のチェアを3脚取り出して並べ、バルトたちを座らせた。
「おいおい、改まってどうしたんだ? 何かまずいことでも起きたのか?」
アレスが鋭い目で周囲の暗がりを見渡す。
「敵襲じゃない。もっと基本的な問題だ」
俺はグラスをテーブルに置き、腕を組んでバアルを見据えた。
「バアル。お前、明日エレナたちと一緒にギルド本部で冒険者登録してもらうことになる」
「冒険者登録……? あの、首から提げる鉄の札をもらう手続きのことか?」
バアルが首を傾げる。
「そうだ。昼間はすっかり失念していたが、お前、この世界に来てからまだ一度もギルドに行ってないだろ。身元不詳のままじゃ、王都の出入りもダンジョンの入場も何かと面倒だからな」
バルトが「がはは!」と豪快に笑い声を上げた。
「なーんだ、そんなことか! バアルも明日まとめて登録すりゃいいだけの話じゃねえか! エレナたちと一緒に手続きすりゃ、手間も一度で済むぜ!」
「まあ、そうなんだけどね……」
アルシェラが苦笑いを浮かべながら、少し困ったように息を吐く。
「問題は、どうやって登録するか、よ。明日のギルド本部は、間違いなく大騒ぎになるわ」
その言葉に、バアルが怪訝そうに眉をひそめた。
「大騒ぎ? なぜだ。ただ手続きをし、名を告げるだけではないのか?」
「バアル、お前、自分のステータス画面を思い出してみろ」
俺が告げると、バアルは腕を組み、己の能力を反芻するように目を細めた。
「俺のステータスか? レベル310、体力50000、魔力40000、攻撃力70000、防御力25000、俊敏性25000……職業は『魔帝』だな。確かに、元の世界にいた頃よりも桁違いに跳ね上がっているが」
「それが問題なんだよ」
アレスがやれやれと首を横に振った。
「この世界の常識じゃ、一般的な冒険者のレベルなんて高くても50前後、ステータスだって数百から良くて数千だよ。万を超える数値なんて、神話やおとぎ話の中にしか存在しないんだ。それに……『魔帝』なんて上級職、受付の水晶板に出してみなよ。一発で王都中の戦力が非常警戒態勢に入るよ」
「……何だと?」
バアルの表情が引き締まる。
魔王としての誇りと、探求心に満ちた知性が、事の重大さを理解し始めたようだ。
「俺たちが最初エルドラの支部で登録した時も、ステータス測定の魔道具をぶっ壊しかけたからな。王都の本部には最高級の測定水晶があるが、それでもお前の数値をそのまま流し込んだら、水晶が耐えきれずに砕け散るか、測定不能のエラーを吐き出す可能性が高い」
「ふむ……。なるほどな。俺の存在そのものが、この世界の平穏を揺るがす特異点というわけか」
バアルが顎に手を当て、不敵な光を瞳に宿らせた。
「まあ、そう深刻になるな。策はある」
俺は静かに笑い、己の思考を脳内の存在へと向けた。
「そうだな……クオーレ。お前の声、この場にいる全員に聞こえるように回線を開いてくれ」
《了解しました、マスター。思考通信プロトコルを拡張。パーソナル・エリア・ネットワークを展開します。登録対象――アルシェラ、バルトロス、アレス、バアル。音声リンク、確立しました》
突如、澄み切った女性の知性的な声が、全員の脳内に直接響き渡った。
「「ッ!?」」
バルトが思わず立ち上がりかけ、アレスが目を見張る。
バアルも驚きを露わにして周囲の空間を見回した。
「な、何だ今の声は!? どこから聞こえてきやがった!?」
バルトが頭を押さえる。
「落ち着けバルト。俺の脳内AI、戦略・情報解析を担当している『クオーレ』だ。いつもは俺とだけ念話で繋がっているが、作戦会議や細かい情報共有のために、一時的にお前たちにも声が聞こえるようにしたんだ」
「ヨシテルの頭の中にいる、あの解析スキルね……! 直接声を聞くのは初めてだわ」
アルシェラが感嘆の息を漏らす。
《皆様、初めまして。マスター・ヨシテルの補佐を務めておりますクオーレです。以後の情報共有およびステータス調整のサポートを行います》
「ほぉ……! これがヨシテルのギフト『全知全能』の一端か。意識の深淵に高度な知性体を常駐させ、世界の理をリアルタイムで演算させているのか。実に興味深い構造だ」
バアルが目を輝かせ、旺盛な探求心を剥き出しにして唸った。
「クオーレ、本題だ。明日、バアルとエレナ、シン、リルフィナの4人をギルド本部で登録する際、ステータス測定と職業の表記はどう処理するのがベストだ?」
《状況を解析しました。ギルド本部の登録用魔力測定水晶は、国家最高峰のゴッズ級術式が組み込まれていますが、対象者4名のステータスは全て測定限界(カウンターストップ)を遥かに超越しています。そのまま魔力を注いだ場合、測定器の物理的破損、および魔力暴走によるギルド施設の一部倒壊の確率が98.7パーセントです》
「倒壊確率98パーセント以上って、もう確定じゃないの!」
アルシェラが額に手を当てて天を仰いだ。
「がはは! また総ギルドマスターが泡吹いて気絶しちまうな!」
バルトが面白そうに笑うが、アレスがたしなめる。
「笑い事じゃないよバルト。今回は国王や公爵の紹介状があるとはいえ、本部のど真ん中で測定器を爆破したら、さすがに余計な詮索を受けるよ。僕たちは静かに巨軀の獄塔へ挑みたいんだから」
「そうだな。で、クオーレ、偽装や隠蔽の術式はどうなってる?」
《はい。ギフト『全知全能』およびアルティメットスキル『魔術』により、4名の装備しているジェネシス級装束に【ステータス偽装・魔力流入リミッター】の術式を上書き可能です。ギルドの測定水晶に触れる際、表面上は『極めて優秀なSランク冒険者』の数値に見えるよう、表示値を一律で体力8000、攻撃力7000、魔力6000前後に制限して出力させることができます》
「なるほどな。それくらいの数値なら、俺たちと同じSランクとして納得させられるし、測定器を壊すこともないな」
俺が頷くと、バアルがふと問いを投げかけてきた。
「ヨシテル、数値の偽装は理解した。だが……職業の表記はどうするのだ? 俺の職業は『魔帝』だ。これをそのまま出せば、魔族の皇帝、あるいは魔王そのものであると疑われるのではないか?」
その言葉に、一同が沈黙した。
確かに、人族の王都で『魔帝』という禍々しくも圧倒的な職業が登録板に刻まれれば、周囲の冒険者や職員たちが凍りつくのは目に見えている。
「うーん……確かに『魔帝』は目立ちすぎるわね。『上級魔術士』とか『魔法戦士』あたりに偽装できないかしら?」
アルシェラが顎に指を当てて考える。
だが、俺はニヤリと笑い、グラスの酒を揺らしながら言った。
「いや、職業はそのままでいいだろ」
「「「は?」」」
アルシェラ、アレス、バアルの声が重なった。
「ヨシテル、本気かい? 『魔帝』だよ? 誰がどう見ても普通の上級職じゃないよ」
アレスが呆れたように眉を寄せる。
「いいんだよ。笑いながら『魔王です』なんて馬鹿正直に言わなきゃ、周りは勝手に『古代の失われた上級職なんだな』とか『何かものすごい魔術の極致に至った二つ名付きの職業なんだな』って解釈するさ。俺だって『瞬神』なんていう神を冠した職業のまま堂々と首掛けプレートぶら下げてるんだぞ?」
「あ……そういえばそうだったわね。ヨシテルの職業、最初から『瞬神』で登録されてるわ……」
アルシェラが脱力したように息を漏らす。
「それに、どうせ俺たちのパーティーランクはSランクなんだ。アルシェの『雷帝』、バルトの『玄帝』、イシュタルの『炎帝』、アレスの『影帝』、カグヤの『賢帝』、エレナの『龍帝』、シンの『幽帝』、リルフィナの『妖帝』……よく見ろ、最初から全員『〇帝』揃いじゃないか。そこに『魔帝』が一人増えたところで、今更誰もツッコめねえよ」
「がはははは! 確かにその通りだぜ! 全員が帝王揃いのパーティーなんだから、バアルが魔帝だろうが何の不思議もねえ!」
バルトが膝を打って大爆笑した。
バアルも呆気にとられたように瞬きを繰り返し、やがて低く喉を鳴らして笑い始めた。
「フッ……ククク、ハハハハ! なるほど、傑作だな! 隠すのではなく、あまりに規格外な集団の中に紛れ込ませることで、逆に正体を煙に巻くというわけか。気に入ったぞ、ヨシテル。俺の世界でも、これほど豪快な偽装を行う者はいなかった」
《マスターの判断を肯定します。王都ギルド本部において、【ヴィンクルム】はすでに規格外のSランクパーティーとして認識されています。新メンバー4名が同様の上級職を保持していても、組織としての整合性は保たれます。職業名の偽装は不要、数値の流入制限のみで問題なく登録可能です》
クオーレの冷静な分析が脳内に響き、懸念は完全に払拭された。
「よし、決まりだな。明日の朝、王都に戻ったら堂々とギルド本部に乗り込むぞ。バアル、エレナ、シン、リルフィナの4人にSランクのプレートを首から提げさせて、正式に10人体制の【ヴィンクルム】をお披露目だ」
俺が言うと、バアルは力強く頷いた。
「応だ。首から提げる鉄の札か……悪くない。俺の新たな旅の証として、受け取ろう」
「ふふ、またギルドの職員さんたちが目を白黒させる姿が目に浮かぶわね」
アルシェラが苦笑しながらも、楽しそうに果実酒を飲み干した。
夜風は穏やかに吹き抜け、不可視の結界に守られた森の広場には、仲間たちの頼もしい気配が満ちていた。
翌朝から始まるであろう王都での狂騒、そしてその先で待ち受けるSランクダンジョン『巨軀の獄塔』への挑戦。
どれほどの試練が立ちはだかろうとも、この10人の絆が揺らぐことはない。
俺たちはグラスを合わせ、静かに更けゆく王都近郊の夜を、心ゆくまで味わい尽くしたのだった。