ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
冒険者ギルド本部の広々としたフロアから外へと足を踏み出すと、王都の活気ある喧騒が心地よく耳に飛び込んできた。
先ほどまでの騒動ですっかり顔が割れたのか、すれ違う冒険者や商人たちが、次々と深々と頭を下げて声をかけてくる。
「あ、ヨシテルさん! 昨日は……いや、さっきはご馳走様でした! 最高の酒が飲めました!」
「【ヴィンクルム】の皆さん、お疲れ様です!」
「みんな、ありがとな。俺達は王都の市場で少し買い出しをしていくから、しっかり楽しんでくれ」
俺が爽やかに笑いながら返すと、冒険者たちは恐縮したように頭を下げて去っていく。
ギルドを離れる直前、俺は併設されているバーのカウンターに立ち寄り、マスターを務める職員に白金貨を3枚、さりげなくスライドさせて置いた。
「これですべての冒険者たちの飲食代の足しにしてください。もし足りなければ、ギルドに付けとして回しておいてくれ。あとでちゃんと払いに来ますので」
「は、白金貨3枚……!? ま、待ってください、ヨシテル様! そんな大金、流石に多すぎ――」
「いいから受け取ってください。皆に美味しい酒を飲んでもらいたいんでね」
俺が軽く手を上げて微笑むと、職員は冷や汗を流しながらも深々と一礼して受け取った。
この世界の通貨は、銅貨から銀貨、金貨、白銀貨、そして最高峰の白金貨へと上がっていく。
白金貨3枚ともなれば、中規模の村が丸ごと買えるほどの莫大な価値を持つが、仲間たちと楽しんでくれるなら安いものだ。
外に出ると、アルシェラたちが王都の市場で賑やかに買い物を楽しんでいる。
「ねえ、ヨシテル。この野菜、すごく新鮮で美味しそうよ。今夜の夕飯に使えそうね」
アルシェラが手にした新鮮な葉物野菜を見せながら微笑むと、カグヤとイシュタルも目を輝かせた。
「お肉もいっぱい買わなんばい! パレスのパントリーもあるけど、市場の活気を見るのも楽しいとよ!」
「ほんまやなぁ! 珍しい香辛料もあったし、今日の晩ご飯は盛大にいこか!」
バルトやアレス、バアルたちも、それぞれ重い荷物を軽々と持ちながら楽しそうに歩いている。
新しい仲間となったエレナ、シン、リルフィナも、街の雰囲気にすっかり馴染み、穏やかな笑みを浮かべていた。
一通りの買い出しを終えると、俺たちは王都の正門を抜けて街道へと戻った。
門番の兵士たちに見送られながら少し歩いたところで、俺は一同に向き直った。
「さて、買い出しも終わったし、これから本格的にSランクダンジョン『巨軀の獄塔』の攻略に向かうわけだが……その前に、一度ここで数日間の休息を取るか? 旅の疲れもあるだろうし、パレスの中でゆっくり身体を休むのはどうだ?」
俺の提案に、バルトが豪快に笑って頷いた。
「がはは! 休息は大賛成だぜ! 新しい仲間も加わったことだし、パレスの設備を存分に堪能しねえとな!」
「賛成よ。急ぐ旅でもないし、みんなでゆっくり英気を養いましょう」
アルシェラが賛同すると、他のメンバーも笑顔で頷いた。
俺たちは門から少し離れた、木漏れ日の美しい大きな木立の脇に移動した。
「よし、ここにしよう」
俺はアイテムボックスから布製テントを取り出し、魔力を注いで展開する。
一見すると普通のサイズのテントだが、中に入れば広大な神殿が広がる『空間拡張・構造再定義:ミスティック・パレス・グランド』――通称『パレス』の出現だ。
テントの支柱には、有効半径を500メートルに拡大したランタン型結界『ドムス・インウィオラビリス』が静かに吊るされ、外部からの侵入者や魔物を完璧に遮断している。
「みんな、ゆっくりしてくれ。何かあれば、俺は外にいるから声をかけてくれ」
俺がそう告げると、門番の兵士たちが遠巻きにこちらを伺っているのを見つけ、小さく手を挙げて合図を送った。
「門番の皆さん、この木の側にテントを張るから何かあれば言ってくれ」
「は、はいっ! 承知いたしましたっ!」
遠くから敬礼を返す門番たちを確認し、俺は再びパレスの外の木立の近くにキャンピングチェアとテーブルを設置した。
夕暮れ時が近づき、パレスの最新式キッチンからは美味しそうな香りが漂い始めた。
今日の夕食は、アルシェラやカグヤたちが張り切って作った絶品のすき焼きと、サクサクのトンカツだ。
夕食を終えた後、各自が風呂に入ったり、ジュークボックスから流れる音楽を楽しんだりと思い思いの時間を過ごしている中、俺は一人でパレスの外のキャンピングチェアに腰掛け、冷えた酒を片手に静かに思索にふけっていた。
夜風が心地よく吹き抜け、頭上の葉を揺らしている。
「……ふむ」
俺はグラスをテーブルに置き、手元を見つめながら脳内の存在に話しかけた。
「なあ、クオーレ」
《はい、マスター。何でしょうか》
「今の俺は、二刀流の日本刀をメインに戦っている。もちろん、それだけでもあらゆる敵を両断できるだけの威力はあるんだが……ふと思ったんだ。もっと間合いを制圧し、圧倒的な制動力を持つ長物も、実戦で一つ持っておいた方がいいんじゃないかってな」
《分析します。マスターのステータスおよびスキル構成において、長柄の武器――とりわけ戟や槍の運用は、戦闘の選択肢を飛躍的に拡大させます。近接から中遠距離に至るまで、空間を支配する制圧力が向上するでしょう》
「だよな。……でだ、槍にするかとも思ったんだが、槍はアルシェがフルメン・スピクルムを使っているからな。同じ槍を使うのも違うし……そうだ、戟にしよう。『戟(げき)』なら、突くことも斬ることも、薙ぎ払うこともできる」
俺は立ち上がり、虚空に指先を走らせた。
「俺のスキルに、スキル創造を使って『戟術』を追加する。そして、『武器防具作成』のアルティメットスキルを発動だ。ジェネシス級の長柄武器を創り出すぞ」
《承知いたしました。『戟術』のスキル創造、およびジェネシス級長柄武器の設計図構築を開始します》
脳内でクオーレの冷静な音声が響き渡るのと同時に、俺の指先から眩い光の粒子が溢れ出した。
「名前は――『深淵無双方天戟(しんえんむそうほうてんげき)』だ」
俺の意図を汲み取り、クオーレがその詳細な仕様を形にしていく。
・全体の造形:三国志の武将が好むような更には三◯無◯の飛将軍が使う、三日月状の副刃を持つ巨大な1枚刃の戟。
柄の長さは俺の身長を優に超える長大さを持たせ、穂先には鋭利無比な直槍の刃とその片側に、弧を描く極太の三日月刃を強固な1枚刃に連結させる。
・刃の表面:光を吸い込むマットブラックの艶消し黒漆で塗り上げるが、陽光や月光を浴びた瞬間、青白い『氷龍』の紋様が妖しく浮かび上がる仕様。
水属性なら水龍が、風属性なら風龍が浮かび上がるように魔力回路を構築する。
・エッジ:刃先のみは、研ぎ澄まされた炭素鋼の銀の地金を剥き出しにする。
・特性1:『能力同期』振るい手である俺のSTR、AGI、INTの最大値に合わせて、基礎能力が無限に成長する。ステータスが上がるほど、戟の重量と破壊力、斬れ味が際限なく跳ね上がる。
・特性2:『属性増幅・空間凍結』俺の好む氷属性、水属性、風属性の魔術の威力を極限まで増幅させ、戟を一閃するだけで間合いの周囲数百メートルの空間そのものを絶対零度で凍結・粉砕する。
・特性3:『無効化・不可侵』俺以外が悪意を持って触れた瞬間、魂を凍りつかせる耐え難い苦痛を与え、他者による鑑定を完全に遮断する。
・特性4:普段は刀と同じく能力をノーマル級以下に抑え、乱雑に貼られた封印札のように見せかける偽装機能を外装に組み込む。
「よし、完璧だな」
俺が呟いた瞬間、目の前の空間に激しい魔力の渦が巻き起こり、重厚で圧倒的な神気を放つ黒き長柄の巨戟が姿現した。
武器をアイテムボックスに収めつつ、俺はふと、もう一つの疑問をクオーレにぶつけた。
「なぁ、クオーレ。このアトランティアの世界では、一つの体に複数の『職業』を持つ者なんて居るのか? 一般的には一人につき一つの上級職が限界だよな。俺は、『全知全能』のギフトを持っているわけだが……俺自身は何個の職業を自分に付与できるんだ?」
《マスターのギフト『全知全能』およびアルティメットスキル『魔術(スキル創造)』の権限において、保有可能な職業およびスキルの数に制限はありません。システム的な上限は『概念の許す限り無限』です》
「制限なし、か。なら……今の俺に、もう一つ職業を追加してみるか」
俺は自身のステータスを見つめ、思考を巡らせた。これまで刀と魔術の極致として『瞬神』を名乗ってきたが、氷属性・水属性・風属性を好んで使い、空間そのものを凍結させる戦闘スタイルを思えば、あの神の領域にふさわしい称号がもう一つある。
「……クオーレ。『氷神』の職業を俺自身に付与してくれ。スキルも再構築だ」
《――了解しました。『氷神(上級職)』の追加、およびステータス・スキルの再定義を実行します》
その瞬間だった。
ゴォォォォッ……ッ!
俺の肉体から、常軌を逸した膨大な魔力の奔流が、一気に解き放たれた。
周囲の空間が重力波に歪み、大地がわずかに震える。
だが、『ドムス・インウィオラビリス』の結界とクオーレの精密な制御により、その凶悪な魔力は一歩たりとも結界の外――門番や王都の方へ漏れ出すことはない。
しかし、パレスの内部にいる仲間たちにとっては、尋常ではない魔力のうねりとして直に感じ取られたらしい。
「な、何事……!?」
「この強烈な魔力は……ヨシテルだわ!」
パレスの入り口の布がパッと開き、アルシェラを先頭に、バルト、アレス、カグヤ、イシュタル、バアル、エレナ、シン、リルフィナ、そして精霊たちやフェンリル親子までが、慌てた様子で次々と外へと飛び出してきた。
「だ、旦那様……っ! 一体外で何が起きとると……!?」
カグヤが青ざめながら駆け寄ろうとするが、その足がピタリと止まった。
夜の木立の隙間から、満天の月の光が降り注ぐ中――。
あたり一面に、キラキラと眩い氷の粒子が舞い散っていた。
先ほど創り出したばかりのジェネシス級長柄『深淵無双方天戟』を手に持ち、静かに佇む俺の身体の周囲を、月光を浴びて妖しく青白く輝く『氷龍』の紋様が螺旋を描いて巡っている。
幻想的で、神話の一幕を見ているかのような圧倒的な美しさと、触れれば魂まで凍りつくほどの神威。
その中心に、俺は立っていた。
「みんな、すまない。少し驚かせたか」
俺が振り返って穏やかに声をかけると、駆け寄ってきた仲間たちは、目の前の光景にぽかんと口を開けたまま固まっていた。
「よ、ヨシテル……? あなた、今いったい何を……」
アルシェラが目を見張り、手に持っている戟と俺の気配を交互に見つめる。
「ああ、ちょっと自分の職業と武器を増やしてたんだ。『全知全能』のギフトがあれば、新しい職業やスキル、それにさっき言ってたジェネシス級の戟なんかも自由自在に作れるからな」
俺が苦笑いしながら説明すると、バルトがガハハと大きな声で笑い飛ばした。
「がはははは! 職業や武器を自分で新しく作っちまうなんて、相変わらず常識外れのぶっ飛んだ野郎だぜ! お前は本当に人間なのかよ!」
「ほんまやで……! 普通、そんな神様の領域の離れ業、自分でやろうなんて思わへんって!」
イシュタルが呆れたように額に手を当てるが、その表情には深い信頼と笑みが浮かんでいた。
「ふふ、でも、ヨシテルがさらに強くなってくれるなら、私たち【ヴィンクルム】にとってこれ以上心強いことはありませんわね」
リルフィナが優雅に微笑み、エレナやシンも大きく頷いた。
「そういえば……」カグヤが九つの尻尾をパタパタさせながら首をかしげる。
「アタシたちのステータスやスキル、それにあの強力なジェネシス級の和装も、みんな旦那様のそのギフトでつけてくれたとよね?」
「ああ。みんなが俺の家族として、これから一緒に過酷なダンジョンも乗り越えていくんだからな。それくらいの備えは当然だろ」
俺がサラリと言ってのけると、アレスが呆れを含んだ優しい笑みを浮かべた。
「君はいつもそうだね。自分以外の仲間のために、サラッと神話級の奇跡を起こしてしまう。……本当に、君と出会えてよかったよ、ヨシテル」
「おうとも! 俺たちの最高のリーダーで、かけがえのない家族だぜ!」
バルトが豪快に俺の背中をバシッと叩く。
カエルムやルーナ、子フェンリルのテラとアウラも、安心したように俺の足元に身体を擦り寄せ、心地よさそうに喉を鳴らした。
舞い散る氷の粒子が夜空の月に照らされ、どこまでも美しく輝いている。
数日間の休息の始まりを告げる夜。最強の10人と神獣・精霊たちが結んだ絆は、より一層深く、固く、この世界に根を下ろしていく