ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
西の古井戸周辺での再調査と討伐を終え、俺はギルドへと続く道を歩いていた。
アイテムボックスにはアイアンウルフの毛皮と魔石。依頼は順調に完了し、地下遺跡への手がかりも掴めた。
(よし、完璧だ。Dランク冒険者としての初仕事は上々だった。あとはこれを報告して、しばらくはDランクの依頼をこなしつつ、Bランクの魔物が出現する『黒竜の森』への足がかりを探るだけだ)
俺は、頭の中でナビゲーターのクオーレに語りかけた。
(クオーレ。黒竜の森の本格的な探索は、Dランク単独ではリスクが高い。Cランクへの昇格を待つか、それともこの街でパーティを探すか、どう思う?)
『分析結果を提示します。マスターはパーティを組むことに抵抗はありませんが、マスターの真の戦闘力を隠蔽するには、パーティメンバーの監視がノイズになります。Cランク昇格後、単独でBランク依頼を強行するのが、最も効率的で、情報漏洩のリスクが低いと予測されます』
(そうだよな。パーティを組むのは嫌じゃないが、俺の戦闘力は隠し通す必要がある。そうなると、俺の動きが制限される)
その時、俺の思考回路に、ふと一つの疑問が湧き上がった。
(あれ?、強くなれば誰も干渉できないのでは?)
俺がこの世界で身を潜め、偽装ステータスで生きることを選んだのは、目立ちすぎると各国や各勢力に干渉され、自由が失われると考えたからだ。
しかし、それは俺がまだ「異世界人」という概念に囚われていたからかもしれない。
『全知全能』のギフトは、世界の法則すら書き換えられる力だ。
俺が、この世界で誰も手出しできない絶対的な存在になれば、むしろ自由に行動できるのではないか。
(アルティメットと全知全能だけ隠せば良いのでは?)
(クオーレ)『現状の偽装ステータスでは、戦闘力の隠蔽は可能ですが、リフィのSSランク級の支援が必須であり、魔力効率は悪いままです。また、マスターのAGIは、既にDランク冒険者としては異常な域にあり、疑念を完全に払拭できていません』
(各国や各勢力が何を言っていても俺に何もできなくね?)
俺は、思考を加速させた。
現状の俺の『ステータス』は、既に世界の頂点を遥かに超えている。
隠しているのは、その力の「ごく一部」をDランクの枠に収めているだけだ。
ならば、いっそ、誰もが驚愕するが、それでも「この世界に存在する限界」の範囲内と認識される、圧倒的なステータスを公開すればいいのではないか。
「世界を壊さない程度」のステータスとは、すなわち、この世界で最強と謳われるレジェンド級(レベル200超)の魔物を凌駕しつつも、『神話級』や『創世級』といった次元の違う存在ではない、と認識されるレベルだ。
(なら、ステータスを世界を壊さない程度でステータスを弄るか!)
俺は、この瞬間、『全知全能』を発動させ、自身のギルドカードに反映されている偽装ステータスを、一気に書き換えた。
これは、『瞬神』という新たな職業と、圧倒的なレベル、そして五桁のステータスを、この街のギルドマスターが鑑定しても「真実」として反映されるよう、世界の法則に干渉する行為だ。
ギルドカードの中身が、瞬時に更新される。
Dランク冒険者ヨシテル(更新後)
職業: 瞬神(上級職)
レベル: 350
体力 (HP): 60000
魔力 (MP): 72000
攻撃力 (STR): 65000
防御力 (VIT): 60000
魔力 (INT): 70000
俊敏性 (AGI): 75000
『(クオーレ)ステータス更新完了。外部からの鑑定に対し、これらの数値が真実として認識されます。ただし、エクストラスキル以下のスキルは、すべてマスターの戦闘経験の結果として認識されます。アルティメットスキルとギフトは、引き続き完全に隠蔽されています』
(よし。このステータスなら、誰もが俺を「規格外」と認識する。だが、その力の源を探ろうにも、この数値が限界だと思い込むだろう。俺の行動の自由度は、これで飛躍的に向上した)
ステータス更新を終え、俺は気を引き締め直した。
しかし、その直後、クオーレが緊急警告を発した。
『緊急警告。前方よりAランク級魔力反応を複数検知。オークジェネラル(Aランク)1体、ハイオーク(Dランク)3体です。このエリアでAランク級の魔物が確認されるのは、極めて異常です』
森の木々が途切れた街道の近くで、俺は巨大な魔物の一団に遭遇した。
中心にいるのは、身長3メートルを超す、赤黒い皮膚と岩のような筋肉を持つオークジェネラルだ。
その全身は重厚な黒い鎧に覆われ、巨大な戦斧を肩に担いでいる。
その脇を固めるのは、一回り小さいが、それでも人間の倍はあるハイオークが三体。彼らもまた、分厚い革鎧と鋭い剣で武装している。
オークジェネラルは、俺の存在に気づくと、咆哮を上げた。
「ウオオオオオオッ!」
その咆哮は、周囲の木々を震わせるほどの魔力を帯びていた。
(オークジェネラルか。Aランク。Dランクの討伐エリアに現れるレベルじゃない。これは明らかに、黒竜の森から流れてきたか、あるいは地下遺跡の活動の影響か)
オークジェネラルは、思考する知性を持たないが、その存在自体が「災害級」だ。
これを討伐すれば、この街の安全にも貢献できる。
(試すか。俺の新しい力と、リフィのSSランク支援を)
オークジェネラルは、配下のハイオーク三体を前衛に押し出し、自身は巨大な戦斧を振り上げ、威圧感を放つ。
『クオーレ、戦闘プランを』
『了解。現在のステータスを解放し、リフィの支援を受けながら、瞬時殲滅を推奨します。戦闘時間:5秒以内』
ヨシテルは、双剣〈姫鶴一文字〉と〈にっかり青江〉を抜き放った。
「来い」
ハイオーク三体が、獣のような唸り声を上げながら、その巨体からは想像できない速度で突進してきた。
この瞬間、ヨシテルは『縮地』を発動させた。
彼の体が地面を蹴った瞬間、周囲の景色が引き伸ばされ、残像が生まれる。
AGI 75000という数値は、既にこの世界の物理法則を超越した移動速度だ。
(速い!これはもはや、移動ではない。空間を歪めている感覚だ)
縮地によって、彼はハイオーク三体の横を、一瞬で通り過ぎた。
ハイオークたちは、自分が斬られたことすら理解できず、その場で静止した。
彼らの分厚い首鎧の隙間に、ヨシテルの双剣が影のように極めて細い斬撃の軌跡を残していた。
ズドンッ!
三体のハイオークは、戦う間もなく、静かに地面に崩れ落ちた。
配下が一瞬で倒されたことに、オークジェネラルは激怒した。
「ウガアアアアアアア!!」
オークジェネラルは、巨大な戦斧が木々を砕きながら、ヨシテル目掛けて振り下ろしてきた。
Aランク級の物理攻撃。生半可なSランク冒険者でも、直撃すれば即死だ。
ヨシテルは、その巨斧を避けることすらしない。
(リフィ、風のエンチャントと防御支援を)
『承知いたしました、マスター。エクストラスキル:身体強化(レベルMAX)と、リフィのSSランク級の風魔力で防御結界を形成します』
防御力 (VIT) 60000のステータスに、リフィの風の魔力が纏われた瞬間、ヨシテルの周囲に、肉眼では見えない超高密度の風の結界が生まれた。
ガキィンッ!
戦斧は、ヨシテルの頭上わずか数センチで、見えない壁に阻まれた。
結界は微動だにせず、斧の勢いは完全に相殺される。
オークジェネラルは、その反動で体勢を崩した。
ヨシテルは、その体勢の崩れを逃さない。これが、AGI 75000の真髄だ。
『光・火・雷・氷属性複合魔法剣』
彼は、双剣に、これまで見せていなかった雷属性と氷属性、そしてリフィのSSランク風魔力を、光と火の魔力と同時に融合させた。
リフィの魔力制御により、この四属性複合は、ヨシテルの『ユニークスキル:瞬影』による剣技の拡張として認識される。
〈姫鶴一文字〉からは、灼熱の炎と眩い光。
〈にっかり青江〉からは、凍てつく氷と稲妻が走る。
ヨシテルは、縮地でオークジェネラルの懐に潜り込み、双剣を交差させた。
「終わりだ」
閃光、爆炎、雷撃、そして凍気が、一点集中でオークジェネラルの黒い鎧のわずかな継ぎ目を貫いた。
ゴオオオオオオッ!!!
複合魔法が内部で爆発し、オークジェネラルの巨体は、一瞬で蒸発し、魔石と鎧の残骸だけを残して、跡形もなく消滅した。
戦闘時間、わずか2秒。
周囲には、オークジェネラルとハイオークたちの残骸が転がっている。
(この圧倒的な力の差。このステータスなら、この街はおろか、この国のほとんどの魔物に対して、俺は優位に立てる)
『戦闘結果報告。オークジェネラル(Aランク)討伐完了。マスターの魔力消費は、0.01%未満です。この戦闘を見た者がいたとしても、マスターのステータス【俊敏性 (AGI): 75000】と【攻撃力 (STR): 65000】による極めて高度な剣技と、属性複合魔法の極致と認識されるでしょう』
クオーレの分析に、ヨシテルは満足した。
(よし。この新しいステータスと、リフィとクオーレの支援があれば、もうこの街で能力を隠して過ごす必要はない。Cランクから上のランクへの昇格も、上位種討伐を続ければすぐに達成できるだろ。)
俺は、オークジェネラルの魔石をアイテムボックスに収め、確認したい事があるのでもう1度、森の方に足を進めた。
Dランク冒険者ヨシテル。そのステータスは、既にこの世界の常識を遥かに超えた『瞬神』の領域へと踏み入った。
彼の異世界での生活は、ここから、完全に新たな局面へと突入する。