ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
森を抜けたのは、日が西に傾き始めた昼過ぎだった。
木々の間から差し込む光は穏やかで、長い影を地面に落としている。
俺の肩には精霊女王リフィが留まり、その小さな頭の上では五大精霊の眷属たちがそれぞれのマスターの周りを遊ぶように漂っていた。
「リフィにクオーレ、森の外の環境はどうだ?」俺は歩きながら、脳内のAIクオーレと精霊女王に同時に問いかける。
(マスター、森の外は魔力濃度が大幅に低下しています。精霊たちは問題ありませんが、力の出力は抑制されます。周囲の情報は、アレス様が広範囲索敵で絶えず補完しています)
リフィの声が頭の中で響く。
(【クオーレ解析結果】: 現在地の周囲10km圏内に、人間や都市と呼べる構造物は検出されない。最も大きな魔物反応は、西へ約5km。移動速度から判断し、大型の獣型魔物と推定。現在の歩行速度は時速約5km。このペースならエルドラの街への到着は明日の昼過ぎと予測)
「了解だ。アレス、その西の反応について詳しく」
先頭で斥候を務めていたアレスが、フードの影から静かに返答する。
「ヨシテル。西5km、グレイブボアの集団が十数頭。偵察の結果、群れのリーダーはレベル150クラスだ。単体でも問題だらけだが、集団になると更に。危険度は高い、普通の冒険者なら生きて帰れないだろ。進行方向から逸れているため、迂回は可能だ」
「フム。グレイブボアか」
俺は周りに目をやる。
グレイブボアは強靭な体躯と巨大な牙を持つ猪型の魔物だ。だが、俺たちの周りには、リスや小鳥が全く警戒することなく近寄ってくる。
これは、俺たち全員と精霊に付与されているユニークスキル『絶対手加減』の効果が働いているからだ。
このスキルは、俺たちの膨大すぎる能力値から来る威圧感を完全に消し去り、無意識下で手加減を効かせ、小動物すらも逃げ出さないようにしている。
「いいや、迂回はしない。今のパーティーの連携テストと、美味い肉の調達を兼ねて倒そう」
俺の言葉に、パーティーメンバーの士気が高まる。
「よっしゃ、腕が鳴るわ!本気で弾、ぶっ放したろかい!」
イシュタルが炎帝の銃を構え、黒い服とマントに隠れていてもわかるほど、彼女の体から火属性の魔力が溢れ出す。
「旦那様、アタシも準備は万端ばい。回復も支援も完璧にやるけん、任せとって!」カグヤがジェネシス級の魔杖を手に、柔らかな光を纏った。
「戦闘開始。リフィ、全精霊、連携サポート開始だ」
(はい!マスター!五大精霊、全員の魔力・意識を同期させます!戦闘態勢:レベル3)
俺たちは常人から見れば高速移動の『高速』スキルでグレイブボアの群れへと接近した。
戦闘態勢に入ると、『絶対手加減』の対弱者抑制機能は魔物に対して解除される。
ただし、素材保持機能だけは起動し続ける。
グレイブボアたちは、急接近してくる俺たちに気づくと、狂暴な鳴き声を上げて突進してきた。
「バルト、ヘイト頼む!」
「ウォー・クライ!俺がが全ての攻撃を引き受ける!」
最前線に躍り出たバルトロスは、巨大な永遠の盾(アイギス・アエテルナ)を地面に突き立てる。グレイブボアの群れ全ての敵意が彼に集中する。リーダーが繰り出す突進を、バルトロスは微動だにせず盾で受け止めた。
「グラディ、防御力を増幅だ!」自身の肩にいるグラディに叫ぶ。
「任せろ!バルト様の防御は、絶対に破らせねえ!」
「後衛、火力解放。素材を傷つけるな、一撃で仕留めろ!」俺が指示を出す。
「わかったわ、ヨシテル。ライラ、行くわよ!」
アルシェラは、直剣のトニトルス・エンシスを抜き放つ。
「雷魔法:雷鳴の槍(トニトルス・スピア)!」
直剣に収束した雷の魔力が、グレイブボアの群れの側面を襲う。それは『極大雷魔法』ではないが、その威力はレジェンド級の魔法使いの全力の一撃に匹敵する。
「ライラ、魔力の流れをさらに加速!」ライラがアルシェラの雷を増幅する。
「アルシェラ様の力を、一瞬で爆発させるわ!」
次に、イシュタルが動く。
「フンッ!アタシの出番やな!ユニークスキル:精密射撃、魔力弾創造!」
イシュタルは、魔銃炎帝の銃を構える。
魔銃炎帝の銃からは圧縮された火属性の魔弾が、正確に群れの急所へと撃ち込まれる。
「フレイヤ、ド派手に燃やしたってや!」
「任しとき!イシュタル様の一撃を、業火に変えたるで!」
フレイヤの叫びと共に、魔弾は着弾した瞬間に内部で爆発し、グレイブボアは外傷なく絶命する。
その間、カグヤは後方で全員に支援魔法をかけ続けた。
「ルーメン、みんなにバフを!アタシの魔力は無尽蔵ばい!」
「カグヤ様の魔力を、潤滑油のように皆さまへ!」ルーメンの光がバルトロスの防御フィールドをさらに強固にする。
アレスは影に潜み、群れの指揮系統と逃走経路を遮断する。
「ノックス、闇の壁!逃げ道を塞げ!」
「……全て視えている。アレス様の指示通り、闇に閉じ込める!」
精霊女王リフィは、その全てを統括していた。
五大精霊の動き、六人の魔力の消費、敵の動き、全てがリフィの頭の中で完璧に同期する。
俺は最後に動く。目標はリーダーのグレイブボアだ。
「俺が仕留める。素材の回収は確実に行う」
俺は姫鶴一文字とにっかり青江の二刀を抜いた。
鞘から抜かれた瞬間、封印が解かれ、ジェネシス級の魔力が一瞬だけこの場に溢れ出すが、すぐに俺の『瞬影』スキルによって周囲に漏れないよう抑制される。
「瞬影」
俺の姿は一瞬で消え、グレイブボアのリーダーの背後に出現した。
二刀流の剣筋は、グレイブボアの心臓と脳幹を、その皮一枚も傷つけることなく、内部だけで絶命させた。
バルトロスの盾に突進していた全てのグレイブボアは、リーダーの死と同時に糸が切れたように倒れる。
「素材保持、完了。全員、問題ないか?」俺は二刀を封印鞘に戻しながら言った。
「問題ないわ、ヨシテル。完璧な連携ね。リフィのおかげで、私たちの動きがまるで一つの意志みたいだったわ」アルシェが笑いながら言う。
「ほんにすごかね、リフィのおかげばい。アタシの支援魔法、詠唱した瞬間に全員に行き渡ったばい!」カグヤも興奮気味だ。
討伐したグレイブボアは『絶対手加減』の効果により、毛皮も肉も骨も全て最高の状態で保存されていた。
「よし、休憩がてら飯にするぞ。バルト、木を頼む。イシュタル、火を抑えてくれ。カグヤは周辺の結界を」
俺は『アイテムボックス』から調理器具と調味料を取り出し、グレイブボアの肉を捌き始める。
(マスター、お料理ですか!リフィも手伝います!) リフィが小さな手で、肉を清潔化する魔法をかける。
「お任せや!炎帝の力、火力調整に使ったるわ!」イシュタルがジェネシス級の火属性魔力で、火を絶妙にコントロールする。
カグヤが結界を張り終え、バルトロスが太い薪を運んでくる。
「ヨシテルの飯は初めてだな。このグレイブボア、肉質がいい。絶対美味いぞ」バルトロスが期待の眼差しを向ける。
俺は豪快にグレイブボアの肉塊を鉄板で焼き、塩胡椒と持参した醤油ベースのタレで仕上げた。
「はい、お待たせ。皆、遠慮なく食え」
焼き上がった肉の香ばしい匂いが森中に広がる。
「うっわ、なんやこれ、めっっっちゃくちゃええ匂いするやん!さすがヨシテル!」イシュタルが一番に肉に食らいつく。
「フレイヤ!この肉、最高やで!」
「フレイヤも食べたかったー!」精霊たちは魔力で食事の充足感を得るため、食べることはできないが、匂いを堪能しているようだ。
カグヤも一口食べて目を輝かせた。
「もう、絶品ばい! 旦那様、本当に料理もできるとね。これはもう、ギルドなんかで食事する必要なかばい!」
「俺は『料理』スキルも持ってるからな。素材が高級肉のグレイブボアだから、美味いに決まってるだろ」俺は笑った。
「それにしても、この『絶対手加減』ってスキル、本当に便利ね。魔物を討伐しても、皮一枚傷ついてない。これなら換金も楽だわ」アルシェが肉を食べながら言った。
アレスは黙々と肉を食べていたが、ふと口を開いた。
「ヨシテルの作る飯は、全てが完璧に計算されている味だ。……美味い」
「カグヤ様、このタレはなんていうのですか?」ルーメンが尋ねる。
「これはね、ルーメン。『醤油』っていう、旦那様の故郷の調味料ばい。最高に美味かろ?」
「はい、本当に良い匂いですわ」
バルトロスは大きな肉を頬張りながら、満足げに言った。
「この力があれば、どんな依頼でも楽勝だな。エルドラの街でギルドに登録するのが楽しみだ」
「ギルド登録は、まっ、普通に行こうぜ。俺たちのステータスは封印しているとはいえ、どうせ目立つだろう。それに皆の武具は鑑定されても何の情報も得ることは出来なくしてある。まして目立とうが目立たなかろうが関係ないさ。」
休憩を終え、一行は再び歩き出した。
リフィは俺の肩で眠っている。アレスがもたらす情報によると、エルドラの街まではあと半日ほどの道のりだという。
陽は落ち、夜の帳が降りる中、最強のパーティーは初めての街を目指し、穏やかな夜道を進んでいった。