ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
Bランクへの昇格という異例の事態に、ギルド内は未だざわついていた。
受付嬢のリーファは、興奮と緊張が入り混じった表情で、新しく発行された六枚のギルドカードを俺たちに差し出した。
「お待たせいたしました、ヨシテルさん。パーティー【ヴィンクルム】、Bランクでの正式登録完了です。こちらが皆様のギルドカードです」
俺たちはそれぞれ、真新しいBランクのカードを受け取った。カードは銀色に輝き、表面には『B』の文字が刻まれている。
「ありがとうございます、リーファさん。ちなみに、BランクからAランクに上がるには、何か規定があるんですか?」俺は尋ねた。
リーファは手に持った書類をちらりと見て、説明を始めた。
「はい。BランクからAランクへの昇格規定は厳しくなります。まず、Bランクの依頼を複数回(最低でも十回以上)成功させる必要があります。さらに、難易度の高い討伐依頼、具体的には盗賊団や山賊の討伐、もしくはAランク相当の強力な魔物の討伐を最低一回以上行うことが義務付けられています。その上で、ギルドの審査と、ガゼルマスターの推薦が必要になります」
「なるほど、最低十回と、盗賊討伐か」
「あと、Sランクは、それこそ伝説級の偉業を成し遂げる必要があります。……ヨシテルさんたちはその能力からすればすぐに達成されるのでしょうが、どうかご無理はなさらないでくださいね」リーファは俺の目を見て心底心配そうに言った。
「大丈夫や。アタシたちに無理なんかないで」イシュタルが笑って答える。
「リーファさん、詳しく教えてくれてありがとうね。アタシたち、頑張るけんね」カグヤが礼を言う。
ガゼルは奥のマスター席で腕を組み、こちらを見ていた。
俺たちはギルドカードをしまい、依頼板へと向かう。Bランクの依頼をチェックするためだ。
「当面はBランクの依頼を数回こなし、街の状況を掴みつつ、情報を集める。アレス、何か情報はあるか?」
「Bランク依頼は、迷宮深部の探索か、護衛の依頼かBからAランクの魔物の討伐が主だ。盗賊討伐依頼も一件確認している。それと、ヨシテル。入ってすぐのところにいるDランクパーティーが、こちらに敵意を向けている」アレスが小声で俺に伝える。
(【クオーレ解析結果】:ギルド入口付近のDランク冒険者パーティー(四名構成)が【ヴィンクルム】を注視。特に女性メンバーに対して強い下心を持つ。総合戦闘力はDランク平均以下。無視推奨)
俺はクオーレの解析を無視し、振り向かずに歩き続けた。
しかし、奴らは自分たちから厄介事を持ち込んできた。
「おい、そこの新顔のパーティー!そこの龍人族のデカブツに、お前の後ろにいる女ども!ちょっと待てや」
Dランクパーティーのリーダーらしき男が、下卑た笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
その男の腰には、どう見てもノーマル級の剣がぶら下がっている。
他のメンバーの装備もせいぜいスペシャル級といったところだ。
「なんや、用があるんか?」イシュタルが冷たい声で振り返る。
「なんやとは、言葉が荒いな、嬢ちゃん。お前らみたいな新米が、いきなりBランクなんざ名乗ってんじゃねえよ。どうせ、可愛い女をダシに、裏でギルドに媚び売ったんだろ?」
男は、アルシェラとカグヤのスタイルを品定めするように、ねっとりとした視線を送った。
アルシェラが冷静に一歩前に出た。
「ギルドマスターが決めた事でしょ。あなた達には関係ないわ」
「関係なくねぇんだよ!おい、そこのエルフ。お前、顔はいいが態度がデカいな。俺たちのDランクパーティーで下働きでもしたらどうだ?お前みたいな美人は、迷宮に入るより俺たちを癒やすほうが向いてるぜ」
男はアルシェラの肩に手を伸ばそうとした。
その瞬間、俺の目の色が切り替わった。
ドォォン!
それは、魔力でもなく、物理的な衝撃でもない。
俺のSSランク『瞬神』のステータスに紐づいた、ヨシテル自身が生み出す純粋な『存在の圧力』だ。
ギルド内の空気が一瞬で凍り付いた。
活気に満ちていたギルドが、突然静寂に包まれる。
Dランクパーティーの四人の男たちは、まるで巨大な氷塊に押し潰されたかのように、その場に釘付けになった。
彼らの顔からは血の気が引き、目に宿っていた下卑た欲望は、純粋な恐怖に変わった。
俺の肩にいたリフィさえ、少しだけ魔力体を硬直させた。
(マスター!抑制が解放されています!すぐに抑えてください!) リフィが慌てて頭の中で叫ぶ。
「おい、お前ら」
俺は低い声で言った。言葉一つ一つが、ギルドの床に響く。
「俺の仲間、特に女性陣に、二度と軽々しく触れようとするな。いいか、お前らが俺の足元にも及ばないゴミだってこと、身をもって知れ」
威圧に耐えきれなくなったDランクパーティーのリーダーは、腰が抜け、その場で嘔吐した。
残りの三人も、顔面蒼白で痙攣している。
ギルドマスターのガゼルは、この状況を予想していたかのように、マスター席からゆっくりと立ち上がった。
「ヨシテル!ギルド内での私闘は禁止だぞ!お前、何をするつもりだ!」ガゼルが警告した。
「ああ、わかってますよ、ガゼルさん」俺は威圧を一瞬で収束させた。ギルド内に再び空気が戻り、人々は息を大きく吸い込んだ。
「でも、こいつらがあまりにも不快なんでね。ガゼルさん、こいつらをこの場でブチのめしていいか? 私闘は禁止でも、ギルドの秩序を乱す者への懲罰なら問題ないだろ?」
俺はガゼルに、挑発的な笑みを向けた。
ガゼルは大きくため息をついた。
「…ダメだ。私闘禁止は絶対だ。だが、ヨシテル、そのパーティーはギルドの秩序を乱した迷惑行為により、一週間ギルド出入り禁止とする」
ガゼルは嘔吐し、床にへたり込んでいるDランクパーティーに向かって怒鳴った。
「テメェら!一週間、ギルドに来るな!もしまた同じような行為を働けば、即刻冒険者資格剥奪だ!テメェの吐いたもん片付けてさっさと失せろ!」
Dランクパーティーの男たちは、ちゃんと片付けてから這うようにしてギルドから逃げ出した。
彼らは俺の顔すら見ることができず、ただ命からがら逃げ去った。
「まったく、厄介なことしてくれたな。ヨシテル、お前、少しやりすぎだ。その威圧はなんだ?お前はDランクの冒険者だったはずだぞ!」ガゼルは怒鳴りつつも、どこか諦めの表情だ。
「俺も、少しは成長したんですよ。それにあいつらから向かってきたんで、不可抗力ですよ。」俺は肩をすくめた。
ギルドの他の冒険者たちは、Bランクパーティー【ヴィンクルム】の背中を見て、二度と関わらないと心に誓ったのだった。