ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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3話め


第三話: 宿と情報、そして異世界の夜

 

 

義輝――改めヨシテルは、レイモンド、エリナ、サイラスの三人を伴って、冒険者ギルドの喧騒の中心にある、広々とした食堂へと向かった。

石造りの壁は年季が入っており、大きな木製のテーブルには多くの冒険者が座り、エールや葡萄酒を片手に、依頼の話や武勇伝を語り合っている。

レイモンドが、窓際の比較的静かなテーブルを見つけて腰を下ろした。

 

「さて、ヨシテルさん。改めて、この街へようこそ」

 

「ありがとう。まずは、宿を探さないとな」ヨシテルは言った。

 

「宿なら、ギルドの近くにいくつか良いところがあるっす。中でも『銀の剣亭』は、冒険者が多く集まる割には清潔で食事も美味い。初めてならそこが良いっす」サイラスが答えた。

 

エリナが、水瓶からグラスに水を注ぎながら言った。

 

「まずは、喉を潤して下さい、ヨシテルさん。ここはエールや葡萄酒が主な飲み物だけど、お昼間は水や果実酒にしておいた方がいいですよ」

 

ヨシテルは微笑んでグラスを受け取った。

 

「気遣い、感謝する。さて、まずは君たちに聞きたい。Fランクの冒険者が主に受ける依頼の傾向は、どんなものなんだ?」

 

レイモンドは、テーブルの上に広げられた街の地図(彼が持っていたもの)を指さしながら説明を始めた。

 

「Fランクは、基本的に街の外周や、治安維持がメインになります。一番多いのは、ゴブリンやコボルトといった、比較的弱い魔物の討伐依頼です。あとは、薬草の採取や、護衛依頼なんかも多いです」

 

「今日のゴブリンもそうだったな」ヨシテルが頷く。

 

「そうです。ゴブリンは集落で暮らしていて、放置するとどんどん増えるんです。オークも1匹なら良いが複数で行動してる時もあるから気お付けないといけません。今日のゴブリンは数が少なかったから油断してしまったのですが、ヨシテルさんがいなかったら危なかったですよ」レイモンドはそう言って、再び脇腹を触った。

 

完全に治癒しているにもかかわらず、本能的な記憶が残っているようだった。

ヨシテルは、自身の偽装ステータスと、彼らの話す魔物の強さを頭の中で照合した。ゴブリン程度なら、偽装ステータス(攻撃力302)でも楽勝だが、オークの複数体となると、彼らの実力では相当な危険を伴うだろう。

次に、サイラスがこの世界の成長システムについて口を開いた。

 

「ヨシテルさんのような強い魔法剣士でも、最初はFランクからっす。レベルを上げるには、魔物を倒して経験値を得るしかないっす。経験値が一定に達するとレベルが上がり、レベルに応じてステータスも自動的に上がるっす。個々によってステータスの上がり幅は違うが、強くなれるのは間違いないっすよ」

 

エリナが付け加える。

 

「それに、スキルも大切です。スキルは使えば使うほどスキルレベルが上がります。レベルを上げることでステータスやスキルのレベルを上げることもできるし、スキルのレベルが上がれば、私たちが使うよりも強力な魔法も使えるようになります」

 

ヨシテルは、この情報に内心で納得した。

彼自身の無限のステータスは「全知全能」によるものだが、現地人は魔物を倒してレベルを上げ、地道にスキルを磨く必要がある。

彼の持つスキルは最初から高度なレベルで習得済みだが、これも「全知全能」が設定した結果だ。

 

「魔物からは、魔石が取れるとも聞いたが」ヨシテルが尋ねた。

 

「ああ、魔石は重要な収入源だ」レイモンドが答えた。

 

「魔物の個体の強さによって、魔石の大きさも変わります。それに、魔石の色が濃いほど、魔力が凝縮されている証拠で、高く売れるんです。魔石は魔法道具の動力源になったり、錬金術の素材になったり、用途は広いです」

 

「ダンジョンはどうなんだ?」

 

「ダンジョンは、魔物から素材を剥ぎ取る必要がないのが利点っす。魔物を倒すと、自動的に素材や食材がドロップするっす。ただし、ダンジョン内の魔物は外の魔物より強いし、構造も複雑だから、Fランクにはまだ早いっすね」サイラスが真剣な顔で言った。

 

二人は熱心に街の様子や、冒険者の常識をヨシテルに教えた。日が傾き始め、ギルドの喧騒も増してきた頃、ヨシテルは立ち上がった。

 

「色々と助かった。そろそろ宿を取って、明日から本格的に活動を始めようと思う」

 

「分かりました。じゃあ、俺たちはまた依頼に戻ります。困ったことがあれば、またギルドで会いましょう、ヨシテルさん」レイモンドが手を差し出した。

 

ヨシテルは、レイモンドと固い握手を交わし、三人に礼を言って、ギルドを出た。

ギルドの近くにあるという『銀の剣亭』は、二階建ての大きな木造建築で、サイラスの言った通り、清潔感があり賑わっていた。

ヨシテルは、宿の主人らしき恰幅の良い男性に声をかけた。

 

「一泊お願いしたい。素泊まりで構わない」

 

「ああ、冒険者さんかい。素泊まりなら銅貨80枚だ。食事付きもできるが?」

 

ヨシテルは、金貨を一枚取り出し、渡した。

 

「これで、三日分の素泊まりを。残りは両替してほしい」

 

銀貨100枚分の金貨一枚は、銅貨に換算すると10000枚。三日分の宿泊料を引いても、かなりの額になる。宿の主人は驚きながらも、すぐに銅貨と銀貨を混ぜた釣り銭を用意した。

 

「ヨシテルさん、二階の端の部屋だよ。ゆっくり休んでくれ」

 

ヨシテルは、部屋に荷物(アイテムボックスから出した簡素な着替えと、風呂道具)を置くと、再び街へと繰り出した。

宿の周りの通りは、昼間の賑わいとは違い、夕焼けに照らされて落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

(街の情報を集めるなら、まずは地図と、生活用品の確認だ)

 

ヨシテルは、『全知全能』の力を使って、この街の地理情報を脳内に展開した。

街はほぼ円形で、中央に領主館、南東に冒険者ギルド、北西に商人ギルドや各種職業ギルドが集中している。

彼は、地図を扱う店を探し、街の全域図を銀貨5枚で購入した。

地図は、彼の脳内に展開された情報と寸分違わず、正確だった。

次に、彼は生活必需品を扱う店に入った。

衣類、日用品、保存食などを確認し、この世界の文化レベルと、貨幣の購買力を把握した。

アイテムボックスには無限に物質を創造できるが、現地生活に馴染むためには、その価値観を知っておく必要がある。

彼は、あえてここで日用品を買うことはせず、街の様子を記憶に焼き付けていった。

街の散策中、ヨシテルは、自身のユニークスキルの一つ、『鑑定』を試してみることにした。

『全知全能』があれば、ほとんどの情報は瞬時に得られる。しかし、それはあまりにも強力すぎる。

情報の取捨選択と、集中力を高めるためのトリガーとして、『鑑定』スキルを使うことにしたのだ。

彼は、街路を歩いている一人の商人らしき男性に視線を向け、心の中で『鑑定』と唱えた。

 

 

鑑定結果

名前: ハンス

職業: 商人

レベル: 7

体力 (HP): 110

魔力 (MP): 20

スキル: 算術Lv.3、交渉Lv.2、馬車の運転Lv.1

属性: 無し

備考: 北の都市から珍しい香辛料を仕入れてきた。取引先の酒場へ向かっている。

 

 

(なるほど。他人のステータスは、『鑑定』を使えば容易に確認できる。しかも、他人が見ることのできる情報(名前、職業、各パラメーター)以外に、スキルや属性、そして「備考」という形で、その人物の行動や秘密までが判明するのか)

 

これで、街での情報収集は格段に楽になる。

そして、彼が最も警戒していた、この世界の現地人のステータスが、無限ではないという事実も改めて確認できた。

レベル7の商人では、やはりステータスは100前後が妥当だ。

ヨシテルは、この『鑑定』の力を、転移者であることの秘匿と、安全確保のために有効活用することを決めた。

日が完全に沈み、街には魔除けのランプや、宿屋から漏れる光が灯り始めた。

夜の帳が下りたところで、ヨシテルは宿の食堂へと戻った。

食堂は、冒険者たちで満席だった。

皆、大きな肉料理や煮込み料理を、エールで流し込んでいる。

ヨシテルは、空いていたカウンター席に座った。

 

「ご注文は?」

 

カウンターの奥から、元気の良い女性が顔を出した。

 

「煮込み料理と、この街で一番飲まれているエールを頼む」

 

「かしこまりました!当店の『骨付き肉の豪快煮込み』は絶品ですよ!エールは『銀剣亭オリジナル』で!」

 

しばらくして、目の前に置かれた料理は、彼の予想を遥かに超えるものだった。

大きな骨付き肉がゴロゴロと入った、濃厚そうなシチュー。そして、大きなジョッキに注がれた、泡立ちの良いエール。

ヨシテルは、まずはエールを一口飲んだ。

 

「……美味い」

 

そのエールは、地球で飲んでいたビールとは違い、もっとフルーティーで、麦の風味が豊かだ。

旅の疲れを癒すのに最適な味だった。

煮込み料理もまた、素朴ながらも滋味深い。

肉は骨から簡単に剥がれ落ちるほど柔らかく煮込まれており、異世界のスパイスが食欲をそそる。

ヨシテルは、食事をしながら、周囲の冒険者たちの会話に耳を傾けた。

 

「よお、そこの兄ちゃん。一人かい?」

 

隣に座っていた、筋骨隆々とした斧使いの冒険者が、親しげに話しかけてきた。

 

「ああ。今日、ギルドに登録したばかりだ」ヨシテルは、エールを飲み干し、笑顔で答えた。

 

「ほう! Fランクか。俺は『剛斧』のドウェインだ。見かけない顔だが、それにしても良い剣を持っているな。魔法剣士ってのは珍しい」

 

「ヨシテルだ。少し旅をしていて、この街で腰を落ち着けようと思ってな」

 

ドウェインは、ヨシテルがFランクということに驚いた様子だったが、光属性の回復魔法と火属性の攻撃魔法、そして双剣術という、彼の偽装した肩書は、冒険者たちの間で「腕の立つ凄腕ルーキー」として、徐々に広まり始めていたようだ。

 

「そうか、ヨシテルか。お前さん、火属性と光属性ってのはすげぇな。特に光属性の回復魔法は貴重だ。もし良ければ、いつか一緒にパーティを組まないか?」

 

ヨシテルは、この誘いを断ることはなかったが、慎重に言葉を選んだ。

 

「ありがとう。しかし、まだこの街の地理や魔物の状況もよく知らない。まずは一人で、Fランクの依頼をいくつかこなして、街に慣れるところから始めたいんだ」

 

「それもそうだな。無理はするなよ。この街の周りの魔物は、ゴブリンやコボルトが多いが、たまにオークの群れや、ワイバーンが出没することもある。Fランクが相手にできるのは、せいぜいオーク一体までだ」

 

ヨシテルは、この世界における魔物の強さの基準を、さらに具体的に把握できた。

食事を終え、ヨシテルは宿の自室へと戻った。

部屋は簡素だが清潔だ。彼はベッドに横たわり、天井を見つめた。

 

(異世界転移して、まだ一日も経っていないのか)

 

あまりにも多くの情報と出来事が起こりすぎた。しかし、ギフト『全知全能』のおかげで、混乱することなく、冷静に対処できている。

 

(さて、明日の行動計画を練るか)

 

ヨシテルは、脳内で明日からの活動をシミュレーションした。

 

 

午前:Fランクの依頼(ゴブリン討伐)を受ける。 これは、偽装ステータスのヨシテルが、この世界で「普通に」活動している証拠を作るためだ。

 

戦闘: 討伐の際、あえて偽装ステータスの限界に近い、派手な魔法剣士の戦闘スタイルを披露し、周囲に実力をアピールする。同時に、ユニークスキル『鑑定』で魔物の詳細情報(真のステータス、魔石のグレードなど)を入手する。

 

午後:魔石と素材の売却、そして情報収集。 冒険者ギルドだけでなく、商人ギルドも訪れて、この世界の経済状況を把握する。

 

全ては、「全知全能」という、あまりにも巨大な力を、この世界に悟られないようにするための、地固め作業だ。

ヨシテルは、アイテムボックスから、地球で使っていたノートを取り出した。

彼は、そこに「全知全能」の情報を書くことはない。

代わりに、この世界で得た常識や、重要人物の名前、そして、自分の偽装設定を忘れないためのメモを書き始めた。

 

「よし、これで完璧だ」

 

彼は、静かに目を閉じ、異世界での初めての夜の眠りについた。

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