ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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33話め


第三十三話: 氷の薔薇は絶望に咲く

 

 

広場は静まり返っていた。否、正しくは「死」が支配する静寂に包まれていた。

バルトの戦鎚が大地を砕く音、アルシェラの雷鳴、イシュタルの劫火……それらが一通り収まった後には、氷漬けにされた盗賊の彫像と、黒焦げになった死体の山が残されているだけだった。

俺はジェネシス級の装束『瞬影の装束』の裾を夜風にたなびかせ、廃墟の奥に位置する大広間へと続く重厚な扉の前に立った。

 

「……出てこい。隠れていても無駄だ」

 

俺が冷徹に言い放つと、内側から荒々しく扉が蹴破られた。

 

「ガタガタ抜かしてんじゃねえぞ、ガキがぁ!!」

 

現れたのは、身の丈二メートルを超える巨漢。

元Aランク冒険者にして、現在は盗賊団の頭領として悪名を馳せる『血斧のガーロム』だ。その両脇には、禍々しい魔力を放つ杖を携えた二人の魔術師が控えている。

 

「貴様ら……俺の部下たちをよくもこれほど! ただで死ねると思うなよ!」

 

ガーロムがその名の通り、血に染まった巨大な斧を振り回しながら喚く。

隣の魔術師たちも、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺に杖を向けた。

 

「ふん、魔力感知もできない素人め。この距離で我ら二人の魔術を受ければ、塵も残らんぞ!」

 

「リーダー、こいつの四肢を焼いてからゆっくりとなぶり殺しましょう」

 

彼らは喚き散らしているが、俺の耳には雑音にしか聞こえない。

クオーレによる解析は既に終わっている。

彼らの実力は、俺たちの足元にも及ばないゴミ同然だ。

 

「……喋りすぎだ。耳障りなんだよ」

 

俺は右手を静かに、だが確実な殺意を込めて前に突き出した。

 

「『ウィーティス・ロサエ・グラキアリス(氷のバラの蔦)』」

 

刹那、魔術師たちの足元から、透き通るような美しさを持つ氷の蔦が爆発的に生い茂った。

 

「なっ!? なんだこれは……ぎゃああああっ!!」

 

蔦は生き物のように彼らの身体に絡みつき、鋭い棘がその皮膚を貫く。

そして、棘が刺さった箇所から、肉体が内側に向かって白く凍りつき始めた。

 

「熱い! いや、冷た……っ! 助け、助けてくれぇ!!」

 

一人は腕から、もう一人は足から。

徐々に、だが確実に自分たちの身体が「物」へと変わっていく恐怖。

彼らは顔を歪ませ、絶望に満ちた声を上げながら、数秒後には氷の蔦に絡め取られた完全な氷像へと成り果てた。

 

「ひ……っ……!?」

 

先ほどまで威勢の良かったガーロムの顔から、一気に血の気が引いていく。

彼は手にした斧をガタガタと震わせ、俺との圧倒的な実力差をようやく理解したようだった。

 

「待て……待ってくれ! 悪かった! 俺が溜め込んだ財宝は全部やる! だから、命だけは……!」

 

ガーロムはプライドをかなぐり捨て、その場に膝をついて額を地面に擦り付けた。

見苦しい命乞いだ。俺は一歩、また一歩と彼に近づく。

 

「お前はその言葉を聞き入れられた事はあるのか? お前が奪ってきた命の中に、命乞いを聞き入れられなかった者がどれほどいたか、考えたことはあるか?」

 

 

「く、……クソがああああ!! 死ねぇっ!!」

 

 

俺の拒絶を聞いた瞬間、ガーロムは伏せた姿勢から豹変し、隠し持っていた短剣を突き出しながら突っ込んできた。

最後の手向けのつもりか、それともただの悪あがきか。

 

「無駄だと言っている」

 

俺は避けることすらせず、指を一度だけ鳴らした。

 

「『クリスタルム・グラキアリス(氷の結晶)』」

 

ガーロムが振り下ろそうとした短剣の先から、幾何学的な模様を描く氷の結晶が急速に増殖を開始した。

 

「が……は……っ……あ……」

 

結晶は瞬く間に彼の腕を、胸を、そして喉を覆い尽くしていく。

ガーロムは叫ぶことすら許されず、肺の中まで凍りつき、その生命の灯火は完全に消え去った。

広間に残ったのは、美しくも残酷な三体の氷像だけだった。

 

「終わったか?」バルトが声をかける。

 

背後からアルシェラ、バルト、カグヤ、イシュタルが歩み寄ってくる。

 

「流石はヨシテルね。一寸の狂いもない完璧な魔術だわ」アルシェラが感心したように言う。

 

「リーダーがああも簡単に……。手応えがなさすぎて、少し拍子抜けばい」カグヤが肩をすくめた。

 

「ふぅ。ゴミ掃除は完了だ」

 

俺は氷像と化したガーロムを一瞥し、視線を地下へと続く階段に向けた。

 

「アレス、聞こえるか。こっちは終わった。人質たちの様子はどうだ?」

 

影の中からアレスの声が響く。

 

『ああ、全員無事だ。怯えてはいるが、怪我はない。今、広場へ誘導しているところだ』

 

「よし。これでこの依頼の目的は達成だな。皆、お疲れ様」

 

俺は右手の冷気を収め、ようやく少しだけ表情を和らげた。だが、その瞳の奥には、これから始まる『ヴィンクルム』としての歩みを見据える、揺るぎない光が宿っていた。

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