ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
冷たい月明かりが、静まり返った街道を照らしていた。
俺は『縮地』を使い、数分でテオドールの待つ結界地点へと戻った。
「テオドールさん、終わったぞ。アジトまで案内するから馬車を出してくれ」
「ひ、ひぃぃっ!? ヨ、ヨシテル様!? も、もう終わったのですか!? まだそんなに時間も経って……」
「四の五の言わずに乗ってくれ。人質の保護と戦果の確認が必要だから俺が馬を急がせる」
俺は半ば強引にテオドールを御者台に座らせると、馬の足に身体強化の魔力を流し込み、爆速で廃墟の城へと引き返した。
馬車を止め、震える足で城内に足を踏み入れたテオドールは、そこで再び腰を抜かし、崩れ落ちた。
粉々に破壊された城門の先の広場に広がっていたのは、もはや戦闘の跡ではなく、一方的な蹂躙の記録だった。
バルトの戦鎚によって、まるで巨大なプレス機にかけられたように地面に埋もれ、平らに潰れた死体。
アルシェラの雷撃を受け、体内の水分が一瞬で沸騰して爆散した者や、真っ黒な炭となって原型を留めていない者。
イシュタルの魔弾によって胸に風穴を開けられ、切り刻まれた上に燃え尽きた肉塊。
アレスの『絶影の糸』によって、何が起きたか悟る暇もなく、サイコロ状に細切れにされた部位やリフィ達精霊の魔術で穴だらけの盗賊達が広場中に散乱している。
「……う、うわぁぁ……あ、あぁ……」
テオドールの口から、言葉にならない呻きが漏れる。さらに、俺が放った氷属性魔術によって、何十体もの盗賊たちが、絶叫の表情を浮かべたまま透き通るような氷の中に閉じ込められていた。
「ヨシテル、連れてきたのか?」
バルトが血の付いていない戦鎚を肩に担ぎ、豪快に歩み寄ってくる。
その後ろから、人質を落ち着かせていたカグヤたちが合流した。
「旦那様、お帰りなさい。人質のみんなは、あっちで落ち着いとうよ」
カグヤが指差す先には、焚き火を囲んで温かいスープを啜る村人たちの姿があった。
彼らは救世主を見るような目で俺たちを見ている。
テオドールは、奥の広間に鎮座する「主」の姿を見て、三度腰を抜かした。
そこには、氷の蔦に絡まり、恐怖の顔で固まったガーロムと二人の魔術師が、氷像となって月光を反射していた。
テオドールは、ギルド職員として持参していた「緊急連絡用魔道具」を震える手で起動した。
「……緊急連絡! 本部へ! 掃討完了……人質全員救出! 至急、運搬部隊と回収班を派遣してください! 私一人では……対応が出来ないです!!」
数時間後。
ギルド本部から派遣された、二十五人を超える大規模な回収部隊とギルド職員たちが、現場に到着した。
彼らは道中、俺が最初に始末した「二十人」の氷像を目の当たりにし、その時点で全員が言葉を失っていた。
「……何だ、この氷は。松明で炙っても、火属性魔法をぶつけても、全く溶けないぞ!?」
回収部隊の魔法師たちが総出で解呪や加熱を試みたが、氷は傷一つつかない。
そして彼らがアジト内部へ足を踏み入れた瞬間、その困惑は絶望的な驚愕へと変わった。
「馬鹿な……百三十七名の盗賊が、たった数人で全滅だと……?」
「この氷の彫像……魔力が濃すぎて、鑑定すら弾かれるぞ!」
リーダー格のギルド職員が、青い顔をして俺の元へやってきた。
「ヨシテル殿……これはいったい……。我々の魔法師が解除を試みましたが、干渉すら不可能です。どうすれば……」
俺は面倒くさそうに頭を掻き、冷淡に答えた。
「ああ、それか。俺の魔力で作った氷は、放っておけば数百年は溶けないぞ。もし邪魔なら、今ここで俺が消すが? 討伐証明を獲るのにも、凍ったままだと不便だろう」
「す、数百年……!? 物理法則を無視している……」
俺が指をパチンと鳴らした瞬間、広場を埋め尽くしていた巨大な氷の華や、賊を閉じ込めていた結晶が「サラサラとした光の粒子」となって霧散した。
職員たちは、その神懸かり的な魔力操作を目の当たりにし、再び言葉を失う。
氷が消えた後には、凍結によって生命活動を停止した盗賊たちの死体だけが残された。
「よし、氷は消した。あとは好きにしろ。カグヤ、バルト、アルシェラ、イシュタル。盗品と金貨の確認は終わったか?」
「バッチリやで、ヨシテル! 奥の倉庫に金貨袋が山積みや!」イシュタルがニヤリと笑う。
「家畜の毛皮や穀物も仕分けしとうけん。村の人たちに返してあげんといかんね」カグヤが優しく微笑む。
「……ヨシテル殿、貴方たちは……」テオドールが、ようやく立ち上がり、深く頭を下げた。
ギルド職員たちは、戦々恐々としながらガーロムの死体を回収し、押収された莫大な財宝をリスト化していく。
俺は、夜風にマントをなびかせながら、朝日が昇り始めた地平線を見つめた。
「終わったな。……帰るぞ。攫われた人を送ってその後、ギルドで報酬の精算だ」
俺の言葉に、最強の仲間たちがそれぞれの武器を収め、歩き出す。
この夜、ヴィンクルムの名は、エルドラの歴史に消えることのない衝撃と共に刻まれた。