ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
盗賊団討伐という衝撃的なデビューから数日。
パーティー【ヴィンクルム】は、エルドラの街を拠点に怒涛の勢いでBランク依頼を消化していた。
「次、行くぞ。北の岩場に現れたロックバードの討伐だ」
「了解や! うちの火属性で焼き鳥にしたるわ!」イシュタルが軽快に応える。
彼らにとってBランクの魔物は、もはや準備運動にもならない。
巨大な怪鳥ロックバードは、アルシェの放つ雷の一撃で空中で炭化し、森を荒らすオーガの集団はバルトの戦鎚で大地ごと粉砕された。
猛毒を持つはぐれコカトリスに至っては、ヨシテルが指先から放つ微量の氷気で、石化の視線を向ける暇もなく凍土の彫像へと変えられた。
わずか三日で五件のBランク依頼を「完璧な状態の素材」と共に完遂。
ギルド内では【ヴィンクルム】の名を聞かない日はなくなっていた。
四日目の昼下がり、ギルドでの報告を終えて大通りを歩いていた俺たちの前に、一台の派手な馬車が止まった。
中から現れたのは、成金趣味の派手な服を着た太った男と、その息子らしきニヤけた若者。そして十名ほどの私兵だ。
「おい、待て。貴様らが最近噂のBランク冒険者だな?」
下級貴族のボガード子爵が、傲慢な態度で俺たちの前に立ちふさがった。
その息子が、アルシェ、カグヤ、イシュタルの三人を見て、ねっとりとした下卑た視線を送る。
「父上、見てください。噂通り、極上の女たちだ。それに……あの装備。ありゃあかなりの業物ですよ。私のコレクションに加えたい」
ボガードが鼻を鳴らす。
「ふん、冒険者風情が持つには分不相応な装備だな。おい、その女三人と精霊を我が屋敷に差し出せ。あと、その武器と防具も没収だ。貴族への『献上品』としてな」
周囲の平民たちが、関わり合いを避けるように遠巻きに見守る。
アルシェの瞳が冷たく沈み、イシュタルの口角がピクリと上がった。
「……何だって?」
俺は、冷静沈着な仮面の下で、ブチリと何かが切れる音がしたのを感じた。
「耳が遠いのか? 貴族の命令だと言っているのだ。逆らえばこの街にはいられんぞ!」
ボガードの息子が、調子に乗ってカグヤの肩に手を伸ばそうとした。
「……触るな、豚共が」
俺は『縮地』ですらなく、ただの素早い動きで息子の手首を掴み、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。
「ぶべっ!?」
息子は錐揉み回転しながら馬車の壁に激突し、鼻血を噴き出して気絶した。
「な、貴様! 我が息子を……! お前たち、やれ!」
ボガードが叫び、私兵たちが剣を抜く。
「……死なない程度に、全員の骨を折る」
俺の言葉遣いが荒くなったのを合図に、バルトとイシュタルが動こうとした。
だが、それよりも早く、俺の放つ威圧が私兵たちを地面に縫い付けた。
俺はボガードの胸ぐらを掴み上げ、その顔面に容赦なく拳を三発、めり込ませた。
「ぐはっ……あがっ……」
歯が数本飛び、ボガードの顔は見る影もなく腫れ上がる。
「貴族様なら何をしても許されると思ってんのか? ああ?」
俺がさらに拳を振り上げた時、凛とした声が響いた。
「そこまでにしてもらおう。ボガード子爵の罪状は私が保証しよう」
私兵たちの間を割って現れたのは、洗練された服を着た、威厳と理性を兼ね備えた壮年の男性だった。
「公爵様!? なぜこのような場所に……」
ボガードのお付が震えながら膝をつく。
現れたのは、この街と周辺一帯を治める最高責任者、エルドラ公爵であった。
彼は清廉潔白で知られる、この国でも数少ない「まともな」貴族だ。
「ヨシテル殿とお見受けする。ギルドマスターのガゼルから話は聞いている。……ボガード、貴様のこれまでの横領、および冒険者への不当な圧搾。全て調べはついている。今の狼藉も、私の目が証拠だ」
エルドラ公爵は冷徹に言い放った。
「私兵は武装解除。ボガード親子は即刻捕縛し、牢へ入れろ。爵位は剥奪の上、領地は没収とする」
「そ、そんな……公爵様!」
ボガードは泣き喚きながら、兵士たちに引きずられていった。公爵は俺に向き直り、深く頭を下げた。
「すまなかった。私の監督不行き届きだ。……ヴィンクルムの諸君、君たちの噂は聞いている。エルドラの街に君たちのような冒険者がいることを誇りに思う」
「……助かりました。貴方みたいな貴族がいるなら、この街も捨てたもんじゃないですね」
俺が言葉を戻すと、公爵は穏やかに微笑み、その場を去っていった。
その夜。エルドラの街の地下牢。牢の隅で、ボガード親子は毒づいていた。
「くそ……公爵め、今に見ていろ……コネを使ってすぐにここを出て、あの冒険者どもを皆殺しにしてやる……」
「その機会は、永遠に来ないよ」
「……!? 誰だ!」
闇の中から、陽気な、しかし氷のように冷たい声が響いた。アレスが、影移動で牢の内側に音もなく立っていた。
「ヨシテルは『死なない程度』って言ったけど、俺の役割は、友の憂いを取り除くことだからね」
アレスの指先で、視認不可能なほど細い『絶影の糸』が微かに煌めいた。
「……あ……」
ボガード親子は、叫ぶ暇も、何が起きたか理解する暇もなかった。
一瞬の閃光。
彼らの心臓はアレスの糸に一寸の狂いもなく縛りあげられ動きを止める、糸は血を拭う必要すらなく影に消えた。
翌朝、牢内で親子が「心臓麻痺(に見せかけた暗殺)」で急死しているのが発見されたが、それを深く追求する者は誰もいなかった。
一方、宿屋で朝食を食べる俺たちの前で、リフィが楽しそうに羽を揺らす。
「マスター、今日はどの依頼を受けますか?」
「そうだな。そろそろAランクの魔物の討伐でもガゼルに掛け合ってみるか」
俺たちはいつも通り、最強の歩みを再開した。