ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
ボガード親子の不審死が街の噂になる間もなく、俺たち【ヴィンクルム】は冒険者ギルドの最上階、ギルドマスター執務室に呼び出されていた。
「ガゼルさん、話ってのは何ですか? 俺たちは早くAランクに上がりたいんですが……」
俺がソファーに深く腰掛けながら切り出すと、ガゼルは苦笑いを浮かべたような顔で一枚の依頼書を机に出した。
「……本来、Bランクに上がったばかりのパーティーに回すようなもんじゃねえ。だが、お前らの常軌を逸した実力と、先日の盗賊団の討伐やBランクの魔物討伐を見た公爵様からの強い推薦があってな。Aランク昇格への『最終試験』としてこの依頼を提示する」
ガゼルが指し示した依頼書には、禍々しい紋章と共にこう記されていた。
『黒竜の森・深部に出没する変異種、"漆黒の双頭蛇(デュアル・コブラ)"の討伐』。
「黒竜の森か。あそこはAランク冒険者でも生還率が五割を切るって言われてる難所ばいね」
カグヤが少しだけ目を細めて呟く。
「双頭の蛇かぁ、面白そうじゃねえか。俺の戦鎚でどっちの首から潰すか迷うぜ」
バルトが豪快に笑い、拳を鳴らす。
「漆黒の双頭蛇……毒と再生能力が厄介な魔物ね。でも、ヨシテルの氷なら再生する暇も与えないでしょう?」
アルシェが俺に視線を送る。
「ああ。問題ない。今すぐ行ってくる」
「待て待て! 準備ってもんがあるだろ!」
ガゼルの制止を無視し、俺たちはそのままギルドを後にした。
数日後。エルドラの街から遠く離れた、不気味な黒い霧が立ち込める『黒竜の森』の深部。
普通の冒険者なら足を踏み入れるだけで精神を病むと言われるこの場所で、イシュタルは鼻歌を歌いながら魔銃をぶっ放していた。
「はい、一丁上がり! 次のヘビさんはどこにおるん?」
イシュタルの放つ火属性の魔弾が、周囲の猛毒植物ごと空間を焼き払う。
「……見つけたぞ。目標だ」
アレスが声をかけ、前方の巨大な沼地を指差す。
そこには、全長三十メートルはあろうかという、二つの首を持つ漆黒の巨大な蛇がのたうっていた。
「シャァァァァッ!!」
猛毒の霧を吐き出しながら襲いかかる双頭蛇。
だが、俺たちの前ではただの標的に過ぎない。
「バルト、固定してくれ」
「おう! 『土魔法:ブラッキウム・テッラエ』!」
バルトが戦鎚を地面に叩きつけると、沼地から巨大な岩の腕が突き出し、双頭蛇の巨躯をガッチリと地面に縫い付けた。
「逃がさないわ。『雷魔法:ハスタ・フルグリス』!」
アルシェの放つ黒雷が一本の首を直撃し、再生能力を司る魔力回路を焼き切る。
「仕上げだ」
俺は一歩前に出ると、右手を静かにかざした。
「終わりだ『氷魔術:ストリア・モルティス』」
刹那、沼地全体が極低温の氷柱に飲み込まれた。
双頭蛇は苦悶の声を上げる暇もなく、内側から細胞ごと凍結し、美しい氷の彫像へと変わる。
数秒後、俺が指を鳴らすと、その巨躯は光の粒子となって砕け散り、後に残ったのは完璧な状態で保存されたAランク魔物の魔石だけだった。
「試験終了だ。帰るぞ」
半月足らずでギルドに戻り、あまりの速さに呆然とするガゼルに魔石を突きつけた直後、再び異例の事態が起きた。
「ヨシテル殿! 公爵様より、至急城へ登城せよとの指名依頼が入った! これはギルドを通した正式な『緊急指名依頼』だ!」
ガゼルも同行し、俺たちはエルドラ公爵の居城へと向かった。
重厚な謁見の間で待っていたのは、先日助けてくれたエルドラ公爵その人だった。
だが、その顔にはいつもの余裕はなく、悲痛な色が浮かんでいる。
「ヴィンクルムの諸君、急に呼び立ててすまない。……実は、最愛の妻が急に原因不明の病に倒れた。この数日、あらゆる治癒魔術も効かず、衰弱していくばかりなのだ」
公爵は絞り出すような声で続けた。
「古文書によれば、はるか北の霊峰に咲くという、数千年に一度しか現れない伝説の薬草……『星霜の涙(アストラ・ラクリマ)』があれば救える可能性があるという。どうか、これを持ってきてはくれないか」
「薬草の採取か。だが公爵様、一つ聞かせてください」
俺は公爵の目を真っ直ぐに見据えた。
「症状も詳しく聞かずに薬草だけ取ってきても、それが本当に効くかどうかは分からん。それに数千年に一度しかって今、咲いてるか分からんでしょ。それよりも俺のパーティーには最高の賢帝(カグヤ)がいる。まずは奥方の病状を直接確認させてもらう。……話はそれからだ」
カグヤが隣で静かに頷く。
「旦那様の言う通りばい。アタシが診れば、毒か呪いか病気か、一瞬で判るけん」
公爵は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに希望を見出したように目を見開いた。
「……おお、それほど心強いことはない。分かった、案内しよう」
俺たちは公爵に連れられ、城の奥深く、重苦しい空気が漂う夫人の寝室へと足を踏み入れた。