ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
公爵夫人の呪いを完璧に払い、黒竜の森での最終試験も難なく終えたその夜。
俺たち【ヴィンクルム】は、エルドラの街で馴染みとなったいつもの酒場「銀の星亭」にいた。
広めの円卓を囲むのは、俺、アルシェラ、バルト、カグヤ、イシュタル、アレスの六人。そして、彼らと魂を同期させた精霊たちも、それぞれの肩で楽しそうに果実水や魔力の雫を口にしている。
「ぷはぁー! やっぱり旦那様と一緒に飲む酒は格別ばい!」
カグヤが少し赤くなった顔で微笑み、俺のグラスにワインを注ぐ。
「ホンマやね。公爵さんもえらい感謝してたし、Aランク昇格も確定や。これからはもっと派手な仕事が増えるで!」
イシュタルが豪快にエールを煽り、陽気に笑う。
談笑の輪が広がる中、バルトがふと、ジョッキを置いて俺の顔を覗き込んできた。
「……ヨシテル。さっきから上の空だな。何か考え事か?」
その言葉に、アルシェラやアレスも視線を俺に向けた。
俺は手の中のワイングラスを軽く回し、静かに口を開いた。
「ああ……。少し、皆に話しておきたいことがあってな」
俺はグラスを置き、全員の顔を見回した。
「俺が皆をこの世界に召喚した理由……。もちろん、この広大な世界を共に巡り、楽しく過ごしたいという思いはある。だが、なぜ俺がここまでこの『エルドラ』という場所に執着し、留まっているのか。その理由を話していなかったな」
酒場の喧騒が、俺たちの周囲だけ切り離されたように静まる。
「このエルドラの街の地下には、1万年前に滅んだとされる古代文明『アトランティア大陸』の遺構が眠っている。当時の呼び名は『魔導都市エルドラ』。現在、俺たちが使っている魔法の全ての基礎を確立した、失われた魔法の起源——『源素魔法(げんそまほう)』の謎が、そこにあるんだ」
俺の言葉に、賢帝であるカグヤが目を輝かせ、雷帝のアルシェラが息を呑む。
魔法を極めんとする彼女たちにとって、「起源」という言葉は抗いがたい魅力を持っていた。
「俺は、その謎を解き明かしたい。魔法がどこから来、どのようにして今の形になったのか。そして、一万年前に何が起きてアトランティアは沈んだのか……。その真実を知りたいんだ」
「……それで、AランクやSランクに急いでいたのか。公的な探索権限と、深部へ潜るための実績が必要だったんだな」
アレスが納得したように頷く。バルトも腕を組み、興味深げに身を乗り出した。
「面白そうじゃねえか。で、その入り口の心当たりはあるのか?」
「ああ。実は、皆を召喚したあの場所の近くにある古井戸が、入り口の一つだったんだ。だが……召喚する前の最初の依頼で、俺が加減を誤ってその周囲を完全に潰しちまった」
俺が苦笑いしながら告げると、イシュタルが吹き出した。
「あはは! ヨシテルらしいわ! 派手にやりすぎたんやね」
「だが、もう一つ入り口があることは分かっている。それが、先日の試験で行った『黒竜の森』のさらに奥深く、誰も足を踏み入れたことのない聖域だ。だから俺は、ランクを上げて正当な理由を持ってあの森を徹底的に探索したかったんだ」
俺は一拍置き、皆に尋ねた。
「この謎を解き明かしてから、改めて世界を回らないか? 正直、危険はこれまでの比じゃない。一万年前の防衛機構や、未知の魔導生物が待ち受けているはずだ。だが……」
「聞くまでもないわ」
アルシェラが凛とした声で遮り、俺の手の上に自分の手を重ねた。
「あなたの目的は、私たちの目的よ。魔導都市の謎……ワクワクするじゃない。雷帝の名にかけて、道は私が切り開くわ」
「アタシも賛成ばい! 源素魔法なんて、魔法使いの端くれとして見逃せんけんね。旦那様の知的好奇心、アタシが全力で満たしてあげるばい!」
カグヤが尻尾を振らんばかりの勢いで身を乗り出す。
「おうよ。親友のアレスも行く気満々だぜ。どんな古代のゴーレムが出てきても、俺の盾と鎚で粉砕してやる!」
バルトがアレスの肩を叩き、アレスも「そうだな」と笑いながらも静かに闘志を燃やしている。
「決まりやな! ウチの火竜で、地下の暗闇を全部照らしたるわ!」
イシュタルが最後の一杯を飲み干し、力強く宣言した。
リフィたち精霊も、主人たちの熱気に当てられたのか、空中で小さな光の輪を描いて舞っている。
「……ありがとう、皆。頼りにしてる」
俺はグラスを再び掲げた。
「目標は、黒竜の森の深淵。一万年の封印を解き、アトランティアの叡智をこの手に掴む。……【ヴィンクルム】の新たな旅の始まりだ!」
「「「「「応!!」」」」」
深夜の酒場に、新たな伝説の幕開けを告げる乾杯の音が響き渡った。