ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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45話め


第四十五話:静寂を切り裂く氷奏曲

 

 

黒竜の森。その名は伊達ではなかった。

俺たち【ヴィンクルム】がこの魔境に足を踏み入れてから、既に数日が経過している。

空を覆い尽くすほどの巨樹と、絶え間なく溢れ出す濃密な魔素。

道なき道を進む俺たちの前には、Aランク冒険者ですら死を覚悟するような魔物が次々と姿を現すが、その全ては俺たちの新調された武具とスキルの糧となっていた。

 

「……三日目終了、か。今日もよぉ狩ったなぁ」

 

イシュタルが双銃『ストロペトゥム・ノクティス』のシリンダーを軽く回しながら、ふぅと息を吐く。

 

アイテムボックスの自動収集機能により、倒した魔物の魔石や素材は既に俺たちのインベントリへと吸い込まれていた。

 

「ヨシテル、今日はこの辺りで休まない? 少し開けた場所を見つけたわ」

アルシェラが指差す先には、巨樹の隙間にぽっかりと空いた、夜空が覗く空間があった。

 

俺たちはいつものように、外見は普通のテントだが中身は超豪華な『ミスティック・パレス』を設営し、その周囲にSランクの魔物ですら指一本触れられない絶対防御のランタン型結界を吊るした。

 

結界の内側。

焚き火の爆ぜる音だけが響く静かな夜。

俺たちはこの世界に来てから初めて、何も考えずに夜空を見上げていた。

 

「綺麗やなぁ……。元の世界でもこんな星空、見たことあらへんわ」

イシュタルが酒の入った木杯を掲げ、うっとりと空を眺める。

 

「本当たい。旦那様とこうして星ば眺められるなんて、幸せすぎて怖かくらいばい」

カグヤが俺の隣に座り、そっと肩を寄せてくる。

 

バルトとアレスも、互いの武勇を称え合うように静かに杯を交わしていた。

 

アルシェラが俺の横に座り、穏やかな表情で言った。

「ヨシテル。たまにはこういう『まったり』した時間も必要ね。毎日戦いばかりじゃ、心が摩耗してしまうわ」

 

「……そうだな。たまにはいい」

 

俺はワインを口にし、心地よい夜風に目を細めた。

一万年前の謎、源素魔法、アトランティア……やるべきことは山積みだが、今この瞬間だけは、仲間たちとの平穏を噛み締めていた。

だが、その静寂は不快な「鳴き声」によって無惨に引き裂かれた。

 

「ギィィィィィヤァァァァっ!!」

 

「グルルルっ、ギャウっ!!」

 

結界のすぐ外。

闇の中から、ラプトル系の魔物――『シャドウ・ラプトル』が数十匹現れた。

彼らは結界という「見えない壁」に苛立ち、耳を刺すような高い鳴き声を上げながら、爪で壁を引っ掻き始めた。

 

「……煩いな」

 

俺は杯を置いた。

せっかくの酒、せっかくの星空。

その全てを台無しにする不協和音に、俺の冷静な精神が僅かに、だが確実に「キレた」。

 

「せっかく皆でゆっくりしてたのに……空気を読めよ、ゴミ共が」

 

俺の言葉遣いが荒くなったのを察し、バルトたちが「あ、これアカンやつだ」という顔で一歩引く。

 

俺は立ち上がり、右手を結界の外へと向けた。

 

「黙れ。永遠にな」

 

「『極大氷魔術:ネニア・グラキアリス・エテルニタティス(永遠なる氷の葬送歌)』」

 

刹那、結界の外側を中心に、時空すら凍てつくような絶対零度の波動が放射状に広がった。

 

シャドウ・ラプトルたちは、逃げる暇も、絶叫を上げる暇もなかった。

その場にいた全ての個体が、躍動感を持ったポーズのまま透き通るような青い氷に閉じ込められ、さらには周囲の樹木ごと、半径一キロメートルが瞬時に「死の氷原」へと変貌した。

 

「……よし、寝るか」

 

俺はそれだけ言うと、不機嫌なままテントの中へ入っていった。

 

テント内に残されたメンバーと精霊たちは、しばし呆然としていた。

 

「……なぁアレス。ヨシテルのあれ、明らかに昨日より威力上がってねえか?」

 

「……ヨシテルを怒らせると、季節が変わるんだな。勉強になったよ」

 

バルトとアレスが顔を見合わせる。

 

「まぁ、ヨシテルらしいっちゃらしいわ。おやすみ、みんな」

アルシェラが苦笑いしながら自分の個室へ向かい、他のみんなも精霊たちを連れて解散した。

 

翌朝。

目が覚めた俺は、いつものようにテントの外へ一歩踏み出した。

 

「……さむっ!!」

 

思わず口から出たのは、情けないほど短い悲鳴だった。

目の前に広がっていたのは、昨夜俺が作り出した、極寒の氷の世界。

空気中の水分まで凍りつき、ダイヤモンドダストがキラキラと舞っているが、その気温は明らかに生物の生存圏を超えていた。

 

「あははは! ヨシテル、自分でやっといてそれはないわ!」

後ろから出てきたイシュタルが腹を抱えて笑い出す。

 

「旦那様、顔が真っ青ばい! さっさと暖を取らんとね」

カグヤがクスクス笑いながら光魔法で俺の体を温めてくれる。

 

アルシェラたちもテントから顔を出し、俺の自業自得な姿を見て楽しそうに笑っていた。

 

「……ほら。さっさと飯食って出発しよう。自動収集、完了したか?」

 

俺は赤くなった鼻を啜りながら、アイテムボックスのログを確認する。

昨夜のラプトルたちの魔石は既に収納済みだ。

 

「よし、テントと結界をしまうぞ。黒竜の森の中間地点……まだまだ先は長そうだが、この勢いで突き進む」

 

「「「「「「応!!」」」」」」

 

俺たちは朝食を済ませ、自ら作り出した氷の森を砕きながら、さらなる深淵へと歩みを進めた。

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