ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
黒竜の森に足を踏み入れてから、はや一週間が経過しようとしていた。
見上げる空は、折り重なる巨樹の葉によって塗り潰され、地表は昼なのに暗く静寂が、生物を拒絶するような濃密な魔素を漂わせている。
「……また出たな。懲りない連中だ」
俺が呟くと同時に、木々の隙間からAランク相当の魔物である『ヴェノム・ストーカー』の群れが姿を現した。
巨大な百足に人間の顔が張り付いたような、吐き気を催す外見の変異種だ。
「ヨシテル、ここは私に任せて。槍の感触をもう少し確かめたいの」
アルシェラが『フルメン・スピクルム(雷竜の槍)』を構え、一歩前に出る。
彼女の全身から黄金の雷光が溢れ出し、周囲の木々を白く焼き焦がした。
「いけ、『ライトニング・ジャベリン』!」
光速に近い速さで放たれた槍の一撃。
それはただの刺突ではなく、触れた瞬間に光属性の浄化と雷属性の爆縮を引き起こす。
先頭にいた十数体の魔物は、悲鳴を上げる暇もなく光の塵へと還った。
「あはは! アルシェラ、容赦ないなぁ。ウチも負けてられへんわ!」
イシュタルが『双銃:ストロペトゥム・ノクティス』を抜き放ち、残りの群れを闇火の弾丸で蹂躙していく。
倒した魔物の魔石や素材が、俺たちのアイテムボックスへ次々と吸い込まれていく「チャリン」という無機質なログだけが、戦場に響いていた。
それからさらに三日間。
俺たちは森の奥深くへと歩みを進めた。
道中、湿地帯で襲いくる巨大な毒蛇の変異種や、空から音もなく急降下してくる死の怪鳥ロックバードの群れを、バルトの斧が砕き、カグヤの星弓が射抜き、アレスの鎌が刈り取った。
「旦那様、さすがにこの辺りの魔物は、これまでの連中とは格が違うばい」
カグヤが少しだけ息を整えながら、『生命の光の智慧衣』の力を借りて、パーティー全員のスタミナを常に最大値まで回復させていく。
夜営の際、俺はいつものように『ミスティック・パレス』を設営し、絶対防御の結界を張った。豪華な風呂に浸かり、カグヤとイシュタルやパーティーの皆が順番に腕を振るった料理を囲む時だけが、ここが魔境であることを忘れさせてくれる。
「……なぁバルト、アレス。この数日で、何か感じないか?」
食事を終え、ワインを傾けながら俺は二人に問いかけた。
「ああ、魔素の質が変わってきたな。ただ濃いんじゃねえ……。何て言うか、人工的な冷たさを感じるぜ」
バルトが重厚な声で答え、アレスが影の中から頷く。
「……俺の索敵にもノイズが混じり始めた。生物じゃない『何か』が、この先に潜んでいる気配がする」
クオーレの解析も、彼らの直感を裏付けていた。
《警告:前方の魔素構造に幾何学的な規則性を検知。一万年前のアトランティア製『自動防衛機序』の残滓である可能性が高い。中間地点が近いと推測されます》
行軍四日目の正午。
鬱蒼としていた巨樹の群れが、突如として途切れた。
目の前に広がっていたのは、森の中央にぽっかりと空いた、直径三キロメートルはあろうかという円形の「空白地帯」だった。
そこには一本の草も生えておらず、地面は磨き上げられた黒い石材で敷き詰められている。
「……ここが、中間地点か」
俺は立ち止まり、その中心部を見据えた。
そこには、周囲の不気味な森とは対照的な、白銀の金属で造られた巨大な六角柱の構造物が鎮座していた。
周囲の空気はキーンと冷え切っており、時折バチバチと青白い放電が走っている。
「見て、ヨシテル。あの構造物……昨日まで倒してきた魔物たちの素材と同じような魔力を放っているわ」
アルシェラが槍を握り直し、警戒を強める。
「此処に近づく魔物が変異しているのか。此処に近づくにつれて変異種が多かったのに関係があるのか」
俺が呟くと、イシュタルは構造物を見据えて言った。
「やっとお目見えや。アトランティアにある魔導都市エルドラへ続く入り口……の、中継地点ってところなんかな?」
俺はギフト『全知全能』とクオーレをフル稼働させ、その構造物をスキャンした。
《解析完了:魔導都市エルドラ第1ゲート・コントロール・タワー。内部に中枢制御ゴーレムを確認。このエリアを突破しない限り、深部への道は開かれません》
「皆、ここからが本当の『Sランク』への道だ」
俺は愛刀の鯉口を切り、一歩、黒い石畳へと踏み出した。
その瞬間、白銀のタワーが激しく発光し、地面から数百体の「金属の兵士」がせり上がってきた。
「景気付けはもう済ませた。ここからは、俺たちの『全開』を見せてやろう。……一匹残らず、叩き伏せるぞ!」
「「「「「応!!」」」」」
【ヴィンクルム】の六人と精霊たち。
その最強の絆が、一万年の封印を護る守護者たちと、今まさに激突しようとしていた。