ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
古代エルドラ・ガーディアンとの死闘——いや、一方的な制圧劇を終えた俺たち【ヴィンクルム】は、静寂を取り戻した黒い石畳の上に立っていた。
白銀のタワーは沈黙し、周囲には機能を停止した金属兵士の残骸が転がっている。
俺はガーディアンの中枢から剥き出した、淡い青光を放つ『古代の魔導核(アトランティア・コア)』をアイテムボックスに放り込んだ。
これが一万年前の技術の証であり、俺たちがSランクへと昇格するための決定的な証拠品となる。
「さて、目的のブツも手に入った。一旦街へ戻って体制を立て直すぞ。一週間以上もこの森にいたからな、皆も流石にまともな宿の飯が恋しいだろ?」
「賛成や! ウチ、もうオークの肉は飽き飽きやわ。街の酒場でキンキンに冷えたエールが飲みたいわぁ」
イシュタルが双銃を回しながら同意し、アルシェラたちも安堵の表情を見せる。
だが、帰還の途につこうとしたその時、アレスが鋭く耳を動かし、視線を森のさらに深い藪へと向けた。
「……待ってくれ、ヨシテル。索敵に強い反応がある。かなり高位の魔物同士がやり合っているな。それと……この気配、片方はひどく弱っている」
アレスの言葉に、俺たちは即座に戦闘態勢を整えた。
アレスの案内で木々を抜け、崖下の広場を見下ろす位置に辿り着いた俺たちの目に飛び込んできたのは、凄惨な光景だった。
広場の中央、そこには神話の生物と称される『フェンリル』がいた。それも二匹。
一匹は月光を弾くような美しい銀色の毛並みを持つ雄。
もう一匹は太陽の輝きを宿したような金色の毛並みを持つ雌。
彼らが対峙していたのは、黒竜の森でも最上位の捕食者である『ベノム・ヴァイパー』——全長五十メートルを超える猛毒の大蛇だった。
「フェンリル……! 滅多に姿を見せないはずの神獣ばい……」
カグヤが息を呑む。
銀と金のフェンリルは、その背後に二匹の小さな子フェンリル達を庇っていた。
子フェンリル達はまだ生まれて間もないのか、親の足元で震えながら、弱々しく鳴いている。
二匹 のフェンリルは全身に深い傷を負い、大蛇の毒によって足元がおぼつかない状態だったが、それでも我が子を守るために牙を剥き、必死に咆哮を上げていた。
「グルアァァッ!!」
銀色のフェンリルが最後の一撃を加えようと跳躍したが、力尽き、大蛇の尾によって叩き伏せられる。
金色のフェンリルも毒が回り、視界が霞んでいるのか、大蛇の鎌首が振り下ろされるのを防げそうにない。
「……助けるぞ。バルト、アレス!」
「おう!」
俺の合図より早く、アレスが影を滑り、バルトが崖上から飛び降りた。
「『戦斧術:カタストロフィ・バスター』!」
バルトの巨大な戦斧が大蛇の頭上を直撃し、その強固な鱗ごと脳漿をぶちまける。
「……遅いよ。『鎌術:絶影斬』」
アレスの風鎌が大蛇の胴体を瞬時に三枚に下ろした。
Aランク上位の魔物であるはずのベノム・ヴァイパーは、俺たちの仲間にとってはただの雑魚に過ぎない。
戦闘は一瞬で終わった。
だが、地に伏した二匹のフェンリルの状態は絶望的だった。
瞳から光が消え、心臓の鼓動は今にも止まろうとしている。
「クゥーン……、クゥゥ……ッ!」
二匹の小さな子フェンリル達が、動かなくなった両親の顔を必死に舐め、起きて欲しいと願うように悲痛な声を上げている。その姿は、見ていられないほどに切実だった。
「……死なせはしない。カグヤ、準備しろ」
俺は二匹の間に歩み寄り、両手をそれぞれの額にかざした。
通常、この世界の魔法に「死者の完全蘇生」は存在しない。だが、俺のギフトは『全知全能』、そしてアルティメットスキルは『魔法創造』だ。
「失われた生命の理を編み直す。『究極蘇生:エテルナ・リヴァイヴァル』」
俺の手の平から、乳白色の柔らかな光が溢れ出し、フェンリルたちの体を包み込んだ。
霧散しかけていた魂が肉体へと引き戻され、引き裂かれた細胞が超高速で再結合していく。
停止しかけていた心臓が、再び力強く「ドクン」と脈動を始めた。
「な……旦那様!? 今の、蘇生魔術ばい!? 死者を呼び戻すなんて、神様の領域たい……!」
カグヤが目を見開いて驚愕している。
「カグヤ、驚いている暇はない。魂は戻したが、失われた血と毒の侵食を完全に取り除くのはお前の仕事だ」
「わ、分かったばい! 任せとき! 『光魔法:ソリス・プルガティオ』!」
カグヤが即座に杖を掲げ、太陽の浄化を注ぎ込む。
フェンリルたちの体内からドス黒い毒液が汗と共に排出され、みるみるうちに毛並みに艶が戻っていった。
数分の後。
銀色と金色のフェンリルは、ゆっくりと、しかし確かな足取りでその目を開けた。
「ガウ……?」
自分たちが生きていることが信じられないのか、二匹は困惑した様子で顔を見合わせる。
そして、目の前で微笑む俺たちと、自分たちの無事を喜んで飛び跳ねる子フェンリル達を見て、全てを理解したようだった。
銀色のフェンリルが俺の前に膝をつき、恭しく頭を下げる。金色のフェンリルもそれに続いた。
「どうやら、私たちを主人と認めたみたいね。テイム……というよりは、命の恩人として従いたいって言ってるわ」
アルシェラが、精霊を通じて彼らの意志を読み取り、優しく微笑んだ。
「へぇ、フェンリルの親子を連れて歩く冒険者なんて、前代見聞やなぁ。ええやん、賑やかで!」
イシュタルが子フェンリルの一匹を抱き上げようとするが、子フェンリル達は照れているのか俺の足元に隠れてしまった。
「よし、なら家族として連れて行くか。だが……まぁ、一応テイムはかけておくのと流石にこのままじゃ呼びにくいな。名前を付けてやらないと」
俺がそう言うと、メンバーたちは一斉に考え込み始めた。
「銀色はかっこいいのがいいわね。『シルバ』とか、『アルジェント』はどうかしら?」
アルシェラが提案する。
「金色の雌は、『ソフィア』なんて上品でよかと思うばってん……」
カグヤが首を傾げる。
「俺は強そうなのがいいぜ! 『ダイナ』とか『ギガ』とかよ!」
バルトのセンスに、アレスが呆れた顔をする。
「……センスがないな。星にちなんで『シリウス』と『ベガ』はどうだ?」
「うーん、どれもピンとこおへんなぁ。もっと、パッとした名前ないん?」
イシュタルまで加わり、最強のパーティー【ヴィンクルム】は、かつてないほどの難題「命名」に頭を抱えることになった。
「クゥーン?」
当の子フェンリル達は、名前で揉める俺たちを不思議そうに見上げている。
黒竜の森で、俺たちは思いがけない、しかし愛すべき「家族」を手に入れたのだった。