ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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53話め


第五十三話:深淵への助走と、束の間の至福

 

 

史上最短、かつ最年少でのSランク昇格という激震を大陸全土に走らせた【ヴィンクルム】。

エルドラ公爵からの「遺跡探索全権委任」という、事実上の王命にも等しい特権を手にした俺たちは、黒竜の森のさらに奥、一万年の眠りにつく「魔導都市エルドラ」の深淵へ挑むための最終準備期間に入っていた。

 

「クオーレ、源素魔法耐性パッチの最適化はどうだ?」

 

《完了しています、マスター。一万年前の術式体系である『源素魔法』は、現在の魔法よりも情報密度が高く、物理干渉力が極めて強力です。これに対応すべく、全員のジェネシス級防具に『概念相殺(コンセプト・キャンセル)』の回路を組み込みます》

 

俺は出発までの七日間を、仲間の装備の強化と、新たに家族となったフェンリル親子の武装に費やすことに決めた。

 

まず着手したのは、カエルムたち四匹の装備だ。

彼らは既にSSランク相当のステータスを有しているが、魔導都市の防衛機構を相手にするには、肉体的な攻撃だけでは不十分だ。

俺はアルティメットスキル『武器防具作成』を発動し、神獣の動きを一切阻害しない超軽量の魔導装甲を練り上げた。

 

「カエルム、ルーナ。そしてテラ、アウラ。お前たちにも『牙』以外の力を授ける」

 

俺は四匹の額に手を当て、それぞれの資質に合わせた属性回路を直結させた。

 

カエルム(父): 氷と風。絶対零度の吐息と真空の刃を操る、天空の支配者へ。

ルーナ(母): 光と火。太陽の浄化と業火の盾を纏う、月の聖獣へ。

テラ(兄): 土と闇。重力を操作し、影から敵を穿つ、大地の番人へ。

アウラ(妹): 雷と水。雷鳴の速さと万物を癒やす水流を持つ、蒼き稲妻へ。

 

「ガウッ!」

 

属性を付与された瞬間、四匹の瞳にそれぞれの色が宿る。

カエルムが軽く吠えると、周囲の空気が凍てつき、鋭い旋風が巻き起こった。「よし、これで連携の幅が広がるな」

 

準備期間中、俺が工房に籠もっている間、仲間たちも思い思いの時間を過ごしていた。

 

アルシェラは、公爵邸の図書室に通い詰めていた。ハーフエルフとしての高い知性で、古代アトランティアに関する僅かな文献を読み漁り、地下遺跡の構造や源素魔法の基礎理論を予習していた。

 

「ヨシテルが前線で暴れるなら、私は知識で支えなきゃね」

 

と笑う彼女の横には、雷の精霊ライラが楽しそうに古文書を眺めていた。

バルトロスとアレスは、街の訓練場を公爵から貸し切ってもらい、カエルムたちとの実戦訓練に励んでいた。

 

「おいカエルム! 右から来るぜ!」

 

「テラ、お前の重力操作に合わせて俺が影を刈る。行くぞ!」

 

豪快に斧を振るう龍人族と、風の鎌を閃かせる白狼族。親友同士の二人は、神獣たちともすっかり打ち解け、新たな連携技を編み出していた。

カグヤとイシュタルは、出発に備えての「買い出し」と称して、街中の市場を席巻していた。

 

「旦那様のために、最高級の調味料と食材ば買い占めるばい!」

 

「ええなぁカグヤ。ウチはこの酒蔵の酒、全部持って行くで!」

 

二人は魔法の冷蔵庫『アエテルナ・パントリー』の容量を試すかのように、エルドラ中の美味をアイテムボックスに放り込んでいった。

 

そして、出発の前夜。

俺たちの拠点である『ミスティック・パレス・グランド』の庭園(広域結界内)で、壮大な壮行会が開かれた。

広大な庭に設置された特大のグリルでは、イシュタルが豪快に火属性魔法で最高級の霜降り肉を焼き上げ、カグヤが賑やかにサラダやスープを配っている。

 

「さあさあ! 旦那様、まずはいっぱい飲んでください!」

 

カグヤが注いでくれたキンキンに冷えたエールを一口飲む。三週間、魔境で過ごした後の平穏は体に染みた。

 

「ヨシテル、はい。あーん」

 

アルシェラが、絶妙な焼き加減の肉を差し出してくる。優しい彼女の笑顔を見ていると、明日から再び死地へ向かう緊張感が和らいでいく。

 

「がははは! 見ろよアレス、テラの奴、骨付き肉に目がねえな!」

 

「カエルムもだ。……おいバルト、飲みすぎるなよ。明日は移動だ」

 

バルトとアレスも、フェンリル親子と肉を奪い合いながら、楽しそうに笑い合っている。

精霊たちもまた、主人たちの肩や頭の上で、魔力の滴を分け合いながら舞っていた。

リフィが女王らしく全体を見渡し、新入りのアクアとリザーナもこの賑やかな家族にすっかり馴染んでいる。

俺は、焚き火の炎を見つめながら、改めて隣にいる仲間たちを見た。

人族、ハーフエルフ、龍人族、天狐族、白狼族。そして精霊と神獣。

種族も出身もバラバラだが、俺の元に集まったこの者たちは、今や世界で最も固い絆——【ヴィンクルム】の名に相応しい存在となっていた。

 

「……皆、聞いてくれ」

 

俺が声をかけると、賑やかだった場が静まり、全員の視線が俺に集まった。

 

「明日、俺たちは黒竜の森の深部……一万年の封印が解かれる場所へ行く。そこには、俺たちの想像を超える脅威があるかもしれない。だが……」

 

俺はグラスを高く掲げた。

 

「このメンバーなら、どんな困難も敵ではない。アトランティアの謎を解き明かし、俺たちの伝説をさらに刻みに行くぞ。……乾杯!!」

 

「「「「「乾杯!!」」」」」

 

「ガウッ!!」

 

エルドラの夜空に、最強のパーティーの咆哮が響き渡った。

一週間の準備を終え、俺たちの心技体は完璧に仕上がった。

目指すは、魔法の起源が眠る魔導都市エルドラの最深部。

人類未踏の領域が、俺たちの到来を待っていた。

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