ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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54話め


第五十四話:再始動の咆哮と、氷神の悪ふざけ

 

 

エルドラの街に朝日が差し込み、石畳が黄金色に輝く頃、俺たち【ヴィンクルム】は旅立ちの刻を迎えていた。

首から下げた白金(プラチナ)の冒険者プレートが、歩くたびに微かな金属音を立てる。

それはこの世界における最高位の証であり、同時に一万年の謎を解き明かすための通行証でもあった。

まずは馬車を走らせ、エルドラ公爵邸へと向かう。

門前では公爵本人が、正装に身を包んで俺たちを待っていた。

 

「ヨシテル殿、および【ヴィンクルム】の諸君。ついにこの日が来たな」

 

公爵は感慨深げに俺の手を握り、真剣な眼差しを向けた。

 

「君たちには『全権委任状』を託した。地下遺跡で何を見つけようと、それは君たちのものだ。だが……何よりも、全員無事で戻ってきてくれ。マリアも、君たちの帰りを待っている」

 

「わかりました。最高の結果を持ち帰ります。ご夫人に伝えてください、次に戻る時は、この世界の魔法の常識が書き換わっているかもしれませんって」

 

俺が不敵に笑うと、公爵は頼もしげに頷いた。

 

その後、俺たちは冒険者ギルドへと立ち寄った。

ギルドの前には既に噂を聞きつけた冒険者たちが群がっていたが、俺たちの背後に控えるカエルム、ルーナ、テラ、アウラの四匹のフェンリル親子を一目見るなり、モーゼの十戒のごとく道が開いた。

 

ギルドマスターのガゼルは、受付で頭を抱えていた。

 

「おはようございます、ガゼルさん。出発の挨拶に来ましたよ」

 

「……ああ、ヨシテルか。頼むからもう、帰ってくる時に『島を一つ拾ってきた』とか『邪神をペットにした』とか言い出すんじゃねえぞ。俺の毛根はもう限界なんだ」

 

「善処しますよ」

 

俺は短く答え、驚きで固まっているリーファに軽く手を振ってギルドを後にした。

 

エルドラの巨大な城門を抜け、俺たちは再び北を目指した。

急ぐ旅ではない。

今回、俺たちはあえて『縮地』の連発を使わず、数日かけて徒歩で進むことを選んだ。

地下遺跡という未知の環境に潜る前に、新調した装備の馴染み具合と、フェンリル親子との連携を完全に身体へ叩き込むためだ。

 

行軍二日目の昼下がり。

街道を外れ、森の境界線を歩いていると、アルシェが俺の横に並んだ。

 

「ねえヨシテル。こうして歩いていると、Aランク試験の時が随分昔のことみたいに感じるわね」

 

「そうだな。あの時はまだ、街の人間から疑いの目で見られていたし、フェンリルたちもいなかった」

 

「ガウッ!」

 

俺の言葉に応えるように、銀色の巨躯を持つカエルムが俺の手に鼻先を寄せてくる。

氷属性と風属性を付与された彼の毛並みは、以前よりもさらに冷涼で澄んだ魔力を放っていた。

 

「ウチも、この三週間で随分変わった気がするわ。この双銃『ストロペトゥム・ノクティス』、闇属性を混ぜて撃つと、魔物の再生能力を阻害できるんや。実験台が楽しみやなぁ」

イシュタルが上機嫌で双銃を回す。

 

三日目の夜営では、俺が作った『永久魔法冷蔵庫』から取り出した冷えたワインと、最高級の鴨肉を焚き火で炙った。

カグヤが星の弓を傍らに置き、賑やかに笑う。

 

「旦那様、見んしゃい! テラ君がグラディちゃんと一緒に、土魔法で小さな城ば作っとるよ。可愛かぁ」

 

テラと土の精霊グラディが、魔力で精巧な砂の城を作って遊んでいる。

その横ではアレスとバルトが、明日からの戦いについて真剣に、しかしどこか楽しげに打ち合わせていた。

 

出発から四日目。

ついに俺たちの視界に、あの禍々しい漆黒の樹海――黒竜の森の入り口が姿を現した。

かつては恐怖の対象だったその入り口も、今の俺たちにとっては「懐かしき場所」に過ぎない。

だが、森側も俺たちを歓迎しているわけではないらしい。

境界線を越えようとした瞬間、地響きと共に巨大な影が次々と飛び出してきた。

 

「グルゥゥァァァァッ!!」

 

現れたのは、森の門番とも言うべき『ブラッド・オーガ』の群れだ。

 

その数、およそ五十。

 

通常のAランクパーティーなら即座に撤退を判断する規模の暴走(スタンピード)一歩手前の状況だった。

 

「おっ、いい練習台が現れたな。バルト、アレス、行くか?」

 

俺の問いに、二人が武器を構えようとした――が。

 

「いや、待て。ここは俺がやる」

 

俺は一歩前に出た。なんだか、無性に「はっちゃけたい」気分だった。

Sランクになり、最高位の武具を揃え、最強の家族を得た全能感が、俺の冷静な理性を少しだけ脇に追いやった。

 

俺は鞘から『姫鶴一文字』と『にっかり青江』を抜かず、ただ右手を空へと掲げた。

 

「皆、見てろよ。これが『Sランク』の開幕の挨拶だ!」

 

俺は体内の魔力を、かつてないほど「派手」に編み上げた。

「『極大複合氷魔術:クリスタロス・アヴァランシュ・フェスティバル(氷晶の雪崩祭)』!!」

 

刹那、黒竜の森の入り口一帯の空気が、パキパキと音を立てて結晶化した。

空から降り注いだのは、ただの氷ではない。

巨大な「薔薇の形」をした氷の塊が、数千、数万とオーガたちの頭上に降り注いだのだ。

 

「ギ、ギャ……!?」

 

オーガたちは、自分たちが何に襲われているのかも理解できぬまま、美しく輝く氷の花に押し潰され、凍結し、文字通り「氷の彫刻」の並ぶ庭園へと変えられた。

しかも、俺は余計なサービスとして、氷の薔薇が着弾するたびに色とりどりの光を放つ演出まで付け加えた。

 

森の入り口は、一瞬にして幻想的な――しかし、死に満ちた――クリスタルガーデンへと変貌した。

 

「……ふぅ。決まったな」

 

俺がポーズを決めてドヤ顔で振り返ると、そこには凍りついたオーガたち以上に「凍りついた」表情の仲間たちがいた。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

「……ねえ、ヨシテル」アルシェが、引きつった笑みで口を開く。

 

「何だ?」

 

「……そういうの、貴方のキャラじゃないわよ。もっとこう……冷静に、一瞬で、無機質に終わらせるのが貴方でしょ?」

 

「旦那様……今の魔法、名前長すぎばい。しかもバラの花って……ちょっと恥ずかしか……」

カグヤが頬を押さえて俯く。

 

「あはは! ヨシテル、あんた酔うてるん? それとも、カッコつけすぎて滑ったん?」

 

イシュタルに至っては、お腹を抱えて爆笑している。

 

バルトとアレスも、「ヨシテルもたまにはああいうことがしたいんだな」「……思春期か?」とヒソヒソ話をしている。

 

 

「……。……さっさと行くぞ。アイテムボックス、自動回収完了したか」

俺は顔が熱くなるのを感じながら、足早に森の中へと踏み込んだ。

 

背後からは「待ってよ、氷の王子様!」というイシュタルのからかう声と、仲間たちの笑い声が絶え間なく続いていた。

 

黒竜の森、中間地点まであと数日。

 

俺たちの旅は、かつてないほど賑やかに、そして圧倒的な力と共に再開された。

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