ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
黒竜の森。
その入り口に咲かせた巨大な「氷の薔薇の庭園」を後にし、俺たち、ヴィンクルムは神獣カエルムたちの背に揺られながら、さらなる深部を目指していた。
以前訪れた時とは、森の空気が明らかに違う。
俺たちが中間地点のタワーを制圧し、守護機兵(ガーディアン)を凍土に沈めたことで、この森そのものが一種の防衛本能を剥き出しにしているようだった。
「……クオーレ、周辺の魔素濃度はどうなっている?」
《解析:魔素濃度は前回の踏査時と比較し150%上昇。森の地脈が活性化し、侵入者を排除するために高ランクの魔物、および変異種を強制発生させていると推測されます》
「面白い。森ごと俺たちを拒絶しようってわけか。……皆、いい練習台が向こうからやってくるぞ!」
俺の言葉と同時に、巨樹の影から、かつては見たこともないほど巨大な『黒炎のキメラ』や、全身が硬質化した『ミスリル・オーガ』の群れが、怒涛の勢いで雪崩れ込んできた。
「カエルム、ルーナ! 遠慮はいらないわ。新しい力、試してみましょう!」
アルシェの声に応え、先陣を切ったのはフェンリル親子だった。
「グルァァァッ!!」
父個体のカエルムが吠える。
その咆哮と共に、付与された氷属性と風属性が混ざり合い、視界の全てを切り裂く絶対零度の竜巻『氷嵐(ブリザード・ブレス)』が巻き起こった。
正面から突撃してきたオーガの群れは、一瞬で凍りつき、風の刃によって微塵切りにされていく。
「アタシたちも負けてられんね! ルーメン、行くばい!」
カグヤが星の弓を引き絞り、光の精霊ルーメンと共に空を仰ぐ。
放たれた矢は、光の精霊の魔力と共鳴し、空中で数千の光弾へと分裂。『極大光魔法:スターライト・レクイエム』として、森の暗闇に潜む伏兵たちを一人残らず消滅させた。
「ウチの番や! フレイヤ、ドカンと行ったろか!」
イシュタルは闇の双銃をクロスさせ、火の精霊フレイヤを銃身に宿らせる。
放たれたのは、闇属性の重力と火属性の爆発が融合した『黒炎爆災(ブラック・プロミネンス)』。
着弾した地点を中心に空間が歪み、キメラの巨躯を内側から焼き潰した。
一日目の戦闘を終え、俺たちは中間地点へ至る街道の途中で夜営の準備に入った。
倒した魔物の死骸があちこちに転がっているが、俺たちのアイテムボックスは既に自動回収と自動解体を終え、静かにログを更新し続けている。
ふと、俺は自分の脚に鼻先を寄せてくるテラとアウラを見て、あることに気づいた。
「……ああ、忘れてたな。カエルムたち用のアイテムボックスを用意していなかったね」
俺はすぐにアルティメットスキル『アイテム作成』を起動した。
彼らの首元、俺が作った魔導装甲の一部に、小さな白銀のチャームを四つ、練り上げる。
「これは俺たちのスキルと同じ機能を持たせた『神獣の首掛けチャーム』だ。半径五十メートル以内の敵を倒せば、自動で回収・解体・分別してこの中に仕舞われる。……よし、これで不公平はなしだ」
「ガウッ!」
四匹は誇らしげに首を振り、チャームがカチリと音を立てて装甲に固定された。
これで彼らも立派な「稼げる神獣」だ。
その夜、ミスティック・パレス・グランドの広域結界内では、またしても豪華な宴が催された。
魔法の冷蔵庫から取り出した最高級の果実酒を片手に、アレスとバルトが語り合う。
「……なぁバルト、今の連携、カエルムの氷の壁を俺の鎌で砕いて散弾にするのはどうだ?」
「お、いいなアレス。俺の斧で地面を叩き割って、アウラの雷を伝導させるのも面白そうだぜ」
最強の戦士たちと、最強の神獣、そして最強の精霊。彼らの絆は、戦うたびに強固に結びついていく。
だが、夜の静寂を森の「悪意」が再び引き裂いた。
結界の境界線に、数百、数千という魔物の眼光が浮かび上がる。
今度は森の主格、Sランクに届こうかという『古代樹の精霊(エルダー・トレント)』までが参戦してきたのだ。
「……寝かせろと言ったはずだが。皆、徹底的にやってしまおう」
俺の合図は、夜の森を更地にする号令となった。
「貫け、『雷槍:サンダー・ジャッジメント』!」
アルシェの槍から放たれた極大の雷柱が夜空を白く染める。
「砕け散れ! 『地断:ガイア・カタストロフ』!」
バルトの戦斧が大地の底から岩の牙を突き出し、トレントたちを串刺しにする。
「影の中に沈め。『絶影・闇界(エクリプス・ワールド)』」
アレスの鎌から溢れた闇が、森の一部を虚無へと変えた。
そこにカエルムたちの属性魔法、さらにはリフィたち精霊女王・精霊たちが放つ『八属性極大連鎖魔法』が重なり合った。
閃光、爆炎、雷鳴、吹雪。
もはや戦闘ではなく、一方的な消滅の儀式。
数分後、再び訪れた静寂。
結界の外側五百メートルは、草木一本残らない文字通りの「不毛の地」へと変貌していた。
「……ふぅ。よし、今度こそ寝るぞ」
俺は呆れ顔のアルシェラに手を引かれ、テントの中へと戻った。
中間地点まで、あと数日。
俺たちの歩みは、もはや森という一つの生態系すら蹂躙し、一万年の謎へと着実に近づいていた。