ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
白銀のタワーから放たれた蒼白の光は、漆黒の樹海を切り裂き、地図にすら存在しない「黒竜の森・真の最深部」へと一直線に伸びていた。
俺たちは、その導きの光を追って足を踏み出す。
境界を越えた瞬間、大気の質が変質した。
一万年前から停滞していたかのような、濃密すぎる魔素。木々は鉄のように硬く、葉の一枚一枚が刃のような鋭利さを備えている。
「クオーレ、周囲の解析を維持してくれ」
《了解。これより先は未踏領域。一万年前の魔導都市エルドラの漏洩魔力によって独自進化を遂げた、古代生態系エリアです》
その解析が終わるより早く、森の深淵が牙を剥いた。
「……来るぞ! カエルム、皆、構えろ!」
俺の声と同時に、巨大な影が三方向から躍り出た。
一つは、全身が外骨格のような生体装甲で覆われた、体長十メートルを超える巨大な蜂。
二つは、三つの頭を持ち、それぞれが異なる属性を吐き出す銀色の獅子。
そして最後は、周囲の木々と同化し、無数の触手を蠢かせる巨大な捕食植物。
俺は即座に鑑定を飛ばす。
名称:アトランティア・キラーホーネット(虫系)
ランク:SS
特徴:超振動の針は物理防御を貫通する。
名称:シルバー・キマイラ・レジェンド(獣系)
ランク:SS
特徴:三首による連続ブレス。
名称:エルドラ・デビル・ウィロー(植物系)
ランク:SS
特徴:捕食した対象の魔力を吸収・増幅する。
この世界のSSランクといえば、ステータスは四桁後半が平均だ。
通常の冒険者なら国が滅びるレベルの災害だが、今の俺たちにとっては絶好の「実戦」でしかない。
「グルァァァッ!!」
カエルムが氷風の咆哮を放ち、空飛ぶ蜂の動きを凍結させて叩き落とす。間髪入れず、アウラが雷水の鎖でその巨躯を拘束した。
「逃がさへんで。『黒炎爆災』!」
イシュタルの双銃が火を噴き、キマイラの一つの頭を粉砕する。
「ウチの闇は、古代の獣にも効くみたいやね!」
だが、森の奥からはさらに不気味な足音が響く。
現れたのは、肉体の一部に古代の魔導回路が埋め込まれ、金属の爪やレーザー砲を装備した『魔導機兵融合種(キメラ・アンドロイド)』の群れ。
生物のしなやかさと、機械の無機質な破壊力が合体した殺戮兵器だ。
「数が多いな……。バルト、一手に引き受けてくれ!」
「おう! 任せとけ! 全員、俺の後ろに移動してくれ!」
バルトがジェネシス級の盾『アイギス・アエテルナ』を地面に叩きつける。
「『ヘイト管理:ウォー・クライ』! 『アルティメットスキル:絶対防御』!!」
黄金の魔力がドーム状に広がり、周囲の魔物や魔導機兵たちの注意がすべてバルトへと向けられる。
無数のレーザーや魔法、巨大な爪がバルトを襲うが、展開された防御フィールドは微動だにしない。
「今よ! カグヤ、アレス!」
アルシェラの雷竜の槍が空間を貫き、カグヤの光の矢が魔導機兵の核を正確に射抜く。
アレスは影に潜み、真空の鎌で融合種たちの連結部分を次々と断裂させていった。
俺も二振りの刀を抜き放ち刀身に魔術をかけて魔物を斬っていく。
『姫鶴一文字』が空間を凍てつかせ、『にっかり青江』が炎で回路を焼き切る。
だが、敵の補充速度が異常だった。
森そのものが巨大な工場であるかのように、倒しても倒しても奥から新たな影が湧き出してくる。
「……キリがないな。少し『掃除』の規模を上げようか」
俺は刀を静かに鞘へと収めた。
周囲の仲間たちが、俺の纏う魔力の変質を察して一歩下がる。
俺は右手を突き出し、掌の上に絶対零度の冷気を凝縮させた。
「『超極大氷魔術:クリスタロス』」
同時に、左手には太陽の核にも等しい超高温の熱量を生成する。
「『超極大火魔術:プロメテウス』」
右手には蒼白の氷塊、左手には深紅の炎。
相反する二つの絶大なるエネルギー。それを、俺は逃がさないように両手の間に無理やり引き寄せた。
「ぐ、ぐぐ……ッ!」
本来なら反発し合い、自爆するはずの魔力を、魔力操作の力で無理やり「圧縮」し、一つの球体へと閉じ込める。
右と左から押し寄せる矛盾。空間が軋み、周囲の次元が悲鳴を上げる。
「合成魔術——『氷火崩壊:グラス・ジェネシス』!!」
俺がその「矛盾した光」を放った瞬間。
衝撃波という言葉では足りない。絶対零度と超高温が交互に、かつ同時に戦場を駆け抜けた。
触れた魔物も、頑強な魔導機兵も、抗う間もなく分子レベルで熱膨張と急凍結を繰り返され、その構造を崩壊させていく。
閃光が収まった後、そこには驚愕の光景が広がっていた。
周囲数キロメートルの森は一掃され、地面は猛烈な熱と冷却の繰り返しにより変質。
すべてが透き通った「硝子(ガラス)化」した大地へと変貌していた。
生き残った魔物は一匹もおらず、ただ美しい硝子の原野だけが太陽の光を反射して輝いている。
「……やりすぎばい。旦那様、地面が宝石みたいになっとるよ……」
カグヤが呆然とした声を漏らす。
「すごっ……。熱いのか冷たいのか、もう感覚がわからへんわ」
イシュタルが硝子の地面を恐る恐るつつく。
「これがヨシテルの、新しい術か……。敵でなくて本当によかったぜ」
バルトが盾を収め、冷や汗を拭った。
硝子の平原を突き抜けた先。
そこには、これまで俺たちが目にしてきたどんな光景よりも巨大な、垂直に切り立った大穴が存在していた。
直径数キロメートル。底は見えず、深淵からはかつてエルドラを支えていたであろう、莫大な魔力が霧となって吹き上がっている。
「……ここが、最深部の入り口。地下都市エルドラへの降下点だ」
俺が告げると、仲間たちは覚悟を決めた表情で頷いた。
精霊女王リフィが俺の肩で気合いを入れ、フェンリル親子が深淵に向かって長く、力強い咆哮を上げた。
俺たちの旅は、ここから「真の本番」を迎える。