ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
最深部の中心に口を開けた巨大な垂直穴。
その縁に俺たちが立つと、導きの光に呼応するようにして、大穴の壁面に沿って鈍く光る螺旋階段がせり出してきた。
「……ここを下りれば、一万年の眠りに辿り着くわけだ」
俺が先頭に立ち、仲間たちと共に一歩ずつ深淵へと踏み出す。
数時間の降下。
陽の光は完全に届かなくなり、代わりに壁面に埋め込まれた魔導結晶が淡い蒼光を放ち、俺たちの進む道を照らしていた。
「それにしても、この魔素の濃さは尋常じゃないわね。肌がピリピリするわ」
アルシェラが槍を握り直し、周囲を警戒しながら呟く。
「ホンマやな。地上とはエライ違いや。まるで魔力そのものの中を泳いでるみたいやわ」
イシュタルも双銃のセーフティを指で確認しながら周囲を見回す。
やがて、螺旋階段が終わりを告げ、俺たちの目の前に広大すぎる地下空間が姿を現した。
そこは、一万年の時が止まったまま稼働し続ける黄金の都市――『魔導都市エルドラ』。
「……美しい。これが一万年前の文明の極致か」
俺がその威容に見惚れたのも束の間、都市の各所に配置されたセンサーが深紅に染まり、けたたましい警報音が鳴り響いた。
《警告:未登録個体の侵入を検知。防衛レベルをフェーズ4に移行。機動守護部隊、排除を開始せよ》
黄金の街路から、整然とした足音と共に現れたのは、数百体を超える『魔導機兵(エルドラ・ガード)』と、その上位個体である『機動機兵(ストライク・フレーム)』の大軍だった。
「来るぞ! バルト、前に出ろ!」
「おうよ! この数の人形、まとめて受け止めてやるぜ! 『絶対防御』!!」
バルトが盾を構えると同時に、機動機兵たちが一斉に腕を掲げた。
だが、その後に続いた光景に、俺は思わず目を見開いた。
機動機兵たちの前方に、精緻な魔法陣が展開されたのだ。
「――っ!? 『極大雷魔術:ジャッジメント・ボルト』だと!?」
「避けて、皆!!」
アルシェラの叫びと共に、地下空間を無数の雷光が駆け抜ける。
俺は『縮地』で回避しながら、脳内でクオーレに問いかけた。
「クオーレ! なぜ機械が魔術を使えるんだ!? 奴らが使っているのは『魔法』ではなく、論理構築された『魔術』なのか!?」
《解析中……。マスター、機動機兵の内部に『疑似脳核』を確認。彼らは自立思考ではなく、都市の基幹システムから転送される術式を演算・実行しています。彼らが操るのは一万年前の原典魔術であり、現代の魔法とは根本的な出力密度が異なります》
「機械が詠唱すらなしに、演算だけで極大魔術を連射してくるっていうのか……。ふざけた文明だな!」
俺は『姫鶴一文字』を抜き放ち、眼前の機動機兵を切り裂く。
だが、斬り伏せた瞬間に違和感が増した。
「ヨシテル、見て! 街の奥から、機兵じゃない別の何かが来るわ!」
アルシェが槍を構え、地面を指差す。
黄金の街を、ドロドロとした黒い霧が覆い尽くしていく。
その霧の中から這い出してきたのは、豪華な法衣を纏い、禍々しい杖を手にした骸骨の魔導師たち――SSランク『古代リッチ』、そして魂を削り取る鎌を持った『ソウル・リーパー』の群れだった。
「……死霊系か。なぜ黄金の魔導都市に、こんな死の臭いが充満しているんだ?」
俺は『鑑定』を飛ばしながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
名称:古代エルドラ・最高司祭のリッチ(死霊系)
ランク:SS
特格:生前の魔導知識を保持したままアンデッド化。無限の魔力を有する。
名称:エルドラ・ガーディアン・レイス
ランク:SS
特徴:物理攻撃を完全に透過。精神を直接破壊する。
「な、なんやねんこの数! 機兵の軍団だけでもお腹いっぱいなのに、幽霊までお代わりか!?」
イシュタルが引き金を引き続け、聖属性を付与した弾丸で死霊を霧散させるが、敵の数は一向に減らない。
「旦那様! この人たち……いや、この魔物たち、ただの死霊じゃなかばい! 街の魔力供給ラインに直接繋がっとる! 都市そのものが彼らを生かし続けとるたい!」
カグヤが杖を突き立て、癒しの光で死霊の浸食を食い止めながら叫ぶ。
「……なるほどな。一万年前、この都市で何が起きたか大体想像がつくぞ」
俺は刀を正眼に構え、周囲を包囲する機兵と死霊の混成部隊を睨み据えた。
黄金に輝く美しい都市の裏側で、命を機械に、あるいは不老不死の魔物へと変えてまで存続しようとした狂気。
「カエルム、ルーナ、テラ、アウラ! 属性解放だ! ここは一歩も引かせないぞ!」
「グルアァァァッ!!」
フェンリル親子が咆哮を上げ、氷、火、土、雷の四属性が地下空間に爆発した。
「リフィ、アクア、リザーナ! 全員で出力を合わせろ。この『死の都』に、本当の休息を与えてやる」
「分かったのです、マスター! 精霊たちの怒り、思い知るのです!」
リフィを中心に、八柱の精霊たちが俺たちの周囲で輪を描く。
黄金の都エルドラ。その第一層での激突は、今まさに始まったばかりだった。
「皆、足を止めるな! この軍勢を食い破って、都市の心臓部へ向かうぞ!」
俺の激に応え、ヴィンクルムの仲間たちは、一万年の絶望が作り出した死の軍勢へと突っ込んでいった。