ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
地下千メートルに広がる「魔導都市エルドラ」の街並みは、文字通りの地獄と化していた。
黄金の街路を埋め尽くすのは、無機質な殺戮を繰り返す機動機兵(ストライク・フレーム)の軍団と、怨嗟の声を上げ続ける古代リッチ率いる死霊の群れだ。
「……物理耐性が高すぎるわ。アレス、実体がない奴らは魔法で焼き払うわよ!」
アルシェラがジェネシス級の槍『フルメン・スピクルム』を旋回させ、激しい雷光を放つ。
「分かってる。影を縫うのは無理そうだな。……『闇魔法:ヴォイド・ディザスター』!」
アレスが影から溢れ出した闇の奔流で、迫りくるレイスたちの魂を強引に削り取っていく。
だが、敵の数は一向に減らない。
機動機兵が演算する古代魔術の砲火がバルトの展開する防御フィールドを叩き、リッチたちが放つ死霊魔術の霧が視界を遮る。
「旦那様、こいはただの戦いじゃなかよ! 街のシステムが地下の魔力溜まりから、いっちょん止まらずエネルギーば供給しよる。核ば叩かん限り、千夜一夜戦うたっちゃ終わらんばい!」
カグヤが聖なる杖『ウィルガ・アエテルナ』を掲げ、押し寄せる死の霧を光の壁で押し戻しながら叫ぶ。
「へっ、無限供給かよ。上等だぜ! 俺が耐えきれなくなるのが先か、街が壊れるのが先か、試してみようじゃねえか!」
バルトが『アイギス・アエテルナ』を構え直し、機動機兵たちの放つ重力砲を真正面から受け止める。
「バルト、あんま無理しなや! ウチの火ぃも、霊体相手やと効率悪うてしゃあないわ。フレイヤ、もっと出力上げぇ!」
イシュタルが双銃から闇と火の混合弾を連射するが、倒しても倒しても、路地の奥から新たな銀色の機体が現れ、死霊が地から這い出してくる。
カエルムたちフェンリル親子も、それぞれの属性魔法を咆哮と共に放ち、前線を支えていた。
カエルムの氷嵐が機兵の関節を凍らせ、ルーナの火炎が死霊を焼き、テラの重力が敵の進軍を阻み、アウラの水流が仲間の消耗を癒す。
しかし、戦場を支配する「絶望の物量」が、じわじわと一行を包囲網へと追い詰めていった。
「……やめだ。このままじゃ消耗戦に付き合わされるだけだな」
俺は喧騒の中、静かに日本刀を鞘に納めた。
一歩、前へ出る。
俺の体から溢れ出す魔力の質が、静謐(せいひつ)でありながらも、この地下都市の全魔力を圧するほどの高密度へと変質していく。
「マスター、魔力の充填率が臨界を突破します。三属性同時並列演算——光・火・風、同調を開始します」
脳内のクオーレが、俺の意志に呼応して神速の演算を開始する。
俺の背後に、魔力の揺らぎが生じた。
まず一対。純白の光を放つ光の翼。
次に一対。紅蓮の熱量を秘めた焔の翼。
そして最後の一対。透明な大気を震わせる翠緑の風の翼。
三対計六枚の『黄金の光翼』が俺の背中に具現化し、地下空間を神聖な輝きで満たした。
「ヨシテル……? その姿……」
アルシェラが息を呑み、戦いの手を止める。
仲間たちも、神獣たちも、そして襲いかかるはずの機兵や死霊たちまでもが、その絶対的な「神威」を前に一瞬の静寂を保った。
「悪いが、お前たちにこれ以上の未練は許さない。……一万年の執着ごと、空へ還れ」
俺は静かに、天に向かって右手を掲げた。
「三属性合成・極大浄化魔術——『黄金翼の鎮魂歌(カノン・オブ_セラフィム)』」
刹那、俺の背後の翼から、無数の黄金の羽根が舞い散った。
それと同時に、都市全体を優しく包み込むような「風」が吹き抜ける。
その風が触れた瞬間、機動機兵たちの魔導回路が静かに融解し、彼らが演算していた凶悪な魔術が霧消していく。
そして、死霊たち。
彼らは叫びを上げることも、苦しむこともなかった。
聖なる焔を宿した黄金の風に撫でられた瞬間、骸骨の体は白い灰へと変わり、その魂は呪縛から解き放たれ、光の粒となって天井へと昇っていく。
「……悲しか、風やね」
カグヤが呟いた。
浄化されていく死霊たちの顔には、一瞬だけ、一万年の苦役から解放された安堵の微笑みが浮かんでいたように見えたからだ。
舞い上がる光の羽根が、雪のように黄金の都市エルドラを覆い尽くしていく。
あれほどまでにとどめなく湧き出していた敵の軍勢は、俺が放った一筋の慈悲によって、その全てが「光の塵」へと変えられた。
やがて風が止み、黄金の翼が光となって消える。
後に残ったのは、埃一つないほどに清浄化され、静寂を取り戻したエルドラの街並みだった。
「……すごい。あんなにいた大軍が、跡形もなく……」
アルシェラが呆然と周囲を見渡す。
「ヨシテル、あんた……今のは反則やって。浄化される側も、文句言われへんくらい綺麗やったわ」
イシュタルが双銃を収め、深く息を吐いた。
「がはは! さすがは俺たちのリーダーだぜ。翼なんて出しちまって、まるでお迎えに来た天使様だな」
バルトが快活に笑うが、その瞳には俺への深い畏敬の念が宿っていた。
俺は自分の手を見つめる。
合成魔術の余韻で、まだ指先が熱い。
「……いや、彼らはただ、終わりたかっただけなのかもしれないな」
俺はそう呟くと、仲間たちに向き直った。
敵はいなくなった。
だが、この街の深部では、未だに都市を制御する中枢システムが息づいている。
「クオーレ、重要拠点までのルートを。……この先、本当の『魔導都市エルドラ』が待っているはずだ」
《了解。魔導都市エルドラの浄化完了を確認。中心部、大聖堂に続く大通りへのアクセスが可能となりました》
「行くぞ、皆。一万年の旅路の結末を、見届けよう」
俺たちは光の粒が舞う幻想的な街を抜け、都市の心臓部へと再び歩みを進めた。