ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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62話め


第六十二話:黄金の聖堂と、遺された絶望の記録

 

 

俺が放った浄化の鎮魂歌によって、黄金の街を埋め尽くしていた死霊と機兵は光の塵へと消えた。

静寂を取り戻したエルドラの街並みを、俺たちは街の中央にそびえ立つ一際巨大な建築物――大聖堂へと向かって歩いていた。

 

「……あんなに騒がしかったん嘘みたいやん。不気味なくらい静まり返っとるわ」

イシュタルが双銃をホルスターに収め、周囲を警戒しながら呟く。

 

「旦那様、あの大聖堂……あそこから街全体の魔力ば制御しとる気配のすると。なんていうか、巨大な心臓の音ば聴きよるような気分たい」

カグヤが眉をひそめ、杖を握り直す。

 

やがて俺たちは、純白の石材と黄金の装飾で彩られた大聖堂の門を潜った。

 

一歩中へ入ると、そこには外観以上の荘厳な空間が広がっていた。

高い天井には無数の魔導結晶がシャンデリアのように吊るされ、柔らかな蒼光がホールを照らしている。

 

「すごい……一万年も経っているのに、埃一つないなんて。管理システムが生きてる証拠ね」

 

アルシェラが壁面に近づき、そこに描かれた巨大な連作壁画を見つめた。

俺たちはその絵に魅入られるように歩を進める。

最初の壁画には、人々が魔導技術を手にし、荒野に都市を築く姿が描かれていた。

次の壁画では、空飛ぶ船が飛び交い、人々が病や飢えから解放された絶頂期のエルドラが活写されている。

だが、三枚目から空気が一変した。

空は赤く染まり、大地から噴き出す禍々しい黒い霧。

人々が苦しみ、次々と倒れていく光景。

 

「……これ、何が起きたんだ? 戦争か?」

バルトが絵を指差して問う。

 

「いや、違うな。……クオーレ、推測できるか?」

 

《解析:壁画の文脈から推測されるのは『魔力飽和による環境崩壊』です。高度に発達しすぎた魔導文明が、地脈の許容量を超えて魔素を排出し、大気そのものが猛毒へと変質した可能性があります》

 

最後の壁画には、泣きながら地下へと逃げ延びる人々と、地上を封印する王の姿が描かれていた。

 

「……地上を捨てて、地下に逃げたんじゃなくて、地下に逃げるしかなかったのか」

アレスが低く呟く。

 

聖堂の最奥、正面には巨大で壮大なステンドグラスが鎮座していた。

七色の光を放つその下には、慈愛に満ちた女神の像がある。

俺はギフト『全知全能』を発動させ、その周囲の魔力の流れを視認した。

 

「……ここだ。この女神像の台座、魔力のバイパスが地下へ繋がっている」

 

台座の特定の場所に指を触れ、魔力を流し込む。

「カチリ」という重厚な機械音が響き、ステンドグラスの下の床がスライドして、下へと続く螺旋階段が現れた。

 

「行くぞ。……この下に、この街の真実がある」

 

階段を降りること数十分。辿り着いた先は、数キロメートル先も見通せないほど広大な地下大空洞だった。

 

「……っ!? 何よ、これ……」

アルシェラが口元を押さえ、絶句する。

 

そこには、数千、数万という膨大な数の「円筒形のポッド」が、整然と並んでいた。

ポッドからは無数の太いケーブルが伸び、まるで血管のように天井や床を這っている。

俺たちはその間を歩き、ポッドの中を覗き込んだ。

 

「……生きてる。いや、肉体は維持されているのか」

 

ポッドの中には、一万年前の衣装を着た人々が横たわっていた。

しかし、その瞳に光はなく、生きる意志を感じさせない。

 

「……魂のなか。器だけが魔導技術で無理やり生かされとると。……あんまりなことするね、残酷かぁ」

カグヤが震える手でポッドに触れる。

 

「クオーレ、彼らの状態は?」

 

《生体機能維持モード。意識指数ゼロ。彼らの精神、すなわち魂に相当するエネルギーは、外部へ抽出され、都市の防衛リソースとして再利用されている形跡があります》

 

「……あの死霊や機兵の正体は、この人たちの魂だったのかよ」

バルトが拳を握りしめ、怒りに震える。

 

俺たちは重苦しい沈黙の中、ポッドの海を数時間歩き続けた。

 

通路の突き当たりには、巨大な心臓を模したかのような、魔導と機械が融合した超巨大計算機が鎮座していた。

その機械から伸びる無数のケーブルが、先ほどの数万のポッドへと繋がっている。

そして、その機械に寄りかかるようにして座る、一柱の遺体があった。

豪華な金糸の刺繍が施された王衣を纏い、頭上には歪んだ王冠。その姿は既に白骨化している。周囲には、白衣を着た科学者や神官たちの遺骸もいくつか転がっていた。

 

「……あんたが、この悲劇の責任者か」

 

俺は王の膝元に落ちていた、革表紙の手記を拾い上げた。

 

 

「読んでみる。……『魔鋼暦2800年。地上の汚染は限界に達した。他の地や大陸は無事なのか。他の地がどうなっているか分からぬが我が民を救う唯一の手段は、肉体を保存し、魂を演算世界へ逃がすことのみ。……だが、計算ミスがあった。抽出された魂は自我を失い、都市を護るための狂った防衛プログラムへと書き換わってしまった。私は、愛する民を自らの手で『兵器』に変えてしまったのだ。……許してくれ。せめて、いつかこの絶望を終わらせてくれる者が現れるまで、私はこの機械と共に眠りにつこう』」

 

 

読み終えると、聖堂の地下に、再び重い静寂が訪れた。

 

「……ヨシテル。この人たちは、助かるの?」

アルシェラが悲しげな瞳で俺を見る。

 

「魂はさっき、俺が浄化して空へ還した。……残っているのは、主を失った肉体と、暴走し続けるこのシステムだけだ」

 

「やったら、もう終わらせたげなあかんな。こんな悲しない場所、これ以上続けとったらあかんわ」

イシュタルが寂しそうに笑った。

 

俺は巨大な機械を見上げ、それから仲間たちを見た。

 

「ああ。この街の『心臓』を止める。だが、その前に……一度聖堂まで戻ろう。皆の覚悟を整える時間が必要だ。それに、この遺体たちをそのままにしてはおけない」

 

俺たちは白骨化した王と科学者たちの遺骸を丁重に弔い、手記を持ち一度、地上の聖堂へと戻る階段を上り始めた。

一万年の孤独と後悔を終わらせるために。

俺たちは、この魔導都市エルドラという名の巨大な墓標を、永遠の眠りへと導く決意を固めた。

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