ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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64話め


第六十四話:氷晶の供養塔と、新たなる旅の指標

 

 

地下1000メートルに及ぶ魔導都市エルドラの全ての機能を停止させ、そこに眠る数万の肉体を永遠の静寂へと誘った俺たちは、長い螺旋階段を1段ずつ上り、地上の光を目指していた。

上へ進むにつれ、背後からは「ミキ、メキャ、ミキ」と巨大な氷が膨張し、通路を物理的に、そして魔導的に完全に閉鎖していく音が響く。

それは1万年の悲劇の終焉を告げる、静かな音だった。

ついに、出発点であった白銀のタワーがそびえる広間へと辿り着いた。

 

「……終わったな。これで、もう誰も彼らを傷つけることはできないし、彼らもまた、誰かを傷つけることはない」

 

俺がそう呟き、螺旋階段の入り口だった場所に最後の一撃を放つ。

 

 

「『極大氷魔術:アエテルナ・グラキアス・テンプル(永劫の氷神殿)』!!」

 

 

刹那、地下へと続く穴を完全に塞いだ氷の塊が地表へと盛り上がり、高さ数十メートルに及ぶ、水晶のように透き通った巨大な「氷の神殿」を形作った。

それは単なる封印ではない。幾星霜の時が経とうとも、太陽の熱にすら溶けることのない、1万年の犠牲者たちのための供養塔だ。

 

「……綺麗。本当に、宝石で作ったお墓みたいね」

アルシェラが、神殿の壁面に反射する自らの姿を見つめて呟いた。

 

「ガウッ!」

カエルムが神殿に向かって低く、そして長く咆哮する。

 

それはかつての隣人たちへの、神獣なりの手向けのように聞こえた。

 

「さて、しんみりすんのはここまでや! ウチら、地下に潜ってからまともなもん食べてへんねん。お腹ペコペコやわ!」

 

イシュタルの明るい声が、冷たく張り詰めた空気を和らげた。バルトも腹を叩いて笑う。

 

「がはは! 言われてみればそうだな。ヨシテル、悪いが今夜もあの『パレス』の最高級メシを頼むぜ」

 

「ああ、分かっている。せっかく地上に戻ってきたんだ、景気良くやろうか」

 

俺はいつものように『ミスティック・パレス・グランド』を展開し、広域結界を張った。

今夜の献立は、心身の疲れを癒やすための『特製海鮮鍋』と、厚切りのステーキ。

さらにアイテムボックスから、地下で見つけた一万年前の最高級ヴィンテージワイン……は流石に鑑定が怖かったので、俺が作成した極上の吟醸酒を取り出した。

 

食後、温かい鍋と酒で腹を満たした俺たちは、焚き火を囲んでゆったりとした時間を過ごしていた。

テラとアウラは、精霊女王リフィたちと戯れながら、カグヤが焼いてくれたおやつを頬張っている。

俺は、アイテムボックスからあの一冊の革表紙の手記を取り出し、開いた。

 

「皆、少し聞いてくれ」

 

俺の言葉に、チェスを打っていたアルシェラや酒を酌み交わしていたバルト、アレスがこちらを向く。

 

「この手記の中に、気になる一節があったんだ。……『他の地や大陸は無事なのか。他の地がどうなっているか分からぬが』……王はこう書いていた」

 

「他の地……つまり、アトランティア大陸の別の場所、あるいは海を越えた別の大陸のことね?」

 

アルシェラが、真剣な表情で問い返す。

 

「そうだ。もしこの『厄災』による環境崩壊が大陸全土、あるいは世界規模で起きていたとしたら……」

 

「……このエルドラみたいな地下都市が、他にもあるかもしれんってことか?」

アレスが、鋭い視線を俺に向けた。

 

「ああ。クオーレの解析によれば、この都市一箇所だけで一万年前の人口全てを収容できるはずがない。アトランティア文明は世界を股にかけていた。ならば、この大陸の各地、あるいは未知の大陸の下にも、眠ったままの都市がある可能性がある」

 

「うわぁ……ワクワクするっちゃけど、ゾッとするもん。他にも同じような悲劇の続いとうところがあるっちゃったら、うちらが助けに行かなんね!」

カグヤが両手を胸の前でギュッと握りしめる。

 

「せやせや! エルドラの王さんは他の場所がどないもあらへんように祈っとったんや。ウチらがその答え探しに行くっちゅうのも、ええ冒険になりそうやん!」

イシュタルが双銃を弄りながら、不敵に笑う。

 

「がはは! いいぜ、ヨシテル。俺はどこまでもお前についていくぞ。未知の遺跡、未知の魔物……龍人族の血が騒ぐじゃねえか!」

バルトが俺の肩を強く叩いた。

 

「よし。じゃあ、まずはこのエルドラの街に戻って、公爵たちに報告だ。それから、今回持ち帰った膨大な書物の解読を進める。……そこには、次の『目的地』を示す地図があるかもしれない」

 

 

俺は焚き火の炎を見つめた。

 

 

ただのAランク試験のつもりで足を踏み入れ、Sランクに昇格して挑んだ黒竜の森。

だが今、俺たちの前には「1万年前の真実を巡る旅」という、果てしない地平が広がっている。

 

「ヨシテル。私たち、最強のパーティー【ヴィンクルム】でしょ? どんな世界の果てでも、一緒に行きましょう」

アルシェラが、俺の手をそっと握った。

 

「ああ、もちろんだ。……リフィ、精霊たちも。カエルム、ルーナ、お前たち家族も。皆でこの世界の全てを見に行こう」

 

「ガウッ!!」

 

「のです! どこまでもついていくのです!」

 

夜の黒竜の森に、かつての死の気配はない。

そこには、明日を夢見る旅人たちの笑い声と、静かに世界を照らす氷の神殿の輝きだけがあった。

俺たちは新たなる旅の指標を胸に、静かな眠りについた。

明日、俺たちは「深部からの帰還者」として、再びエルドラの街の門を潜ることになるだろう。

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