ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
エルドラの街の喧騒から少し離れた平原。
そこには、俺たちの拠点である移動要塞テント『ミスティック・パレス・グランド』が鎮座していた。
周囲には、俺が作ったランタン。
絶対結界『ドムス・インウィオラビリス(不可侵の聖域)』
半径五百メートルを覆うその結界は、物理・魔導のあらゆる干渉を遮断する、文字通りの聖域だ。
テントの中では、アルシェが淹れてくれた茶を飲みながら、俺たちは穏やかな時間を過ごしていた。
だが、結界の「外」は穏やかではない。
「……ヨシテル、外のネズミたちが騒がしくなってきたわよ。解析しようとして魔法をぶつけたり、物理的にこじ開けようとしたり。呆れるほど熱心ね」
アルシェがテントの外、結界に弾かれる工作員たちを眺めて苦笑する。
「北の帝国、南の教国、西の連合国、それに商船連合か……。公爵邸での交渉が上手くいってない腹いせだろうな。……クオーレ、公爵邸の状況は?」
《解析:公爵邸・会議室。四カ国の特使がエルドラ公爵に対し、強引な情報開示を要求中。公爵は『彼らは自由な冒険者だ』と余裕の態度で一蹴していますが、特使たちの殺気は臨界点に達しています》
「がはは! あの公爵殿、楽しんでやがるな。だが、こっちの『ネズミ狩り』もそろそろ時間だろ、ヨシテル?」
バルトが大きな拳を鳴らす。
「ああ。夜襲をかけるつもりのようだが、隠す気ゼロの殺気だ。……アレス、イシュタル。教育の時間だぞ」
深夜、月が雲に隠れた瞬間。四カ国のスパイ軍団、総勢百名が同時に結界へと肉薄した。
「今だ! 結界の基点を探せ! 情報さえ奪えば……」
北の帝国の工作員が叫んだ瞬間、背後から冷ややかな声が響いた。
「探す必要はないぞ。目の前に本物がいる」
「なっ……いつの間に!?」
アレスが影から音もなく現れ、真空の鎌を一閃。
工作員たちの足元を正確に、かつ容赦なく切り裂いた。
「残念だが、君たちの隠密スキルは、俺の『サーチ』の中では松明を持って歩いているのと同じだ」
反対側では、イシュタルが双銃を弄びながら、逃げようとする南の教国の密偵たちを狙い撃っていた。
「逃げたらあかんで。ウチの弾は闇属性やからな。当たったらおしまい、影に縫い付けられて、もう一歩も動かれへんで!」
俺は『縮地』で中心部へ移動し、一瞬で全ての工作員を無力化、あるいは昏倒させた。
抵抗する間も、叫ぶ間もなかった。
SSランクの俺たちにとって、彼らは訓練用の案山子ですらなかった。
翌朝。エルドラ公爵邸の会議室。
円卓を囲む四カ国の特使たちは、未だに公爵を怒声で責め立てていた。
「いい加減にしろ、公爵殿! 【ヴィンクルム】という小僧どもをここに引き渡せ! さもなくば我が帝国は――」
「さもなくば、何だ?」
会議室の扉が、誰にも気づかれぬ間に開いていた。
音もなく、気配もなく。入り口のドアの前に、俺たち六人と四匹のフェンリルが立っていた。
「なっ……き、貴様ら、いつの間に! 警備はどうした!?」
「警備? 寝かせておいたよ。……それより、届け物だ」
俺が合図を送ると、バルトが昨夜捕らえたスパイたちの頭領を、円卓の中央に投げ出した。
「なっ!? これは我が国の……!」
「ほう、認めると。……なら話が早い」
俺は右手を、まだ息のあるスパイの胸元にかざした。
「俺たちの『パレス』に触れた罪、そして家族を脅かした報いだ。……凍れ」
「ぎ、ぎゃああああっ!!」
俺の超極大氷魔術が発動する。
スパイの体は足元から徐々に、しかし確実に氷へと変わっていく。冷たい結晶が肉を侵食し、悲鳴さえも凍りついていく様を、特使たちは顔面蒼白で見守るしかなかった。
腰まで凍りついたスパイを、俺は特使たちの足元へゴミのように投げ出した。
「これが、俺たちからの返答だ」
俺は特使たちを一人ずつ、冷徹な瞳で射抜いた。
空気が凍てつき、特使たちが呼吸を忘れるほどのプレッシャーを叩きつける。
「勘違いするなよ。俺たちはアウリア王国の所有物でもなければ、お前たちの道具でもない。……王国や公爵に喧嘩を売るのは勝手だが、俺たちを巻き込むな。俺たちヴィンクルムに喧嘩を売るなら、喜んで買ってやる」
俺はわざとらしく、腰の刀の柄を指で撫でた。
「冒険者は自由なんだ。……世界を相手にしてもいいんだぞ、俺たちヴィンクルムは。分かったら、そのネズミ共を連れて、さっさと自分の国へ帰れ」
俺が放った威圧(プレシャー)に、椅子から転げ落ちる特使もいた。
公爵だけが、口元を扇で隠して楽しそうに目を細めている。
拠点に戻った俺たちは、昨夜の戦利品(各国の機密情報)をクオーレに解析させながら、リビングで笑い合っていた。
「あはは! ヨシテル、あのハゲた特使の顔見たか? 泡吹いてひっくり返ってたぜ!」
バルトがビールを煽りながら、豪快に笑う。
「旦那様、さすがばい! あれはもう、ちかっぱスカッとしたとよ。……ばってんね、ほんなごと喧嘩売ったっちゃけんね」
カグヤが呆れたように笑いつつ、お茶を淹れる。
「せやな。ま、あんな連中ほっといたらええ。それよりヨシテル、これからどないすんの?」
イシュタルの問いに、俺は資料を片付けながら答えた。
「そうだな。地下から持ち帰った資料の解読が一段落したら、この王国の各地を回ってみようかと思う。……この国のダンジョンもまだ攻略してないし、美味しいものもまだ食べてないからな」
その言葉に、アルシェが吹き出した。
「ふふ……ヨシテルらしいわ。今、正に世界の列強諸国に宣戦告告に近い牽制をしたばかりなのに……次は『この国を回る』なんて。……また嵐を呼ぶつもり?」
「ははは! そらそうや! ヨシテルが行くところ、嵐が追いかけてくるんやもん!」
イシュタルが笑い飛ばし、全員に笑いの輪が広がった。
「いいじゃないか。俺たちは自由な冒険者だ。……次は、どんなダンジョンが俺たちを待っているかな」
俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。
一万年の歴史を背負い、最強の仲間と共に、俺たちは黄金の都市を後にし、新たな地平へと踏み出す。