ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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66話め


第六十六話:円卓の凍結と、自由への凱歌

 

 

エルドラの街の喧騒から少し離れた平原。

そこには、俺たちの拠点である移動要塞テント『ミスティック・パレス・グランド』が鎮座していた。

周囲には、俺が作ったランタン。

 

絶対結界『ドムス・インウィオラビリス(不可侵の聖域)』

 

半径五百メートルを覆うその結界は、物理・魔導のあらゆる干渉を遮断する、文字通りの聖域だ。

テントの中では、アルシェが淹れてくれた茶を飲みながら、俺たちは穏やかな時間を過ごしていた。

だが、結界の「外」は穏やかではない。

 

「……ヨシテル、外のネズミたちが騒がしくなってきたわよ。解析しようとして魔法をぶつけたり、物理的にこじ開けようとしたり。呆れるほど熱心ね」

 

アルシェがテントの外、結界に弾かれる工作員たちを眺めて苦笑する。

 

「北の帝国、南の教国、西の連合国、それに商船連合か……。公爵邸での交渉が上手くいってない腹いせだろうな。……クオーレ、公爵邸の状況は?」

 

《解析:公爵邸・会議室。四カ国の特使がエルドラ公爵に対し、強引な情報開示を要求中。公爵は『彼らは自由な冒険者だ』と余裕の態度で一蹴していますが、特使たちの殺気は臨界点に達しています》

 

「がはは! あの公爵殿、楽しんでやがるな。だが、こっちの『ネズミ狩り』もそろそろ時間だろ、ヨシテル?」

 

バルトが大きな拳を鳴らす。

 

「ああ。夜襲をかけるつもりのようだが、隠す気ゼロの殺気だ。……アレス、イシュタル。教育の時間だぞ」

 

深夜、月が雲に隠れた瞬間。四カ国のスパイ軍団、総勢百名が同時に結界へと肉薄した。

 

「今だ! 結界の基点を探せ! 情報さえ奪えば……」

 

北の帝国の工作員が叫んだ瞬間、背後から冷ややかな声が響いた。

 

「探す必要はないぞ。目の前に本物がいる」

 

「なっ……いつの間に!?」

 

アレスが影から音もなく現れ、真空の鎌を一閃。

工作員たちの足元を正確に、かつ容赦なく切り裂いた。

 

「残念だが、君たちの隠密スキルは、俺の『サーチ』の中では松明を持って歩いているのと同じだ」

 

反対側では、イシュタルが双銃を弄びながら、逃げようとする南の教国の密偵たちを狙い撃っていた。

 

「逃げたらあかんで。ウチの弾は闇属性やからな。当たったらおしまい、影に縫い付けられて、もう一歩も動かれへんで!」

 

俺は『縮地』で中心部へ移動し、一瞬で全ての工作員を無力化、あるいは昏倒させた。

抵抗する間も、叫ぶ間もなかった。

SSランクの俺たちにとって、彼らは訓練用の案山子ですらなかった。

 

翌朝。エルドラ公爵邸の会議室。

円卓を囲む四カ国の特使たちは、未だに公爵を怒声で責め立てていた。

 

「いい加減にしろ、公爵殿! 【ヴィンクルム】という小僧どもをここに引き渡せ! さもなくば我が帝国は――」

 

「さもなくば、何だ?」

 

会議室の扉が、誰にも気づかれぬ間に開いていた。

音もなく、気配もなく。入り口のドアの前に、俺たち六人と四匹のフェンリルが立っていた。

 

「なっ……き、貴様ら、いつの間に! 警備はどうした!?」

「警備? 寝かせておいたよ。……それより、届け物だ」

 

俺が合図を送ると、バルトが昨夜捕らえたスパイたちの頭領を、円卓の中央に投げ出した。

 

「なっ!? これは我が国の……!」

 

「ほう、認めると。……なら話が早い」

 

俺は右手を、まだ息のあるスパイの胸元にかざした。

 

「俺たちの『パレス』に触れた罪、そして家族を脅かした報いだ。……凍れ」

 

「ぎ、ぎゃああああっ!!」

 

俺の超極大氷魔術が発動する。

スパイの体は足元から徐々に、しかし確実に氷へと変わっていく。冷たい結晶が肉を侵食し、悲鳴さえも凍りついていく様を、特使たちは顔面蒼白で見守るしかなかった。

腰まで凍りついたスパイを、俺は特使たちの足元へゴミのように投げ出した。

 

「これが、俺たちからの返答だ」

 

俺は特使たちを一人ずつ、冷徹な瞳で射抜いた。

空気が凍てつき、特使たちが呼吸を忘れるほどのプレッシャーを叩きつける。

 

「勘違いするなよ。俺たちはアウリア王国の所有物でもなければ、お前たちの道具でもない。……王国や公爵に喧嘩を売るのは勝手だが、俺たちを巻き込むな。俺たちヴィンクルムに喧嘩を売るなら、喜んで買ってやる」

 

俺はわざとらしく、腰の刀の柄を指で撫でた。

 

「冒険者は自由なんだ。……世界を相手にしてもいいんだぞ、俺たちヴィンクルムは。分かったら、そのネズミ共を連れて、さっさと自分の国へ帰れ」

 

俺が放った威圧(プレシャー)に、椅子から転げ落ちる特使もいた。

公爵だけが、口元を扇で隠して楽しそうに目を細めている。

 

拠点に戻った俺たちは、昨夜の戦利品(各国の機密情報)をクオーレに解析させながら、リビングで笑い合っていた。

 

「あはは! ヨシテル、あのハゲた特使の顔見たか? 泡吹いてひっくり返ってたぜ!」

 

バルトがビールを煽りながら、豪快に笑う。

 

「旦那様、さすがばい! あれはもう、ちかっぱスカッとしたとよ。……ばってんね、ほんなごと喧嘩売ったっちゃけんね」

 

カグヤが呆れたように笑いつつ、お茶を淹れる。

 

「せやな。ま、あんな連中ほっといたらええ。それよりヨシテル、これからどないすんの?」

 

イシュタルの問いに、俺は資料を片付けながら答えた。

 

「そうだな。地下から持ち帰った資料の解読が一段落したら、この王国の各地を回ってみようかと思う。……この国のダンジョンもまだ攻略してないし、美味しいものもまだ食べてないからな」

 

その言葉に、アルシェが吹き出した。

 

「ふふ……ヨシテルらしいわ。今、正に世界の列強諸国に宣戦告告に近い牽制をしたばかりなのに……次は『この国を回る』なんて。……また嵐を呼ぶつもり?」

 

「ははは! そらそうや! ヨシテルが行くところ、嵐が追いかけてくるんやもん!」

 

イシュタルが笑い飛ばし、全員に笑いの輪が広がった。

 

「いいじゃないか。俺たちは自由な冒険者だ。……次は、どんなダンジョンが俺たちを待っているかな」

 

俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。

一万年の歴史を背負い、最強の仲間と共に、俺たちは黄金の都市を後にし、新たな地平へと踏み出す。

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