ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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69話め


第六十九話:冒険者の懐事情と、ダンジョンへの誘い

 

 

昨夜、俺が結界の外で「不快な雑音」を掃除したことを、仲間たちは知らない。

買い物を終えてホクホク顔で戻ってきたアルシェ、カグヤ、イシュタル。

そして、文字通り山のような荷物を抱えて死んだ魚のような目をしていたバルトロスとアレス。

俺たちは移動要塞テント『ミスティック・パレス・グランド』のリビングで、『永久魔法冷蔵庫:アエテルナ・パントリー』から取り出した豪華なディナーを囲んでいた。

 

「な、めっちゃこの服可愛くない!? エルドラの街もやるやん。なぁヨシテル、うちこれ似合う? どう?」

イシュタルが新しく買った深紅のドレスを体に当てて、上機謙に微笑む。

 

「ああ、よく似合ってるよ。……バルト、アレス、お疲れ様。明日はゆっくり休んでいいぞ」

 

俺がそう言うと、バルトがジョッキのビールを一気に飲み干してガハハと笑った。

 

「休むのはいいが、まずは昨日の素材を金に変えねえとな! あの量はリーファちゃんも腰抜かしてたぜ」

 

翌朝、街では「行方不明になった二カ国の特使」の噂でもちきりだったが、俺たちはそれをよそにギルドの門を叩いた。

 

「おはようございます、リーファさん。昨日の査定、終わりましたか?」

 

俺が声をかけると、カウンターの奥で書類の山に埋もれていたリーファが、髪を振り乱して飛び出してきた。

 

「あ、ヨシテルさん! ……終わりました、終わりましたけど……あの、これ、とんでもない額ですよ!? ギルドの金庫が空っぽになっちゃいます!」

 

リーファが差し出した査定表には、銅貨や銀貨では到底数え切れない桁の数字が並んでいた。

今回の踏査で得たSSランクの素材や、魔導機兵の特殊パーツ。

それらを合わせると、金貨数万枚……いや、白銀貨や白金貨が飛び交う次元だ。

 

「ガゼルさーん! やっぱり無理です、この場で渡すなんて!」

 

リーファの悲鳴に、奥から顔を出したガゼルが溜息をつきながら頭を掻いた。

 

「おいおい、リーファ。お前、ヨシテルたちにまだ『口座』の説明をしてなかったのか?」

 

「えっ? ……あ、あーーっ! 忘れてました! すみませんっ!」

リーファが真っ赤になってぺこぺこと頭を下げた。

 

「口座……? なんですかそれは」

 

俺が問うと、リーファは照れくさそうに、しかしテキパキと説明を始めた。

 

「えっとですね、冒険者ギルドには独自の『ギルド口座』というシステムがあるんです。皆さんの冒険者プレートには特殊な魔法回路が組み込まれていて、それをギルドの魔法端末にかざせば、ギルド内でお金の入出金ができるんですよ」

 

「ほう、それは便利ですね」

 

「はい! この口座は世界中のどの冒険者ギルドでも共通で使えます。王国だろうが、帝国だろうが、どこの国にいても引き出し可能です。冒険者ギルドはどの国家にも属さない中立組織ですから、国家間の争いにも左右されません。商人ギルドさんも同じシステムを持ってますね」

 

「商人ギルド……商船連合とは違うんですか?」

俺の問いに、ガゼルが補足した。

 

「ああ。商人ギルドは歴史ある中立組織だ。商船連合ってのは、自分たちの利益のために勝手に群れてる一部の巨大商会の集まりに過ぎん。規模はデカいが、格で言えば商人ギルドの方が上さ」

 

「なるほど。……よし、じゃあ全員分の口座を作ってください。代金は適当に分けて入金しておいてくれればいいです」

「適当って……ヨシテルさん、普通はリーダーが多めに取るとかあるんですよ!?」

 

「いいんですよ、うちは家族みたいなもんだから。均等に分けてやってください」

 

俺がさらりと言うと、アルシェたちが嬉しそうに俺の腕に触れた。

 

口座の開設と入金手続きを待つ間、俺はガゼルに向き直った。

 

「ガゼルさん。資料の解読は進んでるんだが、少し体が鈍ってきましてね。この街の近くに、俺たちが入れるようなダンジョンはありますか?」

 

ガゼルは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「そうさな……。この近辺だと、まず新米用のFからEランクダンジョン『薄闇の穴』。その奥にDランク区画がある。それと、少し離れた山脈にCランクの『石霊の迷宮』があるな。残念ながらBランクは今、封鎖中だ」

 

ガゼルが一度言葉を切り、ニヤリと笑った。

 

「だが、お前さんたちが満足しそうな場所が一つだけある。街の北西、崖の奥底に鎮座するAランクダンジョン『原初の揺籃(ようらん)』だ」

 

「Aランクダンジョンですか」

 

俺は仲間の顔を見回した。

アルシェは槍を弄り、イシュタルは双銃の調子を確かめ、バルトは拳を鳴らしている。

カグヤは九尾の尾を揺らし、アレスは静かに影の中に手を沈めている。

 

「どうだ、皆。資料解析の合間に、ひと暴れしに行くか?」

 

「ええ、もちろん! 雷を放ちたくてウズウズしていたところよ」

アルシェが不敵に微笑む。

 

「うちも賛成や! Aランクやったら、ちょっとは手応えあるんちゃう?」

イシュタルが陽気に答える。

 

「ちかっぱ楽しみとぉ! 旦那様、また美味しい素材が手に入るかもやけん!」

カグヤも目を輝かせた。

 

「ガハハ! Aランクか、準備運動にはちょうど良さそうだぜ!」

 

バルトの豪快な声がギルドに響き、他の冒険者たちが「Aランクが準備運動だと……!?」と戦慄するのが分かった。

 

「よし、決まりだ。ガゼルさん、その『原初の揺籃』の情報をください。俺たちヴィンクルムはそのダンジョンを攻略させてもらいます」

 

俺の手記の端に、新たな冒険の地が記された。

黄金の都市の真実に触れた俺たちが、次に挑むのは、この世界の「今」が産み落としたダンジョンだ。

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