ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
コボルト・キング討伐から数時間後、ヨシテルは再び冒険者ギルドのカウンターに立っていた。
彼の表情には、激戦を物語るかのような、適度な疲労の跡が偽装されている。
受付のリーファは、ヨシテルが戻ってきたのを見ると、安堵と同時に驚きの表情を浮かべた。
「ヨシテルさん!無事に戻られたのですね!コボルトの巣の破壊、ご苦労様でした。やはり単独で…」
「ああ、なんとか達成できた」
ヨシテルは、ギルドカードと、依頼遂行の証拠である、コボルト・キングの硬い毛皮が付いた頭部の一部をカウンターに置いた。
通常のコボルトの頭部の二倍はある、黒光りする毛皮の塊だ。
リーファは、その巨大な頭部を見て、絶句した。
「こ、これは……コボルト・キング!?なぜ、Fランクの依頼でボスモンスターが!?」
ギルド内にいた他の冒険者たちも、その異様なサイズの魔物の頭部に気づき、ざわめき始めた。
「嘘だろ、あれ、コボルトキングじゃねぇか!」
「Fランクの奴がキングを…単独でだと?」
ヨシテルは、平静を装いながら言った。
「古井戸の地下に集落があり、その中にいたようだ。依頼通り、巣は完全に破壊した。そして、このキングも討伐してきた」
リーファは、顔色を変えて、すぐにギルドカードをスロットに通し、討伐内容の確認を始めた。
「まさか、本当に討伐されていたとは…。確認します!」
レベルアップ(偽装ステータス更新)
リーファがシステムを操作する間、ヨシテルは脳内で『全知全能』のギフトを発動させ、自身の偽装ステータスを更新した。
コボルト・キング討伐という偉業は、彼の「レベル」と「スキルレベル」を大幅に上げ、上位の冒険者としての地位を固める絶好の機会だ。
ヨシテルは、自身のステータスを、以下のように「上昇」させた。
レベル: 15 → 28 (コボルトキング討伐と多量の雑魚討伐による経験値上昇を偽装)
体力 (HP): 325 →550
魔力 (MP): 410 →680
攻撃力 (STR): 302 →520
防御力 (VIT): 288 →490
魔力 (INT): 380 →650
俊敏性 (AGI): 355 →580
幸運 (LUK): 100 → 100 (ここは意図的に上げず、希少性を保つ)
さらに、戦闘で多用したスキルも上昇させた。
光属性魔法: ハイヒーリング →エクストラヒーリングを習得(光属性の回復とデバフ回復の上級魔法を偽装)
火属性魔法: フレイムバースト →フレイムストームを習得(火属性の範囲攻撃魔法を偽装)
双剣術: Lv.4 → Lv.6
これにより、彼の偽装ステータスは、Fランクの枠を遥かに超え、Eランク中盤〜Dランク前半の実力にまで到達した。
リーファの目の前のディスプレイが、更新されたヨシテルの情報を映し出した。
「なっ……!」
リーファは、自分の目を疑った。表示された情報は、数時間前のFランク冒険者のものではなかった。
「レベルが……28!?そして、ステータスも全体的に500台後半に跳ね上がっています!このコボルト・キングの討伐で、これほどの経験値を!?」
彼女の動揺は、ギルド内の騒ぎをさらに大きくした。
Fランク冒険者のレベルが、たった一回の依頼でDランク級にまで急上昇するなど、前代未聞の出来事だ。
リーファは、慌てて討伐報告の処理を完了し、ヨシテルの次のステップに進んだ。
「ヨシテルさん、この驚異的な功績により、あなたはEランクへの飛び級昇格が確定しました!そして、コボルト・キングの討伐は、この街の治安維持上、非常に大きな貢献です」
彼女は、キングの頭部と、ヨシテルがアイテムボックスから取り出した深紅の魔石、そして他のコボルトの魔石を受け取り、査定に入った。
ヨシテルは、深紅のキング魔石をカウンターに置いた瞬間、ギルド内の視線が一斉にそこに集まるのを感じた。
「この魔石と素材の査定、そして、依頼の報酬支払いをお願いします」
リーファは、深紅の魔石に手をかざし、その異様な大きさ、そして濃密な魔力の波動を感知した。
「これは……コボルト・キングの、最上級の魔石!深紅に輝いています…!」
リーファは、その価値の重さに、手を震わせた。彼女一人で判断できる額ではない。
「ヨシテルさん、この魔石はあまりに高額です。通常、このクラスの魔石は、金貨が数十枚単位で動きます。すぐに、鑑定士を呼びますので、少々お待ちください」
ギルドのカウンター周辺は、完全にパニック状態となった。
Fランクの新人による単独でのコボルト・キング討伐、そして驚異的なレベルアップ、そして「深紅の魔石」の存在。この一連の異例の出来事は、ギルドの一室にいるはずの最高責任者の耳にも届いたようだ。
「一体、どうした!?こんなに騒がしいのは、数年ぶりではないか!」
鋭く、重厚な声が響き渡った。
ギルドの奥にある扉が開き、そこから一人の大柄な男性が現れた。
彼は、上質な革の鎧を纏い、顔には深い傷跡があり、歴戦の強者であることを物語っている。
その全身から放たれる圧倒的な威圧感は、Aランクパーティーのベルナールやジンを凌駕するものだった。
彼は、エルドラの街の冒険者ギルドを束ねる最高責任者、ギルドマスター・ガゼルだ。
ガゼルは、ギルドの喧騒の中心であるカウンターへと、真っ直ぐに歩いてきた。
彼が通る道は、冒険者たちが皆、恐れて道を空けた。
ガゼルは、カウンターに置かれたコボルト・キングの頭部と、深紅の魔石、そしてヨシテルの顔を順に見つめた。
「これが、コボルト・キングの頭部だと?そして、その魔石…最上級の深紅。誰がこれを討伐した?」
リーファは、緊張で声を震わせながら答えた。
「マスター! それが、先日登録されたばかりのFランク冒険者、ヨシテルさんです。単独で、コボルトの巣を破壊し、キングを討伐されました」
ガゼルは、ヨシテルを全身で値踏みした。
その目は、まるで獲物を探る猛禽類のように鋭い。
ヨシテルは、ガゼルの威圧感をものともせず、あくまで落ち着いた態度を保った。
彼は、ガゼルのステータスも既に『鑑定』済みだ。
鑑定結果(ギルドマスター・ガゼル)
名前: ガゼル
職業: 剣王(上級職)
レベル: 120
ステータス: HP 1900、STR 2100、VIT 1850、AGI 1500、MP 400、INT 350
属性: 土属性
スキル: 剣王域、鉄壁の守り、鑑定(高レベル)
備考: エルドラの街最強の人物。彼の鑑定スキルは、一般的な偽装を見破る可能性がある。
(レベル120の剣王か。攻撃力は2100。Aランクパーティーのジンをも遥かに凌駕する。そして、鑑定スキルを持っている。これは、最も警戒すべき人物だ)
ガゼルの鑑定スキルは、ヨシテルの偽装ステータスを、ある程度正確に捉えているはずだ。
しかし、ヨシテルが『偽装魔術』で作り上げたステータスと、その裏にある「全知全能」のギフトの存在までは、決して見抜けない。
ガゼルは、ヨシテルに向かって、重々しい声で尋ねた。
「ほう。ヨシテルと言ったか。お前のギルドカードの情報を見た。レベル28、魔法剣士。火と光の二属性。お前は、Fランクにしてはあまりに強すぎる」
「ありがとうございます。私を育ててくれた師匠の教えが、この魔石の硬い魔物にも通用したようです」
ヨシテルは、再び「師匠」という架空の存在を利用して、自身の強さの理由を曖昧にした。
ガゼルは、深く頷いた。彼の表情は、警戒から、強い興味へと変わっていた。
「よかろう。このコボルト・キングの討伐、そして巣の破壊は、この街にとって非常に大きな功績だ。我々ギルドの失態でもあるが、この功績は高く評価する」
ガゼルは、自ら深紅の魔石を手に取った。
「この魔石の価値は、金貨30枚。さらに、依頼報酬、素材の買い取り分を合わせて、金貨33枚と銀貨40枚をお前に支払う。破格の金額だ」
ヨシテルは、その巨額の報酬に冷静に対応した。
「ありがとうございます。ギルドマスター直々の評価、光栄に思います」
ガゼルは、支払いをリーファに任せると、改めてヨシテルに向き直り、真剣な眼差しを向けた。
「ヨシテル。お前のような才能をFランクのままで置いておくわけにはいかない。お前のEランクへの昇格は確定しているが、私は、お前をDランクへの飛び級も視野に入れる。明日、特別昇格試験を受けてもらおう」
「Dランクへの飛び級、ですか?」
Dランクは、この街の中堅冒険者(ベテラン)の域だ。
Fランクから一気にDランクへ飛び級するなど、ギルドの歴史上でも数えるほどしか存在しない異例中の異例だ。
「そうだ。お前の戦闘スタイルは、非常に効率的で、無駄がない。だが、その強さには、まだ謎が多い。私は、お前の真の実力を見極めたい」
ガゼルの目的は、ヨシテルという規格外の才能を、ギルドの管理下に置き、その力を正しく把握することにある。
そして、ヨシテルもまた、ギルドの最高責任者であるガゼルに、自身の「実力(偽装)」を認めさせる絶好の機会だと捉えた。
「分かりました。ギルドマスターのご期待に応えられるよう、明日の試験、全力を尽くします」
ヨシテルは、ギルドマスター・ガゼルの視線を受け止め、強い意志を持って答えた。
これで、ヨシテルの冒険者としての地位は、一気に街のトップクラスへと躍り出ることになる。
そして、彼が持つ「全知全能」のギフトは、さらに深く、この異世界へと根を張っていく。