ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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71話め


第七十一話:剛嵐の終焉と、静岡の薫り

 

 

「グルルルァァァッ!!」

 

 

20階層。

本来なら中ボスが鎮座するはずの広場に、場違いな威圧感を放つ30階層のフロアボス『剛嵐のキマイラ』が咆哮を上げる。

空間を切り裂くような暴風が渦巻き、周囲の岩壁を削り取っていく。

 

「……本来の階層を無視して出てくるたぁ、随分と行儀の悪いワン公じゃねえか」

バルトロスが黄金の盾『アイギス・アエテルナ』を地面に叩きつけ、二割の制限を解除した。

 

ドォォォォン! と、キマイラの暴風を上書きするほどの重圧が広場を支配する。

 

「皆、やるぞ。――オーバーキルで構わん。一瞬で終わらせる」

 

俺の号令とともに、ヴィンクルムの面々が真の実力を解放した。

 

「雷霆(らいてい)よ、敵を穿て。――『極大雷魔法:ケラウノス・ジャッジメント』!」

アルシェラが槍『フルメン・スピクルム』を掲げると、洞窟の天井を突き破らんばかりの巨大な雷柱がキマイラを直撃する。

 

「うちの火遊びは、なめたらあかんで。ごっつい熱いからな? 『炎帝魔法:プロメテウス・フレア』!」

イシュタルの双銃から放たれた極大の火炎弾が、雷に打たれたキマイラの肉体を焼き焦がす。

 

「逃がさんとよ! 浄化の光に消えんしゃい! 『神聖魔法:オーロラ・エクスプロージョン』!」

カグヤの放つ七色の光が、爆発的な衝撃波となってキマイラの残った二つの首を吹き飛ばした。

 

「……仕上げだ。絶影」

アレスが影から音もなく背後に回り、キマイラの心臓を一突きにする。

 

キマイラは、王国の騎士団を全滅させたという威厳を見せる暇すらなく、数秒の間に光の塵へと変わった。

 

「お、おい……見てくれよ。素材がえらいことになってるぜ」

 

バルトロスが指差した先には、キマイラの巨体に見合う巨大な魔石と、嵐を纏ったままの漆黒の毛皮、そして鋭い牙が整然と置かれていた。

 

「へぇ……ダンジョンって、倒すとこうやって素材が『ドロップ』するんやね。今まで気にせんとアイテムボックスに自動回収させてたけど、こうして見ると感心するわ」

イシュタルが魔石を拾い上げて感心したように呟く。

 

「ダンジョンは生きた迷宮だからな。コアが侵入者の魔力を吸収し、代わりに報酬を生成する仕組みだ。……それにしても、SSランクの俺たちが叩くと、出る素材も最高品質になるらしいな」

 

俺たちはキマイラの素材を回収し、マッピングしながら一気に25階層のセーフエリアへと足を進めた。

 

25階層のセーフエリアは、清らかな泉が湧き出る静かな洞窟だった。

俺はそこに『ミスティック・パレス・グランド』を展開した。

 

「ふぅ……。今日は少し疲れたな。……よし、今夜は俺が作る。久しぶりに『和食』が食いたい」

 

俺は『アエテルナ・パントリー』から、魔力によって自動生成された新鮮な食材を取り出した。大根、こんにゃく、牛すじ、そして黒はんぺん。

 

「今夜はな……『静岡の黒おでん』だ」

 

大きな鍋に真っ黒な出汁を張り、じっくりと煮込んでいく。削り粉と青のりをたっぷりとかければ、食欲をそそる独特の香りがリビングに広がった。

 

「わぁ、真っ黒! ばってん、ちかっぱいい匂いのするね!」

カグヤが目を輝かせて鍋を覗き込む。

 

「熱いから気をつけろよ。……ほら、食ってくれ」

 

俺たちはハフハフと熱いおでんを頬張った。牛すじは口の中でとろけ、黒はんぺんの旨味が広がる。

 

「……っ、これ、たまんねえな! この出汁が染みた大根、最高だぜ!」

バルトロスがビールを片手に絶叫する。

 

そんな中、俺はあまりの懐かしさに、つい気が緩んでしまった。

 

「……あぁ、やっぱりおでんにはこれだら。青のりと削り粉かけにゃー、始まらねぇもんで」

 

「「「………………え?」」」

 

リビングが静まり返った。

アルシェラが、カグヤが、イシュタルが、そしてリフィたち精霊までが、俺をじっと見つめている。

 

「よ、ヨシテル……今、なんて言ったの? 『~だら』とか『~もんで』って……」

アルシェラが顔を近づけてくる。

 

「っ……!? い、いや、今のはその……」

 

俺は顔が急速に熱くなるのを感じた。つい、故郷である静岡、沼津の方言が出てしまった。

 

「なんやヨシテル、今の言葉! めっちゃ可愛いんちゃうん!? 『~だら』って何!? もう1回言うてや!」

イシュタルがニヤニヤしながら詰め寄ってくる。

 

「旦那様、顔が真っ赤っちゃん! 何処の言葉やったん? もっと聞かせてくれんね、ばり可愛いっちゃ!」

カグヤまでが悪ノリして、俺の顔を覗き込む。

 

「なのです! マスター、可愛いのです! 『だら』なのです!」

リフィ達までが俺の周りを飛び回り、語尾を真似し始めた。

 

「……うるさい! 飯を食え、飯を! 普通に戻しただろうが!」

 

俺は必死に顔を伏せ、残りの大根を口に押し込んだが、その晩、俺は寝るまで仲間たちに「だら・だら」とイジられ続けることになった。

 

食後、各々が酒を楽しみながら、明日の予定を話し合う。

 

「しかし、ヨシテル。20階層に30階層のボスが出たってことはよ……」

バルトロスが、酔いの回った顔で真面目なトーンになった。

 

「ああ。本来の30階層には今、何が居座っているのか……。あるいは空席なのか」

 

「うちは、もっとエグいのがおる方に賭けるわ。30階層のボスが20階層に『逃げてきた』っていう可能性もあるんちゃう?」

イシュタルの言葉に、場が少し凍りつく。

 

「騎士団を壊滅させたキマイラが逃げ出すような存在……か。もしそうなら、ワクワクするな」

アレスが影の中でナイフを弄びながら笑う。

 

「がはは! まあ、何が出てきても俺たちが叩き潰すだけだ! 30階層のボスがいないならいないで、そのまま最深部までノンストップで行っちまおうぜ!」

 

バルトロスの豪快な一言に、結局みんなで「それもそうか」と笑い合ってしまった。

答えの出ない雑談は、夜が更けるまで続いた。

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