ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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72話め


第七十二話:剛嵐の再来と、瞬神の桜花装束

 

 

「……ふわぁ。よう寝たん。見たことない街の夢を見た気がするんやけど、内容は忘れてしもたなぁ。けど、あれは沼津やったんちゃうかなぁ」

 

朝一番、リビングに現れたイシュタルが欠伸をしながらそう呟いた。昨夜、俺を散々沼津方言でイジり倒した張本人だが、本人は至ってスッキリした顔をしている。

 

「おはよう、イシュタル。さあ、朝飯にしよう。今日は一気に40階層までマッピングを進めるぞ」

 

俺は標準語でピシャリと言い切り、キッチンへ向かった。

昨夜の失態は既に心の「アイテムボックス」に封印済みだ。朝食を済ませた俺たちは、25階層のセーフエリアから再び階層を下り始めた。

 

アレスの索敵とクオーレのマッピング、そしてバルトの突破力により、俺たちは数時間で30階層のボス部屋へと到達した。

昨日、20階層で「逃げ出して」きたはずのボスと戦ったあの因縁の場所だ。

 

「さあ、本来のボスは何が居座っているのか……。開けるぞ」

 

俺が重厚な扉を押し開ける。

そこには、昨日見たのと全く同じ、三つの頭を持つ巨獣が鎮座していた。

 

 

「グルルルァァァッ!!」

 

 

「「「…………またお前かよ(かい)!!」」」

 

 

俺とバルト、イシュタルの声が綺麗に重なった。

 

「なんやコレ! 手ぇ抜きか!? ダンジョンの運営手ぇ抜きにも程があるやろ!」

イシュタルが双銃を構えながら、やる気の見えないツッコミを入れる。

 

《……マスター、解析結果。ダンジョンのフロアボスは、討伐後一時間でリポップ(再出現)する設定のようです。昨日倒したのは階層を逸脱したイレギュラーでしたが、個体としては同一のものが規定位置に戻っただけですね》

 

クオーレの冷静な解説を俺なりの言葉で皆に伝えたら、アルシェラが溜息をついた。

 

「期待して損したわね。昨日の今日で、もう一度戦うなんて……」

 

「ま、素材になるんだ。パパッと終わらせてしまおう」

 

俺が刀の柄に手をかける間もなく、既にキレ気味のイシュタルが『プロメテウス・フレア』をぶち込み、バルトが『アエテルヌス・ベッルム・マッレウス』で中央の頭を叩き潰した。

昨日よりさらに早い、わずか十数秒の出来事だった。

 

「ほな、お疲れさん。はよ素材拾て次行こか!」

 

イシュタルに促され、俺たちは「まあ、ダンジョンなんてこんなもんだよな」と妙に納得しながら、そそくさと31階層への階段を下りていった。

 

そこから先は未知の領域だったが、SSランクの俺たちにとっては、マッピングの作業の方が時間がかかる程度の難易度だった。

夕刻になるであろう頃、俺たちは40階層のボス部屋の扉が見える広場に到着した。

 

「よし、今日はここまでだ。ここで夜営にするぞ」

 

俺が移動要塞テント『ミスティック・パレス・グランド』を展開すると、イシュタルが何やらソワソワし始めた。

 

「なぁヨシテル、今日の晩ごはんやけど、パントリーの食材ウチに選ばしてな」

 

「いいけど、何を作るんだ?」

 

「お好みや! 今日はもう、絶対お好み焼きやないとあかんねん!」

 

俺が『アエテルナ・パントリー』からキャベツ、豚肉、海老、山芋、そして粉末の出汁を取り出すと、イシュタルの目が「炎帝」の如く燃え上がった。

 

「ちょ、待ちぃ! 誰が山芋そんな適当に擦っとんねん! 山芋の粘りは生地の命やで! キャベツの切り方も甘いわ、空気入るように刻まんとあかん!」

 

普段は陽気なイシュタルだが、粉もん(お好み焼き)の話になると別人だ。

 

「ヨシテル! 火加減ちゃんと見ときや! 強すぎても弱すぎてもあかん言うてるやろ! 外カリ中フワに焼くのが一番ええねん。触らんの! まだひっくり返したらあかんで!」

 

「……あ、はい」

 

俺もアルシェラも、イシュタルの「浪速の情熱」に気圧されて、大人しく助手に徹するしかなかった。

だが、苦労して焼き上がったお好み焼きは、パントリー特製の濃厚ソースと相まって、驚くほど美味かった。

 

「……うまっ。イシュタル、うるさかったけど味は文句なしだ」

 

「せやろ! 魂込めて焼いてんねんから!」

 

 

食後のまったりとした時間。

カエルムたちが広いリビングで丸くなり、精霊たちがランタンの光と戯れている。

俺はふと思い立って、アイテムボックスから自作の「新しい装備」を取り出した。

 

「……実は、一回着てみたかったんだよな」

 

俺が部屋で着替えて戻ってくると、リビングにいた全員の視線が釘付けになった。

俺が纏ったのは、全体を漆黒でまとめつつも、金色で抑え気味に桜模様の刺繍を施した小袖と袴。

その上から、鮮やかな桃色と金色の桜が舞い踊り、全体を濃い青色で引き締めた豪華な打掛を羽織っている。

 

「……え、ちょっと……ヨシテル、何それ。凄く似合ってるんだけど」

アルシェラが頬を染めて、まじまじと見つめてくる。

 

「旦那様、ほんなごとばり格好よかぁ! 絵ん中から出てきた貴公子みたいったい!」

カグヤが尻尾をブンブンと振って喜ぶ。

 

「ほう、それが和の正装ってやつか? 派手だが、ヨシテルの鋭い気配に合ってるな」

バルトも感心したように頷く。

 

「いや、正装って訳では無いな。ちょっと気分転換にな。これは『瞬神の桜花文様和装(しゅんしんのおうかもんようわそう)』、見た目だけじゃなくて、ジェネシス級の性能も付与してある」

 

俺は特性を仲間に説明した。

・能力同期: 俺のVIT、AGI、MPの最大値に合わせて無限に成長する。

・物理魔法ダメージ半減: あらゆる攻撃を常時カットする。

・自動清潔・修復: ヨゴレも破れも瞬時に消える。

・俊敏増幅: これにより、俺の『縮地』の発動効率がさらに10倍になる。

 

「打掛の長さも、戦闘で引き摺らないように足首までに調整してあるんだ。……どうだ?」

 

「どうだ、って……反則級に格好いいわよ。イシュタル、あんた鼻血出てない?」

 

アルシェラの言葉に、イシュタルがニヤニヤしながら答え。

 

「出そうやわぁ……。こんなシュッとした男(おのこ)が隣におったら、明日からの冒険、緊張してしゃあないやんか」

 

「何を今更。……さあ、明日はこの装備の初陣だ。40階層のボスがキマイラじゃないことを祈りながら、休むとしよう」

 

俺がそう締めくくると、仲間たちはいつまでも俺の新しい姿を眺めながら、楽しそうに夜のひとときを過ごした。

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