ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
イシュタルの放った紅蓮と虚無の弾丸が、60階層の広大な闘技場を焼き尽くし、影へと沈めた。
再出現したエンペラーオーガ軍団は、彼女の新しい装束『百合文様和装一式』の加速性能の前に、反撃の糸口さえ掴めず霧散した。
「ふふー、えらい嬉しいこと言うてくれるやん。こんなすごいの作ってくれたん? ほんま好きやわ、あんたのこと」
イシュタルが上機嫌に俺の腕に抱きつきながら、拠点である『ミスティック・パレス・グランド』へと戻ってくる。
リビングでは、既に和装へと着替えたアルシェラ、カグヤ、バルトが、互いの新装備の感触を確かめ合っていた。
「さあ、最後はアレスだ。待たせたな」
俺が声をかけると、影のように静かに控えていたアレスが、武器を取り出した。
「ああ。皆の変わりようを見ていたら、流石に期待せずにはいられないよ。これを……俺の武器も頼むよ」
アレスから受け取ったのは、ジェネシス級のワイヤー『絶影の糸(エクリプス・スレッド)』と、短剣『影縫い(シャドウ・ステッチ)』。俺はそれらを手に、制作室へと籠もった。
白狼族のアレスのイメージは、夜を統べる静寂。
そして、誰にも気づかれぬまま獲物の喉元を断つ鋭利な刃だ。
俺はアイテムボックスから、1万年前の魔導都市で回収した「光を喰らう深淵の絹」と、風の精霊王の魔力が結晶化した「嵐の銀糸」を取り出した。
まず、武器の再構築から始める。
『影縫い』を核とし、双剣術に対応させるため二本の短剣へと分断・再構築。一本には風の追撃を、もう一本には闇の浸食を付与。漆黒の刀身には幻想的な波紋が浮かび上がる。
名を『アウラエ・アウェルニー』
腕には、糸を自由自在に操るための暗器手甲を両腕分錬成。
防具は、和の「忍び装束」をベースにした。漆黒の生地に、抑え気味の銀色でベンジャミン(枝垂れ榕樹)の葉を刺繍した小袖とフード付きの忍び服。
その上に、光を一切反射しない特殊加工を施した漆黒の軽装胸当てを装着。
そして、仕上げに羽織る打掛。
全体を気品ある江戸紫で染め上げ、そこには豪華な緑色と銀色のベンジャミンの葉が、風に揺れる枝垂れのように美しく刺繍されている。
足元には消音魔法を組み込んだ漆黒のブーツ。
アレスの銀色の髪が江戸紫の打掛に映える、最高の一式が完成した。
「クオーレ、最後の一仕上げだ。アレスに『双剣術(短剣)』のスキルを最適化して付与してくれ」
《了解、マスター。スキル統合及び最適化……完了しました》
3時間が経過し、俺はリビングへと戻った。
「アレス、これを。……お前のために作った『影』だ」
数分後。
リビングの空気が、まるで夜の闇そのものが凝縮されたかのように一変した。扉から現れたアレスの姿に、バルトが「おぉ……」と声を漏らす。
「……どうかな。少し、派手すぎやしないかい?」
江戸紫の打掛がアレスの銀髪と絶妙なコントラストを生み出し、漆黒の装束が彼の存在を朧げにしている。
「ばりカッコよかけん! アレス、まじで影の王様みたいやけん!」
カグヤが目を輝かせ、イシュタルも「渋いわぁ、アレス。これは女泣かせの格好やで」とニヤリと笑う。
俺はアレスの肩に手を置き、特性を読み上げた。
「ジェネシス級『枝垂れ榕樹文様和装一式』だ」
特性1: AGI/STRに完全同期。
特性2: 『不可視』時間の延長と、感知スキルの完全無効化。
特性3: 攻撃音の消失。
特性4: 『影狼化』時の身体負担ゼロ。AGI/STRを1.2倍に底上げ。
特性5: 家族(ヴィンクルム)には常に見えるが、敵対者にはアレスの意思で視認性を切り替え可能。
特性6: 物理魔法ダメージ半減。自動清潔・修復。鑑定不可。
「……俺の意思で、存在の濃淡を変えられるのか。これは、暗殺者にとっては神の力に等しいよ。ありがとう、ヨシテル」
「ああ、それと『双剣術(短剣)』も馴染ませておいた。……さあ、試してみようか」
5度、60階層のボス部屋。扉が開くと同時に、アレスの姿が「かき消えた」。
パーティーメンバーである俺たちの目には、紫の残光を引いて走るアレスがはっきりと見えているが、エンペラーオーガたちは何が起きているのか全く理解できていない様子だった。
シュンッ、シュンッ!
音もなく。
ただ風が撫でるような速さで、2本の短剣がオーガたちの急所を正確に断切っていく。
アレスの手甲から伸びた『絶影の糸』が、逃げようとするマジックオーガを絡め取り、そのまま影の中に引きずり込んだ。
「――『影狼化』。……終わりだ」
アレスが呟いた瞬間、巨大な狼の影が闘技場を覆い、実体化した影の刃がエンペラーオーガを千切りにした。
断末魔の叫びさえ、アレスの『消音』の特性によってかき消され、広場には静かな塵の舞う音だけが残った。
「……完璧だ。手応えすら感じさせないほど、刃が通る」
アレスが短剣を鞘に収め、フードを取って戻ってきた。
ボス部屋の入り口に戻り、俺たちは『ミスティック・パレス・グランド』のリビングで最高のディナーを囲んだ。
今夜の酒は、俺がアイテムボックスから取り出した極上の大吟醸だ。
「ガハハ! 見ろよ、全員お揃いの和装だぜ! こんなに強くて粋なパーティー、世界中どこを探したっていねえ!」
バルトが豪華な大鎧を鳴らしながら、白金貨を積み上げたような酒坏を掲げる。
「ほんまそれや! アルシェラの雷、カグヤの光、バルトの土、ウチの炎、アレスの闇。……全部ヨシテルがギュッと一つにしてくれたんや。この絆(ヴィンクルム)、誰にも壊せるわけないやろ!」
イシュタルが頬を赤くして笑う。
「旦那様、本当にありがと。この服は一生大事にせんとね!」
カグヤが幸せそうに俺の隣に座り、打掛の椿の刺繍を愛おしそうに撫でる。
アルシェラも、銀の胸当てを指でなぞりながら静かに微笑んだ。
「明日はいよいよ70階層ね。この新しい装備があれば、どんな困難も乗り越えられる気がするわ」
「ああ。明日はこのダンジョンの核心へ踏み込む。……今夜はゆっくり休もう」
俺たちは酒を酌み交わし、自分たちの強さと絆に酔いしれながら、語り合った。
外は深いダンジョンの闇。だが、パレスの中は家族の温かさと、明日への高揚感に満ち溢れていた。
俺は、月光のような魔導灯の下で輝く仲間たちの和装を眺め、静かに眺めた。