ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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80話め


第八十話:絹の安らぎと、死者が蠢く迷宮

 

 

昨夜、アレスの隠密演武を終えて『ミスティック・パレス・グランド』へ戻った俺たちは、最高の大吟醸で祝杯を挙げた。

全員がジェネシス級の和装を纏い、その絆を再確認した夜。だが、寝る直前に俺は「忘れていた物」を思い出し、皆をリビングに集めた。

 

「悪い、寝る前にこれを渡しておきたかったんだ」

 

俺がアイテムボックスから取り出したのは、最高級の魔導絹を惜しみなく使った、肌触りの良い寝巻き用の小袖だった。

 

「わあ……凄く滑らか。これもヨシテルが作ったの?」

 

アルシェラが、黒地に金色のサンダーベルが刺繍された小袖に触れて目を細める。

 

「ああ。皆の色と、新調した和装と同じ花の刺繍を入れておいた。アルシェはサンダーベル、カグヤは白に椿、バルトは緑に蓮、イシュタルは赤に百合、アレスは江戸紫にベンジャミン。俺のは濃い青に桜だ」

 

「旦那様、まじ嬉しかっちゃけど!刺繍もバリ綺麗やん!」

 

カグヤが白い小袖を抱きしめて喜ぶ。

さらに、俺はリフィたち精霊にはそれぞれの属性刺繍を入れた「絹の布団セット」を、カエルムたちには属性刺繍入りの「大型絹クッション」を渡した。

 

「なのです! ふわふわなのです!」

 

リフィたちが布団にダイブし、カエルムたちもクッションの感触に満足げに喉を鳴らす。

 

「……じゃあ、明日に備えてゆっくり休もう」

 

最高級の絹に包まれた夜は、ダンジョンの中とは思えないほど深く、穏やかな眠りをもたらした。

 

翌朝、パントリーで生成された新鮮な食材で作った朝食を済ませた俺たちは、気合を入れ直して銀の扉を開いた。

 

「グルアァァッ!!」

 

「……はいはい。おはよう、エンペラーオーガ君」

 

もはや恒例行事となった1時間のリポップ。

俺たちは慣れた手つきで、しかし昨日よりもさらに洗練された連携で軍団を文字通り「掃除」した。もはや誰も驚かないスピードで素材を自動回収し、俺たちはその奥にある下層への階段へと足を踏み入れ。

 

61階層へ降り立った瞬間、空気が一変した。

これまでの石造りの回廊とは異なり、壁には不気味な苔が蒸し、腐敗臭ではないが、どこか乾燥した古い埃のような匂いが漂う。

 

「……ここ、なんか嫌な感じがするわね」

 

アルシェラが眉をひそめ、雷花文様和装の肩をすくめる。

 

 

カタカタ……ガチャガチャ……。

 

 

暗闇から現れたのは、手に錆びた剣を持った無数の骸骨――スケルトンの群れだった。

 

「うわっ、骸骨やん! 気持ち悪いわぁ……」

 

イシュタルが嫌悪感を露わにしつつ、双銃『ストロペトゥム・ノクティス・リリウム』を構える。

 

「がはは! 骨なら砕くだけだぜ!」

 

バルトが野太刀『長船光法』を振るい、一撃で十数体のスケルトンを粉砕した。

だが、バラバラになった骨は地面でガタガタと震え、再び結合して立ち上がる。

 

「えっ、再生するん!? めんどくさ!」

 

イシュタルが魔弾を叩き込むが、物理的な衝撃だけではすぐに復活してしまう。

 

「クオーレ、解析してくれ」

 

《了解、マスター。対象は負の魔力によって仮初めの命を与えられたアンデット個体です。

物理耐性が高く、核となる魔力を散らさない限り無限に再生します。光属性、または聖属性の攻撃が有効です》

 

「カグヤ、出番だ!」

 

「任せんしゃい! 皆のために、お掃除するけんね!」

 

カグヤが巫女袴を翻し、魔杖『ウィルガ・アエテルナ』を掲げる。

 

「――『神聖魔法:オーロラ・パニッシュメント』!」

 

眩い光が通路を駆け抜けると、スケルトンたちは再生することなく塵となって消え去った。

その場に「ボンッ!」という音と共に、骨の素材と魔石がドロップする。

 

「……素材は出るのね。骨だけど」

 

アルシェラが呆れ顔でそれを眺める。

61階層のボス『スケルトンキング』も、カグヤの浄化魔法の前にひれ伏し、俺たちはマッピングを完了させて62階層へと急いだ。

 

62階層は、さらに過酷だった。

通路に満ちるのは、死肉の腐敗臭。

現れたのは、ぬらぬらと光る腐肉を纏ったゾンビの群れ――グレーターゾンビたちだ。

 

「……もう最悪。ウチ、こういうの本当に無理!」

 

アルシェラが真顔で一歩下がる。

女性陣にとって、この階層は精神的なデバフが凄まじいようだ。

 

「物理で斬っても肉が弾けるだけだし、再生も早いな」

 

アレスが短剣を構えるが、ゾンビの肉に刃が吸い込まれる感触に不快感を示している。

 

「こいつらには火だ。イシュタル、焼き尽くしてくれ」

 

「言われんでもそうするって! こんなん、一匹も残さんと消し炭にしたるわ。――『極大火炎魔法:インフェルノ・プロミネンス』!!」

 

イシュタルがキレ気味に放った劫火が、通路を埋め尽くすゾンビたちを瞬時に炭化させた。

「ボンッ!」という音と共に、ドロップしたのは『腐った肉』ではなく、浄化された『魔導の肉質』や『高品質な革』。

 

「……倒せば綺麗になるのね。少し安心したわ」

 

アルシェラが胸を撫で下ろす。

62階層のボス『グレーターゾンビ・ロード』も、イシュタルの怒りの火炎によって、断末魔を上げる暇もなく焼き尽くされた。

 

「クオーレ、現在の進捗は?」

 

《現在62階層踏破。全階層のマッピング率は順調です。……マスター、次の階層より、魔力波形にさらに不純な混じり気を確認。警戒を強めてください》

 

「ああ。……行くぞ皆。嫌な階層が続くかもしれないが、俺たちの和装に汚れは付かせない。俺が神速で道を切り開く」

 

俺は、さらなる下へと続く階段を見据えた。

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