ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
62階層の腐肉の王を焼き尽くし、俺たちはさらなる深淵へと足を進めた。
マッピングを継続しながら階段を下りると、そこには63階層が広がっていた。
空気は一段と冷え込み、湿り気を帯びた不快な風が回廊を吹き抜ける。
「クオーレ、63階層の敵個体を識別してくれ」
《了解しました。63階層、主要敵対個体――『グール』の群れ。ゾンビよりも高い俊敏性と、麻痺毒を持つ爪に注意が必要です》
「グールか。ゾンビの次は食屍鬼ね……本当にアンデッド尽くしなんだから」
アルシェラが嫌そうに槍を引き抜く。
「旦那様、ここはアタシたちがやるよりも、精霊さんたちの力ば見せてもらうのはどげんね?」
カグヤの提案に、俺は頷いた。
「いいな。リフィ、アクア、リザーナ。それに皆の精霊たちやカエルムたち、存分に暴れてこい」
俺の言葉に応えるように、俺たちの周囲を舞っていた精霊たちが一斉に前線へと飛び出した。
暗闇から凄まじい速度で這い寄ってくるグールの群れ。だが、それよりも早く精霊たちが動く。
「いくよ、皆! 風の刃で切り刻んじゃうのです!」
風の精霊女王リフィが小さな手を振ると、目に見えぬカマイタチが通路を埋め尽くし、グールたちの四肢を瞬時に切断した。
「痺れさせてあげるわ! ライラ、全力全開!」
アルシェラの言葉に雷の精霊ライラが激しい放電を放ち、グールたちを硬直させる。
「がはは! 土の重み、思い知らせてやるぜぇ!」
バルトにそっくりな豪快な笑い声を上げる土の精霊グラディが、重力魔法でグールたちを地面に叩き潰した。
「うちの火遊びはごっつい熱いでぇ! 逃がさへんからな!」
イシュタルと同じ方言で叫ぶ火の精霊フレイヤが、獄炎を振りまいて残党を焼き払う。
さらに、フェンリルのテラとアウラが影から飛び出し、属性を纏った爪でグールの核を引き裂いていく。
ドロップ品が「ボンッ! ボンッ!」と景気よく鳴り響き、アイテムボックスへと吸い込まれていった。
63階層のボス部屋。そこにいたのは、3メートルを超える巨大な肉の塊『グール・キング』だった。
「ここは俺たちが締めくくる。リフィ、アクア、リザーナ、合わせるぞ」
俺が和装の袖を翻すと、3人の精霊が俺の周囲に集まった。風、水、氷――3つの属性が俺の魔力を核にして混ざり合っていく。
「「「せーのっ!!」」」
「――合成極大魔法:『氷嵐の審判(アイシクル・ヴォルテックス・ジャッジメント)』!!」
リフィの風がアクアの水を霧に変え、リザーナがそれを一瞬で絶対零度の刃へと変える。
吹き荒れる氷の嵐は、グール・キングを瞬時に結晶化させ、その肉体を分子レベルで粉砕した。
ボシュンッ! という巨大な音と共に、レジェンド級の魔石と素材がドロップする。
「お見事やん、ヨシテル! 精霊さんたちとの相性バッチリやな!」
イシュタルが感心したように声を上げた。
続く64階層。
ここは視認すら困難な霊体系、ゴーストとレイスの階層だった。
物理攻撃が透過してしまう厄介な敵に対し、女性陣がまたしても嫌な顔をする。
「透けてるなんて……攻撃が当たる気がしないわ」
アルシェラが愚痴る。
「……じゃあ、俺がこの階層ごと片付ける。皆は下がっていてくれ」
俺は通路の中央に立ち、片腕を高く掲げた。
魔力を練り上げる。瞬神の桜花文様和装が、俺の意思に応えて魔力を極限まで増幅させる。
「氷魔術、光魔術――二重合成展開。……『瞬影:氷華桜吹雪(ひょうかさくらふぶき)』」
俺が指を弾いた瞬間、64階層の全ての通路に「凍てつく桜の花びら」が舞い散った。
だが、その花びら一枚一枚が、光属性を帯びた絶対零度の氷塊だ。
「……綺麗……」
カグヤが呆然と見上げる中、舞い散る桜吹雪は壁を透過しようとしていたゴーストやレイスたちを逃さず捉えた。
光によって実体化を強制され、氷によって魂ごと凍てつく。
64階層全体が真っ白な結晶に覆われ、数千、数多のアンデッドが、断末魔を上げる間もなく「ボンッ!」という素材のドロップ音と共に消滅した。
マッピングを一気に完了させ、ボス部屋へ。
そこにいたのは、禍々しい魔導書を持つ上位死霊『アーク・リッチ』だった。
「最後はアルシェラ、カグヤ、イシュタル。お前たちの混合魔法を試してみるか?」
俺の言葉に、3人が前に出る。
「雷霆よ!」
「浄化の光を!」
「業火に抱かれろ!」
雷、光、火。三つの極大属性が螺旋を描き、アーク・リッチへと叩きつけられる。
「――三属性混合極大魔法:『天焦がす神罰(トリニティ・レイド)』!!」
リッチの張っていた幾重もの防御障壁は紙細工のように破られ、その存在は灰すら残さず消失した。
「ボンッ!」
景気のいい音と共に現れたのは、レジェンド級の魔導書と、深淵の輝きを放つ大魔石だった。
「ふぅ……。アンデッド階層も、あと少しや。次は六十五階層やね」
イシュタルが銃を収める。
俺たちはマッピングのログを確認し、ドロップした大量の素材に満足しながら、さらに深い闇へと続く階段を見据えた。