ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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82話め


第八十二話:死の軍勢と、驚愕の百鬼夜行

 

 

64階層の死霊賢者を、アルシェラ、カグヤ、イシュタルの三属性混合極大魔法で塵に帰した俺たちは、マッピングの手を止めることなく次なる階層、65階層へと足を踏み入れた。

階段を下りるごとに、大気に混ざる負の魔力が濃密になっていく。

これまでの階層が「死者の蠢き」だとするならば、ここから先は「死者の軍隊」と呼ぶに相応しい殺気が漂っていた。

 

「クオーレ、六十五階層の敵個体をスキャンしてくれ」

 

《了解。前方、及び回廊全域に高エネルギー反応。個体識別――Sランク『デスナイト』、及びSランク『デスマジシャン』の混成部隊。数は……数百を超えます》

 

「Sランクが群れてるのか。普通の冒険者ギルドが見たら絶望して逃げ出す光景だな」

 

俺がそう呟くと、バルトが野太刀『長船光法』を肩に担ぎ、漆黒の蓮華文様楯無大鎧をガシャリと鳴らした。

 

「がはは! 面白れえじゃねえか。雑魚をいくら蹴散らしても退屈だったんだ。死んでる連中に、もう一度引導を渡してやるぜ!」

 

回廊の先から、規則正しい足音が響いてくる。

現れたのは、禍々しい漆黒の重鎧に身を包み、腐敗した愛馬に跨るデスナイトの騎兵隊。

そしてその後方には、宙に浮きながら禁忌の呪文を唱え続けるデスマジシャンたちが控えていた。

 

「来るわよ! ライラ、準備はいい!?」

 

「いつでもいけます、アルシェラ!」

 

アルシェラの雷の精霊ライラが激しく放電し、白銀の雷帝聖鎧が青白い火花を散らす。

 

 

「グルアァァァッ!!」

 

 

デスナイトたちが一斉に突撃を開始する。

個体としての実力は、かつて王国の騎士団を全滅させたというキマイラにも匹敵する。

だが、今の俺たちには「数が多い面倒な敵」でしかなかった。

 

「バルト、受け止めろ! カグヤ、後衛の魔法を封じるぞ!」

「おうよ! 『絶対防御』展開!!」

 

バルトが黄金の盾『アイギス・アエテルナ』を地面に突き立てると、蓮の文様が刻まれた巨大な防御フィールドが周囲を覆う。

デスナイトたちの魔槍が次々とフィールドに弾かれ、火花を散らす。

 

「任せんしゃい! 光の鎖よ、悪か事する手ば縛りんしゃい! 『神聖魔法:ホーリー・バインド』!」

 

カグヤが椿彩の打掛を翻し、無詠唱で放たれた光の鎖がデスマジシャンたちの杖を絡め取り、その魔力行使を物理的に封殺した。

 

「ほな、掃除の時間やな! 『炎帝魔法:プロメテウス・バラージ』!」

イシュタルの双銃から放たれた無数の火炎弾が、身動きの取れなくなった敵軍を次々と爆砕していく。

 

 

「ボンッ!」「ボンッ!」「ボンッ!」

 

 

Sランク個体だけあって、ドロップする素材も『死騎士の暗黒鋼』や『死導師の魔導核』など、レジェンド級に近い希少品ばかりだ。

それらが自動回収のログとして俺の視界を埋め尽くしていく。

 

順調にマッピングを進めていたその時、クオーレが警告を発した。

 

《マスター、進行方向右側の広間に、異常な密度の生命、及び死霊反応を感知。……この構造、いわゆる『モンスターハウス』に該当します。このダンジョンでは初の確認例です》

 

「モンスターハウスだって? この『原初の揺籃』にもそんな場所があったのか」

 

俺は立ち止まり、重厚な石の扉を見上げた。

これまでの階層には無かった隠し部屋のような場所だ。

 

「ヨシテル、どうするの? 無視して進むこともできるけど」

アルシェラが尋ねる。

 

「……いや、面白そうじゃないか。新しい和装の性能を試すには絶好の舞台だろ?」

 

「がはは! 賛成だ! 狭い場所にぎゅうぎゅう詰めになってるなら、まとめてなぎ倒せるしな!」

バルトが身を乗り出す。

 

俺は扉に手をかけ、一気に押し開いた。

 

「――開演だ。皆、好きに暴れろ!」

 

扉の先は、野球場ほどもある巨大なホールだった。

そこには、デスナイト、デスマジシャンに加え、ボーンゴーレムやデュラハンといった上級アンデッドが、隙間もないほどにひしめき合っていた。

 

 

「「「「ギョアァァァァァッ!!!」」」」

 

 

数千という化け物の叫びがホールを揺らす。

だが、俺たちの瞳に宿るのは、恐怖ではなく高揚だった。

 

「バルト、ヘイトを稼げ!」

 

「任せろ! 『(ウォー・クライ)』!!」

バルトが胸を張り、大気を震わせる咆哮を放つ。

 

その瞬間、ホール中のアンデッドたちの目が赤く輝き、一斉にバルトへと殺到した。

 

「カエルム、ルーナ、テラ、アウラ! お前たちも行くんだ!」

 

「「ガゥッ!!」」

 

フェンリル親子が四方へ散り、氷、光、土、雷の魔力を纏った爪で、敵軍の防波堤を切り裂いていく。

 

「なのです! リフィも風で吹き飛ばしちゃうのです!」

 

風の精霊女王リフィが巨大な竜巻を発生させ、アンデッドたちを空中へと放り出す。

 

「ウチらも負けてられへんな! フレイヤ、全力で行くでぇ!」

 

「当たり前や! 焼き尽くしたるわ!」

 

イシュタルと火の精霊フレイヤが呼応し、地獄の業火でホールを赤く染め上げる。

 

俺は打掛を翻し、二倍の発動効率となった『縮地』で敵陣のど真ん中を駆け抜けた。

 

「――『瞬影:千本桜(せんぼんざくら)』」

 

俺が通り過ぎた軌跡に、光り輝く氷の桜花が舞い、それが触れた敵を次々と浄化し、粉砕していく。

 

 

数十分後。

 

 

あれほどひしめき合っていたアンデッドの軍勢は、一匹残らず消滅していた。

広大なホールには、山のような魔石と素材が、まるで絨毯のように敷き詰められていた。

 

「……ふぅ。いい準備運動になったな」

 

「これが準備運動って、他の冒険者が聞いたら卒倒するわよ……」

アルシェラが呆れながらも、新しい和装の汚れ一つない袖を満足げに眺めている。

 

モンスターハウスで手に入れた膨大な戦利品を整理しながら、俺たちは65階層のボス部屋の前に辿り着いた。

ここまでの激闘(俺たちにとっては一方的だったが)で、流石に腹も減った。

 

「よし、今日はここまでだ。ここで夜営にする」

 

俺は『ミスティック・パレス・グランド』を展開した。

広大なリビングにあるソファに皆がどさりと座り込む。

 

「旦那様、今日のご飯はなんね? アタシ、焼肉でもお好み焼きでもバリバリ食べられるよ!」

カグヤが期待に満ちた目で俺を見つめる。

 

「そうだな……。今日はパントリーから最高級の鴨肉を出して、『鴨南蛮そば』にでもするか。和装にも合うだろ?」

 

「鴨肉! ええなあ、ウチ大好きやわ!」

イシュタルが目を輝かせる。

 

俺はキッチンに立ち、出汁の香りを漂わせながら、明日の攻略を考える。

 

65階層を抜ければ、いよいよ70階層までカウントダウンだ。このダンジョンの最深部で、俺たちを待っているのは何なのか。

 

「バルト、盾の感触はどうだった?」

 

「ああ、最高だ! 楯無の鎧と盾のおかげで、防御に回る必要がねえ程、防御と攻撃を両立出来る。攻めにも振る事ができるのがこんなに気持ちいいとは思わなかったぜ!」

 

仲間の頼もしい言葉を聞きながら、俺は温かい蕎麦を器に盛り付けた。

パレスの中は、今日も家族の笑い声と、和食の優しい香りに満たされていた。

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