ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
65階層の夜が明け、俺たちは『ミスティック・パレス・グランド』のリビングで朝食を囲んでいた。
パントリーから自動生成された炊き立ての飯に、脂の乗った焼き魚、そして出汁の利いた味噌汁。
和食の香りが、戦いを前にした緊張感を程よく解きほぐしてくれる。
「ふぅ……。やっぱり朝は和食に限るな」
「旦那様、お代わりはいかがね? まだまだバリバリ食べて、ボスばやっつけんといかんよ!」
カグヤが甲斐甲斐しく俺の茶碗を覗き込む。
「ああ、ありがとう。……さて、皆、準備はいいか。今日は六十五階層の主を叩く」
「準備万端よ。新しい和装の馴染みも完璧。雷帝の力、見せてあげるわ」
アルシェラが不敵に微笑む。
「ウチもや! あの骨の軍団、まとめて消し炭にしたるからな!」
イシュタルが双銃を弄び、隣で火の精霊フレイヤが「せやせや、派手に行こうや!」と気炎を上げる。
食後、俺たちはパレスをアイテムボックスへ収納し、目の前の巨大な黒石の扉へと向き直った。
重厚な扉が地響きと共に開き、冷気が吹き抜ける広大な石造りのドームへ足を踏み入れる。
そこには、肉を持たず、禍々しい負の魔力で繋ぎ合わされた巨大な骨の塊が三体、鎌首をもたげていた。
「クオーレ、解析を頼む」
《了解。個体識別――SSランク『スケルトンドラゴン』。計三体。特性:中級以下の魔法無効、物理耐性:極大。負の魔力供給が続く限り、骨が粉砕されても即座に自己修復を行います》
「SSランクが三体同時か。骨の分際で随分と豪華な布陣だな」
俺が呟くと同時に、中央の一体が巨大な尾を叩きつけた。
「危なっ! ヨシテル!」
アルシェラの叫びが響くが、その速度は想定を上回っていた。
ドォォォォォン!!
「がっ……!?」
回避が間に合わず、俺の体は弾き飛ばされた。
ジェネシス級装束『瞬神の桜花文様和装』の物理ダメージ半減特性が即座に発動したが、衝撃までは殺しきれない。
俺は闘技場の太い石柱を三本、文字通り粉砕しながら壁までぶち抜かれ、瓦礫の山に埋もれた。
「ヨシテル!!」
アルシェラとイシュタルが悲鳴に近い声を上げ、カグヤが杖を構えて駆け寄ろうとする。
「マジかよ……あのヨシテルが吹っ飛ばされた……!?」
バルトが盾を構え直し、アレスが影の中で目を見開く。
静寂。
そして、瓦礫の山が内側から爆ぜた。
「……あー、痛てぇな。クソトカゲが」
立ち上がった俺の周囲には、これまでの冷静な魔力とは質の異なる、狂おしいほどのプレッシャーが渦巻いていた。
顔を上げた俺の瞳は、普段の漆黒から、深淵を覗くような鮮血の赤へと変色している。
「ヨシテル……?」
アルシェラがその気配に息を呑む。
「アルシェ、カグヤ、イシュタル。……心配すんな。少し、ムカついただけだ」
仲間へ向ける声はいつも通りのトーンだが、視線の先にいる骨の龍たちを見る目は、完全に獲物を解体する「狩人」のそれだった。
「リフィ、アクア、リザーナ。……集まってくれ」
「「「はい、マスター!!」」」
俺の怒りに呼応し、三人の精霊が寄り添う。風、水、そして絶対零度の冷気が俺の周囲で螺旋を描く。
「おい、骨クズ。……テメェらは、バラバラになるんじゃねぇ。……粒子にすら残さず消してやる」
俺は地面を一歩踏み出した。二倍効率の『縮地』は、もはや空間そのものを跳躍している。
「――『合成極大魔術:フロース・ケラスィ・ウォリタンス』!!」
俺が和装の袖を大きく翻すと、闘技場全体に猛烈な吹雪が吹き荒れた。
だが、その雪はただの氷ではない。
俺の属性増幅と精霊たちの加護を受けた、光り輝く氷の桜花だ。
舞い落ちる数万の桜の花びらが、先ほど俺を打ったスケルトンドラゴンの巨体に触れる。
「ガ、アアアァ……ッ!?」
骨の龍が咆哮を上げようとしたが、喉の奥までが瞬時に凍りついた。
桜の花びらが触れた箇所から、瞬く間に絶対零度の結晶が侵食し、SSランクの魔物の巨体を一瞬で巨大な氷像へと変えた。
「再生する隙も、動く隙も与えねぇ。……次だ」
赤い瞳を細め、俺は残る二体を見据えた。