ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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85話め


第八十五話:砂塵の階層と、爆炎の反省会

 

 

65階層。

 

かつて闘技場と呼ばれていた場所は、いまや見る影もない。

俺とイシュタルが引き起こした水蒸気爆発は、アンデッドのスケルトンドラゴンを消滅させただけでなく、ダンジョンの岩盤そのものを数階層にわたって垂直に地上までぶち抜いてしまった。

静寂が戻った灰色の空間で、俺は立ち尽くしていた。

 

「……やりすぎたか?」

 

独り言のように呟いた俺の背中に、冷ややかな、それでいて呆れ果てた視線が突き刺さる。

 

「やりすぎたか? じゃないわよヨシテル! あなた、自分が何したかわかってるの!?」

アルシェラが、汚れ一つない袖を振り乱しながら詰め寄ってきた。

 

「そうたい! 旦那様、天井に穴が開いてお星様が見えよるばい!? ここ地下六十五階層よ!?」

カグヤも、九つの尻尾を逆立てて抗議する。

 

「がはは! いやぁ、俺の『絶対防御』がギチギチ鳴ったときは、流スタンスに三途の川が見えたぜ!」

バルトは笑っているが、その額には冷や汗が流れている。

 

「……すまん。あいつの尻尾がな、俺にまともに入って……壁まで吹っ飛ばされただろ? あの瞬間、ちょっとこう……頭の芯がカッとなってキレてしまった」

 

俺は内心で深く自己反省していた。

ジェネシス級の装束のおかげでダメージこそ最小限だったが、柱をなぎ倒しながら壁に叩きつけられた衝撃が、俺の「冷静沈着」という仮面を粉々に砕いてしまったのだ。

 

「ブチ切れてダンジョンを消し飛ばすなんて、あんたは魔王か何かか!」

 

イシュタルのツッコミに、俺は返す言葉もなかった。

 

俺たちは、大穴の空いた六十五階層を後にし、マッピングを継続しながらさらに下層へと降りた。

幸いなことに、六十六階層からは打って変わって普通の石造りの迷宮に戻っていた。

 

「……ようやく落ち着いたわね」

アルシェラが安堵の息を漏らす。

 

66、67、68、そして69階層。現れる魔物はランクこそ高いが、今の【ヴィンクルム】の敵ではない。

新調した和装の性能を確認するように、アルシェラの雷が走り、バルトの野太刀『長船光法』が空間を断ち、アレスが死を振りまく。

俺も冷静さを取り戻し、刀を振るって敵を素材へと変えていった。

 

「素材回収、絶好調やな! ログが止らへんわ」

イシュタルが双銃を回しながら、順調な進軍を喜ぶ。

 

そして、俺たちはついに、下の階層へ続く階段へと辿り着いた。

 

重厚な扉を開けた瞬間、熱風が俺たちの頬を叩いた。

 

「……何、これ。砂漠?」

アルシェラが目を細める。

 

目の前に広がっていたのは、ダンジョンの中とは思えない広大な砂漠エリアだった。

頭上には人工的な太陽のような光球が浮かび、見渡す限りの砂丘が黄金色に輝いている。

 

「ちかっぱ暑かばい……。湿り気が全然なか」

カグヤが眉をひそめて扇を仰ぐ。

 

「よし、とりあえず今日はここまでだ。この砂漠の入り口付近に陣を敷くぞ」

 

俺は『ミスティック・パレス・グランド』を設営した。

だが、砂漠特有 of 砂嵐がテントに吹き付ける。

 

「バルト、グラディ。出番だ」

 

「おう、わかってるぜ!」

バルトと土の精霊グラディが魔力を練り上げる。

 

 

「『土魔術:堅牢土壁』!!」

 

 

テントを囲むように、分厚い半円形の土の壁がせり上がる。

 

 

「仕上げは俺がやる。『氷魔術:絶零氷壁』」

 

 

さらにその外側に、俺が高い氷の壁を構築した。

 

「これで砂対策と冷却は万全だろ。さあ、中に入ろうぜ」

 

テント内部は、外の酷暑が嘘のように魔法の冷房で涼しく保たれていた。

俺たちはリビングに集まり、パントリーから出したキンキンに冷えたビールと、最高級の和牛を取り出した。

 

「ぷはぁー!! 生き返るわぁ!」

イシュタルがジョッキを一気に飲み干す。

 

「なのです! 暑い後の冷たい飲み物は最高なのです!」

リフィも小さなコップでジュースを飲んで跳ねている。

 

今日のメインは、厚切りのステーキと、砂漠の夜にふさわしいスパイスの効いた焼肉だ。

俺も肉を頬張り、喉を鳴らしてビールを流し込む。

 

「……で、ヨシテル」

バルトが、巨大な肉を噛み切りながらニヤリと笑った。

 

「改めて言うが、あの65階層の爆発、マジでヤバかったぜ。ダンジョンがあんな形に壊れるのを初めて見た」

 

「ほんまやで。ウチも火魔法は得意やけど、水蒸気爆発であそこまで階層ぶち抜くなんて、発想が狂ってるわ」

イシュタルが笑いながら突っ込む。

 

「……いや、ほら。ダンジョンってのはコアを媒介にして生きてるようなもんだろ? ああいう穴も、時間が経てば魔力で勝手に塞がるさ。多分な」

 

俺が淡々とそう言うと、アルシェラが額を押さえた。

 

「『多分な』じゃないわよ! ギルドが調査に入ったら、天変地異が起きたって大騒ぎになるわ。……全く、ヨシテルがこれじゃ先が思いやられるわね」

 

「アタシは旦那様のそげん豪快なところも好きばってん、次は事前に教えてほしいばい。心の準備が必要たい」

カグヤが俺の腕をペシペシと叩く。

 

「……悪かった。次は、せめて三カウント数えてからにする」

 

「数える前に止めてちょうだい!」

 

アルシェラの叫びに、リビングが笑い声に包まれた。

 

夜は更けていく。

氷と土の壁に守られたテントの中で、俺たちは気の済むまで酒を酌み交わした。

 

この先にあるボス部屋に向けて、俺たちの絆は、今日流した汗と酒の分だけ、また一段と深まった気がした。

 

「よし、明日は砂漠越えだ。今日はしっかり寝よう」

 

俺たちはそれぞれの個室へと戻り、肌触りの良い絹の小袖に着替えて、深い眠りへと落ちていった。

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