ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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86話め


第八十六話:天を穿つ衝撃と、戦慄の地上

 

 

物語は、ヨシテルが65階層で「水蒸気爆発」を引き起こしたあの瞬間に遡る。

地下深くで圧縮された魔力が、水と火の融合によって一気に膨張し、岩盤を紙細工のようにぶち抜いたその時。

地上のエルドラの街は、未だかつて経験したことのない恐怖に包まれていた。

 

 

 

ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

夜の静寂を切り裂く、腹に響くような轟音。

それと同時に、大地が生き物のように激しくのたうち回った。

 

「な、なんだ!? 地震か!?」

 

「空を見ろ! 崖の方から火柱……いや、白い煙が上がってるぞ!」

 

エルドラの街の住民たちは家を飛び出し、夜空を指差して叫んだ。

街の北西、険しい崖の底に位置するAランクダンジョン『原初の揺籃(ようらん)』の方角から、巨大な光の柱が天高く突き抜け、その後に巨大な噴煙が立ち昇っていた。

 

ギルド支部内では、書類が散乱し、魔力測定用の魔道具が異常値を告げる警報を鳴らし続けていた。

 

「おい! 状況を報告しろ! 震源地はどこだ!?」

 

ギルドマスターのガゼルが、机を叩きながら怒鳴る。

その顔には、歴戦の冒険者である彼にしては珍しく、隠しきれない焦燥が浮かんでいた。

 

「だ、駄目です! 崖の方角から凄まじい魔力反応が検出されていますが、既存の魔法体系のどれにも該当しません!」

 

「街の北西……『原初の揺籃』のすぐ近くです! 職員数名が偵察に向かいました!」

 

ガゼルは窓から立ち昇る煙を見つめ、歯噛みした。

 

「あのダンジョンに異変があったというのか……? クソッ、俺も行く! 総員、非常召集だ!」

 

ガゼルがギルドの精鋭職員たちと共に崖の麓へ駆けつけた頃、そこには既に異様な光景が広がっていた。

本来なら固い岩盤と森に覆われているはずの場所が、直径数十メートルにわたって「消失」していたのだ。

 

「……なんだ、これは……」

 

先に来ていた職員の一人が、膝を突き、ガタガタと震えながらその「大穴」を覗き込んでいた。

ガゼルが恐る恐るその縁に立ち、下を見た瞬間、彼もまた息を呑んだ。

 

底が見えない。

 

いや、あまりにも深すぎるのだ。

穴の壁面はガラスのように滑らかに融解しており、底からは未だに熱い蒸気が立ち上っている。

それはまるで、神の槍が天から振り下ろされ、大地を貫通させたかのようだった。

 

「ギ、ギルドマスター……これ、ダンジョンの構造そのものが、地上まで貫通しているんじゃ……」

 

「馬鹿なことを言うな! ダンジョンは強固な魔力障壁で守られている。それを、これほど広範囲にぶち抜くなんて、人の業じゃない……」

 

あまりの現実離れした光景に、周囲では神に祈りを捧げる者や、世界の終焉を叫ぶ者が現れ、パニックは広がる一方だった。

 

そこへ、馬蹄の音を響かせ、重厚な甲冑を纏った一団が到着した。

エルドラの街を治める公爵が、直属の騎士団を引き連れて現れたのだ。

 

「ガゼル! 状況を説明せよ!」

 

公爵が馬から飛び降り、ガゼルの元へ歩み寄る。

その表情は険しい。

 

「公爵閣下……ご覧の通りです。何らかの強大な力が、ダンジョンの内部から地上までを一気に貫きました。原因は……正直、見当もつきません。爆発のようですが、これほどの熱量と衝撃、魔法の記録にもありません」

 

この世界において、水と火を同時に使い「水蒸気爆発」を引き起こすという概念は存在しなかった。

彼らの目には、これは未知の古代兵器の暴走か、あるいは神罰のように映っていた。

 

「ダンジョンの内部からだと? ……待て、今あのダンジョンには誰が入っているのか?」

 

公爵の問いに、ガゼルが顔を強張らせて答える。

 

「……現在、深層まで潜っているのは一組だけです。Sランクパーティー、【ヴィンクルム】。ヨシテルの一行です」

 

「な……っ! ヨシテル殿たちが!?」

 

公爵の脳裏に、かつて最愛の妻を死の淵から救ってくれた、あの黒髪の青年と、彼の仲間たちの姿が浮かんだ。

彼らにとって、ヨシテルたちは恩人であり、希望の象徴でもある。

 

「よ、ヨシテル殿たちは無事なのか!? この爆発に巻き込まれたのではないか!?」

 

「わかりません……。ですが、もし爆心地が彼らのいた場所だとしたら、生存は……」

 

ガゼルが言葉を濁すと、公爵は拳を握りしめ、天を穿つ穴を見上げた。

 

「……いや、あの者たちがこれしきのことで果てるはずがない。ヴィンクルムは、この大陸の常識を超えた者たちだ。だが……もし、これが彼らの戦いの結果だとしたら、地下で一体何と戦っているというのだ……」

 

地上の人々が、自分たちの足元で起きた「神話の一端」に震えている頃。

当の本人であるヨシテルたちは、地下70階層の砂漠で、呑気にビールを飲み、肉を頬張りながら、「ダンジョンの穴は勝手に塞がるか」という議論を交わしていたのである。

 

地上と地下。

 

そのあまりにも大きな温度差を孕んだまま、エルドラの夜は更けていく。

しかし、この「大穴」の出現により、これまで『原初の揺籃』の攻略を誰も成し得なかったが、ヨシテルたちによって攻略された事が、否応なしに世界へと露呈することになるのを、まだ誰も知る由はなかった。

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