ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

88 / 97
第八十八話:万華鏡の如き剣閃と、不死の王の終焉

 

 

地下七十階層、砂漠の果てに鎮座する古代神殿。

その最奥、冷気が淀む玉座の間で、俺たちは死の頂点に立つ者と対峙していた。

豪華な法衣を纏い、黄金の冠を戴いた骸骨の王――SSランク『ノーライフキング』。

その眼窩に灯る紅蓮の魔力が、侵入者である俺たちを値踏みするように揺らめいた。

 

「生ける者よ……。我が領域を侵した代償、その魂を以て支払うがよい」

 

死の王が枯れ木のような指を虚空へ向ける。

瞬間、神殿全体を揺るがすような不吉な鐘の音が響き渡った。

 

「――『絶命の葬鐘(デス・ベル)』!!」

 

それは耳で聞く音ではない。

魂の奥底に直接「死」を刻み込み、強制的に心臓を止める最上位の即死呪文だ。

通常の生命体であれば、この一撃で意識を刈り取られ、骸(むくろ)へと変じるだろう。

 

だが――。

 

「……何や、今の鐘? えらい縁起の悪い音やけど、全然効かへんな」

 

イシュタルが双銃を回しながら、けろりとした顔で言い放った。

 

「旦那様、なんか変な風が吹いた気がしたばってん、全然大丈夫たい! アタシの装束が守ってくれとうとね!」

 

カグヤの椿彩の装束が、淡い光を放って呪いを霧散させている。

ノーライフキングの眼窩の炎が驚愕に大きく揺れた。

 

「馬鹿な……。我が死の呪法が、傷一つ付けられぬだと……!? 精神汚染すら受け付けぬというのか!」

 

当然だ。俺たちが纏っているジェネシス級の和装には、『異常耐性無効』と『精神防壁』、さらには俺のステータスに同期した物理・魔法防御能力が備わっている。

不死の王の呪いといえど、この「神の衣」を貫くことは叶わない。

 

「呪文が効かないなら、これならどうだ! 沸き上がれ、我が臣下共! ――『深霊招陣(レギオン・オブ・ヘド)』!!」

 

ノーライフキングが叫ぶと、床の魔法陣から漆黒の霧が噴出し、玉座の間を埋め尽くさんばかりのデスナイト、デスマジシャン、そしてデュラハンの軍勢が召喚された。

 

「がはは! 骨がいくら集まってもゴミの山だぜ! 来やがれ、まとめて粉砕してやる!」

 

バルトが黄金の盾『アイギス・アエテルナ』を構え、ヘイトを稼ぐ咆哮を上げる。

 

「雷霆の裁きを受けなさい! 行くわよ、ライラ!」

 

アルシェラの槍が雷を纏い、突撃してくるデスナイトの集団を次々と貫通爆破していく。

 

「なのです! リフィも風で全部掃除しちゃうのです!」

 

カエルムたちフェンリル親子も神獣の爪を振るい、精霊たちは属性の奔流を浴びせ、玉座の間は瞬く間に阿鼻叫喚の乱戦の場と化した。

 

「……さて。雑魚の相手は仲間に任せて、俺はお前を終わらせる」

 

俺は静かに歩を進める。

その足取りに合わせて、黒に金桜の和装が魔力と同調し、空気を震わせた。

 

「貴様……ただの人族ではないな。その力、その装備……一体何者だ!」

 

「ただの、家族を愛する男だよ」

 

俺は『姫鶴一文字』と『にっかり青江』をゆっくりと抜き放った。

ステータス同期が限界突破し、俺のAGI(俊敏性)が、この世の物理限界を超えて加速する。

 

 

「終わりだ」

 

 

「――『瞬影奥義:桜花・万華鏡(おうか・まんげきょう)』!!」

 

 

瞬間、ノーライフキングの周囲に、数千、数万の俺の残像が現れた。

一つ一つの残像が、光、闇、氷、炎、あらゆる属性を纏った刀を振り抜く。

 

「な、なんだ……この速度は……!? 視認すら……ギャアァァァァッ!!」

 

数千の斬撃が、コンマ一秒の間に不死の王へと集中した。

上から、下から、斜めから、多層的に重なった桜の花びらの残滓が、王の骨格、魔力核、そして存在そのものを、分子レベルの微塵に切り刻んでいく。

 

 

パリンッ……。

 

 

硝子が砕けるような澄んだ音が響き、SSランクの化け物が放っていた禍々しい魔力圧が完全に消滅した。

ノーライフキングが座していた玉座は音を立てて崩れ落ち、その背後の壁から、柔らかな青白い光を放つ帰還用の転移魔法陣がゆっくりと浮かび上がる。

静寂が戻った神殿で、俺は二振りの刀を静かに納めた。

 

「……ふぅ。これで終わりだな」

 

その瞬間、仲間たちが駆け寄ってきた。

 

「ヨシテル……もう、かっこよすぎよ。あの瞬間のあなた、本当に桜の花弁の中を舞う様に見えたわ。改めて……惚れ直しちゃったじゃない」

 

アルシェラが頬を染め、熱っぽい視線を俺に向ける。

 

「ほんまやで! あんな神速の奥義、ウチの目でも追いきれへんかった。ヨシテル、あんたマジで最高の男やわ!」

 

イシュタルが背中に飛びつかんばかりの勢いで褒めちぎる。

 

「旦那様、バリ凄かったばい! 万華鏡の如く舞う桜の中に旦那様がいっぱいおって、アタシ胸がキュンキュンしたっちゃんね!」

 

カグヤが九つの尻尾を千切れんばかりに振って、俺の腕にしがみついてくる。

女性陣の熱烈な称賛に対し、男性陣は対照的だった。

 

「……がはは。あんなの見せられた後に、俺が盾で踏ん張ってたのが馬鹿馬鹿しくなるぜ。なぁ、アレス?」

 

バルトが苦笑いしながら頭を掻く。

 

「……全くだ。暗殺者の僕から見ても、あの速度はもはや別次元だよ。良い意味で、呆れるしかないな」

 

アレスは肩をすくめ、降参といった様子で溜息をついた。

俺は玉座の跡と、その奥に現れた魔法陣を眺める。

通常の冒険者なら、ここで喜び勇んで地上へ帰還するのだろう。

だが、俺の思考は既に別の方向へ向いていた。

 

「さて……。クオーレ、このボスはリポップするかな? もしするなら、レジェンド級素材の安定供給源になるんだが。とりあえず、入り口の扉を少し細工……いや、破壊して、いつでも外部から入れるようにしておくか」

 

その言葉を聞いた瞬間、場が凍りついた。

 

 

「「「…………」」」

 

 

「……ヨシテル。あなた、今倒したのSSランクの魔王よ? それを『安定供給源』って……」

アルシェラが引きつった笑顔で呟く。

 

「旦那様……。たまにバリ怖いこと言うよね……。ボスがかわいそうに思えてきたばい……」

カグヤまでもが、ドン引きした目で俺を見ている。

 

「いや、無駄に倒すのもアレだしな。……まぁいい。とりあえずこの階層の攻略は完了だ。この神殿の入り口まで戻って、ゆっくりするか」

 

俺は歩き出した。

 

「ここから見える夜の砂漠は、月が近くて綺麗そうだしな。今日は入り口で『パレス(ミスティック・パレス・グランド)』を展開して、砂漠を見ながら皆で晩酌といこう。旨い酒があるんだ」

 

「がはは! 晩酌は賛成だ! ヨシテルの異常さは今に始まったことじゃねえしな!」

 

バルトが豪快に笑い、重い空気を吹き飛ばした。

 

「そうやね! 砂漠の月を見ながら一杯。ええ感じやんか!」

 

イシュタルも明るい声を上げ、一行は神殿の入り口へと向かう。

死の王を蹂躙し、その住処を晩酌のツマミにしようとする。

【ヴィンクルム】の伝説は、この灼熱の砂漠の夜から、さらなる高みへと昇ろうとしていた。

砂が入って来ないように極限まで透明な薄い氷の壁を作り出し、俺は仲間の賑やかな笑い声を聞きながら、パントリーに冷やしてある最高級のビールと、それに合うつまみの構成を考えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。