ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福― 作:煌人
ギルドマスター・ガゼルとのDランク特別昇格試験の火蓋は切られた。
特別闘技場の砂塵が舞う中央に、ヨシテルとガゼルが対峙する。
観客席には、Aランクパーティー【雷光の剣】の面々、そしてギルドの幹部や一部のベテラン冒険者たちが固唾を飲んで見守っていた。
ガゼルは、巨大な両手剣を地面から抜き、肩に担いだ。その姿は、まるで動く岩山のようだ。
「いいか、ヨシテル。俺の剣は重いぞ。受け止めることすら、容易ではないからな」
「承知しています、ガゼルさん。全力でかかってこい、と言われましたので」
ヨシテルは、腰に挿した二振りの特質級魔剣、『姫鶴一文字』(打刀)と『にっかり青江』(脇差)に手をかけた。
審判役のリーファが、緊張した声で開始を告げる。
「始め!」
高速戦闘の開始
開始の合図と同時に、ヨシテルは動いた。
彼は、特質級防具『瞬影の装束』のAGIブーストと、俊敏性(AGI 720)を最大限に活用した。
地面を蹴った瞬間、ヨシテルの姿は残像を残してガゼルに向かって突進した。
(先手必勝。ガゼルさんの攻撃を受ける前に、特質級魔剣の高速連撃で防御を崩す!)
俺は、まず脇差『にっかり青江』を抜き放ち、火属性の魔力を刀身に常時纏わせながら、ガゼルの足元へと低く斬り込んだ。
脇差の火属性付与は、相手の防御力を無視してダメージを与える特性を持つ。
「シャアッ!」
ガゼルは、ヨシテルの超高速の動きに一瞬目を見張ったが、その体は微動だにしなかった。
彼は、巨大な両手剣を、まるで盾のように垂直に地面に突き立て、脇差の斬撃を迎え撃った。
キンッ!
金属が激しくぶつかり合う音と共に、火属性を帯びた脇差の斬撃は、ガゼルが構えた両手剣の刀身に受け止められた。
ガゼルの巨体は、わずかに砂塵を巻き上げただけで、後退することはない。
(硬い!レベル120、剣王の防御力(VIT 1850)は、俺の攻撃力を上回っているからかなりキツいな!)
ヨシテルは、脇差の斬撃が止められた瞬間、即座にもう一振りの打刀『姫鶴一文字』を抜き放った。
光属性の魔力を帯びた打刀は、ガゼルの胸元へと、必殺の一撃を繰り出した。
「光属性魔法、〈ライトニング・スラッシュ〉!」
光の軌跡を描いた斬撃が、ガゼルの鎧を狙う。
ガゼルは、両手剣で脇差の攻撃を食い止めたまま、体幹だけで上半身をわずかに捻った。
光の斬撃は、ガゼルの鎧の肩パッドをわずかに掠めたが、それ以上の深入りは許されない。
「良い剣だ、ヨシテル!だが、その動きは単調で読みやすいぞ!」
ガゼルは、脇差を受け止めていた両手剣を一気に引き抜き、そのままカウンターとして、ヨシテルに向かって、体重を乗せた振り下ろし攻撃を放った。
「フンッ!」
ガゼルの一撃
ガゼルの両手剣の振り下ろしは、風を切り裂く轟音を伴い、地面へと向かってきた。
その攻撃速度は、ヨシテルのAGI 720をもってしても、紙一重でしか避けられない。
(速い!この体躯から繰り出されるとは思えない速度だ!)
俺は、全身のAGIを総動員し、剣の軌道の外側へと飛び退いた。
ドゴォオオオン!!
両手剣が地面に着弾した瞬間、闘技場の地面が大きく陥没し、砂利や土塊が爆発的な勢いで周囲に飛び散った。
その衝撃波だけで、ヨシテルの体を吹き飛ばしにかかる。
ヨシテルは、両手で顔を庇いながら、数メートル後方へ滑るように移動した。
特質級防具『瞬影の装束』の防御力が衝撃を吸収したものの、彼のステータスで偽装された体力(HP 550)もわずかに削られた。
(これが、レベル120、剣王の力か。一撃の重さも、その後の衝撃波も、俺の今の限界値を超えている!これ以上、まともに受けたら危険だ)
観客席のAランクパーティーの面々も、ガゼルの攻撃の威力に息を飲んでいた。
「マスターの本気の一撃だ。ヨシテル、よく避けた!」(ベルナール)
「でも、あの衝撃波をまともに喰らえば、一発で終わりよ。Dランクの体力が持たないわ」(リーヴ)
ギルドマスターの戦闘経験による苦戦
ヨシテルは、攻撃を回避した直後、再び高速移動でガゼルとの間合いを詰めた。
彼は、正面からの突破は困難だと判断し、ガゼルの背後を狙う戦術に切り替えた。
(いくら攻撃力が高いとはいえ、この体躯だ。背後に回り込めば、反撃は遅れるはず)
俺は、闘技場を縦横無尽に駆け巡り、特質級防具によるAGIブーストで、ガゼルを翻弄しようと試みた。
しかし、ガゼルは常にヨシテルの動きを予測し、その巨大な体躯にもかかわらず、最小限の動きで対応する。
ガゼルは、背後から迫るヨシテルに対し、両手剣を振り回すのではなく、剣の柄の部分で地面を打ち、土属性の魔力を発動させた。
「剣神奥義、〈地竜の咆哮(アース・ロアー)〉!」
地面から、巨大な土壁が突如として出現し、ヨシテルの進路を塞いだ。
「しまっ…!」
ヨシテルは、急停止し、双剣で土壁を切り裂こうとしたが、その土壁は予想以上に硬い。
その一瞬の遅れが、ガゼルにとって十分な時間だった。
ガゼルは、土壁の裏側へと回り込んだヨシテルに向かって、間合いを一気に詰め、鋭い突きを繰り出した。
両手剣の突きは、その巨体からは想像もつかないほど精密かつ高速だ。
ヨシテルは、咄嗟に『姫鶴一文字』と『にっかり青江』を十字に交差させ、突きを受け止めた。
キイイイィン!!
特質級魔剣同士で受け止めたにもかかわらず、ヨシテルの腕には凄まじい衝撃が走り、彼の体は大きく吹き飛ばされた。両手剣の突きによって、魔剣の刀身は熱を帯び、彼の両腕は痺れ、一時的に感覚が麻痺した。
ヨシテルは、地面を数回転がり、距離を取った。
(恐ろしい程の読みと技量だ。俺の予測と、防具で上積みされたAGIをもってしても、彼の戦闘の流れを覆せない!彼は、俺の動きを、完全に読み切っている!)
ヨシテルは、あくまで「レベル35の天才剣士」として戦っているため、ガゼルはその「レベル35」の限界を正確に見抜いているのだ。
光と火の複合攻撃
ヨシテルは、一度体勢を立て直し、双剣の痺れを回復させるために、光属性の回復魔法を、ガゼルに見せつけるように発動した。
「光属性魔法、〈エクストラヒーリング〉」
体表に白い光が走り、腕の痺れが瞬時に消え去った。
「回復魔法を戦闘中に使うとはな。魔力が尽きるのを恐れないか?」
ガゼルは、警戒の色を強めた。
ヨシテルが持つ「光属性回復魔法」という希少なスキルは、ガゼルにとって想定外の要素だった。
ヨシテルは、この回復魔法で、ガゼルに自身の「魔力残量」のステータスを植え付けることに成功した。
「火属性と光属性、両方使いこなすのが、俺のスタイルだ!」
ヨシテルは、最後の切り札として、双剣の複合魔法攻撃を放つことを決意した。
俺は、『にっかり青江』に火属性魔法〈フレイムストーム〉の魔力を集中させ、『姫鶴一文字』に光属性魔法〈ホーリーブレイク〉の魔力を集中させた。
「複合魔法剣、〈焔光断絶(フレイム・ホーリー・ブレイク)〉!」
二振りの魔剣から、火と光が渦巻く巨大な魔力の斬撃が放たれた。
斬撃は、ガゼルの巨体を両断しようと、真っ直ぐに迫る。
剣王の迎撃と終結
ガゼルは、その複合魔法剣の威力と美しさに、一瞬目を見張った。
彼は、この一撃が、ヨシテルのステータスが持つ最大の出力であることを瞬時に見抜いた。
「素晴らしい!だが、まだだ!」
ガゼルは、両手剣を地面に突き立て、全身の土属性魔力を剣に注ぎ込んだ。
剣の周りに、大地が持つ圧倒的な防御力が集束する。
「奥義、〈不動の剣壁(アイアン・ウォール)〉!」
彼の両手剣の前に、岩石よりも硬い巨大な土属性の障壁が瞬時に展開された。
ヨシテルの火と光の複合斬撃は、この強固な剣壁に激突した。
ドオオオオオオン!!
激しい爆音と閃光が闘技場を包み込み、巨大な土壁は、ヨシテルの斬撃によって深々と切り裂かれたが、完全に貫通することはなかった。
煙が晴れたとき、ガゼルは剣壁の背後で仁王立ちしていた。彼の鎧は無傷だ。
ガゼルは、ヨシテルの魔力が完全に枯渇したことを確認し、ゆっくりと両手剣を構えた。
「ヨシテル。これで魔力は尽きたようだな。お前の勝ち筋は、もうない」
ヨシテルは、両膝をつき、肩で息をするフリをした。彼の体からは、完全に魔力が失われているように見える。
「くっ……」
ガゼルは、両手剣を彼の首筋に突きつけ、動きを止めた。
「そこまで!」
審判のリーヴが、試合終了を告げた。
ガゼルは、剣を収め、ヨシテルに手を差し伸べた。
「立て、ヨシテル。お前の敗因は、魔力の絶対量が、俺の防御力に追いつかなかったことだ。だが、お前はFランクどころか、Dランクの冒険者にも匹敵しない、Cランク上位の実力を持つ」
ガゼルは、『鑑定』スキルでヨシテルのステータスを正確に把握していた。
ヨシテルのステータスは、Dランクを遥かに超えていると評価されたのだ。
「お前がCランク上位の実力を持っていることは、この私が見極めた。お前のDランクへの昇格を、この場で承認する。異例中の異例だが、誰も文句は言えまい」
ガゼルは、観客席に向かって大声で宣言した。
観客からは、歓声と拍手が沸き起こった。
ヨシテルは、ガゼルの手を取り、立ち上がった。
(Cランク上位の実力と認められた。ガゼルさんの鑑定スキルを、装備と成長というステータスで完全に欺き通した。そして、俺の真の力を知る者は、この世界には誰もいない)
ヨシテルのDランク昇格は、この街で最大の話題となり、彼は一気にトップ冒険者の仲間入りを果たした。
俺の異世界での道は、さらなる深部へと続いていく。