ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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第九十話:帰還の光と、常識の崩壊

 

 

地下七十階層、砂漠の果て。

死の王――ノーライフキングが座していた玉座の間に、俺たちの声が響いていた。

 

「……また出てきたわね、あの骸骨王様」

 

アルシェラが、槍を肩に担ぎ、呆れ顔で玉座を見据える。

 

ノーライフキングが再び霧の中から形を成し、紅蓮の眼光を輝かせた。

 

「招かれざる客よ……。我がニ百年の眠りを妨げたのは、汝らか……」

 

「はいはい、そのセリフはもう三回目やで、おじいちゃん!」

 

イシュタルが軽快な言葉で突っ込みながら、双銃を乱射する。

火炎と闇の魔弾が王の骨格を容赦なく砕き、素材へと変えていく。

 

「がはは! 素材回収の効率は最高だな! ヨシテル、もう一回いっとくか?」

 

バルトが野太刀を担ぎ、楽しそうに笑う。

 

俺はアイテムボックスのログを確認した。

ノーライフキングを倒すごとに手に入る『神龍の不滅骨』や『王冠の破片』といったジェネシス級・レジェンド級素材が、着実に積み上がっている。

 

「いや、これくらいで十分だろう。目的の素材も揃った。……クオーレ、帰還用の魔法陣の解析は?」

 

《了解、マスター。完全に安定しています。起動すれば地上、あるいはダンジョンのエントランス付近へ直行可能です》

 

「よし、皆。帰るぞ」

 

俺たちは青白い光を放つ魔法陣に足を踏み入れ。視界が白一色に染まり、浮遊感に包まれる。

 

地上:戦慄のエルドラ崖下

 

その頃、地上の『原初の揺籃』入り口付近は、一触即発の緊張感に包まれていた。

崖を穿つ「大穴」の調査を続けていたギルドマスター・ガゼルと公爵、そして騎士団やギルド職員たちは、その「異変」を目の当たりにしていた。

 

「……何だ!? 地響きか!?」

 

公爵が叫び、腰の剣を半ば引き抜く。

突如として、ダンジョンの本来の入り口のすぐ隣――何もないはずの岩壁が激しく震動し、凄まじい魔力の波動が溢れ出したのだ。

岩壁は飴細工のように溶け、再構築され、元からあった入り口と寸分違わぬ「新たな門」が姿を現したのである。

 

「ギ、ギルドマスター! 新しい入り口……いえ、出口のようなものが形成されています!」

 

職員の悲鳴に近い報告に、ガゼルは顔を引きつらせた。

 

「警戒しろ! 何が出てくるかわからんぞ! 弓兵、魔法兵、構えろ!!」

 

ガゼルの怒号が飛び、騎士団が盾を並べて防壁を作る。

誰も踏破したことのないAランクダンジョンの深層から、何かが這い上がってこようとしている。

その恐怖は、歴戦の冒険者である彼らでさえ、喉を鳴らすほどだった。

 

地下:出口の扉

 

転移が終わった先は、窓一つない真っ暗な石造りの部屋だった。

 

「……暗いな。カグヤ」

 

「任せんしゃい、旦那様! 『ライト』!」

 

カグヤが指先を鳴らすと、太陽のように眩い光球が浮かび、部屋の全貌を照らし出した。

そこは何の変哲もない、四方を滑らかな金属質の壁に囲まれた十畳ほどの小部屋だった。

 

「出口……ではないみたいね」

 

アルシェラが周囲を見渡す。

 

「クオーレ、構造を解析してくれ」

 

《了解。マスター、ここは『昇降機』の終着点です。現在、地上の出口とのリンクを確認。物理的なロックを解除します》

 

直後、ゴゴゴ……という重厚な地響きが部屋全体を揺らした。

俺たちの目の前の壁が、上へとスライドするように開き、眩いばかりの「本物の太陽光」が差し込んできた。

 

「わぁ……お日様ばい! 久しぶりに見るねぇ」

カグヤが目を細めて喜ぶ。

 

「なのです! 外の空気なのです!」

精霊たちが飛び出し、嬉しそうに舞い踊る。

 

「よし、出るぞ」

 

俺を先頭に、アルシェラ、カグヤ、バルト、イシュタル、アレス。

そして、その後ろからは巨大なフェンリル親子――カエルム、ルーナ、テラ、アウラが悠然と歩を進める。

 

階段を上がり、地上へと足を踏み出した瞬間、俺たちの前に広がっていたのは、物々しく武装した数百人の集団だった。

 

「撃て! ……待て、撃つな!!」

 

ガゼルの制止の声が響く。

 

俺は、盾の隙間からこちらを凝視しているガゼルと、驚愕に目を見開いている公爵の姿を見つけた。

 

「……ガゼルさん? 公爵閣下も。……何してるんです? こんなところで」

 

俺は不思議に思って問いかけた。

 

「よ、ヨシテル……なのか?」

 

ガゼルが、持っていた剣を地面に落としそうな勢いで呆然としている。

ガゼルだけでない。騎士団も、職員たちも、その場にいた全員が、言葉を失っていた。

彼らが見ているのは、無傷で、しかも見たこともない「和装」に身を包んだ俺たちだ。

さらに、その後ろには誰一人欠ける事の無いチームとフェンリルが四頭も連なっている。

 

「ああ、今戻りました。……どうしたんですか、皆さん。そんなに殺気立って」

 

俺が苦笑いしながら一歩踏み出すと、騎士たちが反射的に数歩後退した。

 

公爵が震える声で口を開く。

 

「ヨシテル殿……無事、だったのか……。あの爆発、そしてこの新しい門は……」

 

「爆発? ああ、六十五階層でのことですか。少し手こずりましてね。……で、俺たちが出てきたこの扉は、やっぱり『出口専用』なんですかね?」

 

俺は何気なく背後の扉を指差して尋ねた。

ガゼルが、ようやく喉を動かして言葉を絞り出す。

 

「……出口、だと?」

 

「ええ。ボスを倒した後に現れた転移陣の先がここでしたから。帰り道が省略できるのは助かりますが、これって常設されるんですか?」

 

ガゼルは天を仰ぎ、顔を覆った。

 

「出口……。俺が知る限り、誰も最深部まで辿り着けなかった『原初の揺籃』を……ヨシテル達は踏破したばかりか、ショートカットの出口まで作ってきたというのか……」

 

「そうですが? ダンジョンっていうのは踏破すればこういう機能が解放されるもんじゃないんですか?」

 

俺が淡々と答えると、周囲の冒険者たちが「嘘だろ……」「Aランクダンジョンを攻略なんて……」と小声でざわつき始めた。

 

「ヨシテル殿……」

 

公爵が歩み寄り、俺の肩を掴んだ。その手はまだ震えている。

 

「……君たちは、このエルドラの歴史を塗り替えてしまったのだ。Aランクダンジョンの『完全踏破』。」

 

俺は隣のアルシェラと顔を見合わせた。彼女は「ま、そうなるわよね」と肩をすくめている。

 

「とりあえず、詳しい報告は後でいいですか? 俺たち、久しぶりの地上で少し疲れてるんです。……あ、ガゼルさん。六十五階層以降の素材、ギルドで買い取ってくれます? 量が多すぎてパレスの倉庫が埋まりそうなんです」

 

ガゼルは力なく笑った。

 

「……買い取る? ヨシテル、今のギルドにSSランク級の素材を全て買い取るだけの金があると思っているのか?」

 

「金貨でも白銀貨でもいいですよ。まあ、後でゆっくり話しましょう」

 

俺たちは、呆然と立ち尽くす軍勢の中を、悠然と歩き出した。

地上の風は心地よく、空は高く晴れ渡っている。

【ヴィンクルム】の伝説が、アトランティア全土に、そして世界へと響き渡る日は、すぐそこまで迫っていた。

 

「さあ、街に戻って、今日はお風呂でゆっくりするぞ!」

 

「賛成ばい! 旦那様、アタシが背中流してあげるけんね!」

 

そんなカグヤの楽しげな声を聞きながら、俺はエルドラの街へと続く道を、仲間たちと共に歩んでいった。

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