ギフト『全知全能』 絆の系譜 ―神獣と精霊の祝福―   作:煌人

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第九十六話:王都に舞う黄金の翼と、崩れ落ちる常識

 

 

王都リベリオンの冒険者ギルド本部は、地方の支部とは比較にならない威容を誇っていた。

白亜の石造りの外壁には、数多の魔物の骨を加工した装飾が施され、重厚な鉄の扉を押し開けば、そこには熱気と殺気、そして濃密な魔力の残滓が渦巻いている。

 

ヨシテルを先頭に、アルシェラ、カグヤ、バルト、イシュタル、アレスの六名。

 

そしてその後ろから、存在そのものが神話であるフェンリル親子四頭が悠然と足を踏み入れた。

さらに、先日救った公爵一行と、放浪の屠龍者ガルシアが同行しているのだから、その異様さは群を抜いていた。

扉が開いた瞬間、酒を酌み交わし、自慢の武具を研いでいた「王都の精鋭」たちの視線が一斉に俺たちに突き刺さる。

 

「……おいおい、見ろよ。妙な格好をしたガキ共が迷い込んできたぜ」

 

「後ろの狼……ありゃフェンリルじゃねえか? なんであんなガキに従ってやがる」

 

「噂のエルドラの新人か? Sランクのプレートを首から下げてやがる。ハッ、金で買ったんじゃないのか?」

 

王都の最強を自負する冒険者たちの、容赦のない野次が飛ぶ。

彼らにとって、自分たちが何年もかけて築き上げた地位を、突如現れた若造が「Sランク」として追い抜いた事実は、到底受け入れがたいものなのだろう。

 

「おい, 小僧。ここは王都だ。田舎のギルドでチヤホヤされたのが通用すると思うなよ。そのプレート, 俺たちと手合わせして本物かどうか証明してもらおうか」

 

数人の筋骨隆々な冒険者が、威圧するように俺たちの前に立ち塞がった。

俺は、地球での大学生活やバイト時代の「クレーマー対応」を思い出し、内心で深い溜息を吐く。

揉め事は避けたかったが、どうやらこの世界の冒険者はどこに行っても脳筋が多いらしい。

 

俺が目を細めた瞬間、周囲の温度が劇的に下がった。

 

 

パキッ! パキッ!

 

 

俺の足元から放射状に氷の結晶が走り、ギルドの床を白く染め上げる。

物理的な寒気ではなく、魔力の指向性が生み出す絶対的な威圧感。

 

「そこまでです! ギルド内での暴力行為は厳禁だと言っているでしょう!」

 

凛とした声が響き、ギルドの奥から一人の女性が駆け寄ってきた。

見覚えのある姿――エルドラから本部へと栄転していた、馴染みの受付嬢リーファだ。

彼女は俺たちの姿を認めるなり、表情を一変させた。

 

「ヨシテルさん! 皆さんも! 無事だったんですね!」

 

「リーファさん。久しぶり。……栄転おめでとう」

 

「ありがとうございます! でも、それどころじゃありません! 皆さん、この方々がどなたか分かっているのですか!?」

 

リーファの叫びに、周囲の冒険者たちが「あいつ, リーファさんの知り合いか?」とざわめく。

さらに、彼らは俺たちの後ろに立つ人物の正体にようやく気づき始めた。

 

「待て……あそこにいるのは、ドラゴンスレイヤーのガルシアさんじゃないか!?」

 

「それに, アウリア公爵閣下まで……。なぜあんなガキと一緒に……」

 

一同が混乱する中、ガルシアが一歩前に出た。

彼は俺を見つめ、挑戦的というよりは、純粋な探究心を秘めた瞳で口を開いた。

 

「ヨシテル殿。王都の連中は口が悪いが、腕は確かだ。……どうだろう、ギルドの闘技場にて、貴殿の力の一端を見せてはもらえないだろうか。俺自身、あの砦で見せた力の正体を、この目で改めて確認したいのだ」

 

公爵も、後ろで騎士たちを従えながら頷いた。

 

「ヨシテル殿。王都の平穏のためにも、ここで一度実力を示しておくのは悪いことではない。陛下への報告にも箔がつきますぞ」

 

俺は溜息をつき、肩をすくめた。

 

「……少しだけですよ。見たら二度と絡んで来るなよ」

 

闘技場の神変:六枚の光翼

 

俺はギルド本部に併設された巨大な闘技場の中心に立ち、精神を集中させる。

周囲にはギルド中の冒険者、および王城から駆けつけた官吏たちまでもが、観客席を埋め尽くし、固唾を呑んで見守っている。

 

「さて, どうするかな……」

 

(クオーレ、出力は〇・一%だな。属性の干渉を中和しつつ、視覚効果だけを最大化してくれ。下手に威力を出すと王都が消えるからな)

 

『了解、マスター。三属性合成……術式展開を開始します』

 

俺が静かに目を閉じ、魔力を練り上げる。瞬間、闘技場内の空気が「重さ」を変えた。

 

「三属性合成・極大浄化魔術――『黄金翼の鎮魂歌(カノン・オブ・セラフィム)』」

 

俺の背後に、世界そのものを書き換えるような魔力の揺らぎが生じた。

 

まず一対。純白の輝きを放ち、邪悪を退ける光の翼が。

 

次に一対。紅蓮の圧倒的な熱量を秘めた、しかし不思議と清涼な焔の翼が。

 

そして最後の一対。

 

透明な大気を激しく震わせ、旋回する翠緑の風の翼が。

 

合計六枚の巨大な光翼が俺の背から生え、闘技場の天井を突き抜けんばかりに広がった。

 

 

「ゴゴゴゴゴ……!」

 

 

ギルド本部のみならず、王都全域が巨大な魔力の波動に震えた。

光が黄金の粒子となって雪のように降り注ぎ、居合わせた者たちの古傷や日々の疲れ、精神的な澱みが瞬時に癒やされていく。

 

「すごい……なんて綺麗な光なの……」

 

アルシェラがうっとりとその光景を見上げ、カグヤとイシュタルは歓声を上げる。

 

「旦那様、最高ばい! バリかっこよかぁ!」

 

「ヨシテル、ほんま派手に決めたなぁ! 惚れ直してまうやろ!」

 

バルトとアレスは顔を見合わせ、「相変わらず、加減を知らないな」と肩をすくめて笑い合っていた。

 

俺は六枚の翼をゆっくりと羽ばたかせ、居並ぶ者たちを静かに見据える。

 

「……見たか。これ以上俺たちに絡むなら、次はこれを『攻撃』に転用する」

 

その一言に含まれた冷徹な威圧に、野次を飛ばしていた冒険者たちは腰を抜かして座り込み、何人かはあまりの魔力密度に耐えきれず、白目を剥いて気絶していた。

 

公爵は「……これが, ヨシテル殿の力の一端か……」と戦慄し、ガルシアと騎士団員たちは、もはや驚愕を通り越して、神を拝むような目で俺を見つめていた。

 

ギルドマスターの再起動失敗

 

そこへ、一人の人物が、周囲の群衆をかき分け、転がるようにすっ飛んできた。

 

「何事じゃあぁぁぁ! 王都が揺れとるぞ! どこの大魔導師が暴れとるんじゃ!」

 

現れたのは、燃えるような白髪を逆立てた、小柄だが筋肉の塊のような老人。

かつてヨシテルたちの噂を聞き、緊急でエルドラへと赴き、自らの責任で彼らをSランクへと特例昇進させた張本人――ギルドマスターだった。

彼は闘技場の中央で六枚の光翼を背負い、神のように佇む俺を見るなり、漫画のようにその場に固まった。

 

「……は? ヨシテル……? お主、六枚……? それも光と火と風の複合だと……!? お主、人間をやめたのか!?」

 

「あ, ギルマス。お久しぶりです。エルドラの時はどうも。特例昇進、助かりました」

 

俺が何気なく右手を挙げて挨拶をすると、傍らにいたアルシェラたちに一斉に突っ込まれた。

 

「「「「挨拶が軽すぎるわよ(だろ)!!」」」」

 

「軽すぎるどころの話じゃなーい! お主がエルドラで暴れた報告は受けておったが、まさか王都に着くなり天変地異を引き起こすとは……! わしの胃壁に穴を開ける気か!」

 

ギルマスは頭を抱えて叫んだが、俺はさらに追い打ちをかけるように、アイテムボックスから一つの素材を取り出した。

 

「ところでギルマス。これ、換金お願いします。ノーライフキングの『不滅の魔導核』です。あ、ちなみにまだ数十個ありますよ」

 

「…………」

 

ギルマスは、俺の掌で禍々しく輝くジェネシス級の素材を見た瞬間、顔面を蒼白から土色へと変えた。

 

「不滅の……数十個……? お主、あの死の王を……養殖でもしたのか……?」

 

ガクガクと膝を震わせた後、ギルドマスターは口から真っ白い泡を吹き出し、そのまま後ろに引っくり返って動かなくなった。

 

「あ, ギルマス? ――クオーレ、大丈夫か?」

 

『問題ありません。単なる精神的過負荷(オーバーロード)による一時的な気絶です。十分もすれば再起動します』

 

「そうか。じゃあ、ギルマスが起きるまで待つのは時間がもったいないな」

 

俺は隣で呆然としている公爵に向き直った。

 

「公爵さん。ギルドはこんな感じになっちゃったんで、先に王城へ向かいましょうか。陛下をお待たせするのも悪いですからね」

 

「あ, ああ……。左様、ですな。……しかしヨシテル殿、あの素材は、あまり公には……」

 

「わかってますよ。国の経済が死ぬってガゼルさんにも怒られましたから」

 

俺たちは、泡を吹いて倒れたギルドマスターをリーファに任せ、静まり返ったギルド本部を後にした。

かつて俺を罵っていた冒険者たちは、今や俺たちの通り道を空けるために、壁にへばりつくようにして道を譲っている。

 

「……さて。城に行けば、もっと面倒なことが待っていそうだな」

 

俺は少し重い気分になりながらも、王城へと続く大通りを歩き出した。

 

泡を吹いて倒れたギルマスが目覚める頃には、俺たちは既に王との謁見を始めているだろう。

 

アトランティアの歴史において、最も規格外なパーティーの王都凱旋は、ギルド本部を文字通り沈黙させるという、強烈な幕開けとなった。

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