新生児2人、ただし最悪。 作:無銘の胎児
超常能力"個性"が広く認知された世界。
全人類の約7割がそれを持っており、黎明期の大混乱から見れば、日常を取り戻したと言ってもいいだろう。
そんな世界でのある日の出来事。
私はXX県の〇〇病院で働く助産師。
最近入院してきた妊婦さんは、なんでも、怪我がすぐに治る個性を持ってて、危険なアクションも華麗にこなす人気の俳優らしい。
その個性もあって、処女を残したまま身篭ったって噂も聞く。
気味悪がる人もいるけど、処女懐胎なんて神秘的でなんだか素敵だよね。
まあ、あくまで噂だから、そこまで本気にしても仕方ないだろうけど。
そんなことを考えながら書類を整理していたら、ナースコールだ。
比較的手が空いてそうなのは自分のようなので、噂の俳優さんの病室へと向かった。
鐘が鳴った。
俳優さんの部屋は角にあるのでステーションからは少し遠い。
緊急の可能性もあるから、急いで向かわないと。
廊下はこんなに暗かっただろうか。
まだお昼時だし、電灯だってちゃんと点いている。
「〇〇さーん、どうされま……
血に塗れたベッドの上に力無く横たわる女性。
腹部は破けるように裂けており、大穴の空いた臓器が露出している。
当然私は悲鳴をあげた。
こんな光景を見て冷静でいられるわけがない。
しかし辺りはとても静かだった。
私の悲鳴など無かったかのように。
視界に白い何かが映りこんだ。
それを追うように視線を向けると。
三対の翼を携えた白い胎児が浮かんでいた。
───────
真っ暗闇。
外に出なければ。
他でもない、使命のために。
ミチミチと肉が裂ける。
女の叫び声は届く前に掻き消えた。
音も光も、吸い込まれるように歪んでいく。
救わなければならない。
故に祝福を施そう。
女の、苦痛に歪んだ顔を食い破るように、顔面の骨が不快な音を立てながら、嘴を象った仮面へと変化していく。
背中には一対の翼、露出した肉と骨。
あなたは使徒である。この岩の上に私の教会を建てよう。死の門もそれには打ち勝てない。
傍に、呆然と立ち尽くしたままの女がいる。
宣教師を増やし、他者を助け、福音を宣べ伝えなければならない。
意識を向けられたことに気がついたのか、逃げ出そうとするも虚しく。
皮膚は溶け落ち、顔を嘴の仮面が覆う。
肉を裂いて翼が生え、手には666と刻まれた大鎌を携える。
これがいつ起こるのか? あなたが来る時と終わりの時を私たちに告げたまえ。
拡げよう。救済を。
───────
報告
XX県〇〇病院で中にいた人間全員が居なくなるという事件が発生した。被害者の人数、用いられた個性は共に不明。荒らされた様子もなく、1つの部屋を除き血痕や争った跡も見つからなかった。
12月24日午後4時過ぎ、予約の日時の変更を行った。
12月25日午後3時30分、〇〇病院に電話をしたが繋がらなかった。
12月26日午前9時頃、院内に誰一人として人がいなかった。
これらの証言から25日に事件が発生したと考えられる。
暴走した個性による事故、移動系の個性による誘拐事件の両方の線で捜査することとする。