僕のヒーローアカデミア 空拳ヒーロー エアーマン 作:ダレ狐
俺たちは体力テストの後、4人1組のチームに分けられた。
洗脳が使える心操、索敵に強い“鷹の目”の鷹野、置換変換を使う交野。
心操以外は、個性を使っているところを見ていないだけに、正直よく分からない。
「救助訓練か……」
「あの、ちょっと良い?」
「あんたは……交野だっけ? 経営科の」
「そうよ、心操さん。まずは役割分担を決めたいのだけど」
チーム内での立ち回りに悩んでいると、交野が提案しようとした。
だが――
「おい、何テメェが仕切ってんだよ?」
いきなり、鷹野が突っかかってきた。
「鷹野さん、私は“提案”よ。まずは話を聞いてから判断してくれる? はっきり言って、向こうのチームと比べてパワーバランスが悪いの」
「あぁ? どういうことだ?」
「おい、落ち着け」
「あぁ――!? か、(身体が)……!」
「悪い。話の腰を折りそうだったから、俺の洗脳で止めさせた」
「いや、心操、助かる。あんまり酷いようなら、俺が力ずくで止める羽目になるところだった」
こういう時の心操の個性は、本当に頼りになる。
「ええ、気になさらずに。ところで心操さん、その状態でも鷹野さんには話の内容は聞こえているのかしら?」
「そこは人によるな。記憶が残らないことの方が多い」
「そうですか……。まあ、そこは私の方で何とかします」
交野は一度頷き、続けた。
「では、救助訓練での役割分担を提案しますね」
「役割か。教えてくれ」
「まず、私たちのチームは、向こうと比べて戦闘系の個性を持つのが砕条さんだけです。 救助訓練ですから、避難経路の確保――瓦礫の撤去などは、砕条さんにお願いしたい」
「分かった」
「心操さんは、錯乱する被災者への対応を。 鷹野さんのように洗脳で落ち着かせてもらえると助かります。 混乱した被災者は、救助の妨げになりやすいので」
「了解。それ以外は砕条のフォローでいいか?」
「お願いします」
交野は鷹野に視線を向けた。
「鷹野さんには“鷹の目”で索敵をお願いしたいのですが…… 正直、個性を使用しているところを見ていないので、判断材料が足りません」
「それを言うなら、交野の個性もまだ見てねぇぞ」
「ええ、そうですね。ですから、実演も兼ねて―― 心操さん、彼女の洗脳を解いてください」
「え? 本当に大丈夫か?」
「ただでさえチームの連携が重要です。 物言わぬ足手まといがいては、試験には通りません。 同じ女性が出た方が、あなたたち二人の負担も少ないでしょう」
「……確かに」
交野の言葉に、俺も頷いた。
正直、交野とは初めてまともに話したが、冷静で淡々としている一方で、的確に状況を見ている。
経営科はヒーロー科のような実技試験はないが
確か、証明問題やプレゼンテーションの実演試験があると聞いた。
倍率は国公立大学並みとも言われている。
……この短いやり取りだけでも、地頭の良さがはっきり伝わってきた。
「……解除するぞ」
心操が短く告げた瞬間、鷹野の身体から力が抜け、次の瞬間――
「っ、何しやがる!!」
怒鳴り声と同時に、鷹野が一気に踏み込んできた。
「いきなり洗脳とか、ふざけてんじゃ――」
言葉の途中で、交野が一歩前に出た。
「……不用意に動かないで」
「はぁ? 何だテメ――」
その瞬間だった。
交野の右手が、床に転がっていた瓦礫の破片に触れ、
左手が鷹野の手首に触れる。
「何しやがる、この鉄仮面女!」
「申し訳ありません、個性発動に必要なので」
パン!
交野が手を叩いた瞬間に鷹野のが消えて石が落ちた。
そして、高野は床に伏せる形に倒れていた。
「な――」
位置が、入れ替わった。
気付いた時には、交野が背後を取っていた。
腕を絡め、体重を乗せ、首元に密着する。
「……っ!?」
「動かないで。今は“試験中”でしょう」
静かな声だった。
だが、力の入れ方は的確で、逃げ場がない。
「寝技……だと?」
俺は思わず呟いた。
交野は、力任せに抑え込んでいるわけじゃない。
重心、関節、逃げ道――全部を潰している。
鷹野が一瞬、暴れかけ――
「テメェー…待て」
ピタリと動きを止めた。
「……交野」
「何かしら」
「その腰の内側……隠してるだろ」
空気が、一瞬張り詰めた。
「ピン……いや、針か? 位置的に、右腰の内ポケット……」
交野は、何も言わない。
ただ、動かない。
「下手に暴れたら、私が刺さる。 ……そういう仕込みだろ」
沈黙。
それ自体が、肯定だった。
「……なるほどな」
鷹野は、悔しそうに歯を食いしばりながらも、笑った。
「お前、ただの机上の空論じゃねぇな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
交野は、ゆっくりと拘束を解いた。
「鷹野さん。あなたの“鷹の目”が本物でなければ、 今の指摘は出来なかった」
「……」
「索敵だけじゃない。 “危険の予兆”を読む目がある。 だからこそ、衝動で動くと命取りになる」
鷹野は立ち上がり、舌打ちを一つ。
「……悪かったな。ちょっと頭に血が上ってた」
「理解してくれれば、それで良いわ」
その様子を、心操が腕を組んで見ていた。
「これがチェンジとホークアイか…目立つ個性では無いが、強力な個性だろ」
「確かにな…特に、交野…あいつが体育祭で本気に取り組んでたらトーナメントの結果変わってたかもな」
「それは、ないです。砕条さん、私の個性は対象者に触れないといけない。 入れ替えは拍手をしないといけません。 体育祭では同学年の個性を見ることに集中してました」
「あぁ? テメェーは最初から体育祭で全力出てなかったのか?」
「鷹野さん、"がむしゃら"にやるのが全力じゃ無いのですよ」
「そうかよ、私には理解できないね、理屈捏ねてヤるのは」
「それはお互い様、私の事を気に入らなくても良いですが、先ずは目の前の試験にはチームプレイが必要です。 鷹野さんの"鷹の目"で周囲の索敵をお願いします。 私は要救助者の移送や皆さんの配置転換を行います…良いですか?」
交野は“戦わずに制圧する”タイプ。
鷹野は“見えてるからこそ止まれる”タイプ。
そして、
この二人が本気で組めば――
「悪くねぇな」
ただの訓練じゃ、終わらなそうだ。
数分後――観戦室 相澤視点
「さて、そろそろ始めるか」
俺は砕条達を、ブラドはもう1組の4人を見る形で、試験開始の準備を始めていた。
今回の試験は、指定の災害地域で要救助者を救出するというものだ。
本来は救助訓練を受けてから行う内容だが、この試験では4人での個性使用による連携を主体としている。
訓練無し、ほぼ初対面同士での連携。
ヒーロー科でも、こんな条件で行う試験はしない。
そんな中で、どれだけ連携が取れるか。
そして彼等がヒーロー科編入に本気かどうか――それを見極めるためだ。
「イレイザー、いくらなんでも無茶ではないか?」
「この試験は、あくまで連携と個性の使い方を見るだけだ。救助の採点は重要じゃない……それに、彼等が大変なのは――」
《試験開始!》
アナウンスが流れ、俺達はモニター越しに生徒達の様子を確認する。
今回の試験場所は地震災害後の市街地。
被災者役はミッドナイト、セメントス、エクトプラズムだ。
「鷹野さん、索敵をお願いします」
モニターを確認すると、4人は広い空き地に集合していた。
学校支給のインカムは、相手が使用していなくても、こちら側で会話を傍受できる仕様になっている。
……ここは予想通り、交野が司令塔だな。
「やってるよ……近いのは右手側、距離80メートルくらいの赤レンガの建物。屋根が崩れてる所に1人。次はそのまま川沿い、男性が溺れてる。
あと……左側、距離800メートルの体育館に女性が1人いる」
「承知しました。3箇所が離れています。これなら4人で固まるより、分散した方が良いかもしれません」
「鷹野、人手が必要そうな所はあるか?」
「川沿いとレンガの方は行けそうだ。体育館は障害物が多すぎて、正直分からない」
「なら俺が体育館を確認する。瓦礫があるなら、俺の個性が使える」
「ではまず、砕条さんは体育館方面へ向かってください」
「分かった」
「心操さんは川沿いへ。鷹野さんは赤レンガの建物へお願いします」
「了解」
「分かったよ!」
交野は指示を出した後、近くの廃病院の方向へ視線を向けた。
そして近くに落ちていた石を3つ触れ、そのまま病院の中へ入っていく。
「あいつ……まさか」
すると、先ほど石が置かれていた場所に、清潔そうなベッドが3つ現れた。
交野はそのうちの1つに乗り、右手でさらに数個の石に触れ、手を叩く。
次の瞬間、緊急用の設営テントと毛布が現れた。
「あれが交野の個性か……左右の手で触れた物の位置を拍手で入れ替える。災害救助向けにも程があるな」
「こちら心操! 川で溺れていたエクトプラズム先生を救助した! 意識あり、外傷も無し!」
「了解。心操さん、一旦離れてください」
交野は先ほど触れた石をベッドに置き、再び手を叩いた。
すると、交野と心操の位置が入れ替わる。
「おっ!? 本当に入れ替わった……」
次の瞬間、ベッドの上にエクトプラズムが現れ、同時に心操の近くにあった石が交野と入れ替わった。
「まずは1人ね……」
「大丈夫か、交野?」
「問題ないわ」
だが、交野の顔色はわずかに悪い。
書類によれば、彼女の個性には明確なルールがある。
① 入れ替え可能なのは、右手と左手で触れた物に限る
② 遠距離での入れ替えは、100メートル超過ごとに100メートル走相当の疲労が発生
対象が増えれば、その分疲労も増加
③ 効果の持続時間は1時間
④ 入れ替え可能回数は、片手で触れた回数分のみ
仮に病院までの距離が100メートル未満だとしても――
ベッド×3、テント×1、毛布×3=700メートル分
さらに、心操がベースキャンプから約120メートル
エクトプラズム+心操+交野×120メートル=360メートル
合計、約1080メートル分の疲労。
「数分で1キロ分の負荷……常識外れだな」
「こちら鷹野。要救助者、セメントス先生を発見。足と頭を負傷してる。二次被害を避けるため移動済み」
「了解。セメントス先生を先に移動させるわ」
交野が手を叩くと、2つ目のベッドにセメントスが現れ、続いて鷹野がベッドの横に転移する。
「本当に場所が移動してる……」
「鷹野さん、周囲の警戒をお願い……ふぅ。この試験、何かある気がするから」
「……分かった。少し休んでろ。お前はこのチームの司令塔だ」
「あら、気を使ってくれるのね」
「足手まといを増やしたくないだけだ……!?砕条が向かってる方向に、ものすごいスピードで接近してくる何かがいるぞ!」
「砕条さん、一旦周囲の建物に隠れて!」
「了解」
砕条は即座に指示に従い、建物の陰に身を潜めた。
そして――未確認物体は高笑いと共に姿を現す。
「HAHAHA! 私がヴィランとして来た!!」
『オールマイト!?』
砕条と鷹野は唖然とし、鷹野の様子に心操と交野が困惑する。
「災害時は、ヴィランによる窃盗の発生率も高い。故に、ヒーローとの遭遇も想定した試験となっている!」
オールマイトが大声で説明しているが――
「おい、イレイザー……これは」
「言うな。そっちはプレゼント・マイクだ」
「YEAH――!」
ブラドのモニター側から、プレゼント・マイクの騒音が響く。
生徒達の表情は一様に “ふざけるな”“やり過ぎだろ”
と言いたげだった。
無茶なのは承知している。ヒーロー科と違い、戦闘向きの個性は少ない。
ヴィランに対抗できるのは、事実上砕条だけだ。
――だからこそ、この状況で彼等がどう動くのかを見る価値がある。