僕のヒーローアカデミア 空拳ヒーロー エアーマン   作:ダレ狐

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集合

同時刻・近くの公園 砕条視点寄り

 

夕暮れの公園は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

遊具の影が長く伸び、ベンチにはまばらに人が残っている。

 

ブランコの鎖を無意味に指で弾きながら、行き先の書かれた紙を見下ろしていた。

職場体験。 エンデヴァー事務所の推薦状。

 

――職場見学先決めるべきなのに、実感が湧かない。

体育祭では根津校長や相澤先生、心操に引っ張られて頑張った。

実際に経験として良かった。 その後の今日の救助訓練も、真剣にやって周囲のヒーロー目指す姿勢が眩しく見える。

そんな気持ちでのヒーロー エンデヴァー事務所の推薦は持ったいない気がした。

 

 

「……」

 

ため息を吐いた、その時だった。

 

「あら、砕条ちゃん」

 

聞き覚えのある、少し鼻にかかった声。

顔を上げると、そこに立っていたのは蛙吹梅雨だった。

その隣には、蛙吹同様のカエルに近い見た目の落ち着いた雰囲気の女性と、背の高い男性。

さらに、小さな弟妹らしき子どもたちが、興味深そうにこちらを見ている。

 

「蛙吹……?」

 

「奇遇ね。今日は体育祭のお祝いで、家族と外食に出かける所なの」

 

「え、あ……そうなんだ」

視線が自然と、家族の方へ向く。

 

「初めまして。娘と同じクラスの方ですよね?」

母親らしき女性が、柔らかく微笑んだ。

 

「えっと……砕条です。娘さんとはクラスは違うのですが仲良くさせて貰ってます」

 

「この人、スカイラブハリケーンの人だ」

 

「スカイラブハリケーン!」

 

「スカイラブハリケーン? あぁ、障害物競走で梅雨とやってた技の事か〜父さんのおじいちゃんがその漫画見せてくれてたから懐かしいよ」

 

弟と妹が、体育祭の障害物競走の時の技で俺を覚えてたらしい。父親もその技が出た漫画を懐かしんでいた。

 

「特に決勝戦の活躍は凄かったよ」

 

「……いえ」

言葉が詰まる。

 

褒められることには、どうにも慣れない。

 

「良かったら、一緒に夕食どう? もう少し先のお店だけど」

 

突然の誘いに、砕条は一瞬固まった。

 

「え……俺、いいんですか」

 

「もちろんよ。ね?」

母親が梅雨を見ると、梅雨はこくりと頷いた。

 

「砕条ちゃん、私と同じでアパート暮しだし、それに何か悩んでそうだから」

 

――見抜かれていた。

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

そう答えた声は、少しだけ小さかった。

 

 

中華系のレストランでテーブルでの食卓は、賑やかだった。

蛙吹の弟妹たちの他愛ない会話、父親の穏やかな相槌、母親の気配り。

俺は、居心地の悪さと、どこか懐かしさを同時に感じていた。

(……こういうの、久しぶりだな)

 

料理を取り分けられ、何度も「遠慮しなくていいのよ」と言われる。

戸惑いながらも、次第に緊張が柔らいでいった。

その様子を、蛙吹は横目で静かに見ていた。

 

夕食後に蛙吹のご家族とはレストランで別れた。

流石にそのまま帰る訳にも行かないから俺は蛙吹をアパート近くまで送るつもりで一緒に帰った。

 

夜風が心地よい。

街灯の下、二人並んで歩く。

「……今日は、ありがとう」

 

ぽつりと言う。

「ううん。家族も喜んでたよ」

少し間を置いて、蛙吹が口を開いた。

 

「砕条ちゃんって、家族の話、あんまりしないよね」

 

砕条の足が、わずかに止まる。

「……まあ」

 

「聞いてもいい?」

 

少しだけ、慎重な声。俺は空を見上げた。

 

「俺、2歳の頃に父親に連れられて……育ての親の十文字師範に預けられた」

梅雨は何も言わず、隣を歩き続ける。

「母親は、俺を産んですぐ亡くなったらしい。顔も、声も、覚えてない」

 

「本当の父親が……今、生きてるか死んでるかも、分からない」

「……そうなのね」

梅雨の声は、優しかった。

 

「でもね」

蛙吹は立ち止まり、俺を見つめる。

 

「砕条ちゃんは、ちゃんと大切に育てられてると思う」

 

「……」

 

「十文字さんのこと話す時、いつも尊敬してる顔してるから」

胸の奥が、少しだけ締め付けられる。

 

「……あの人がいなかったら、今の俺はいない」

「うん」

 

梅雨は小さく笑った。そして、少し真剣な目になる。

「ねえ、砕条ちゃん」

 

「何だ?」

 

「砕条ちゃん、自分の命、軽く扱ってない?」

 

心臓が、一拍遅れて鳴った。

「USJの時から『死んでもいい』ってそんな風に見えたの…」

俺は、答えられなかった。

 

「私はね」

 

梅雨は、まっすぐ続ける。

「砕条ちゃんが傷付いたら、悲しい」

 

「……」

 

「十文字さんも、きっと悲しい」

 

夜風が、二人の間を抜ける。

 

「砕条ちゃんが生きてること自体が、誰かの力になってるって……

 それ、忘れないでほしいの」

 

しばらく黙っていた。

やがて、小さく息を吐く。

 

「……難しいな、それ」

 

「うん。でも、考えて」

蛙吹は真剣に俺の目を観て言ってくれた。

 

「砕条ちゃんが、自分を大事にできるまで、私、言い続けるから」

 

少し驚いたが…何かこんな面と向かって言われた事無いから

ほんのわずか、照れたように目を逸らした。

 

「…努力する」

 

「ケロ、そうだ、これをあげるわ」

 

蛙吹はカバンの中から何か取り出した、見せたのはミサンガで、色は蛙吹のイメージの黄緑じゃなくて、黒と赤のストライプだった。

 

「前から、砕条ちゃん危なっかしい所あるから、これを付けて無茶しそうになったらこれを見て思い出して欲しのよ」

 

俺の右手に巻き付けられた。

 

「何で、そんな俺に構うんだ?」

 

「そうね、上手く言えないけどほっとけないのよね」

 

「ヒーロー科にいる連中はお節介症候群かよ…まぁ、好きな色だから貰っておくよ」

 

そこからは体育祭の事や今日の訓練の話をしながら帰って行った。

 

 

時が進み 職場体験当日 最寄り駅 砕条視点

 

「まさか、ヒーロースーツを作ってくれるとは思わなかった」

 

俺は先日、相澤先生に職場体験の行き先の紙を提出した際、ヒーロースーツの要望書を渡された。

 

① 格闘戦主体だから、動きを邪魔しないシンプルなデザイン

② 拳と脚には衝撃緩和目的のプロテクター

③ 色は黒と赤を主体

要望はこんな感じに書いた。

 

空気圧の時間管理も考えたが、それでは強くなれないと思い、それは外した。

 

結果、黒主体に赤のラインが入った、ライダースーツみたいなデザインになった。

 

動きやすく、カッコいい。正直、かなり気に入っている。

 

「おっ、砕条じゃん! この前の救助訓練の映像、すげぇ良かったぞ!」

 

「確か……切島だったな。話すのはUSJ以来か」

 

「おぉ〜砕条じゃん! 体育祭の決勝戦、良かったぜ! 俺、感動したわ! 俺は上鳴電気だ! よろしくな!!」

 

背後から声をかけられ、振り向くと切島と、初めて話すが体育祭で電撃能力が厄介だった上鳴の姿があった。

 

「久しぶりだな! おめぇの活躍、マジで凄くてよ!みんなのやる気、さらに上がったぜ!」

 

「お前ら、少し砕条に喋らせろよ」

 

すると二人の背後から、背の高い男が現れた。

確か、決勝トーナメントで轟を容赦なく凍らせた――

 

「あっ、俺のこと“どんまいコールの男”って思い出してたろ?」

 

「……悪い」

 

「気にするなって。俺は瀬呂範太。上鳴同様、直接話すのは初めてだよな。よろしく」

 

「よろしく」

 

「切島、さっき話に出てたけど、救助訓練の様子って俺たちのやつか?」

 

「おう! 先週、相澤先生が視聴覚室で見せてくれてな。

 爆豪なんか、めちゃくちゃ対抗心むき出しだったぜ」

 

「“あの野郎……前より技の精度上げてやがる、クソが!”

 って感じだったし、緑谷は相変わらずオタクトークしながらノート取ってたな」

 

「そうか。まぁ今回は、メンバーのフォローがあってこそだけどな」

 

瀬呂の説明で、光景が容易に想像できた。

 

「そうだ砕条、聞きたかったんだけどさ。騎馬戦の時、俺の電撃を封じたあの技、何なんだ?あんな防がれ方、初めてだったぜ」

 

「あぁ、あの衝扇か。 幼なじみが上鳴と同じ電撃系統の個性でな。対策として編み出した技だよ」

 

「マジかよ! 俺と同じ電撃系のやつが、同い年にいるのか!」

 

「ちなみに、士傑高校にいる」

 

「士傑って、関西で有名なヒーロー科高校だろ? すげぇな」

 

「あぁ。格闘戦じゃ、俺は一度も勝ったことがない。だから、いつかリベンジしたい」

 

「上鳴、不味くねぇか?爆豪と渡り合ったやつが、格闘戦で勝てない電撃系って話だぞ?」

 

「瀬呂、言うなよ〜!電撃系の中でも、俺は微妙な立ち位置なのに〜!」

 

「分かるぜ上鳴。個性被りの辛さ」

 

「まぁ、ダチの電撃は上鳴みたいな高圧は出せない。単純な出力なら、お前の方が上だ。落ち込むな」

 

「砕条〜! 良い奴だな!」

 

「泣くな! 鼻水つくだろうが!」

 

一方 砕条達男子の話してる様子を遠目から観るA組女子

お茶子視点

 

「上鳴の奴、会って早々にみっともない所見せるなよな〜」

 

「でも、男子はすぐに打ち解けるの凄いよね」

 

「切島も砕条の戦闘シーン食い入る様に観てたからテンション高いね!」

 

「あんなに話しかけられて砕条さん、困惑しないか心配ですわ」

 

「あはは〜ホンマやね ……? 梅雨ちゃん」

 

「ん? どうしたのお茶子ちゃん」

 

A組女子組は遠目でA組男子が砕条君の姿を見て

 

呆れる響香ちゃん、男子の仲良くなる姿に感心する透ちゃん

 

切島君が、暑苦しく絡む所にに戸惑う砕条の姿に面白がる三奈ちゃん

A組メンバーが迷惑になっていないか心配な百ちゃん

 

それらを見て呆れる私だが、友人の梅雨ちゃんが砕条を見る姿がいつもと違う雰囲気を感じていた。

 

「何か、いつもと雰囲気違ってたから」

 

「そんな事は無いと思うけど、そうね…最初の頃よりも警戒心は無くなってるけど…何処か一線を引いて見てる気がしてね」

 

「梅雨ちゃん…」

 

「砕条ちゃん、この前家の事を聞いたから…余計にね」

 

「一線か…飯田君も」

 

先日から様子がおかしい飯田君の事を重ねていた所に

 

デク君と轟君が砕条君の元に合流していた。

 

「デク君と砕条君はUSJ事件から一緒のイメージあるけど、轟君は意外やね」

 

「ケロ、体育祭から話す様になったのもあるけど 砕条ちゃんと轟ちゃんはエンデヴァー事務所の職場体験が一緒なのもあると思うわ」

 

「えっ!? 砕条君の職場体験、エンデヴァー事務所なん、流石、体育祭2位や、凄いわ〜」

 

こういう時、男の子の打ち解ける早さや成長する姿は羨ましく思える。

 

 

 

同時刻 砕条視点

 

「砕条君! あっ、それヒーローコスチューム?」

 

「緑谷。あぁ、さすがに職場体験で学校のジャージってわけにはいかないって、相澤先生がな」

 

「どんなコスチューム!?」

 

「どんなって言われても……黒のライダースーツ風だ」

 

「(早口)ライダースーツ系のコスチューム!?

ヒーロー系として王道だし、しかも砕条君の格闘技主体なら、付属品が多いのは動きの阻害になる。しかも、衝突・陸式・空衣武叢なら、なおさら……!」

 

「緑谷、怖いわ!」

 

何で野郎のコスチュームに、そこまで食い付くんだよ……恐ろしいな。

 

「砕条、マジでエンデヴァー事務所なんだな」

 

「轟。あぁ、せっかくの機会だ。No.2の事務所で学ばないとな……他の編入組よりリードできるチャンスなんだからな」

 

「リード? この前の救助訓練の動画や体育祭の結果から見ても、砕条の方が――」

 

「轟……あいつらは、俺なんかより怖いぞ……」

 

動画越しじゃ分からないだろうけど、少ないチャンスに必死に縋る“あいつら”を見たら、呑気にしてたら一気に抜かれる。

 

「砕条が、そこまで言うのか……」

 

「おぉ〜マジかよ! 映像見た時からスゲェって思ってたのに」

 

「だよな〜上鳴。アイツらの活躍、凄かったよな!」

 

「まぁ、確かにな。個性の使い方も凄かったよな」

 

「けっ、馬鹿かよ!」

 

周囲が編入組に感心している中、爆豪は強気な態度で吐き捨てる。

 

「周りがどうだろうが関係ねぇだろ!」

 

俺たちは思わず驚いた。

 

「そんなもん、プロになってからずっと付き纏うんだ!一々ビビってんじゃねぇ!!」

 

「ほぉ〜、言うねぇ爆坊!」

 

「ああ!? 誰が爆坊だ!」

 

「てめぇだよ。編入したら、真っ先にてめぇに勝つ……」

 

負けたままじゃ、悔しい。

スライサーに勝つためにも、同級生に負けてられねぇんだ。

 

「面白ぇ! 早く編入しろや!今度は完膚なきまでに叩き潰す!!」

 

「首洗って待ってろや!!」

 

「お前ら! ここが公共の場だって分かってんのか! 喚くな、バカども!」

 

『うっ……』

 

俺と爆豪が、相澤先生に目をつけられた。

 

「さて、今から学校外に職場体験に行くわけだ。

お世話になるプロヒーローに迷惑をかけないよう行動しろ。

特に、爆豪と砕条!」

 

……何で俺まで問題児扱いなんだ。

納得はいかないが、ここで文句を言えば余計に心象が悪くなるだけか。

ふと、こういう騒ぎの時は、相澤先生より先に飯田が止めに入るはずなのに……。

気になって視線を向けると――

 

「……」

 

体育祭の時の、クソ真面目で無駄に元気な委員長の姿はなく、

そこにあったのは、覇気のない表情だった。

 

「飯田君!」

 

そのまま去ろうとする飯田に、緑谷と麗日が近づいて話しかけていた。 その様子を見て、俺は轟に問いかけた。

 

「なぁ、轟。飯田のやつ、何かあったのか?」

 

「砕条……知らなかったのか?あいつの兄貴、インゲニウムがヒーロー殺しに襲撃されたんだ」

 

「え……? まさか、“体育祭の早退”って……」

 

「そうらしい……なぁ砕条、今の飯田が何を考えてるか……想像できちまう」

 

「……あぁ」

 

一年前、俺が故郷を飛び出した時と、同じ感覚だった。

俺はそう思い、緑谷と麗日と話している飯田のもとへ踏み込み、肩を掴んだ。

 

「飯田!」

 

「砕条君……」

 

「俺が説教できる立場じゃねぇから、上手く言えねぇけど……

お前の怒りも、間違ってねぇ」

 

正論も、同情も、今は意味がない。

 

「けど……周りには、お前のことを思ってる奴がいる。

それだけは、忘れるな」

 

「あ……あぁ。ありがとう。気をつけるよ」

 

「あぁ……」

 

飯田はそのまま立ち去った。

今の言葉が、飯田に届いているかは分からない。

それでも――ここで言わなきゃ、

俺みたいな馬鹿なことをする気がしてならなかった。

 

「砕条君……ありがとう。飯田君のこと、気にかけてくれて」

 

「緑谷……どうだろうな」

 

「心配だな……飯田君」

 

この時はまだ、この出来事が、あんな恐ろしい事件に繋がるなんて――

思いもしなかった。

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