僕のヒーローアカデミア 空拳ヒーロー エアーマン 作:ダレ狐
翌朝・轟家 道場 砕条視点
朝の空気は、少し冷たかった。
目を覚まして、静かな家の中を歩いていると、
かすかな音が聞こえた。
――バン、バン。
畳を踏み鳴らすような音。
(……道場か)
障子越しに覗くと、
そこには焦凍が一人で立っていた。
額にうっすら汗を浮かべ、呼吸を整えながら、拳を振る。
氷も、炎も使わない。
ただ、体の動きだけを確かめるような、愚直な基本動作。
「……朝から熱心だな」
声を掛けると、焦凍は振り向いた。
「起こしたか?」
「いや、勝手に起きただけだ」
少し沈黙。
「……一緒にやるか?」
「個性無し?」
「ああ」
「望むところだ」
道着を借りて、道場に上がる。畳の感触が、懐かしい。
「軽めでな」
「分かってる」
最初は、間合いの探り合い。踏み込み、かわし、受ける。
拳と拳、腕と腕がぶつかる乾いた音。
焦凍の動きは、真面目すぎるくらい真っ直ぐだ。
無駄がない分、読みやすい。
「……素直だな」
「悪いか」
「いや、嫌いじゃない」
軽くジャブを入れると、焦凍はむっとした顔で距離を詰めてきた。
そこからは、まるで子供みたいだった。
勝ち負けじゃない。 父への対抗でもない。
ただ、目の前の相手に集中して、全力でぶつかる。
「……っ!」
「今の、いい踏み込みだ」
「……!」
呼吸が荒くなり、互いに汗が落ちる。
思わず、笑ってしまった。
「何だよ」
「いや……楽しいなって」
一瞬、焦凍は驚いた顔をした。
それから、ほんの少しだけ口元を緩める。
「……俺もだ」
道場の外。
物音に気づいて、
冬美は足を止めていた。
障子の隙間から見えたのは、汗だくになって動き回る二人の姿。
焦凍が――怒りでも、義務でもなく。 父への反発でもなく。
ただ、“友達と本気で遊ぶ子供”みたいな顔をしていた。
「……よかった」
胸の奥が、じんわり温かくなる。
(ちゃんと、笑えるじゃない)
(こういう時間が、焦凍には必要だったのね)
道場から、また乾いた音が響く。
「一本、俺の勝ちだ!」
「今のは不意打ちだ」
「言い訳すんな」
「もう1本だ!」
「上等だ!」
その声に、冬美は小さく微笑んだ。
(砕条くん……ありがとう)
「がっ! 今のはキツイな〜朝飯前に狙うかよ」
「ガードが甘いのが悪いんだろ?」
(この子を“戦わせて”くれてるんじゃない)
(“生きさせて”くれてるのね)
「もう1本やるぞ!」
「望むところだ!」
朝の光が、道場の床を静かに照らしていた。
エンデヴァー事務所 職場体験2日目 砕条視点
「んで、朝食前まで稽古して怪我してるのかよ。アハハハハ、面白すぎるだろ」
「うっす」
「どうも、すみません」
結局、後半は焦凍と俺で、冬美さんに止められるまで組手をやっていた。
個性無しの組手なんて久しぶりだし、焦凍自身も元々上手かったのか、動きが良くて熱が入ってしまった。
俺達は、まだまだ修行が足りないようだ。
「そういえば、エンデヴァーさん見えないけど?」
「今は仮眠中だ。朝方まで出動だったんでな」
「……」
「そんなにすげぇんだな。そんじゃ今日はバーニンさんの元で?」
「そうだ。今日はパトロールと、エンデヴァーから二人の個性についてアドバイスをもらってるから、それの特訓をする」
「アドバイスだと?」
「俺も?」
「エンデヴァーなりに、昨日と体育祭での二人の問題点をまとめたみたいだからな。本当は今日、直接説明したかったらしいが、仕事の都合でな」
「そうか……」
「まぁ、強くなれる秘訣があるなら嬉しいぜ!」
「いいね、向上心があるのは。――その前に、まずはパトロールだ!」
「了解です」
「分かりました」
俺達はそのまま、バーニンさん達と周囲のパトロールに出た。
途中、緑谷からメールが来て、俺の《衝突・陸式》について質問された。なんでも“超パワーの使い方”の参考にしたいらしい。
向こうも職場体験で、個性のコツを掴んだのか?
その日の夕方 都内の警察署 エンデヴァー視点
「それで、俺をわざわざ呼んだのは、何か進展があったのか?」
昨夜の事件の後、警察から俺宛に連絡があった。
郵便局に届いていた小包――差出人は、現在俺の事務所で職場体験をしている砕条拳志の父親、砕条空牙。
砕条空牙は、十四年前に行方不明となり、警察が捜索していた人物だ。
最後の目撃は、息子を師範の元に預けた時以来……。
「そうですね。その件で、この方にも同席してもらっています」
USJ事件の担当でもある塚内刑事に会議室へ案内されると、公安の目良が待っていた。
「どうも。公安の目良です。お忙しい中、ありがとうございます」
「前置きはいい。十四年も行方不明の男が、なぜ俺の所に小包を?
それに、公安がどう絡んでいる?」
砕条 空牙
個性:空足
脚に周囲の空気を集め、放出することで加速や、脚部への空気纏着による蹴り技強化を行う、格闘主体の戦闘スタイル。
奴とは、俺がまだ関西に住んでいた頃、近所の武術道場で知り合った。
性格はちゃらんぽらんで、小学生の頃から見境なくナンパしているような男だった。
だが、個性と戦闘能力はずば抜けていた。
特に蹴り技は凄まじく、中学に入る前まで、俺は一度も奴に勝てなかった。
そのまま親の都合で俺は引っ越した。
五年ほど会わなかったが、高二の仮免試験で再会した。
あいつは士傑高校に通っていた。
だが、その軽薄さが嫌で、会話は最低限にしていた。
プロになって見返すつもりだった。
だが――
奴は自主退学した。
後に聞けば、父親の借金が酷く、夜逃げしたらしい。
母親も父親と共に姿を消し、残されたのは高額な借金だけ。
学費も払えず、中卒で働いたと風の噂で聞いた。
その頃の俺は、オールマイトを超えるために、なりふり構わず走っていた。
師範がヴィランとの戦闘で亡くなったことも、奴に息子がいたことも、最近になって知った。
そんな男が、俺の元に荷物を送ってきた。
警察から先に連絡が来たことで、只事ではないとは察していたが――。
「そうですね。彼は公安の潜入協力者として活動していました」
「あの空牙が? 性格的に不向きに見えるが」
「隠密向きではありませんが、だからこそ怪しまれませんでした。
彼の実力なら本来はプロヒーローになれていた。親の都合でそれが叶わなかった以上、我々も見捨てられなかった」
「くだらん世辞はよせ。都合のいい人材を確保できただけにしか聞こえん。それで……なぜ、十年以上音信不通だった男が、子供を師範に預けたはずなのに、俺に荷物を?」
「こちらの映像メッセージをご覧ください」
小包から取り出されたのは、ホログラム用の映像媒体だった。
起動すると、仮免試験の時よりも年を重ねた空牙の姿が映し出された。
だが、そこにあったのは軽薄さではなく、憔悴した表情だった。
「よぉ、エンデヴァー……いや、久しぶりに“轟”って呼ぶぜ」
(……)
「お前がこれを見る頃には、驚いてるだろうな。これは、あいつが高校に通う頃に届くよう、前もって手配した」
(相当、警戒していたのか……)
「息子、拳志の母親の話をしておく。写真は小包に入ってる。アルバムだ。できれば、息子に渡してやってくれ。それが一番の供養になる…母親の本名は███」
その名前を聞いた瞬間、俺は息を呑んだ。
(……そんな、馬鹿な)
「詳しい事情は、公安の人間が説明する。嫁は、自分の存在を公表しないでほしいって言ってた。でも、高校生になる頃なら大丈夫だと思ってな……誰に託すべきか考えて、雄英出身のお前を思い出した」
(……)
「多分、俺はこの潜入で死ぬ。だから息子を師範に預けた。
母親のことを何も知らないのは、可哀想だからな」
震える手が映像越しにも分かった。
「ガキの頃から不器用だけど、クソ真面目なお前なら信頼できる。
息子がヒーローを目指すかもしれない。雄英に行くかもしれない。
そんな未来を、想像したんだ」
無理に笑う空牙を見て、胸が詰まる。
「だから……その時まで現役でいてくれ。
ヒーローになれなかった俺の代わりに……頼む」
映像はそこで途切れた。
軽薄だが、情に厚い男だ。
友人も多かったはずなのに――なぜ、俺だった。
「……馬鹿野郎」
「すみません。この映像媒体にはカメラセンサーがあり、
おそらくエンデヴァー本人でなければ再生できない仕組みでした」
「……要件を早く言え。今、俺の事務所には――息子と、あいつの息子がいる」
空牙。
俺は、お前が言うほど誠実でも、立派でもない。
だが――このアルバムだけは、必ず届ける。
携帯にメッセージが冬美からだ。
【冬美】
焦凍の料理チャレンジ
その写真は焦凍がホットプレートの前でお好み焼きを焼いている様子 隣には砕条が何かのアドバイスをしている様子だった。
冬美は焦凍の珍しい様子を入院している妻の冷に見せる為に撮ったのだろう…その焦凍と砕条の姿が…小学生時代に俺と空牙がお好み焼きを教えて貰った様子に似ていて…込み上げる思いがある。
「なんでもっと…あいつと話さなかったんだ……俺は」
翌日 都内 病院 冷視点
「お母さん、夏の着替え置いておくね」
今日は病室に来る予定が無かった、冬美ちゃんがコレから暑くなる季節になるから夏用の衣服等用意してくれた。
最近は"あの日"以来、会って居なかった焦凍と話すようになり、焦凍が学校の話や友達の話をするようになった。 そんな姿に私も元気を貰っている。
昔テレビを見てヒーローに憧れた時の様に優しい目をした焦凍と話せて嬉しいわ。
「冬美ちゃんありがとうね、平日なのに学校は大丈夫なの?」
「大丈夫、学校の方も連絡したから、今日は折角だからお母さんにも食べて欲しくて夏君、持ってきて〜」
「分かってるよ〜ほら、お母さん コレを食べて欲しくて」
夏君が病室に入るとソースの焼けた独特のいい匂いが広がっていた。
「もしかしてお好み焼き? 夏祭りでもしてたの?」
「違うよ、お母さん、このお好み焼きはね焦凍が作ったのよ」
「焦凍が?料理? どうしたの?」
「実は今週から職場体験で同じ学校の子が家に来てさぁ〜」
【回想】1日目の夕食後
「砕条、何でお好み焼きを作る話をしたんだ?」
「ん? だって、焦凍 火とか炎使うのに抵抗あるだろ?」
「それは…そうだが、それと料理に何が?」
「焦凍が炎を使う為には火=エンデヴァーのイメージを払拭しないとダメそうだからなぁ〜 手短な所だと料理だ」
「料理…そうなるのか?」
「勿論、料理したから即解決では無いけど、いきなり個性使うことや戦闘意識してたら使うにも時間掛かるだろ? 」
「確かに」
「どんな個性も武器も人を殺せる力だけど力をちゃんと理解して使えば誰かを助けにもなる。 まぁ〜テレビの受け売りだけどよ」
「理解して使う…か」
「焦凍はエンデヴァーじゃない、 ショートとして個性として向き合うのが1番だと思う」
「!?」
《君の力じゃないか!!》
「ふっ、砕条も同じだな」
「? 何が…」
「悪い、ありがとうな お好み焼き楽しみだ」
ー回想終了
現在 病院 冷視点
「そんな事が」
前に話してた体育祭の緑谷君と同じ様に言ってくれたのね
私はあの子がいちばん辛い時に何もしてやれなかった。
でも、焦凍は周囲に支えて貰ってるのね。
「砕条君、見た目は悪そうなのに話すとユニークな子よ 夏君ともすぐに波長合ってたし」
「いや、確かに砕条君はいい子だよ。 面白いし、焦凍の事を色んなことを教えてくれてさ…何よりもエンデヴァー相手に殴ってくれたらしい」
「え!?」
「夏君、それ知らないんだけど」
「姉ちゃんと砕条君が台所に言ってる時に焦凍が話してくれて、組手として"アイツ"と戦ったらしい …プロ相手に怯みもせず立ち向かって、顔面を殴ったらしい…それ聞いた時に俺は"ざまぁ"って思ったよ」
「ちょっとその言い方は」
「俺は、あの人に対して直接な事はされてないよ…でも、母さんや焦凍や燈矢兄の事を思うと許せない…けど、俺の力じゃでどうにもならない…砕条君は別に俺たちの為に殴っては無い…でも、力に執着した奴に殴ってくれたのは…少しだけスカッとしたんだ」
夏君の思いを聞くと、あの時のあの人の事は今でも怖い…幼少期からそんな所を見てきた子供達は尚更よね…焦凍もそうだったと思う。
その恐怖の対象のあの人に拳をぶつける人間がいる。 この子達にとってはヒーローの様な存在に近いかもしれない。
「そう…」
「でも、砕条君が私たちの事を思って殴ったのかは分からないけど…凄く優しい子よ、 お好み焼きのアイディアもお母さんに届けられる食べ物としてアイディアしたみたいよ」
「え?そんな話してた? もしかして台所の時に?」
「うん、そう」
「何だが、このお好み焼きを食べるのが勿体ないわね」
「それは無いよお母さん、 焦凍最初なんてめっちゃミスしてたけど」
「そうそう、失敗したやつと焦げたやつはお父さんの所に何十枚もしたのに」
「ぷっ!あら、そうなの…」
あの人の事だから、全部食べたんでしょうね…
「これ、俺のスマホで撮った時のヤツ」
【録画映像】
「良いか、焦凍 ヘラを使って生地のくっつき具合でひっくり返すタイミングをみたら良いんだよ」
「…このくらいか?」
「その感じ、ヘラをお好み焼きの下を全体に入れて内側にひっくり返す様にな」
「…行くぞ 」
ホットプレートで焼いてるお好み焼きを真面目に見てる焦凍、数秒の沈黙後にお好み焼きをひっくり返すと砕条君の頭の上に乗った。
「熱ぃぃい! 」
「悪りぃ!」
焦凍は砕条君を冷まそうと氷を出したけど、お好み焼きと髪の毛の氷付きがまるで自由の女神みたいに変貌して、撮影した夏君は震えながら笑っていた。
「アハハハハ、ダメだ腹が痛い」
「ちょっと夏君、笑ったら…ぷっ アハハハハ」
「焦凍やりすき,今度は寒い」
「悪い ぷっ 砕条鼻水が…」
「いや、コレ焦凍のせいだからな…つーか温めてよ」
【録画終了】
「もしかして、先のお好み焼きをあの人に?」
「そうね、砕条君が食べ物を粗末にしたらダメなのと鰹節大量にしたらバレないからって」
砕条君、災難な目に遭ってるのに不謹慎だけど、子供達が楽しそうな風景を見せてくれて、母親として感謝しきれないわ。
「それじゃ、このお好み焼きをいただきます…あらこのお好み焼き広島焼きね…美味しい」
友達に教えて貰いながら一生懸命に作ったのね焦凍。ありがとう
「本当は本人に焦凍に届けさせたかったけど、今日からは保須市の方に出張に出かけたみたい…最終日にはまた、帰ってくるみたい…今度は天ぷら蕎麦作るみたいよ」
「ヒーローの職場体験なのか料理教室か分からなくなってないか焦凍の奴」
「でも、楽しそうね」
あの子が色んなことにチャレンジしてる…私も頑張らないと……いつか、前に言っていた緑谷君と砕条君に会ってみたいわね。