僕のヒーローアカデミア 空拳ヒーロー エアーマン 作:ダレ狐
職場体験4日目 轟家 焦凍視点
家に帰ってからは砕条は食欲が無いと客間で休むと良いそのまま部屋に入った。
俺も退院したばかりだから軽めな物で大丈夫と前もって冬姉にメッセージで伝えていた。
そして、リビングでは夏兄と冬姉と3人で食事をした。
以前は何とも思わなかったが、砕条が居ないだけでこんなにも静かな事に改めて実感した。
「で? 保須で大暴れしてきたヒーロー志望様は、何をそんな暗い顔してんの」
夏兄が箸を置いて言う。
いつもの軽口だが、目はちゃんと兄のものだった。
「……友達が、少し大変で」
「砕条くんのこと?」
冬姉が静かに聞く。俺は小さく頷いた。
「親の話を、今日いきなり聞かされたらしい。 詳しくは聞けてないが、小さい頃に両親に捨てられたと思っていたらしい。でも、その事が実は違うことを親父から突然聞かされたみたいだ。
俺には、何て声かければいいか分からなかった」
「そりゃ重いなぁ……あの人、デリケートとか知らないだろうかな」
夏兄は天井を見上げる。
「でもさ、お前が“分からない”って思えただけマシだろ。
昔のお前なら“そうか”で終わってたぞ」
「夏雄!」
冬美が肘で小突く。
「焦凍、無理に正解探さなくていいのよ。
ただ側にいてあげるだけで、救われる時もあるから」
その言葉に、少しだけ肩の力を抜けた。
「……母さんにも、聞いてみる」
スマホを取り出しメッセージで母さんに電話出来るか確認した。母さんの部屋は個室で携帯電話は可能な部屋だが、夜も遅いから念の為に確認をとった。
自室に戻ると携帯電話に母さんからのコール音が響いた。
コール音のあと、優しい声が流れた。
『焦凍? どうしたの、こんな時間に』
「母さん……相談がある」
焦凍は途切れ途切れに、砕条の様子を話した。
怒って、戸惑って、でも強がっていたこと。
『……その子、きっとね。
誰かに“いていいんだ”って言ってほしいのよ』
「俺が言っても、いいのかな?」
『あなたが感じたままの言葉でいいの。ヒーローじゃなくて、友達としてね』
焦凍は小さく息を吐いた。
「明日、改めて言ってみるよ」
『うん。そうしなさない、焦凍おやすみ』
電話を切った後、部屋の窓の外を見た。
「……俺なりに、だな」
同時刻 病院 轟冷視点
電話を切ったあと、しばらく携帯電話を握ったままだった。
焦凍の声は落ち着いていた。
けれど、あの子が「どうしたらいいか分からない」と言う時は――
たいてい、誰かがひどく傷ついている時だ。
「砕条くん……」
数日前に冬美や夏君から聞いた子。
焦凍が“友達”と呼んだ少年。
親の話を突然知らされたこと。
怒って、混乱して、でも取り乱しきれなかったこと。
ゆっくり目を閉じた。
【お母さん嫌だよ!僕なりたくない!お母さんを虐める人なんかに】
――あの頃の焦凍に、似ている。
辛くて泣きそう日々の時の…あの時、私は焦凍を…いえ、燈矢も夏君も冬美も支えることが出来ない私に資格は無いかもしれない。
でも、あの子達を笑顔にした子を少しでも力になりたい。
「……私でよければ」
自分に何ができるかは分からない。
でも“聞く”ことならできる。
もう一度、焦凍へメッセージを送った。
『その子に、会ってみたいの。
迷惑でなければ、明日一緒に来てくれる?』
私も前に進まないと
その頃のエンデヴァー事務所
会議室には重い空気。
……のはずが、バーニンの一言で崩れた。
「いや無理ですって!
あんな爆弾情報、退院直後の未成年に渡すタイミングじゃないです!」
「うむ……」
エンデヴァー、珍しく言い返せない。
サイドキックAが追撃する。
「俺、送迎の車の中、焦凍君たちの話聞いただけでも辛かったですよ!最悪オブ最悪です!」
「刺さる言い方やめろ」
サイドキックBも乗る。
「せめて焦凍くん同席とか!クッション役とか! なぜ単騎突撃を!?」
「……仕事の癖だ」
「ヒーローの悪い癖出ましたね!?」
バーニンは頭を抱える。
「砕条くん、メンタル鋼っぽいけどまだ十五ですよ!?
ステインより怖いのアンタの説明ですよ!」
「そこまでか……?」
全員が同時に頷いた。
エンデヴァーは腕を組み、深く唸る。
「……俺はまた、やり方を間違えたか」
「“また”って自覚あるのが救いですね!」
ツッコミが飛び交う中、それでも彼らは知っていた。
この不器用な男が、誰よりもあの少年を案じていることを。
翌日 病院 砕条視点
焦凍の隣で、俺は落ち着かない様子で立っていた。
「なぁ焦凍……本当にいいのか?俺みたいな他人が、お前の母さんに会うとか」
「母さんが会いたいって言った。だから問題ない」
「その理屈つえぇな……」
病室の扉が開く音。
現れた焦凍の母さんは、柔らかく頭を下げた。
「はじめまして。轟冷です」
その声に、俺は反射的に背筋を伸ばした。
「さ、砕条拳志です……お邪魔します」
今まで見たことのないタイプの綺麗な人で、
“凛とした”――そんな表現がしっくりくる人だった。
だから余計に緊張する。
冷さんは俺と焦凍に粗茶を出してくれた。
お茶の湯気だけが揺れている。
冷さんは、じっと“観察”するでもなく、ただ同じ空間に座っていた。
「急に呼んでごめんなさいね。焦凍から、少しだけ話を聞いたの」
「……いえ」
俺はカップを見つめたまま言う。
「正直、まだ整理できてなくて。怒っていいのか、悲しんでいいのかも分からなくて」
冷さんは小さく頷いた。
「分からないままで、いいと思うわ」
その一言に、俺は顔を上げた。
「大人はね、理由があれば納得できるって言うけれど、
子どもだったあなたの時間は、戻らないもの」
焦凍は隣で静かに聞いている。
「怒ってもいいし、嫌ってもいい。
無理に“立派なご両親”にしなくていいのよ」
俺の喉が小さく鳴った。
「……俺、あの人たちの顔も覚えてないんです。
なのに急に“お前のためだった”って言われても」
「うん」
「嬉しいのか悔しいのかも分からなくて……
ただ、置いていかれた感じだけ残ってて」
冷さんは少し考えてから、ゆっくり言った。
「置いていかれた子の気持ちはね、置いていかれた子にしか分からないわ」
その言葉は慰めではなく、事実として胸に落ちた。
「でもね」
冷さんは微笑む。
「あなたはもう一人じゃない。焦凍が心配するくらいには、大事な人なのよ」
俺は横の焦凍を見る。
「……お前、冷さんに何言ったんだよ?」
「? そのまま話しただけだ」
「そうだけど……まぁ、ありのままが焦凍のいいところだな」
「? 今は砕条の話だろ?」
「そういう意味じゃねぇよ!」
小さなやり取りに、冷さんもふっと笑った。
「もし嫌でなければ、また来てくれる?
相談じゃなくてもいいの。ご飯を食べるだけでも」
少し迷ってから、俺は頷いた。
「……はい。俺でよければ」
「そうだ、前に蕎麦を振る舞う話をしてたわね」
「今言うのかよ!?言うけど、蕎麦を一からは作れねぇぞ?」
「えっ? そうなのか……」
「露骨に落ち込むなよ!蕎麦って丁寧に作るの難しいんだよ!
麺がボロボロになるし、店みたいな喉越しにならねぇんだ!」
「そうか、砕条なら……」
「あのなぁ!俺はオールマイトみたいに万能じゃねぇから!」
「お……オールマイトならできるのか?」
「ちげぇよ! 例え話だよ!!」
「ふふふ。別に完璧じゃなくても、あなたたちが手作りなら食べてみたいわ」
焦凍の唐突なボケで話は脱線したが、
冷さんのおかげで、少しだけ気持ちが軽くなった。
職場体験・最終日 ― エンデヴァー事務所 屋上
色々ありすぎた一週間の締めとして、砕条が言い出した。
「なぁ焦凍、最後くらい気晴らししねぇ?俺とお前で飯作って、みんなに食わせようぜ」
「……料理?」
「火力担当お前な。俺は仕込みと鉄板担当」
その一言で、話はあっという間に決まった。
バーニンもサイドキックたちも、昨日までの空気を察していたのか――
「いいじゃん! 打ち上げにしよ!」
「むしろ食わせてくれ!」
と満場一致で便乗した。
そして、 エンデヴァー事務所 屋上では鉄板の前に立つ焦凍。
その横で手際よく具材を刻む砕条。
「火力上げてくれ!」
「このくらいか?」
「そうだ、チャーハンは火力が大事だ!」
焦凍の炎で中華鍋が踊り、黄金色のチャーハンが湯気を上げる。
砕条はその隣で餃子の餡を詰めて皮の包みが物凄いスピードで出来て、鉄板に並べて、金属の蓋をして蒸し焼きにしていた。
その光景に、サイドキック一同はぽかんとした。
「……俺ら、ヒーロー事務所だよな?」
「中華屋台じゃないよね?」
「でもめちゃくちゃいい匂いするんだけど」
やがて誰かが吹き出し、それにつられて笑いが広がった。
そして、出来上がる、黄金チャーハンとタレ無しで食べれる餃子がテーブルで並べられ、サイドキックを初め事務所の方々が箸を付け始めた。
「うっま! 何これ店出せる!」
「焦凍くん、火加減プロすぎ!」
「砕条、手際良すぎて怖ぇ!」
文句なしの大好評。
焦凍は少し誇らしげに皿を見て、
砕条は鉄板の前でニヤッと笑った。
「な、悪くねぇだろ」
「……あぁ、俺の火の個性をこんな使い方提案するのは砕条ぐらいだ」
二人は自然と拳を軽く当てた。
コツン、と小さな音。言葉よりも短い、けれど確かな“相棒”の合図だった。
その輪の中心で――
「焦凍ォォォォォ!!
お前の手料理がッ……俺の胃袋にッ……!!」
エンデヴァーが、気味が悪いほど感極まっていた。
「うるさい親父」
「名前呼びながら食うのかよ…怖ぇよ!」
「空牙ァ……見ているか……ッ!!」
サイドキックたちは小声で囁く。
「今日のボス、情緒どうなってんの」
「感動の方向が暑苦しすぎる」
それでも――
誰も止めなかった。
焦凍の成長も、
砕条が笑えていることも、
全部ひっくるめて“いい日”だったからだ。
夕方 最寄りの駅近くの公園 砕条視点
「はぁ〜……すげぇ1週間だったな」
帰る途中、スマホを見ると、編入組の山岳救助での活躍がニュースになっていた。
さらに、学校からの連絡で「来週の月曜日は朝礼は行わず、体育館に集合」と記載されている。
俺たち編入組は、朝一で会議室に集合だそうだ。
「……何があるんだ?」
ベンチに座り、夕空を眺める。
周囲を見ると家族連れの姿が目に入り、エンデヴァーさんから渡されたアルバムと映像媒体の入った袋を横目で見て、思考が止まった。
「……見たくないわけじゃないが……今さら観てもな……」
見たところで、過去に戻れるわけでもない。
そう思うと、今まで通り知らないままの方が気楽にも思えた。
「いっそ、このまま捨てた方が……」
「砕条ちゃん?」
声のする方を見ると、俺と同じようにヒーローコスチュームを入れたアタッシュケースと、数日分の荷物を持った蛙吹が立っていた。
「蛙吹、なんで?」
「ケロ。あなたを見かけたからよ。ニュース見たわ、保須市の事件」
「あぁ……まぁ、色々重なってな……」
「随分と深刻そうな顔ね」
「……前に、俺の親の話のこと、覚えてるか?」
「えぇ。二歳の頃にお師匠さんのところに預けられたって言っていたわね」
「エンデヴァーが、俺の本当の父親と知人だったらしくて。経緯はよく分からないが、二歳までのアルバムと、母親からの映像媒体を渡されたんだ」
「ケロ……そんなことがあったのね」
「正直、今さら知らされても……余計に苦しむくらいなら、捨てようと思ってたんだ」
「それは……」
ふと見ると、蛙吹の瞳に涙が溜まっていた。
突然涙を流す姿に、俺は慌ててハンカチを取り出した。
「蛙吹!? 悪い!! 俺、何かしたか?」
「ごめんなさい……砕条ちゃんに、何て言っていいか分からなくて……
アルバムを捨てないでって言いたい気持ちと……あなたの今までの出来事を思うと、軽はずみに言えなくて……」
「蛙吹……」
「私は家族仲良く暮らしてるから、砕条ちゃんの気持ちに寄り添えるなんて言えない……
でも、家族がバラバラなのは、やっぱり辛いもの」
「それは……」
確かに、前に蛙吹家で夕食を一緒に食べた時の、家族の仲の良さが頭をよぎる。
この一週間は特に焦凍の家で過ごしたから、家族の温かさがどんなものか、理解できてしまった。
「ごめんなさい……」
「……俺のアパート近いから、そこで落ち着くか?」
往来の場で同級生を泣かせてしまったようで居た堪れず、場所移動を提案した。
「……そうね」
そう言って、歩いて数分のところに借りているアパートに入った。
俺の部屋は根津校長の計らいで借りられたもので、家具付きの部屋だ。
最低限の家具や食費も出してもらっている。
とりあえず蛙吹を部屋中央の丸テーブルの座布団に座らせ、
俺はケトルでお湯を沸かし、お茶の準備をした。
「蛙吹、インスタントのカフェオレとレモンティーと粗茶があるけど、どれがいい?」
「レモンティーでいいわ」
「了解」
「あなたの私物はあるの? 見たところ、備え付けの家具ばかりだけど」
「俺の私物は、そこのダンボールの中だ。
テントや漫画に、個性伸ばしの一環でトランペットもあるぞ」
お湯が沸き、マグカップにレモンティーのティーバッグを入れて注いだ。
好みが分からないので、フレッシュと砂糖を袋ごとトレイに乗せてテーブルに運ぶ。
「へぇ〜、意外ね。楽器ができるなんて」
「素人に毛が生えたレベルだよ。基本の"『きらきら星』しか"しなかったし……
最近なんて全然吹いてないぜ?
ほい、レモンティー。砂糖とフレッシュ、好みで入れてくれ」
「ありがとう……」
少し落ち着いたようだ。
……それにしても、勢いで女子を部屋に上げたことを冷静に考えると、まずいよなぁ……。
というか、このままだと気まずい空気のまま時間が過ぎるだけだ。
……腹を括るか。
「……しょうがねぇ。今、見るか」
「ケロ、いいの?」
「まぁ成り行きだけどな。
ここで見なければ、遅かれ早かれ捨てる気がするし……
独りだと見れないから、一緒に見てくれるか?」
「気を使わせてしまったわね」
「気にしなくていい。
むしろ、強引でもないとできなかった」
そう言って、俺はアルバムを取り出した。
そして二人で一ページ目をめくる。
×××年7月7日
第1子 拳志 誕生!
生まれたばかりの赤子を抱き寄せる黒髪ロングの母親らしき女性と、
昨日エンデヴァーに見せてもらった、少年時代の面影がある赤みのある茶髪の男性が笑って写っていた。
「これが……俺の父親と母親?」
「素敵なご両親ね」
アルバムをめくると、変顔をする父親、それを見て笑う母親、
そっぽを向く赤子の俺――いろんな状況の写真が収められていた。
「変な顔ばっかだな……」
「ユーモアのある人ね」
ページが進むと、どこかの動物園で俺がウサギと戯れている写真、
母親が乳母車を押している写真、
そして父親が、なぜかゾウにサングラスを取られている写真があった。
「可愛らしい服ね、砕条ちゃん」
「俺のアルバムなのに、父親の奇行写真が目立つ気がするんだが……」
一歳の誕生日。
両親に挟まれてケーキのろうそくを吹き消す俺。
そこからは、病院のベッドにいる母親の写真が多くなった。
時々外で撮られた写真もあるが、最後は病院のベッドで母親に抱きしめられた写真で終わっていた。
そして、映像媒体を取り出す。
「砕条ちゃん、これは?」
「母親のビデオメッセージらしい……再生するぞ」
真ん中のボタンを押すと、どこかのリビングで撮られた映像が流れた。
アルバムを見る限り、一歳の誕生日頃の母親の姿だった。
「どうも。改めて、拳志の母親の砕条
これは未来の拳志に向けてのビデオメッセージになります」
初めて聞く母親の声に、言葉にできない何かが胸に込み上げた。
「私は元々、染色体が少なくて、長くは生きられない身体でした。
お父さんに出会うまでは、いつ死んでもいいと思う生き方をしていました」
「……」
「でも、お節介焼きのお父さんに惚れてしまって、
拳志という、私たちの宝物に出会えたことは……
私の人生に意味をくれました」
母は感極まっていたが、涙を堪えていた。
「何となく、あなたはお父さんに似て、お節介な人だから……
お父さんがなれなかったヒーローを目指しているかもしれないわね」
「ケロ……」
「どんな将来になるのか……見られないことは悔しいけれど
……でも これだけは覚えていて。
あなたを産んで、後悔はしていない。
あなたとお父さんに出会わなければよかったなんて、思わない
ほんの数年間だけど、私に生きる意味をくれたから……
だから、ありがとう
私からの願いはね。
拳志が大人になって、好きなことをして、好きな人ができて……
幸せに過ごしてね」
ビデオメッセージは、そこで終わった。
「……」
「砕条ちゃん……良かったわね」
俺はそれ以上、何も言えなかった。
蛙吹が、そっと背中を撫でてくれていた。
「蛙吹……ありがとう。俺一人じゃ、見れなかった」
「ケロ……そういえば、出会ったタイミングがアクシデントで、
そこから言うタイミングを逃してたけど……
私のことは“梅雨ちゃん”って呼んで。
お友達には、そう呼んでほしいの」
「……あぁ」
六月は雨が多くて嫌になることも多いが――
今日ほど、こんなにも嬉しい
次回は心操人使達の職場体験の話を書きます。