僕のヒーローアカデミア 空拳ヒーロー エアーマン 作:ダレ狐
水難ゾーンを脱出した俺たち四人は、壁の陰に身を潜めつつ状況を整理していた。
「緑谷、大丈夫か? その指……」
骨折しやすい体質だとは聞いていたが、実際に見ると想像以上に痛々しい。
「うん……なんとか……」
「とりあえず、周囲に気をつけろよ」
峰田は腰を抜かして震えたまま。
緑谷は痛む左指を押さえながら、それでも必死に周囲を確認し続けていた。
そんな中、蛙吹が俺の方へ近づいてくる。
「砕条ちゃん、さっきはあんな状況でよく見えてなかったけど……あなたも緑谷ちゃんと同じく怪我してたのね」
俺の腕は、ボーガン矢が掠めた傷から血が滲んでいた。
「これくらいどうってことねぇよ。お前らが無事なら、それでいい」
「……ふぅん。その割には、背中を押さえてるけど?」
蛙吹は遠慮なく――だが驚くほど優しく俺の背中へ手を添えた。
脳無という化け物に殴られた痛みがそこに残っていた。
ヒヤッとした手の感触と、傷口のヒリつきが同時に襲い、思わず身を竦ませる。
「!? な、何するんだ!!」
「怪我したまま無理しても、誰も喜ばないわ。私も、緑谷ちゃんも、峰田ちゃんも」
「……関係ないだろ。俺は余所者だ」
「素直じゃないわね、砕条ちゃんって」
「そりゃどうも」
「あなた……ヒーローじゃないって言ってたけど、さっきの戦い方は完全に“誰かを守る戦い方”だったもの」
俺は、一瞬言葉を失った。
「賞金稼ぎとか、ターゲットを探してるとか言うけど……あなた、本当は“ヒーローの人”よね?」
「……どうだかな」
「私は感じたまま言うタイプなの。嘘はつかないわ。だから――ありがとう」
その声は静かで、真っ直ぐで、押しつけがましくない。
なのに胸の奥に、まっすぐ染み込んできた。
歩き出そうとしたとき、蛙吹が俺の袖をつまんだ。
「砕条ちゃん、とりあえず止血するわ」
敵に血の跡を辿られるのは面倒だ。
俺は袖を捲り、ポケットから消毒液と大きめの絆創膏を取り出し、彼女に預けた。
蛙吹は手際よく処置を済ませる。
「怪我はちゃんと治しなさいよ?」
それだけ言い残し、彼女は先に駆け出していく。
俺は、頬を指で掻きながら呟いた。
「……変な女だな、ほんとに」
それにしても、緑谷も蛙吹も峰田も……状況が状況とはいえ、俺みたいな怪しい奴にずいぶん普通に接してくるよな。
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「とにかく、今は助けを呼ぶのが最優先だと思う。このまま水辺に沿って、広場を避けて出口に向かった方がいい」
「そうね。広場には相澤先生が引きつけてるし、今はそれが最善かと」
「でも……相澤先生、無理してる気がする」
「お、おい緑谷……まさか、あそこへ行くつもりじゃねぇだろ……?」
「分かってる。様子を見て……助けが必要そうなら……」
「そんな考えならやめとけ」
「砕条君?」
俺は道着を少し捲り、胸元の傷跡を見せた。
スライサーに受けた深い傷だ。三人とも息を飲む。
「今、イレイザーヘッドが戦ってる連中は“暴れるだけのチンピラ”じゃない。人を殺すために個性を使う連中だ。
俺は力量も分からねぇまま向かって……結果がこれだ」
「な、何だよ……そんな傷……こえぇよ……」
「緑谷。それでも先生の元へ行くなら……覚悟しとけ。全員死ぬつもりでいけ」
「……怖いよ。でも僕は、オールマイトみたいに誰かを助けるヒーローになるために雄英に来たんだ」
緑谷の目は怯えていながらも、真っ直ぐ俺を見ていた。
「……で、どうするんだ?」
「今、このメンバーに出来ることは、周囲のヴィランを抑えて相澤先生の負担を減らすこと!」
「それで、二人はいいのか?」
「私はそれでいいと思う」
「……あくまで確認してからだ。ヤバかったら、逃げるの忘れんなよ」
俺たちは警戒しながら水辺を進み、広場へ近づいた。
広場では、相澤先生が大量のヴィランを相手に、布を使った拘束や、攻撃の誘導で圧倒していた。
だが先ほど見たときより明らかに疲労が濃い。
「十九……十八……十七……」
手型の男が接近していた。
牽制の布が掴まれ、距離を詰められる。
イレイザーヘッドの肘打ちが入るが――
「動き回るから分かりづらいけど、髪が下がる瞬間がある。その瞬間に一アクション終えることだ。
そして……その時間は短くなってるぜ、イレイザーヘッド?」
バキッ、とイレイザーヘッドの肘があり得ない折れ方をした。
「肘が!」
他のヴィランが一斉に襲いかかる。
「衝突・参式――空気砲!」
俺は水辺から駆け上がり、次々とヴィランを殴り飛ばしていく。
「お前……何で――」
「あんまりにもバテてるように見えたからな。選手交代だ」
「何を勝手な――!」
言い終える前に、俺は先生の鳩尾に拳を叩き込んだ。
膝をついたところで服を掴み、水辺へ放り投げる。
「邪魔だから、今のうちに出口へ行っとけ!」
蛙吹が舌で先生を受け止めたのが見えた。
これで俺のもとに来ないだろう。
「おい、イレイザーヘッドはオールマイトの次に倒す獲物なんだ。勝手なことしてんじゃねぇよ」
「衝突・弐式――足払い!」
踏み込みに空気圧を溜め、一気に踏み抜く。
足元から地震のような衝撃波が広がり、半径10mのヴィランの動きを止めた。
「行け! お前ら!」
「お前、邪魔だよ。脳無、殺れ」
巨大な脳無が俺へ迫る。
殴りつけられた場所はクレーターになるほどの威力だった。
「……ちっ、デタラメな力だな。まともに受けたら死ぬ」
挑発に乗りやすい手型男を見て、俺は踏み込んだ。
「衝突・肆式――空爆拳!」
ゼロ距離の空気砲を重ねた、最も威力の高い拳。
轟音とともに命中――するはずだった。
だが、
「――グオォォォ!」
俺と手型男の間に脳無が割り込んできた。
拳は吸収されたように通じていない。
「……嘘だろ。俺の技が……」
「残念だったね。これで終わりだ」
脳無の腕が振り上がる。
ああ、終わりか――父さん……ごめん。
そのとき――
「スマァァァッシュ!!」
脳無の顔面に緑谷の拳がめり込んだ。
俺もろとも吹き飛ばされ、距離が開く。
「な……緑谷! 何してる!」
「ごめん……無茶だって分かってる。でも、君を放っておけないよ!」
「馬鹿野郎! 俺は雄英生でも市民でもねぇぞ!」
「それでも! 目の前の人を見捨てるなんてできない!
僕が憧れるヒーローなら絶対にそんなことしない!」
緑谷が構える。俺も立ち上がろうとしたその時、階段の方で轟音が響き、黒霧が姿を現した。
「死柄木…」
「黒霧か13号は仕留めたのか?」
「行動は不能にしたが、しかし、生徒を1人外に逃がしてしまった…すまない」
「はぁ!? お前……チッ、お前がワープの個性じゃ無ければこの手で粉々にしてたぞ!」
なんだコイツ、ガキみたいな癇癪したぞ…
「ゲームオーバーだな、さすがに大量のプロ相手はキツイ…引き時か」
今、"引き時"って言ったよな? 確かにここに雄英高校の教師、オールマイトに、疲労してるとは言えイレイザーヘッドも健在なら、確かに分が悪い話だ。
「でも、平和の象徴の教示だけでも潰すか!」
「させるか!」
死柄木が緑谷に接近に動いた瞬間に俺も同時に動いた。 緑谷を掴んで間に立ち、死柄木の腕を振り払って鳩尾に蹴りを決めて距離を離した。
「!? ありがとう、砕条君!」
「コレで貸し借り無しだ!」
「ちっ、先から邪魔をする…お前は何?ヒーロー? それともヴィランなの?」
「お前に関係あるのかよ? テメェーが気に入らねぇ、それで充分だ 」
正直、俺自身も分からなくなってる。
ドーン!
施設の階段の方から音が響いた。 現れたのはテレビで見かけるあの伝説のヒーロー
「私が来た!」
オールマイトの登場だ。