生徒会戦線異常なし。〜初恋相手が「資本」と共に帰ってきた。俺の平穏は、攻撃ヘリと共に爆散した〜   作:全自動髭剃り

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 学園ものといえばバトル! バトルといえば空挺降下!


降下作戦、高度400メートル

 ――ただの生徒会予算会議だろ、なんで攻撃ヘリに乗ってるんだ俺たちは。

 

 

 高度400メートル。眼下に広がる校舎がミニチュアのようだ。

 けたたましく唸りをあげるヘリコプターのローター音から耳を守るためのヘッドセットから、竹を割ったような笑い声が聞こえてくる。

 

「ふはははは! 見ろ、春原(すのはら)書記! 人がゴミのようだ!」

「調子に乗らないでください! ハッチのギリギリに立ってたら振り落とされますよ!」

「わしがそんな柔に見えるか!」

 

 豪快に笑って見せる、暴れ回る黒髪と燃えるような灼眼の女の子。藤原夜白(ふじわらのやしろ)、この学園の生徒会副会長にして、藤原組組長。

 柔に見えるも何も。小学生と見紛う身長に、折れそうなほど細い四肢。暴風で荒ぶる制服のせいで、その小さな体躯はヘリの揺れだけで吹き飛びそうだ。

 その豪快すぎる背中を諦めに似た気分で見ていると、再びヘッドセットから声がした。

 

『聞こえているか、夜白(やしろ)春原(すのはら)書記』

「聞こえておるぞ!」

「聞こえてますよ!」

『よし、通信に問題はなさそうだ。これより学号作戦を開始する』

 

 風圧で目がまともに開けないが、それでもあのキザったい顔が思い浮かぶようないい声。

 羽瀬川(はせがわ)(かえで)会長の声に違いない。自分のことを「朕」と呼ぶ夜白先輩に負けないインパクト系イケメンだ。

 晴れた日光のもとでもなお煌めく灼眼の夜白先輩のことをぼんやりと見ながら、こんな事態が日常化しつつあることに嘆息する。

 

『事前にも説明した通りだが、本作戦は生徒会室の奪還を目標とする。14:40(ヒトヨンヨンマル)に部室棟屋上に落下傘降下、その後5分以内に生徒会室入り口で再度集合し、バールによる扉のブリーチング後、素早く敵対勢力を制圧する』

「敵対勢力って……。相手は誰かわかったんですか?」

『ああ。昨日捕縛した文芸部部員が口を割った。生徒会の予算編成に納得がいかなかった化学部と歴史研究部の仕業だそうだ。ゆえに、アンモニアや硫黄系の毒ガス、マグネシウムリボンを応用した閃光弾などの抵抗、さらには高重量史料の投擲などが予測される』

「化学部に比べて随分と脳筋な歴史研究部ですね……」

『こちらにもホッチキスなどの軽武装や消火器といった重武装の使用許可は出ている』

「誰が出したんだよ! 会長の独断でしょ、どうせ!」

『貴公らの行動は逐一こちらで観測し、都度サポートをするつもりだ。チャンネルは常に開けておくので、何かあれば無線で伝えるといい』

「ふん、ゴタゴタうるさいぞ、楓。有象無象にわしらが負けるとでも思っておるのか?」

 

 楓会長の声を遮るようにして、夜白先輩が吠える。

 もちろん、ちびっこと信じられないようなパワフル系先輩が負けるなんていうのは想像できないが。

 ただ、今回ばかりはいつものように夜白先輩の破天荒にばかりついて行くわけにはいかない。

 

『そう言うな、何せ初顔の者もいるゆえな。楠報道官、準備はいいか?』

「問題ありません。降下任務の机上模擬演習(シミュレーション)は十分です」

 

 キリッとした顔で、ブロンドの女の子が俺の隣で宣言をした。太陽のような笑顔が映えそうだが、表情筋が死んでいるせいでしたり顔のやつ(くすのき)澄玲(すみれ)だ。

 昨年永遠に別れになってしまったと思ったのに、3日前に転校してきて俺の日常にスパイスをぶちまけて激辛にした張本人だ。去年の夏に出会った彼女と、外見は一致しても中身がまるで異なる違和感を払拭できないってのに次から次へと問題を持ってくるやつだ。

 

 夜白先輩とは違って、多少の羞恥心はあるのか、暴風でたなびくスカートを、最低防衛ラインだけは守るように手で押さえている。

 スピーカー越しでもわかるような、水晶を叩いたように澄んだ声で続ける。

 

「他に、生徒会選挙に必要な異能バトル、テロリストによる学園の占拠、ウイルス蔓延によるゾンビの大量発生などの対応も任せてください。……そういった想定ケースを、何千パターンも机上演算しました」

「起きねえよ、んなもん! お前クールな見た目に似合わず、どえらい痛い妄想してるのな! しかもどんだけやってんだよ!」

「何事にも備えるべきです、太一さん。現に今こうして役に立っています」

 

 いつも以上の得意げな表情を向けてくる少女、(くすのき)澄玲(すみれ)

 高校生も半ばだってのに、思考回路はまだ3年前にとらわれているようだ。

 だが、……その妄想が実際に役に立つような現場にいるものだから、これ以上何も言えない。

 

『どうやら問題はなさそうだな。では、武運を祈っている』

 

 会長との無線が切れる。

 外を見ると、見慣れた校舎の屋上がどんどんと近づいてきている。

 目を凝らしてみると……、

 

「ほう、わしらへの歓迎パーティもあるようじゃぞ!」

「……? 何してるんだあれ」

 

 数人の制服の生徒がこちらに何かを構えているように見える。

 

「これを」

 

 と、隣に座っていた澄玲(すみれ)が望遠鏡を手渡してきた。

 用意周到すぎるだろ! とつっこみたくなる気持ちを抑えながら、ヘリから振り落とされないように外を覗くと、

 

「おいおいおい……!」

 

 そいつらが手に持っているのは、長さ数十センチ程度の筒状の物。側面には流線型の色とりどりな装飾カラーがプリントされていて、先端は非常に燃えやすそうな紙。

 つまりは!

 

「ロケット花火か!」

「なんじゃと!? あやつら、考えおったな!」

「しかも束ねて多弾頭にしてます!」

 

 俺の叫びに呼応する夜白先輩。

 いくらなんでもそれはやり過ぎだろ……! いや、ヘリを使ってるこっちもどうかと思うが!

 望遠鏡から見えるそいつのもう片方の手にはライターが握られていて、すでに数本は先端から火花が。なので、急いで声を上げる!

 

工藤さん(パイロット)、気をつけてください! ロケット花火です!!」

「任せときな、(カシラ)のご友人。対空砲でも、ミサイルでも避けてみせるぜェ」

 

 黒光りするスキンヘッドをこちらに向けて輝かせながら、工藤さんは渋い声で続けた。

 

銃座回転開始(ウォームアップ)! ターゲットに照準、射撃許可を――」

 

 などと、頭おかしいことを言い出す工藤さん――工藤に急いで止めるように伝えようとしたところ、

 

「――アホか、このボケェ! わしらの学園の生徒を亡き者にするつもりか、アホンダラァ! さっさと銃座は格納しろ、ダボォ!」

 

 その前にけたたましい夜白先輩の怒声が耳を刺してきた。

 ハッチの隣で立っていたのだが、気づけば操縦席の後ろから工藤の毛のなき頭蓋(スカル)をアイアンクローで掴み上げていた。

 操縦がままならず、グワングラン揺れるヘリの中で、夜白先輩は怒鳴り続ける。

 

「わし、学園にチャカ持ち込むなと言うたよな! おどれはわしの言うことが聞けへんのか、えェ!?」

「うわっ! うぉっ! せ、先輩! 落ち着いて……!」

「あっ、……。ん……」

 

 縦横無尽にヘリの壁に追突しながら、なんとかヘッドセットだけは押さえつけるようにして。

 ……あれ? 途中で何か柔らかいものを掴んだようだが……。

 いや、そんなことはさておいて!

 

「この場でその首ケジメに折ってもええんやぞ! あぁ、どうなんや! あァン!?」

「おぅっ! 夜白先輩! 落ち着いてください! 全員死にますよ!!」

「ん? ああ、すまん。カッとなってもうたわ。オラ! 春原書記のおかげで命拾いしたんやぞ、おどれ! 感謝せんかい!」

「す、すみません、(カシラ)! 太一さん、感謝します!」

 

 などと素直に感謝までしてくれる工藤。

 機銃掃射するつもりだったところは頭おかしいと思ったのだが、少なくとも俺と夜白先輩、澄玲(すみれ)が乗るヘリの命運は彼の操縦桿に握られている。

 なんとか一息をつこうとしていると。

 何かを適当に掴んでいた左手の上から、ぽわんとした温もりが重ねられた。

 

「……ん。いいですよ、私。ここで始めても」

「はぁ? って、おわっ!!」

 

 ヘリが不安定になっていてそれどころじゃなかったのだが、俺が掴んでいたのは隣に座る澄玲の太ももで。

 急いで手を退けようとしたが、……ッ! 澄玲の手がルロイ修道士並みに万力のように動かねえ!

 このまま澄玲の太ももと手のひらによる油圧プレスで、俺の手は壊死するぞ!

 

「"予定"よりは早いですが、ここで既成事実を作って仕舞えば問題ありません」

「何のことだよ! いいから手を離せッ!」

「安心してください。不安定な足場での行為にも対応できるよう、訓練を積みました」

「何の訓練だよ!!」

 

 なんとか精神的な安定を求めて、あと数センチで澄玲(すみれ)のさらに奥の布に触れてしまいそうな、そんな甘い妄想を無視する!

 こんなところで興奮している場合じゃないって! 俺らは今ヘリで飛んでいて、ロケット花火で撃墜されかねないってのに!

 すでに発射されたロケット花火が空気を裂き、喧しい亀裂音を立てている。

 

「経験がないのでしたら、私に任せてください。まずはお互いのリビドーを高めるために、舌を絡め合わせた接吻を」

「しねえよ! なんなら死ぬぞ! まずは楓会長とした打ち合わせ通りに、生徒会室を奪還してから考えろって!」

 

 そう叫ぶと。

 何をどう考え直したのか、素直に引き下がる澄玲。太ももと手に挟まれた感触を思い出すかのように自由になった左手を握って開いた。

 そんな俺たちの様子を見ていたのか、夜白先輩はハッチから身を乗り出しながら、

 

「ぼーい・みーつ・がーるをするのも良いが、定刻じゃ。準備が整い次第おぬしらもついて来るがよい!」

 

 そう言うと、ヘッドセットを投げ捨て、外へと飛び出す。

 

「――ひゃっふー! 久々に味わうスリルじゃ!!」

 

 などと、ヘッドセット越しでも聞こえるほどの声量で飛び去っていった。外を見ると、ロケット花火が飛び交う上空で、菊の花が咲いているパラシュートが開いていた。

 

 ……これに続かねえといけねえのか。

 本当ならパラシュート降下とか相当な覚悟で挑むものなのだが、こんなのに覚悟をいちいち決めていたら会長や夜白先輩たちと付き合ってられないのだ。

 

 パラシュートバッグを背負って、装備チェックをする。

 万が一があってはいけないことくらいはわかるので、辟易としながらも、見落としがないように確認していく。

 

 そして自分の分を終えると、次は澄玲(すみれ)の分も確認しないといけない。

 生徒会に入ったばかりな彼女なので、こういったことに慣れていないはずなのだ。相当ぶっ飛んでいる性格をしている澄玲でも、おそらく破天荒さで言えば夜白先輩たちには敵わないはずだ。

 そう思って顔を上げると。

 

「では、続きは生徒会室の制圧が終わってから」

「ん? なんの続きだ? それよりもパラシュートを」

「必要ありません。十分な訓練と模擬演習(シミュレーション)をしていますので」

 

 そう言うと、ハッチの前で両手を胸の前でクロスさせる澄玲。

 いや、妄想(シミュレーション)したからってそんなに簡単には行かねえよ! パラシュートすらつけていないし、コイツはなんの訓練をしたんだよ。

 俺も別に上級者ってわけじゃないけど、初心者にやり方を教えるくらいならできる。少なくとも、パラシュートを背負う手伝いくらいはできるだろう。

 そのために、彼女の体を掴もうとした俺の手は――。

 

「え?」

 

 空を切って。

 "パラシュートバッグを含め"――何も持たずに大空へと身を投げ出した澄玲(すみれ)がいて。

 

「うそ、だろ――ッ!?」

 

 理性なんてものは吹き飛んだ。

 パラシュートの確認? 覚悟? そんなものは後だ。

 落ちていく彼女の背中を追って。

 

「澄玲ッ!」

 

 俺の体は空へと躍り出ていた。

 

 ――なぜこんなことになった?

 

 暴風で目が開くことすら難しい中。

 全力でブロンド色の髪の少女を探す。

 

 全ての始まりは、金曜日の朝。

 "彼女"が転校してきたあの日だった――。




 ハインドって、ロマンですよね〜
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