生徒会戦線異常なし。〜初恋相手が「資本」と共に帰ってきた。俺の平穏は、攻撃ヘリと共に爆散した〜 作:全自動髭剃り
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「来るものは拒まず。それは我が学園の方針だ」
私立
一際目立つ、いや、もはや眩しさすら感じられてしまう蛍光塗料が塗ってある真っ白なスーツを身に包む学園長、
「たとえそれがいかに身元がわからぬ魑魅魍魎であろうとも、我が校で学ぶ意思があり、それに相応しい能力さえあればな」
対して向かいに座っている、落ち着いた紺色のスーツながら、どこまでも不吉な香りがする怪しげな男は返答する。
「我々はお前の意思や、この学校の制度について問いただしているつもりはない」
「ふむ。ならば、私に会う意味はない。この学校のカリキュラムを除いた運営権は私にはないのでね」
「……正気か。我々はいかなる障壁も、
苛立った声の男に対して。
「そんな宣言をされても困るな。実務レベルの問題は生徒会に持っていってもらおう」
「……」
「そうだ、
もはや怒りを通り越した、呆れた顔で男は呟いた。
「
♤
「用件は一つです。私を生徒会に入れてください。さもなくば、この組織を買収して解体し、更地にしてショッピングモールを建てます」
いつもと変わらない鉛合金みたいな表情のブロンドの少女。
休日なのに制服姿なのは楓会長と同じだが、その両手には今し方”シメた”スーツ姿のお手伝いさんが掴まれたままだった。
「ほう? あれが貴公の初恋の相手なのかね、
「え? あ、はい。一応、……多分そうですね」
「ふむ、そうか。たった一人で組の包囲網を突破し、愛する男の元へ辿り着くか。まさにロミオとジュリエットだ」
「そんな暴力的なジュリエットいねえよ」
などと、若干斜め上から空気の読まない発言の楓会長。
この人はこの人で自由だな……。
「オドレ、誰に喧嘩売ってるか、分かっとんのか!? 俺らは天下の大ヤクザ、藤原組やぞ!」
と、セリフの意気は十分なのに、
……相手に敵わないと思ったらこのザマである。
流石の夜白先輩も額に筋を立てながら怒鳴り返した。
「工藤、オドレわしの後ろで何し腐りやがっとるんじゃ、ボケェ! 怖気付いとるんなら、さっさと実家に帰れアホ!」
「ひっ! すいやせん!」
「ち……ッ! それで、楠いうたっけ? わしは藤原組の組長、
工藤のケツを蹴り上げて満足したのか、夜白先輩はドスの効いた声で
さすがは天下の大ヤクザの組長だ。威圧感がパネエ。付き合いがなかったらちびってるレベルだ。
けど、どうやらその威嚇が効いていないのか、澄玲はいつもの澄ました顔で、
「
とあっけらかんに答える。藤原
確かにB組のやつら、下手な何とか団にも負けない凶暴性を時たま帯びるが。
てかそれよりも。
「いや、お前一応A組だろ」
「……? 私がA組である事実はありません。誤った記録は昨日のうちに"抹消"しました」
「……」
ちょこんと首を傾げる澄玲。
やり口が夜白先輩に似てる気がするんだが……。
澄玲は両手で掴んでいる気絶したお手伝いさんを投げ捨てながら、
「それよりも、まだ返答を聞いておりません。藤原組のクラス委員長、私を生徒会に入れてください。そのために、ありとあらゆる障壁に対応する用意があります」
「……よう言うたな。吐いた唾飲み込むやないぞ……!」
「はい。もしも生徒会の役職に空きがない場合は、闘争と火力によって制圧します」
言いながら、両手を上げながら格闘技のポーズをする澄玲。
……おそらくここに来るまでに
対峙する夜白先輩は、その一言に変なスイッチが入ったのだろうか。
その内なる闘争心を滾らせ、華奢そうな女子校生のガワを引き裂くような闘気を練り上げていた。
カラーコンタクトだと言っていた灼眼が、心なしか燻る木炭のように輝き始めている。
力を込めすぎたあまり、握り締めきれていない拳を顔の前で振るわせながら、
「ふふっ……。フハハハハハハァ!! ここまで心地の良い怒りは久々じゃ……!」
「そうですか」
「そうだとも。だから、……失望させるなよッ!」
叫ぶや否や、目にも留まらぬスピードで澄玲に肉薄する
振りかぶった拳は、おそらく真っ直ぐすみれに叩きつけられるだろう。
止めないかって? ああなった夜白先輩を、俺に止められるわけねえだろ。
ただまあ、夜白先輩はああ見えても、理性的な人だ。大事にはならないとは思う。
それに、澄玲にもいい勉強になるだろう。世の中には逆らわない方がいい存在ってのがいるんだと。
ただ何事も万が一ってのはある。
夜白先輩がうっかりやりすぎてしまわないように、俺も身構えておく。
そう思いながら、来たる衝撃に身構えていると。
――ゴンッ!
という除夜の鐘のような衝撃音。
「……?」
「何のつもりじゃ――」
揺れた庭の土煙が晴れた先に。
澄玲の前に進み出た男が、夜白先輩の一撃を。
「――楓」
片腕で止めていた。
……折れてねえのは奇跡だな、ありゃ。
会長の暴挙を見ながら、そんな感想を抱いていた。
「落ち着きたまえ、夜白」
「落ち着けやと? こいつは藤原組にカチコミをかけてきたのじゃぞ」
夜白先輩と楓会長の意見の食い違いってのはそれなりに珍しいことだ。
「その腕下ろさんと、オドレにもけじめつけてもらう事になるぞ……」
「ふむ、それは恐ろしい」
言いながら、腕を下ろす楓会長。
だが、素直に引き下がったわけではないらしい。
「楠くん、だったか? 貴公、要求は何だったかもう一度教えてもらえるかね?」
「? 私を生徒会に入れることです」
「ふむ。聞いたかね、夜白?」
だけど流石に腕は痛かったのか、空いてる片方の手で軽くさすっている。
けど今更何を聞いているのか。そのやりとりならすでに終わらせてるものだと思うんだが。
「ああ。だから何じゃ? そんなのはとっくにわかっておるが」
俺と同じ感想の夜白先輩。
だが、勝機を見出したとばかりにサングラスの下にある口角を上げ、ニヤリと笑う楓会長。
「この者の要求は生徒会に向けたもの。ならば、これは藤原組の組長の問題ではなく、
「……何が言いたいんじゃ」
「この係争を預かるべきは夜白、貴公ではなく、生徒会会長の朕だということだ!」
と言いながら、サングラスをクイッと上げる楓会長。
偏光レンズの向こう側は見えないが、おそらく俺の方に視線を向き直したのだろう。
俺に話を振る気なのだろうか……。
「だがこの理屈だけで引き下がる貴公ではあるまい、夜白。ゆえに、春原書記!」
「……はい、何すか」
「朕の生徒会には常に問題がある、貴公はそう愚痴をこぼすことが多かったな。それは何なのか述べたまえ」
「……、人手不足っすね。まともに仕事しない会長と副会長のせいで、俺に仕事の皺寄せが来てることっすね」
「その原因。流石にわからぬとは言わせんぞ、夜白?」
生徒会には常に問題がある。
所属者が、楓会長、夜白先輩、そして俺だけであること。
それは事実だ。
だが、このタイミングでそんなことを言い出す会長の魂胆……。
「……ふん。わしに怖気付くような軟弱者に生徒会の役員など務まるか」
「一応言っておきますけど、生徒会の仕事って大半書類仕事ですからね」
「ええい、うるさい! それで、何が言いたいのじゃ、楓!」
俺のツッコミを無理やり押し黙らせ、楓会長に尋ねる
「察しが悪いな、夜白。まさにここにいるではないか。貴公に怖気付いていない、生徒会役員志望者が」
「な……ッ!? そ、それはその、通りかもしれん」
楓会長の提案にハッとさせられる夜白先輩。
「はっきり言おう、貴公は今、春原書記にとっての重荷である! その自覚があれば、楠くんの立候補に喜びこそすれ、反発するのは筋違いではないのか?」
「そ、それは……」
まるで心臓を射抜かれたかの如く、胸を押さえながら膝をつく夜白先輩。
……、って! それで折れないでくれよ、夜白先輩! 楓先輩は澄玲を生徒会役員にしようとしてるんだぞ!
俺におそらく残された、学園で唯一の安全圏までが、澄玲に侵食されかねないって……!
「楓会長、こいつをスカウトするつもりなんですか!?」
「そうだが、何か問題でもあるのかい、春原書記?」
「勘弁してくださいよ! こいつが来るくらいなら、俺が一人で仕事やった方がマシですって!」
冗談じゃねえ!
昨日のドタバタ劇を生徒会でも繰り広げようってんなら、俺が黙ってないぞ!
「夜白先輩! こいつは藤原組を更地にしてショッピングモールにするとか言ってるやべえやつです! 俺と力を合わせて澄玲を倒しましょう!」
「さすがは藤原組の若候補! もっとガツンと言ってやってくだせえ!」
などと、元気を取り戻した工藤さんが何か言ってる。"若候補"だと? 貴様は何を言ってやがる……ッ!
いや、今はそれどころじゃねえ! 澄玲の暴走の阻止が先だ!
そう思いながら、なかなか返事しない夜白先輩の方を見ると……。
「……わしは、太一の重荷となっていたのか……。副会長というのに、……わしはなんと察しの悪い先輩じゃ……」
「なんかブルーになってる!? もう今更気にしませんから、今は澄玲のことをですね!」
「今更、……今更か。わしは、愛想を尽かされてしまっても仕方ない先輩じゃ……」
「ああもう! 何でこの先輩、時たまメンタルが急に弱くなるんだよ!!」
叫びながら、楓先輩に対峙する。
「認めませんよ! もし澄玲を生徒会に入れるってんなら、俺を倒してからにするんだな!!」
「? 貴公の初恋の相手ならばと、応援しているつもりだったが……」
「そ、それはそうですけど、これとは別問題です!」
てか、人格変わってるこいつを、昔の澄玲と同じように扱うのは無理な話だ。
変な気遣いをしてくれてるつもりだったのだろうけど、流石に譲れない。
言いながら身構える。もはや夜白先輩は使えない。だが、俺を簡単に納得させられると思うなよ!
そう思いながら、澄玲のことを睨む。
「……ふむ、何やら事情があるということか」
「まあ、そんなところです」
「ならば、こうしようじゃないか」
再びサングラスをクイッと上げる楓会長。
なんだか不吉な予感がひしひしとするのは気のせいではないだろう。
「夜白、例のサプライズを少しばかり早めようじゃないか」
「サプライズ?」
と、反芻する俺。
陰気を振り撒きながらも、ギリギリ立ち上がる夜白先輩が応える。
「ああ、確かにその方が良いじゃろう……」
「……? 何の話ですか?」
「いや何、夜白が貴公の日々の働きを労るために予定していた慰安旅行だ。本来は予算委員が終わってからの予定だったがな」
慰安旅行……?
……、タイミングがタイミングなだけに喜びきれないのだけど、わざわざ俺のためにそんなサプライズを用意してくれるのは嬉しいものだ。
そんな微妙な気分になっている俺に対して、会長は続けた。
「そこで娯楽として用意していたイベントがあったのだが、せっかくなのでこの諍いを調停するために使おうではないか!」
サングラスの奥を怪しく光らせながら。
楓会長は宣言した。
「名付けて――」
――生徒会役員選抜、ビーチバレー大会だ!
闘争と火力ですかねぇ