生徒会戦線異常なし。〜初恋相手が「資本」と共に帰ってきた。俺の平穏は、攻撃ヘリと共に爆散した〜   作:全自動髭剃り

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 ラブコメといえば女の子!


星空の下で薪、そして風呂

 目が覚めると、空には眩しい月明かり。

 腹からは有り得ねえレベルの痛みがっ。

 

 急いで起き上がると。

 燃え盛る(まき)のそばで寝かされていたようで。

 制服のシャツで作った急造の包帯を使い、俺の手に処置をしている会長がいた。

 

「む? 起きたか」

「か、会長……」

 

 珍しいことにサングラスは外してある。

 その瞳は夜白(やしろ)先輩と見紛(みまが)うような輝く灼眼だ。

 

 包帯での処理を続けながら、会長は起き上がった俺の方に向き直りながら口を開いた。

 灼眼は薪の反射だけとは思えぬほど、星空の元で綺麗に輝いている。

 

「全く、こんな夜半に一人で出歩くとは危ないではないか」

「え? いや、それはそうですけど……」

「そのせいで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「?? 何言ってんすか、会長??」

 

 俺はペンションに帰ってこない会長のことを探しに出かけたんだよな。

 長風呂が終わった夜白先輩たちの次に入ろうかと思って、それで会長を誘うために……。

 思い出している俺だったが、何を思っているのか俺の目の前でパチンパチンと手を叩く会長。

 

「いいか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何言ってんすか、俺そんなドジじゃ……」

「貴公は崖で滑り、手を怪我した上に、気絶したのだ!(怒)」

 

 最初でこそ諭すような口調だったのに、急に怒り出したぞこの人!

 そんな無茶が通るか!

 

「違いますって! 俺は会長を探しに出掛けて、それで会長が襲われてて……」

 

 スキンヘッドで頭にEの切り込みが入っている、祭服の男だ。

 そこで会長は刀で刺されてたんだよ。で、あの男は会長の頭に向けてつこうとしたのを見て。

 俺は無我夢中に走ったんだ。

 

「そうだ! 腹! 腹の怪我は大丈夫なんですか!?」

 

 急いで会長の方を見る!

 夏服の半袖のシャツの下半分はちぎられていて、俺の手の包帯になってる。

 一見大事のないようには見えるけど、念の為だ。

 比較的に傷が浅い左手でシャツを捲り上げる!

 

「なっ! な、なな、なにを……!」

 

 すると、胸部にサラシが巻いてある。

 なぜにサラシ? ……とも思ったが、これが包帯ってことか!

 

「大丈夫ですか、会長! あの時よく見えてなかったんですけど、胸に刀を刺されたんですか!?」

 

 会長の両腕を掴んで確認を取る!

 

「ひゃっ!? な、何をっ!?」

「だから胸ですって! 傷は深いんですか!? この島には病院もないだろうし、……一番近いのはニュージーランドですか!? 早く手当を……!」

「お、落ち着け! ゆ、揺らすな……!」

「あ、すみません!」

 

 焦りのあまり、余計なことをしてしまったようだ。

 とりあえず会長を握る手を離す。間違って包帯から(にじ)んだ血で汚してはいけないし。

 

「けど、そんなにキツく包帯を巻いてるんですよね。大丈夫なんですか」

「サ、サラシのことか? こ、これは別に包帯というわけではないので、気にしなくとも」

「え? な、なんだ……。けど、刺されてましたよね! そこは大丈夫なんですか!?」

「う、うむ。気にするほどのことではない。ぎ、ギリギリでなんとか避けたのだ」

「あ、そうなんですか。よかった……」

 

 月光しかなかったし、俺の見間違いだったのだろうか。

 けど、だったらなんでサラシなんか巻いてんだ、この人?

 などと考えていると、

 

「こ、こうなってしまったら……!」

 

 なんて搾り出すような声の会長。

 何を考えてるのはわからずにいると、いきなり会長は両手で俺の顔を掴み、顔面を急接近させてきた。

 

「な、何してんすか、会長!」

「黙りたまえ。いいか、貴公は森にいるわた、……ち、朕の姿を見て、足を滑らせて崖に落ち、手を怪我した上に、気絶したのだ!」

「は? んなわけ」

「く……っ! ならば……!」

 

 会長の言葉とともに、灼眼の輝きが増していく。

 って、(たきぎ)の火力がおかしいのか! そう思って横を向こうとした俺だったが、

 

「私のことを見ろ! 繰り返すぞ、あなたは森にいる私の姿を見て、足を滑らせて崖に落ち、手を怪我した上に、気絶した! もう一度言う! 足を滑らせて崖に落ち、手を怪我した上に、気絶した!」

「……」

 

 もはやいつもの口調すら何処へやら、『朕』でもなければ『貴公』ですらないほどに錯乱した状態だ。

 ……流石にここまで言われれば俺でもわかる。

 会長は、先ほど起きたことを誤魔化したいのだろう。

 

 うっすらと汗が滲んでいる会長の顔を見ながら、俺は考える。

 正直、会長の誤魔化しに付き合ってもいい。誰しも他人に知られたくない秘密はあるものだ。

 楓会長だけじゃない。夜白先輩だって、組では他人には決して口外できないことをしているのだろう。それがどんな事情で、どんな行為が行われるかについて、俺は踏み込むつもりはない。だけど、夜白先輩なら"間違ったこと"をしないと信じている。

 

 だけど、最低限。

 俺は確認しないといけない。

 これが倫理的に法律的にどうなのかはわからない。けど、少なくとも俺は納得できない。

 

「会長」

「な、なんだ? 何か質問か?」

「確かに俺は足を滑らせて崖に落ち、手を怪我した上に、気絶したかもしれません」

「……っ! そ、そうか! 災難だったな、それは!」

「ええ。なので、今から話すのは全く関係の話です」

 

 俺は一息置いて。

 真っ直ぐと会長の灼眼を見据えた。

 

「会長がやったことは、私利私欲じゃないですよね」

「え?」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔の会長だったけど。

 これだけは誤魔化さないでほしい。

 

「会長は、"間違ったこと"をしていない。俺は信じていいんですね」

「……」

 

 そんな俺の問いを聞いて。

 驚いたような、諦めたような。それでいて考え込む表情の会長。

 俺は待つことにした。

 その答えが出るまでにいくら時間がかかってもいい。

 

 俺は会長から離れて、中途半端に巻かれた包帯を締め直すことにした。

 我慢して、包帯を締め切る。

 

 パチパチと木の枝が燃える音。

 炭の匂いが漂う中で、俺は星空を見上げた。

 都会では見えない星空が空を覆い尽くしている。

 

「ああ。()はなすべきことをした。だが、それは決して誰から見ても正しいことだとは――」

 

 などと言葉を並び立てようとした会長の声を遮って。

 

「――だったら安心しました」

 

 俺は答えた。

 立ち上がり、振り向くと。

 先ほどとはまた違った、呆気に取られたような表情の会長。

 今日は色んな会長の表情を見る日だなーなんて思いながら。

 

「じゃあ、ペンションに帰りましょうか」

「え? いいのか?」

「いいも何も、俺は先輩を風呂に呼びにきたんですよ」

「そ、そうなのか……」

「はい。なんで、早く帰って風呂にしましょう!」

 

 ニヤリと笑いながら、俺は続けた。

 

「けど! 会長の無茶な誤魔化しに付き合ってあげるんですから、代わりに背中を流してくださいよ!」

「せ、背中を!?」

「はい。じゃないと割に合わないでしょ?」

 

 なぜか必要以上に慌てる会長を背に。

 俺はペンションへの道を戻るのであった。

 

 

 ♤

 

 

「そ、その、だな」

「? なんですか?」

 

 服を脱ぎながら、会長の声に応える。

 さすがは藤原組が所有しているというペンション。天然温泉は流石になかったらしいが、軽く泳げるほどには広い浴場だ。

 

「その、本当に貴公、朕と沐浴をするつもりかね」

「? そのために会長探しに行ったんですよ?」

「そ、そうだったな」

 

 なんかよくわからないが、帰り道の間ずっとこの調子だ。

 まあ、あれだけのことをした後だ。会長自身も感情の整理ができていないのかもしれない。

 だったら俺にできることは、

 

「シャキッとしてくださいよ! 俺も背中流してあげますから」

「え!? そ、それはどういう意味で……」

「先ほどはああ言いましたけど、一方的に流してもらうのも悪いですから。あ、もちろんあの秘密を言いふらしたりしないで、安心してくださいね!」

「え? あ、そ、そうか」

 

 言い淀みながら、会長は続けた。

 

「そ、そうだ。手の方は大事ないか? その怪我じゃあソープを使うのは難しいのでは」

「大丈夫ですよ! 夏美さんから防水用の絆創膏をもらってるので、いくら濡れても大丈夫です」

「そ、そうなのか。……まさか彼女の用意周到さがこうして効いてくるとは……」

「? 何か言いました?」

「な、なんでもないぞ。気にしないでくれたまえ」

 

 なんだか心配をかけてしまったらしい。防水絆創膏の上に包帯まで巻いているので、問題ないだろう。夏美さんにも風呂入るくらいなら問題ないってお墨付きもらってるしな。

 脱ぎ捨てたトランクスを足先で蹴り上げ、手でキャッチする。ほら、男の子なら大体こう言う脱ぎ方だろ?

 

「ひゃっ!? ……っ!」

「? 別に気にしないんで目を逸さなくてもいいっすよ。じゃ、俺は先入ってるんで、会長も早くサラシを外してきてくださいね」

 

 と、俺は一歩先に風呂に入ることにした。

 

 そしてルンルンと鼻歌を歌いながら体を洗っていく。

 背中流してもらう約束はしたのだけど、流石にそれ以外は自分でするさ。

 野郎に前を現れた日には、もうお婿さんに行けなくなるしな。

 

 そう思いながら適当に髪にシャンプーを当てて、ゴシゴシと擦っていく。

 理髪店に行き忘れて最近伸び気味なんだよなぁ、なんて思いながら。

 ざっぶーんとバケツの水をかける。

 

 つーか会長遅くね?

 そう思いながら振り向こうとした刹那だった。

 

 ――殺気ッ!?

 

「貴公、不意に後ろを向かない方がいい」

 

 ありえないほどに冷え切った声がした。

 か、会長だよな……!?

 背中に氷を当てられたかのような錯覚に陥っていると、

 

「そうだ、そのままでいい。決して不用意な真似はするなよ」

「……、ご、ごくっ」

「目の前の鏡に集中するのだ。いいな?」

「は、はい……!」

 

 並々ならぬ雰囲気に押されながら、俺は一才の首の動作をせずにシャワーの続きに入る。

 な、なんだろう。今の会長には、俺に有無を言わさないだけの圧がある。

 そう思いながら、ボディソープに手を伸ばそうとしていると、

 

「ゆっくりだ」

「っ! は、はい」

「ゆっくり、押し込むのだ」

 

 という指示が入って来た。

 な、なんだこれは……。無駄遣いは許さないということなのか?

 などと思いながら軽く全身の洗浄が終わった頃。

 最後にバケツから水を頭から被り終えた瞬間。

 

「止まれ」

「え? は、はい」

「こちらの指示するタイミングで、ゆっくり桶を下ろすんだ。いいな?」

「りょ、了解しましたっ!」

 

 と言ったきり、気配を限界までに消す会長。

 隣の方から人がいる空気は一切なく、一体どこに行ったのか固定された首のために聴覚で探すが……。

 

「いいぞ。ゆっくり下げるんだ」

「はっ、はい……」

「ゆっくり、……ゆっくり、ゆっくり……。止まれッ!?」

「!?」

「そのまま腕を動かすな!」

 

 ちょうど顔の近くで止まった風呂桶。

 視界の8割は風呂桶だ。わずかに残った2割は風呂の壁で、何も視覚的情報がない。

 何をさせようとしているのかと訝しんでいると、

 

「がっ!? 何を――!?」

「動くな!」

 

 目をいきなり覆い被さる濡れた布が!

 なんだこれ、会長が持っていたフェイスタオルか!?

 

「いいか、決してこの布は外すなよ!? おかしな真似をすれば、この布で貴公の首を締め上げることになる」

「は、はいっ!」

「この布は貴公の命と同じだ」

 

 底冷えした声と共に、やっと気配の戻った会長。

 俺の後ろでびちゃびちゃと水音がするので、忍足ではなく普通に歩き始めたのだろう。

 

「いいか。これから朕が貴公の背中を流す」

「はい……」

「その際の注意点をいくつか述べる」

「ちゅ、注意点ですか」

「そうだ。第一、体を動かすな、岩となれ。第二、私の手に身を任せろ、一才の抵抗をするな」

「イエ、イエッサー!」

「ならばよい」

 

 言いながら、もこもこという音がし始めた。

 俺の後ろで会長がボディタオルを泡立てているのだろう。

 ……何がどうなっているのかわからないが、会長は俺の背中を洗い流すのに相当なこだわりを持って臨むらしい。

 

 なんて思っていたら、そろーりといった感じで背中に感触が来た。

 どこか迷いのある手つきだが……。

 その指先は驚くほど細く、そしてマシュマロのように柔らかかった。

 あれ? 会長の手ってこんなに華奢だったっけ?

 

「ど、どうだ」

「え?」

「どうだと聞いている。貴公、背中はその……き、気持ちいいのか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「そ、そうか」

 

 ならばよかったと、会長は背中を続けて洗ってくれる。

 だけどなんでだろう、ボディタオルではなく、手が俺の背中に触れるたびにビクッとなって離れている。

 いや、別に俺の背中そんなに弱くないはずなんだけど。

 

「あー、そこです。そこちょっと痒いんですよね。掻いてもらえません?」

「か、痒いのか! そうか、し、しばし待て」

 

 と言いながら、大きく息を吐く会長。

 そんなに疲れたのか?

 

「よし、いくぞ! ……、ど、どうだ?」

「優しすぎますって! 余計痒くなりました! もうちょい強めにお願いします!」

「つ、強めか……。な、ならばこれで……」

「弱いよ! 俺の背中和紙じゃないんだから、もっと力込めてください!」

「き、貴公は……。だが、仕方あるまい。えいっ!」

 

 と、やっとまともな力加減で掻いてくれ始めた。

 

「お、お〜。いいです、気持ちいいですよ〜」

「お、そうか。それはよかった」

「あ〜、もっとしてください〜」

「こ、こうか?」

「ふぅ〜。あ〜、気持ちいい〜」

 

 などとやりとりしながら、俺の背中についてはついに一区切りした。

 

「いや、会長上手でしたよ。今度は俺が会長の背中を」

「なっ!? いや、それは話が違うのではないか!?」

「いや、やってもらうだけじゃ申し訳ないですって。日頃の感謝の念も含めて――」

 

 背中を流しますよ。

 そう言いたかった。

 だが言い終えられなかった。

 

 なぜか。

 実はこの後の記憶がはっきりとしていないのだ。

 

 会長が無理やりしてきたアイマスクを取って、会長の方に振り返ろうとしたところまでは覚えている。

 だが、その後、俺は何らかの衝撃によって湯船にぶち込まれて。

 気づいた時には広間の畳部屋で気絶していたからだ。

 あと、鳩尾(みぞおち)がやたらと痛かったことだけは覚えてる。




 春原くん、ご褒美はあげたので、これから頑張ってくださいね〜(暗黒微笑)
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