がんば麗羽さん!リターン!?エターナルストーリー   作:髪様

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シンを知る

 程なくして汜水関から華雄を引きずり出し、打ち取った劉備軍。この時わずか開戦より二刻であった、……何があったし。いつの間にか彼女(えんしょう)の知らないうちに、孫策軍が加わっていたため、矢面に立たされた袁紹配下の兵の被害も少なかった。

ので、袁紹彼女としては非常に満足である。

 そしてちゃっかり戦場にて、深手を追っていたが生きていた華雄を確保した袁紹、今までこっそりと援助をしていた華佗にお願いして彼女と重傷な兵の治療をしてもらう。援助してくれていた相手が何人かの者を通していたために袁紹と知らなかった華佗は、呼びつけられた天幕に入って袁紹、彼女がいたことに驚いて、

 

 「あなたが華佗さんですわね?彼女と兵達をよろしくお願いしますわ。貴方の成したことへのお礼なら、しっかりと考えていますので」

 

と頭を下げられたことに二度驚いた。

 

 噂ではどうしようもない人間と聞いていたのだから仕方がないがしかし、華佗が彼女の傘下である州を巡っていた時の彼女の領内の治安の良さと民の笑顔を見て唖然としながらもひとり納得していた。だが他の諸侯はそうではない、彼女の領内の繁栄は彼女の部下の手腕であると思っていたし、彼女自身はバカだとそう決めつけていた。

 

 「なにを惚けていらっしゃるのかしら?何かおかしいことでもあったのですか?」

 

思わず、素に戻った袁紹のつぶやき、それを聞いて華佗は我に戻る。

 

 「いや、なんていうか、噂なんてあまり当てにならない物、なんだなぁと思っていたところさ」

 

 本来なら改まった話し方をしようと決めていたが、彼女なら大丈夫だろうといつもの口調で話す。実際、それを聞いて彼女は「はい?」と不思議そうな顔をしたかと思うとクスクスと笑い出す。そしてそれを見て華佗はやっぱり大丈夫だったかと微笑み頷く。

 

 

 「そうですわね、他の方からの評価ではワタクシは馬鹿だったのですわね、できれば黙っていてくださいな。誰も信じないかもしれませんが、もし曹操さんにでも気づかれたら困りますから」

 

 「でも君はなぜそんなことを……、いや聞くべきではないな、済まない忘れてくれ。それでは治療をはじめようか」

 「ああ、申し訳ないのと思うのですけれども、彼女の治療が終わったら拘束しておいてくれませんか?きっと元凶であるワタクシの陣だと知れば激昂しても仕方ありませんから」

 「いやしかし、それを言うなら君はなぜこんな戦いを……いやこれも余計なことか」

 「いえ、そうですわね、これを見てくださいな」

 

 彼女は華佗にひとつの竹簡を手渡す。中身はもちろん帝、いや十常侍からの勅命である。

 

 「そうか、そういうことか、君はつくづく嫌な役回りなんだな、そうだ」

 「うふふ~華佗ちゃ~ん、こんなところにいたのぉ~」

 

突如現れるガチムチ筋肉の巨漢女、貂蝉。

 

 「誰が三日三晩うなされるようなグロデスクな野獣な変態よっ!」

 「おい、貂蝉、袁紹殿はそんなこと、というかお前が登場してから、一言も喋っていないぞ」

 

 

 珍しく呆れたふうに漢女(かのじょ?)にジト目を向ける華佗。実際少し袁紹も突如現れた貂蝉に対し悲鳴を上げようになったが、寸前のところで飲み込んだ。彼がいるところに奴がいても別段おかしくないことを知っていたからである。一応心構えはしていても声を上げそうになるのは、げに恐ろしき漢女であるが、努めて顔には出さず無表情を貫いた。もしかしたら、頬、目の辺りが若干ひきつっていたかもしれないが、許容範囲であろう。

 

 「……あれ?」

 「ごほっん、華佗さん彼女を紹介してくださいませんか?」

 「……ああ、そうだな、彼女は貂蝉、そして貂蝉、彼女が援助者の袁紹殿だ」

 

と言うより貂蝉としては、既に酷評され続けていたので、逆に反応がないのは珍しすぎた、それ故いつものノリで突っ込んでしまったのである。そして、彼は既に慣れたものだが、袁紹が彼女の登場に声を上げないどころか兵を呼ばないことに戸惑い?を覚える華佗。今まで何度治療中の患者から衛兵を呼ばれそうになり、なだめるのに大変だったか。医療しか考えていなさそうな、医療バカな華佗の唯一の悩み出会った故である。

 

 「袁本初と申しますわ、挑戦さん」

 

 「なんか字が違う気がするワン、でもいいわこちらこそよろしくお願いねぇん、くねくね」

 (これまた不思議な外史ねぇん、はぁぁ早くご主人様に会いたいわぁん、くねくね)

 

 

 そして華雄の治療が終わる、華佗が言うには目覚めるには少々時間がかかるとのとのことだったが、彼が治療を終え退席していた袁紹にその旨を報告して、戻ってきた時には既に華雄は目覚めていた。彼女の生命力に驚きながら(この日は華佗にとって生涯で一番驚いた日になった)当初の予定通りに話を進める。

 

 「それでは彼女は悪くないとあなたはおっしゃるのか……」

「ああ」

 

猪武者と有名な華雄も突進グセと激昂しやすい性格がなければ本来優秀な将なのだ。最初に見せた竹簡を読み全てを悟った彼女はもう少し暴れるかと思った華佗の予想とは異なり、大人しいままであった。彼のその後の説明も淡々と聞き、彼の顔を見つめる華雄、既に拘束は必要ないと外してある。

 

「いや、しかし俺が言うのもなんだが暴れないのか?」

「ん?そうだな、袁紹の名前を聞いたとき一瞬、カっとしたが、よくよく考えればと納得したのだ。月様と同じく彼女は漢に負い目があったし、良くも悪くも漢の臣、ましては洛陽から奴を追い立てたのは呂布と私達だ、お前の言う袁紹があの時から今まで我らを恨んでいないかったということも分かっていた、ならば私がグダグダ言うのもおかしいだろう。袁紹は全ての元凶は自分だと思っているのだろうが、これは仕方ないとは分かる。奴を恨むのではなく、恨むならこの世だろうさ、ああこれは我らが軍師賈詡には内緒だぞ」

「そうか、わかった、袁紹を呼んできても大丈夫か?」

「ああ、安心しろ、奴に掴みかかったりしないさ」

 

「その心配はしていないさ」

 

華佗は一応(袁紹も彼に対しては、そこまで必要あるものとは思っていなかったが)、警護として配備されていた兵に袁紹への言付けを頼む。その後程なくして袁紹は兵に連れられこの場に戻ってくる。

その際、流石に心配した兵が着いてこようとしたが、

 

 

「何を言ってますの?今から敗軍の将に袁家の素晴らしさを教授させるのですわよ?護衛なんぞ必要ありませんわ」

 

 

と言ってそのまま追い出してしまった、華佗はそのまま放置である。彼がこういった話を言いふらすことはないと分かっているし、どちらにしてもおそらく、華雄に無理をさせないためにテコでも動かないだろう。彼の心象を悪くすることは避けたい、まあ、自分は追い出されるのに彼が残ることにも、兵からしては心穏やかになれない(ひきさがれない)原因だったのだが。もちろん兵も引き下がったが、親衛隊を幕外に待機させることを条件に引き下がる、今は呂誕とその配下周囲を警護している。本来なら親衛隊を目立つこと(人が集まる場所で分かりやすい密会等)には使いたくはなかった、曹操より返却された兵の中に、ほぼ必ず密偵がいるからである。このような事をするのは曹操だけではない、袁紹も兵を貸し与えた時に密偵を送り込んでいるし、袁紹が命じたとは考えてないが、彼女の配下の誰かが命じているだろうことなぞ、曹操もそれぐらい承知している。劉備に援助する際も、商家を通じて何顒伝いに袁紹は情報を得ているのだ。

だが、妥協せねば流石に(へい)も納得しまい、ついでに(へい)は袁紹が度胸が座っている人間、駆け引きが上手い人間とは思っていないので、「自分の命が危ないと、そんな事もわからないのか」と単純に馬鹿にされている。

 

「初めましてですわね、華殿」

「いや、一度会っているぞ?貴様を洛陽から追い立てたのは私だ。もっとも顔を一瞬見ただけで会話なぞはしていないがな、……どうだ?恨むか?」

「あら?何のことでしょう?ワタクシそのような事覚えていませんわ」

 

これは少し遠まわしであるが、気にしないの意である、そして本題に入ろうとの意味でもある。袁紹としては宦官を消すために宮内の情報を早急に集めなければならない。洛陽に潜り込んでいる、密偵もいるが、どうしても市井に紛れ込むだけのため、宮中の話など噂に毛が生えた程度しか入らないのだ。それに比べ、董卓の配下であった彼女は宮中に入ることもあっただろう、なくとも洛陽民より深い話を知っているはずである。

 

「ふむ、では何が欲しい。あいにくだが、我軍の構成や守備に関しては話せんぞ、治療してもらってなんだが、早々に殺せ。たとえ拷問されても話す気にはならん」

「要りませんわよ、戦うのは他の皆さんの役目ですもの、ワタクシには関係ありませんわ。そうですわね、ああ、今から話すのは独り言なのですが、今回の戦い二つ意味がございますわ。一つは宦官による貴方達への謀、もう一つは清流派による宦官への謀」

「……それは、いや、まさか、だが」

 

 

これだけの話の内容がわかったのか、華雄は少々考え込む。清流派の噂も、彼らが何を成そうとしているのかも少し中央に入れば自ずと耳に入るのだ。彼ら清流派が望むことは一つ、濁りきった汚職はびこる宦官共を排し、宮中へ新たなる流れを作ることである。ならば彼らが謀ることは一つ、宦官の根絶やしであろう。

 

「一つ、条件がある、董仲穎様の身柄の安全を確保していただきたい。他の者は臣である、覚悟は出来ているだろう。戦いに出てくる彼女(やつ)らの命乞いは無理だろうからな、どうか彼女(ちゅうえい)だけでも今後をお約束願いたい」

「おそらくそれに関しては問題ありませんわ。非常におせっかいな方が軍中にいますもの、真実を知ったら助けようとするでしょう。まあ、ですがワタクシの手の中に飛び込んでくるのならば、命含め今後の生活も不自由させないと誓いましょう」

「そうか、ありがたい」

 

袁紹よりは詳しいといっても華雄の知ることはそこまで多くはない、人を疑うことが大好きな宦官どもは警備の穴など敵になるやもしれぬ者に渡さぬのだ。華雄が知るのは、袁紹が洛陽から立ち去ってのちょっとした人事異動や、董卓主導で行われた城壁の補修や区画整理だけである。もちろん、これは兵を配置し、城壁の中に何を詰めるかなどを周囲に知られないようにしている。

城壁の中身が岩か、はたまた土かで若干強度が変わるのだ、未だに新たに作られた城壁は警備の兵が多く配置され(・・)があるのか知られていない。袁紹はおそらく区画整理と城壁の補修で、隠し通路、宦官の脱出経路でも掘らせているのだろうと、当たりを付ける。生き汚いのだ、奴らが建物を建てるようの命じたら基本そういったものを作る。董卓主導といっても、董卓は金を出しただけであろう、全て職人と子飼いの者たちが手がけていると見た。出来上がったら職人も子飼いも消される確率が高い、洛陽に入ったら真っ先にその城壁と区画整理付近を抑え、職人も子飼いも確保すべくであろう。運が良ければ逃げようとするゴミ共を排除できるのだ。

 

「ありがとう、これだけ分かれば十分ですわ。さて、話は変わりますが、貴方は今後どうするのですか?」

「どうするとはいかに?」

 

これには非常に困る華雄、なにせ敗将に今後を決めさせようというのである。いらぬ事まで知った(袁紹の本性)華雄は邪魔物以外ではなかろう、彼女による最後の願いとしての董卓の助命も通じた今、このまま始末されるものと考えていたのだ。だが、袁紹はどうするかと聞いた、華雄は袁紹が自分を試しているのではないかと考えた、まさか、華雄が望めば開放する等思いもしない。

 

「二君に仕えるは恥であろうか?」

 「そのようなこと私が知るはずもありませんわ、周りの人に聞いてくださいな。でも、我が陣営に来ると言うならば歓迎しますわ。この場、あなたを切った美髪公の陣、劉軍ならば我が陣を西より出て少し行けばありますわ。ああ、そう言えば、また何か要求されそうですわねぇ~。劉青州平原相はともかく、諸葛孔明は狸もいいとこですもの」

 

 「……それを何故私に愚痴るかわからんが、私は貴殿に仕えたい。

 袁本初殿、敵である我が身を救ったばかりか、我が願いを聞き届けてくださるという。

 我は華、真名も、字も持たぬ、董家により市井より取り立てて貰い、華のようで雄々しき者と称され申した。

 華とは恐れ多く、学も無き雑草にございますが、どうぞ貴君の下にて残りの生を過ごしとうございます、返答やいかに」

 

 両膝を付き、右手を握り、左手を包み込む抱拳礼、武官の恭順の礼の一つである。他にも礼には天揖等や土下座のようなものもあるのだが、彼女が知るのはこの礼のみである。頭の回りは早くとも、血気逸く(けっきはやく)、軍学しかないのだ、儒教の教えなどほぼ知らぬ。

 

 

 「華よ!これより姓を華、諱を雄、字を雄葉(ゆうしょう)、真名を順羽とせよ。

 我に仕えるのだ、よもや異論はなかろうな!」

 

 「承知!これより、華雄葉身命に注ぎ忠節を誓いましょう!」

 

 

 こうして、新たなるの心強き忠義の士を得た、麗羽さま、はたまた何処へとゆくのでしょうか?

たゆたう命の儚火の如く、進むははてなき天の道。

これより先は悪鬼はびこる悪の道、ああ、進むはどこまで死への道。

いかにして袁家の本初は天を盗る。

 

 

知るは知らぬは偏に北斗、南斗の仙。

語るは管路、消えるは羽が、散る火も美し、栄華を誇るは三国の、浅き夢見し胡蝶の夢を。

儒は知らずとも、義は知ろうぞ、義は知らずとも、主は知ろうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△おまけ?▼

 

 

 人払いを終える、すぐさま外に待機していた親衛隊に兵を一般に交代させるように命ずる。程なくして、天幕周囲の人払いよって離れていた声が、元に戻り出す。おそらく、報告も緊急以外は控えさせていたので、何かしら挙ってくるだろう、喧嘩などは多めに見るように言っているが、人傷沙汰も軍中では少なくないのだ、剣を使わねば良いのだが、それ以上は許せない。

 

 

「やめるアルねー、離すアルねー」

 

「元皓さん、なんでそいつがいるんですの?」

 

「……本人に聞くべきでしょう、どうせ下らんですがね」

 

 

 襟元をもたれ、田豊に引きづられる許、であるが、体格差を考えれば当然、ほぼ背中の全てが引きずられている。恐ろしきは恋姫世界の服飾であろうか、汚れはしているが、破れてはいない。ポリエステル以前に、こっちのほうがすごいと思うのは袁紹だけであろうか?そして残してきた人間がなぜかいることに驚く、袁紹、その斜め後ろには華雄が早速立っている。それを一瞥するだけで、なんとなく納得する田豊、己が主のことだ、それぐらいはわかろう。だが、若干目の光が消えた田豊、本気で切れている。

 

 

田「本初様、此度の命違い、許せるものではありませぬ。

  本拠地の守護という大役を授かっておきながらのこの行為、打ち首では足りぬかと」

 

麗「そうですわね~、……許よ、申開きはありませんか」

 

許「ワタシハワルクナイネー、ワタシハワルクナイネー」

 

華「本初殿、新参なる私が言うのもなんだが、このふざけた奴は一族郎党切ってもよいのではいか?」

 

麗「……許よ、もう一度聞きますわ」

 

許?「くっ!バレてしまっては仕方がないアルねっ!私は許は許でも曹家に仕える許褚アルねっ!

   許攸なんて美しく可憐な美女ではないアルねっ!」

 

麗・田・華「「「な、なんだってぇ!?」」」

 

許(ふふ、計画通り)

 

田「では本初様、打ち首でよろしいですか?」

 

麗「そうですわね、華よ、貴方の武にて一断ちしなさいな」

 

華「承知!」

 

許「ひぃぃぃぃ」

 

 

この後、機嫌がいいことを理由に一応許された許攸、あとにも先にもあの時の田豊は怖かったと語る。

あれだよ?これが後の許攸の出奔フラグなんて事は……ないよ?多分。




もちろん冗談です、ちゃんと続きます。

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