がんば麗羽さん!リターン!?エターナルストーリー   作:髪様

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うむ、書き上げた。文の書き方変わってきていますね。段落付けをと改行をまた調整しないと。後半は所謂恋姫でお約束の日常パート?


イマは成らず

 曹操、鮑信が徐栄の追撃に出たと、撤収間際の袁紹陣営に報告が上がる。そしてそれにも係らず、行われる袁紹軍撤退を聞いていてもたっても居られなくなった将がいた、張邈である。

 

 「麗羽殿!なぜ、華琳殿の呼びかけに答えないのですか!余りにも危険すぎます!」

 「張邈さんに、確かあなたは衛茲さんでしたわね?」

 「はっ!お久しゅうございます、本初殿」

 

 声の方へ振り向けば、そこには張邈とその直属の部下である衛子許がいた。衛茲は黒髪を頭頂部で結った、キツめの眼つきの少女であった。曹操とも仲がよく、今回の出兵の際にも曹操へと相当の援助を個人的にした程である。張邈と彼女は、追撃の準備を整えた曹操と共に長安方面へと進撃を行おうとしていた最中で、袁紹が突如退却を始めたのを聞いて袁紹にも参戦してもらおうと慌てて戻ってきたのである。

 

 「未だ董卓軍残党は大きく、指揮系統に陰りが見えるとは言え、華琳殿の兵力では少々無理があるのですよ!?」

 「張邈さん、ワタクシは曹操さんを止めましたわよ?そもそも董卓さん本人が居ないのに追撃する意味なんてないでしょう?中常侍は片付けましたが、帝を確保できなかった今、これ以上は旗色が悪いのではなくて?」

 「で、ですが!」

 

 袁紹からしてみれば、これ以上本拠地を開けるわけにはいかない理由もある。異民族とのいざこざも片付かぬままにこの地に訪れたからだ。既に、それも無視できぬほどに大きくなってきているため、これ以上彼女が本拠地を離れるわけにはいかない。

 

 「諄いですわ、ワタクシも領主。曹操さんも領主でしょう。そして自らのツケは自ら払うもの。これ以上は言わずとも分かりましょう?大義の前の小義、民草の危険を差し置いて感情に走る訳にはいかない」

 「っ!……では一つだけ教えてください!貴方は華琳殿をどう思って居るのですか?」

 「……貴方の思うように」

 

 そうとだけ伝え、明確な答えもせぬまま袁紹はその場を立ち去ろうとする。それを止める術を持たぬ張邈はやはりそれを見送る。少し離れて諦めたのか、両名は背中合わせに歩き出す。

 

 「……よろしいので?」

 「曹操さんは負けませんわ、時代がそれを許さないのですもの。でも私は違う、縛られない。だから死ぬし、すぐに滅びることもある。だから只なぞるしか今はないのですよ。貴方にも迷惑をかけますね」

 

 ただ、今言えるのは確実に確執を残してしまったことだろう。とはいえ、領地を放っておけるはずもなく、帰らないという選択肢はない。弱みを他領主に見せるわけにもいかないので、詳しく話せるものでもない。結局の所起こるべくして起こったのが今回のことである。

 

 「引きますわ、彼らの融和策も進めなければなりませんことですし、彼らの一部を黒騎に組み込みたい理由もあります」

 

 来たるべき時に備えて、勝てなくとも一定以上の力を見せねば、曹操は彼女の首を斬るだろう。滅びは避けられずとも、死だけは避けられる。それだけを信じている。とは言え、彼女も生きるか死ぬかよりも、心は既に違う場所に向いてしまっている。

 

▽▲

 

 

「……良かったんですか?」

 

黒騎の中央に居ればまた、袁紹はこうして尋ねられる。そこまで酷い顔だというのか?そう思わずにいられなかった。其れゆえだろう、少しばかり顔をしかめてしまう。

 

「私達の力が無いばかりにご免なさい」

「それを言うならワタクシの力が無かったからこうなったのですけれども?」

 

 袁紹からしてみて、正直に言えば彼女はやはりすごいと思う。どれほど心が広ければ、今のこの状況で怨敵を気遣う余裕などが出来るのだろうか?彼女の言は、董仲穎の力がなかったからこうして戦争が起こってしまったとこれを恥、謝っているのである。

 

「あ、いえ、そういう意味で言った訳ではないのですけど……」

「分かっていますわ、これは子供じみた八つ当たり。軽く流してくださいまし。ふぅ、お互い無力が嫌になりますわね。何れも此れも見せ掛けばかりの権力ばかり」

 

 彼女であれば気を使う必要がない、本来の自分ではない、いつも気を遣う猫かぶりをしなくてもいい。まず彼女は袁紹のこれを言いふらすこともしないとの確信もある、更にしても意味がないと分かっている。

 

「もう少し皆、仲良く出来たらもっと漢は良くなったんでしょうか?」

「貴女は優しいですわね、心で抑えるのではなくワタクシと共にあっても自らの不幸を嘆こうともしない」

「私もそこまで出来た人ではないですよ?ただ、貴女を見て、この人も私みたいに戦いたくないんだって。私が優しいなら、きっと貴女も優しいんだと思います、こうして友達の役に立てないことを悔いているぐらいですから」

 

 苦笑いの様に微笑む董仲穎を見て、少しばかり彼女の良い様に捉え過ぎだと思った。元々、ただこんな場所で死にたくないから、良い様に身の回りの物を使ってやろうとの考えが、袁紹の中核にあった。今もそうであるかと言えば、既に色々と情がわいてしまっているので、違うと断言できるが、やはりそこまで崇高な彼女の様に崇高な心からは始まっていない。

 

 「……仲穎さん、貴方に良いモノをあげましょう、きっと貴方が望む全てを手に入れる力になりますわ」

 

 

▽▲

 

 

 『主力軍を彼女に委任する』

 

 

 袁家に激震が走った。勿論直下の臣が袁紹に問いただせば、『おーほっほっほー』で誤魔化される。袁紹は直属の黒騎以外のすべてを新しく登用した者に預けたのである。これには全ての者がやはり狂っていると袁紹を嘲笑った。

 

 『今現在、国力は涼州の3倍、現状では他勢力を遙かに凌ぐ財力と動員力がありますわ』

 

 しかも、その人物はとても武力に秀でているようには見えない。多くの臣下が見切りを付けようと真面目に考えた。だが、そうはならなかった。彼らが諫言状を束ねて袁紹の元へ届けるよりも先に、件の彼女は瞬く間に領内の異民族をまとめ上げると、それを袁紹軍へと吸収して見せたのである。

 

 『貴方の相方を黒騎の参謀に置こうかと思っておりましたが、貴方の隣につけましょう』

 

 勿論、それを良く思わないモノもいる。が、袁紹の考えなしにも思える、『では、貴方に同じことをやらせてみましょう』との一声でこれらもすぐに鎮静化する。新参が与えられた地位と権力は確かに魅力だが、誰もあの仕事量はこなしたくはない。()()には捌ける量ではないと分かっているからである。

 

 「……で、貴方は何をしているのかしら?袁本初殿?」

 

 ふと賈詡が執務を片づける傍ら、そこで仕事をしているはずの新たな主を見る。どう見ても仕事は何もしていない。むしろ、彼女は董卓を膝に乗せ、ぬいぐるみのように抱きしめると、董卓の頭に顎を乗せ和んでいる。

 

 「……気持ちいいですわ」

 

 子供の暖かさと、なんかこう落ち着く感じが、と付け加えると董卓の頬を指先でむにる。董卓も苦笑いしながらなされるままに、そこに座る。ちなみに董卓は誰が何と言おうと成人である。

 

 「あっ、そう……っていうと思ったか!何やってんのよアンタは!?仕事、これアンタの仕事だから!」

 

 竹簡の束を片づけながら、それを持ち上げ、ひらひらとさせる。袁紹はそれをチラリと見るだけして、再び董卓をむにる。それを見て、賈詡は地団駄を踏み、それを申し訳なさそうに董卓が再び見る。これが最近の袁紹たち三人の日課であった。

 

 「……アンタねぇ、いまどんなふうに自らが呼ばれているのか知っているのかしら?」

 「キラキラお飾りですわ」

 「明らかな侮蔑と知っていながら、どうしてそんな御座なりなのよ?」

 「君臨すれども統治はせずって中々にいい言葉ではありませんか?」

 「アンタ其れ無職だから」

 

 鼻でそれを笑うと、お菓子でも食べましょうかねぇーとやる気なさげに執務室を出る。それを見て賈詡はこの国乗っ取ってやろうかと敢えて聞こえる呟きを吐く。それに振り向くことさえせず、手を上げてひらひらさせるだけで袁紹は立ち去る。これは、両者ともに出来る訳がないと分かっているからだ。

 

 袁紹の治める地は袁紹の名のもとに集った清流派の生き残りで政治が回されている。袁紹ありきの統治である。確かに賈詡は相当の権限を得ているが、これら清流派の政治家たちの意見全てを跳ね除けることは出来ない。しかし、袁紹の彼らに対しての影響力はすさまじいモノで、彼女彼らの声をほぼ全て抑えることが出来る。とは言え、今現状はやり過ぎなことをしている自覚があるため、これ以上の要求は流石にしないのであるが。

 

 賈詡の権力は実力に伴ったものではあるが、そこは袁紹という存在があって初めて成り立つものなのだ。

 

 「本初さん、うちの賈詡をあまりいじめないで下さいね?」

 「いじめているように見えます?」

 「いえ、見えませんよ」

 

 くすくすと笑いながら袁紹の後を歩く董卓。彼女からしてみても当然二人がじゃれているのは分かっている。賈詡も信用されて仕事を任せられている。そうと分かっているからこそ、袁紹へと一応の文句をつけてはいるが、正直自らの力を思う存分に活用できる現状は、彼女にとっても非常に心踊らされるものがあるのだ。

 

 「って、何が三倍よ!!」

 

 ふと、和みながら茶菓子を食べていれば、再び賈詡が現れる。どうやら、何か気付いたようであるが、正直意味が分からないのが袁紹の心境である。で、何が三倍なの?

 

 「これよこれ!ふざけんな、こんにゃろう!!これで三倍、三倍なわけあるか!!」

 

 と、見えられたのは様々な数値、兵の動員力やら、経済力やら国力やらである。具体的に現状で分かっている調査を終えた総合数値であった。

 

 「いい?これ、まず資本力ね?単純計算で涼州の20倍」

 

 一つを指さす、ご丁寧に涼州の数値も新たに書き込まれている。

 

 「で、動員力ね、15倍」

 

 赤筆で態々何本か横に線が引かれ、一見棒グラフのようにも見えなくもないモノがある。

 

 「で、好きに動かせる、資金ね、34倍」

 「「……で?」」

 

 仲良く袁紹と董卓が頭をかしげる。多くて何か悪いことでもあるのだろうか?とは袁紹談である。生憎と董卓も袁紹も軍師達と比べてしまえば、おつむは優れているほうではない。何が言いたいのか具体的に言われないと理解できないのだ。

 

 「今現在の漢でこれほど富んだ国はいません、おわかりかしら?」

 「それで、なんで怒っているのかしら?良いことではありませんか」

 「詠ちゃん?どうしちゃったの?」

 「何が、強国を相手にするには足りないよ!?いや割と本気で、これだけあれば蹂躙できるわ」

 

 あまりの国力差に急に怒りが収まり、素面になる賈詡。「ボクの努力って、なんだったのかしら」とブツブツと呟き割と本気で落ち込んでいる。まぁ、要するに一周の絶望を通り越して怒りが湧いてきて思わず駆け込んできただけである。

 

 ついでに言えば、袁紹がこれでは勝てないと呟いた曹操や孫家、劉備軍が恐ろしくなる。あいつらどんだけ化け物いんのよと。袁紹はそしてこれを応える。

 

 「呂布さんには敵わないにしても、それに順じた武将が何人もいる」

 

 それを聞けば賈詡は納得してしまう。確かに袁家は人材こそ豊富であるが、残念ながら突き抜けた存在はそこまで多くない。顔良文醜は確かに強いが、劉備軍の主力の手にかかれば一撃だと聞いて思わず賈詡も「あっそれは無理だわ」と告げるほどである。

 

 そしてこの日からお茶飲み仲間に賈詡も加わるのであった。

 

 「とりあえず、できる限りのことやってれば、なるようになるでしょ」

 

 と、一端の諦めの境地を手に入れたのであった。

 

 

▽▲

 

 

 賈詡は思った、正直あの目に痛い袁紹軍の鎧はどうにかならないモノかと。そして、袁紹が使い分けている黒色の鎧を見ても思った。何故そちらに統一しなかったのかと。一応聞いてみたが、納得のいく回答は得られなかった。だがしかし、効果的だとは思う。晴れの日だけは。

 

 実際に袁紹軍は()()()いやにピカピカしていたので、見つけやすかったが、狙い難かった。ただ、絶対に伏兵は出来ないとは思っている。あんな目立つ伏兵が居てたまるかと。しかも、あの鎧、真鍮鍍金という二層の構造が功を成してか、実は高性能だ。他軍の一般兵にはない防御能力を持っている、他軍が木をつないだだけの鎧であるから仕方がないと言えば仕方がない。あの鍍金は火矢に対しても少々の意味があるのだ。

 

 だからこそ頭が痛い。財政の圧迫になる可能性が大いにあるからだ。だがしかし、先ほど得た数値を見てそれは涼州基準であることに気付く。そして、冀州の財力であれば何も問題ないことに。そう、当初よりの節制計画全てがほぼ必要のないモノとなったのだ。こうして、色々と考えているうちにもこの州は黒字となっている。何がどうなってこうなったのかは分からないが、とりあえず、袁紹には商才?のようなモノか、その何か、そういった良く分からない才能があるのかもしれない。

 

 ふとここで賈詡は気付く、確かに袁家にはずば抜けてスゴイ武将居ないけど、袁紹もある意味色々と凄くない?と。此処で何度も考える、普通って何だろうと。いや、此処もすごいけど確かにそれを一瞬でひっくり返す奴らがいるのだ。何それ怖い。まともな人間っていないのかしらとも思った。

 

 が、実際には賈詡、貴方もどちらかといえばヤバい側の人間ですから。袁紹がこの話を聞いていればそう思っただろう。

 

 賈詡は無駄になってしまった竹簡を端に避けると、今日のお茶菓子何かしらとテクテクと歩いてゆく。完全な平和ボケであった。

 

 

▽▲

 

 

 董卓はいつも通り袁紹と行動を共にし、せくせくと茶酌み娘に精を出していた。だがしかし、この見た目でこの娘も非常にヤバい部類の人間である。

 

 彼女は、今日は林檎のお菓子でも作ろうと拳で皮をむいた()()を握る。くしゃりと容易く砕けたリンゴの果汁と果肉が盆の中に広がる。その中より種や余分な部分を取り出し、はちみつを加え、饅頭の生地で包む。林檎饅頭である。

 

 そして出来上がったそれを持ち、袁紹の元へ向かう。時折田豊や二武将、許攸も訪れる。そのためいつも多くお菓子は作っている。本来なら荀彧も此処に加わっても良いのだが、董卓は彼女をあまり見ることはない。荀彧は董卓戦にて曹操に勧誘され以来、執務にも力が入らなくなっていたのである。元より袁紹との仲は不仲とまで行かなくとも、不満しかない荀彧であった。しかも冀州は文官がそろいすぎて、荀彧にとってやることのない面白みのない場所である。

 

 軍事に関してはあまり袁紹は荀彧に関わらせていない。袁紹としてはいなくなる可能性に高い有名武将にそんな大事なものを任せたくなかったのであるが。荀彧としては新参に良い所取りをされている現状である。やる気なぞ出ようはずもなかった。

 

 こうして、荀彧の出奔が加速していくのである。とは言え、彼女が賈詡に大規模な軍権を任せていなくとも荀彧は曹操に引き抜かれていたことは間違いないのであるが。荀彧にとってはこの国は彼女の実力を振るうには全てが整いすぎているのである。これでは思うように羽ばたけぬと未だ政治に成長の余地のある曹操の元へ赴こうとするのは彼女にとってはごく自然なことであった。

 

 ちなみに、彼女(じゅんいく)にとっては大したことがない仕事量であったが、彼女が抜けた穴を埋めるのには文官を新たに8人用意する必要があったことを明記しておく。


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